早朝の澄んだ空気の川原に、瞑目直立で佇む可奈美。
脳裏に浮かぶ、筋肉の躍動する陰影から打ち放たれる太刀の軌道――闇から無数に閃き消えゆく刀身たち。
可奈美の頭の中にイメージされるのは、無限に等しい可能性の剣の軌跡。
瞑目しながら、半ば興奮と半ば冷徹な心の審美眼で腑分けする。
足さばき、力を込める体勢。
握る木刀の手が更に強まる。
「ふぅーーーーっ」
柔らかな唇から漏れる呼気。
葉の一枚が、ひらり、と枝を離れ宙を舞う。
一瞬弛緩したように掌から力が抜けたかと思うと、木刀の刀身が漂う葉を真っ二つに切り裂く。可奈美は目を開く。まだ眉間から鼻先の辺りを舞う葉は二枚に分かれていた。
醒めた瞳で、それを眺める。
肩を落とし息を吐く。
剣術も自然界の摂理と同様、変幻自在である。水も形を定めず、常に流れる。
二三度、瞼を瞬くころには普段の可奈美の表情に戻っていた。
それを離れた所でみていた舞衣は「すごいっ――」と思わず声を漏らした。
人の気配に気がついたようで、
「……あれ? 舞衣ちゃん。どうしたの?」
その人懐っこい表情で微笑む。
土手の斜面の階段を降りながら、舞衣は小さく手を挙げた。
1
最近は変態――もとい、百鬼丸さんとの鍛錬が可奈美ちゃんを上機嫌にしている。美濃関にいた頃、わたしにはみせてくれたことのない、満足そうな表情だった。
「うん。あと少しで集団フォーメーションの練習をする時間だから呼びにきたんだよ」
「あっ、そっかー。ありがと、舞衣ちゃん!」
「お礼なんていいよ、別に……」
少しだけ寂しかった。もちろん可奈美ちゃんが喜ぶ顔をみるのは幸せだ。……だけど、可奈美ちゃんの隣りに並べないわたし自身に対しては悔しさがつのる。
「百鬼丸さんとの鍛錬はどう?」
「うん? とっても楽しいよ! 教えたことをすぐ覚えて応用してくれて! だから、剣を合わせたら色んな反撃連携のアイディアが浮かんで攻め手が読みきれないんだよ! だってね……」
饒舌に話す可奈美ちゃん。
どうして、わたしは可奈美ちゃんにこんな風に笑う顔にさせてあげれなかったんだろう。
「可奈美ちゃん、汗かいてない?」
う~ん、と目線を宙に浮かせながら、
「そうだね。少し汗かいたかも……あはは」
わたしはこんなこともあろうかと、手ぬぐいタオルを持ってきていた。
「汗拭かないと風邪ひいちゃうよ、可奈美ちゃん」
スタスタと歩いて、可奈美ちゃんのおでこからほっぺたを丁寧に拭う。ほんのりと、柔肌に赤味がさしている。わたしが拭うたびに擽ったそうに顔をくちゃくちゃにしている。
(~~っ、可愛い! 可奈美ちゃん本当に可愛い! さっきまでのクールな可奈美ちゃんもよかったけど、子犬みたいな可奈美ちゃんが本当に可愛い!)
できることなら、頭から食べちゃいたいくらいに好き。この世にこんな可愛くて強い生き物がいていいの? 反則なまでに可愛い!
「――くすぐったいよ舞衣ちゃん。ん? どうしたの、ぼーっとして?」
「えっ? あっ、ううん。考え事してて……ごめんね」
不思議そうな顔をしていた可奈美ちゃんだったけど、「そっか」と納得してくれた。
「ねぇ、舞衣ちゃん。タオルに私の汗が染み付いたでしょ? あとで洗って返すよ」
「だめ、お願い絶対にやめて!」
突然のわたしの大声に驚いたように可奈美ちゃんが「う、うん。なんかごめんね……タオル使っちゃって」と申し訳なさそうな顔をした。変な誤解でもしたのかな。――ああ、そんな顔をしないで。
「ちっ、違うの、可奈美ちゃん! わたし、可奈美ちゃん好きだから!」
「えっ? えーっと、ありがとう?」
突然の告白を困ったように可奈美ちゃんが返事をする。全然わたしの気持ちに気付いてないけど、それでもいい。……あと、タオルはジップロックに入れて、可奈美ちゃん成分を補給する宝具にしよう。今日の日付を書いて冷蔵庫保存して……ふふっ、楽しみが増えてよかった♪
「そ、そろそろ皆と合流しようよ、舞衣ちゃん」
「――うん、そうだね」
ぁああああ、悲しい。寂しい。もっと、ふたりっきりで一緒にいたかったのに……。
「あっ、ねえ可奈美ちゃん。お腹減ってない?」
「うん。小腹空いたかなぁ~」
「だったら、クッキー焼いてきたの食べて」
可奈美ちゃんは目を輝かせながら振り返って、
「ほんとっ!? やったー。舞衣ちゃんのクッキーだー」
無邪気にはしゃいでくれている。ふふっ、本当に可愛い。
透明な小袋を差し出す。
可憐で細い可奈美ちゃんの指が、わたしの焼いたクッキーをひとつまみする。
サクッ、といういい音がした。
「うん。本当にいつも美味しいね」
眩しい笑顔で親指を立て褒めてくれる。――ああ、尊い。可奈美ちゃんの笑顔が尊い。
本当は惚れ薬を柳瀬グループの力を使って開発させようと思った。だけど、どこで聞きつけたのか、父が開発を止めさせた。
その計画が露見した日の夜。
『舞衣、一体何を考えているんだ? まさか、好きな人でもできたのか?』
『はい』
『……べっ、別にそれは構わないがいくら相手を好きだとしてもだな、こういうのは男として良くないと思うぞ。相手の男性もだな』
『……? 男性? どうしてわたしが男性を好きだと思われたのですか?』
『えぇ……!?(ドン引き)』
目を逸らしながら父は「まぁ、そうか……うん」と気まずそうな顔をしていた。
――どうしてかな?
2
「はぁ……」
フォーメーションの訓練は散々な結果だった。
リーダーのわたしがもっとしっかりしなければいけない場面で、判断が遅れてしまった。エプロンの紐を締め直して、
「はぁ……」
もう一度溜息をついて、泡立て器で手元のボールの中身をかき混ぜる。いい感じに黄色く混ざっている。
落ち着かないとき、落ち込んだときによくわたしはクッキーをつくる。
寄り合い所というか、公民館のような所の台所を借りて、わたしはお菓子づくりをさせてもらっている。ダメもとで聞いて正解だった。
落ち込んで俯いていたわたしが、無意識に泡立て器を動かしていると、誰かの足音が聞こえた。
(誰だろう? 可奈美ちゃんか、沙耶香ちゃんかな?)
気になってわたしは廊下に繋がる扉を開くと、
「――ん? 甘い匂いがすると思えば」
変態――じゃなくて、百鬼丸さんだった。彼は玄関先で靴を脱いでいる途中だった。
「泥だらけですけど、なにをしてたんですか?」
上着を丸めて、どかり、と椅子に座る百鬼丸さんに、淹れたての紅茶のカップを置きながら聞いた。
「うん? 今は秘密だが、後々になると重要になる。うん。それより、集団戦術はどうだった? 可奈美曰く『すごく楽しかったよ!』だけだったから、イマイチ理解できなくてな」
あはは、と苦笑いする百鬼丸さん。
(はぁ~、全然わかってない。可奈美ちゃんは天才肌から理解しないで、感じないと)
わたしは可奈美ちゃん学を履修してない百鬼丸さんを憐れに思った。
「……リーダーのわたしがミスをして、全然ダメでした、もっと皆の動きを把握しながら状況を対処しないとダメだったんですけど」
「確か、荒魂専用のフォーメーションだよな?」
「ええ、そうです」
ふーむっ、と唸りながら百鬼丸さんは腕組みをする。
「そうか、大変だな。おれは一人で退治してきたから正直、そのアドバイスもできんのだ」
「……そうですか」
心中、がっかりした。もしかしたら何か掴めるかもと期待してしまった。でも、百鬼丸さんと刀使であるわたしたちでは、基本戦術からして違う。
「ま、でもさ。舞衣殿も……」
「そんな、舞衣でいいですよ」
恐らく、襲撃事件に渡したクッキーの恩義を感じているのかもしれない。
「ごほん、舞衣は可奈美と今まで剣を合わせてきたんだろ?」
百鬼丸さんは軽い湯気をたてる紅茶を啜りながらいう。
「……そうですね。追いつくために出来ることはしてきたつもりです。可奈美ちゃんは強いのに強さに驕ることなくって、努力を惜しまないんです。本当に楽しそうで……」
気が付くと、わたしは可奈美ちゃんとの思い出を語り出していた。
話し出すと自分でも歯止めがきかないくらい、夢中になっていた。
それを静かに頷きながら聞く百鬼丸さん。
初めて本心から可奈美ちゃんのことについて話している気がした。
可奈美ちゃんに羨望の眼差しと同時に抱く劣等感。
本当は自分に自身がなくて、それでも柳瀬家の長女として恥ずかしくないようにしてきた努力も、気が付くと弱音まで吐露していた。
「――って、わたしはなにを話しているんでしょうね」
急に恥ずかしくなって、取り繕うように笑ってみた。
「そういえば、可奈美に聞いたんだけど、北辰なんちゃら流っていうのは舞衣の流派だろ?」
「……? はい、そうですけど」
顎を軽く掻きながら百鬼丸さんは言葉を続ける。
「最初、可奈美と剣を合わせたとき、鶺鴒の尾っぽみたいにピンピン、と上下に微動してたんだ。あれは舞衣の流派のものだろ?」
「ええ、そうですね。でも、流派の違う可奈美ちゃんがどうして――あっ、もしかして」
「ん?」
「推測ですが、わたしの流派は現代の剣術の基礎に大きく関わっているんです。だから、恐らく可奈美ちゃんはその基礎基本になる北辰一刀流を合理的に剣術の基礎を学ばせるために使ったのかも……」
可奈美ちゃんだったらありえる。
「ふふっ、可奈美ちゃんらしいなぁ……」
何気ない心遣いができて、向日葵みたいに明るい笑顔。可奈美ちゃんは本当に天使。
百鬼丸さんはわたしの顔を面白げに眺めながら、
「そっかー。何だかんだ、舞衣を信頼してるんだな」
「そっ、そんなことないです」
「そうか? 沙耶香のSOSに気づいてやれたのも、舞衣だからだと思うぞ」
――沙耶香ちゃん
「きっと、わたしじゃなくても良かったんだと思います。でも、もう二度と沙耶香が悲しんだりする顔はみたくないから……かも知れません。だから力になれると思って」
「なんでそこまでしたがるんだ? 言っちゃ悪いが、舞衣にはそこまでする理由はないだろうに」
言われてみて、確かにそうだと気づいた。
「ですよね。でも、わたしお姉ちゃんだから。下に妹たちがいて、その世話をしてきたから……その延長っていうのも変ですけど、守ってあげたくなったんです。たぶん、それがわたしがここに居る理由です」
十条さんみたいに確固たる信念もないし、可奈美ちゃんみたいに強くなくて、舞草の古波蔵さんや益子さんみたいな背景もない。――でも、わたしが、ココにいる理由は、本当はこんな単純だったんだ。
「ふふっ、百鬼丸さん。ありがとうございます」
「ん? うん? よく分からないけど、どういたしまして?」
百鬼丸さんの認識を改めよう……少なくとも、変態だけど悪い人じゃないみたい。
「可奈美は確かに天才だけど、それも努力があってこそなんだな」
「――そうですね。わたしが知る限り、美濃関でも可奈美ちゃんほど剣術で努力してる人はいないと思います。でも、それ以外の授業とかは居眠りで怒られて……ふふっ。あっ、ごめんなさい」
百鬼丸さんは口を軽く歪ませながら、
「そうか。でも、舞衣はよく可奈美をみて、そんでよく頑張ってきてるんだな」
「えっ?」
初めてそんなことをいわれて、わたしは戸惑った。
肩をすくめながら百鬼丸さんは、
「そこまで観察して自分を高めるために、努力するってのは中々できねーぞ。おれだったら諦めてるかもな」
「……自分のできることをやるので精一杯です」
「それでも十分だ。まぁ、無理はすんなよ。……沙耶香もそうだが、意外と舞衣みたいな奴も心配なタイプだからな」
わたしの肩を優しく叩いた。
「――はい」
気恥しいくてわたしは俯いた。
…………可奈美ちゃん、沙耶香ちゃんが百鬼丸さんに興味をもつ理由も少し解る気がした。
ちらっ、と百鬼丸さんは周りを一瞥しながら、
「しかし、お菓子づくりか。いいなぁ。そうだ、冷たい飲み物が欲しいなぁ、すまんが冷蔵庫を開けるぞ」
百鬼丸さんはそう言いながら、冷蔵庫を開け――
(まずいっ! 冷蔵庫の中には今朝の可奈美ちゃんの汗が染み付いたタオルを保管しているジップロックの袋が……)
「ひ、ひひひ百鬼丸さん!」
「うん? どうした?」
「今日は暑いですね」
「そうだな。だから麦茶を……うん? なんだこのタオルの入った袋は? えっと、なになに? ○月×日可奈美ちゃんの汗タオル? うん? これは一体むごっ……」
「ごめんなさい、百鬼丸さん!」
わたしは以前に読んだことのある『実録乳圧の恐ろしさ――記憶の奪い方について(民民書房)』を思い出す。
説明しよう、乳圧とは豊かな女性のバストで思い切り顔面を押さえつける新技である。乳殺の亜流でもある。
まず頚椎を抑えながら、一気に胸を男の鼻と口を塞ぐように圧迫する。乳殺と異なり、成功率は低いが、簡単お手軽な方法のため、よく西洋の舞踏会では都合の出来事を忘れさせる方法として婦人たちの間で流行した。……ただし、貧乳では鼻をへし折る事故が起こるために、貧乳が乳圧を行えない法律が施行された。
『実録乳圧の恐ろしさ――記憶の奪い方について(民民書房)』より引用
わたしは屈んだ百鬼丸さんに飛びつき、そのまま壁に押さえつけた。
「……むごごっ、ぐるじいぃいいい」
ジタバタと狼狽える百鬼丸に「ごめんなさい、すぐ終わりますから」と囁いた。正直、自分の大きな胸はあまり好きじゃないけど、今は感謝している。
「――んっ、あっ……暴れない……んっ……でください……」
百鬼丸さんが必死にわたしの胸の谷間で暴れている。
でも、ここで可奈美ちゃんタオルの存在がバレては一大事だ。……奥の手を使うしかない。
「百鬼丸さん、ごめんなさい。えいっ」
わたしは胸を思い切り寄せて、百鬼丸さんの鼻を完全に挟んで窒息させた。
「むごごごごごごご(おれなにかした?)」
最後の断末魔のあと、次第に白目を剥いてきた。ジタバタした足もやがて床に静かに伸びた。
「ふぅーーっ」
わたしはひと仕事終えたあとの達成感に浸っていた。
3
百鬼丸は目覚めたとき、クッキーの甘く香ばしい匂いと、淹れたての紅茶をぼんやりと視界に入った。
「あれ? おれは何をしてたんだっけ?」
確か、舞草の里の侵入経路の遮断工作をして、そのあとこの公民館で……
「百鬼丸さん、起きたんですか?」
舞衣は安堵した様子で、翡翠色の美しい瞳を光らせながら、微笑した。
「あ、ああ。そうか、クッキーをもらって食べてたんだよな……それで、冷蔵庫を」
「開けてません」
「え?」
舞衣の笑顔が怖い。
「百鬼丸さんは何もみてない……いいですね?」
優しく左手を握り、そう告げる。
心なしか、エプロンの下に隠れた丸味を帯びた双丘の輪郭が、たぷん、と揺れた気がする。
ゾゾゾ、と百鬼丸の背筋が寒くなる。
「あ、ああ。そうだな。なんか思い出したらマズイ気がするからな、うん」
にこっ、と微笑みながら舞衣は、
「そうですよ、百鬼丸さんったら、ふふふっ」
「あははは。そうだ、この手前のクッキーをもらうぞ」
「はい、どうぞ。それトリカブト入りです」
「それ死ぬよね? おれを完全に殺しにかかってるよね?」
「もう、冗談ですよ……半分」
「なんで最後だけ小声でボソッと言うの!? つーか、半分は冗談じゃねーんだろ? やべーじゃん! 完全におれを仕留めにきてるじゃん!」
4
H鋼、質量五〇〇kgを数本ほど用意した。
クレーンでなければ、まず人間が単独での運搬は不可能である。
それを五本軽々と運んで、地面に突き刺した百鬼丸は、自然と地面に腰を下ろして落胆していた。
理由は単純である。
大きな胸が怖い。
エレンや舞衣の胸をみるたびに怖くて仕方ない。しかも、この舞草の拠点は長船女学園の管理にあり、胸の大きな刀使がそこらへんをウロウロしている。
「なんってこった! このおれがたかだかおっぱいに恐れをなしているなんて」
百鬼丸は自身の不甲斐なさに、自信喪失していた。
今までどんな強敵にも感じなかった恐れ……まさか、おっぱいに恐れるとは……
百鬼丸が頭を抱えていると、不意に頭の上に何やら、小さな生き物の乗っかる感覚がした。
上目遣いで百鬼丸は確認しようとした。
「ねね~♪」
薫のペットのねねだった。
(なんで、こんなところにいるんだ? コイツ)
「おい、なんだねね。おれは今深刻な悩みがあって忙しいんだ――」
「ねね?」
首を傾げるねね。
「おれは、今おっぱい恐怖症を患っているんだ!」
「ねねー(ほんと?)」
百鬼丸は、ねねの言葉のニュアンスを理解できるようになっていた。それもそのはずである。普通の人間よりも、荒魂に近しい存在の百鬼丸は、荒魂であるねねの言葉もなんとなく理解できるのだ!
「ねね、ねねねねねねねねね。ねねーねね(おっぱいは恐ろしくない、おっぱいを怖がるのはおっぱいの深淵を覗いてないからだよ。おっぱいを覗くとき、おっぱいもまた君を覗いているんだよ! おっぱいは怖くない!)」
百鬼丸は俯いた顔をあげ、
「おっぱいが怖くない……だと?」
「ねね(そうさ!)」
「そんな、嘘だ! おれは怖くて怖くて……」
「ねねーー」
小さな前足で百鬼丸はビンタされた。
「だっ、だって……」
「ねね! ねね、ねねねねね!(おっぱいの恐怖はおっぱいでしか解決できないんだ! どんどんおっぱいに埋もれて克服しよう! 一緒に頑張ろう!)」
百鬼丸はその瞬間、天啓を得たような錯覚がした。まるで霧のようにモヤモヤした気持ちが晴れた気分だった。
「そうかねね! いいや、ねね師匠! おれは間違えていた! おっぱいは怖くない! そう怖くないんだ! おれが一方的におっぱいを恐れて、本当のおっぱいをみれていなかったんだ! ありがとう、ありがとう、ねね師匠!!」
「ねね!」
百鬼丸とねねは固い固い握手を交わした。これは男(?)同士にしか分からない熱い友情の握手だった。
「おい、そのクソみたいな決意と宣言はなんなんだ、こら」
それを間近で、ゴミでも見るように吐き捨てて言う薫。
「――あっ、チビ助いつからいたんだ!?」
百鬼丸は驚いて腰を抜かした。薫は深い溜息をつきながら、
「ねねがお前の頭に乗っかったとこからずーーーっと居たぞ」
「な、なんてコッタ……」
百鬼丸は蒼白な顔で、首を振る。
おっぱいロードの道は険しいらしい。ねねに視線を投げると、「ねね?」と純粋そうな獣を演じていた。とっくに、淫獣だとバレたのにこの図々しさ。
「おれもおっぱいロードを諦めないぜ」
百鬼丸は爽やかに笑った。
最早醒め切った顔で薫が、
「……一言いいか? くたばれ」
中指を立てた。
最初に謝ります、すいません。舞衣ちゃんの性格がかなり変わりました。クレイジーサイコレズお姉さんになりました。
……むしゃくしゃしてやった、記憶はない(現実逃避)
ごめんなさい!