刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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あとで、文章を追加するかもです……。


第47話

 ――なんでいまなの……なんで……。

 

 燕結芽は頭の中に巡り続ける焦りが渦巻いていた。身体の熱が次第に時間に奪われてゆくように酷く、凍えるように寒かった。

 

 「……はぁ、……はぁ」

 間隔の短い呼気に、苦い鉄の味が混ざっている。傷だらけの木床に点々と血滴をこぼしていった。

 

 死期が近いことは、なんとなく分かっていた。だから今日が「その日」だったとしても、決して驚くことはないと思っていた。……

 

 千鳥のおねーさんと初めて御前試合で刃を交えたとき、本気で私を楽しませてくれる人なんだと思った。何となく味気なかった世界にも、まだ意味があるんだと楽しくなった。

 

 そのあとに出会った百鬼丸おにーさんは、すごく面白くて、闘うたびに全然違う魅力がみえて胸が高鳴った。

 

 「百鬼丸おにーさん……ゴホッ、か……」

 私は朦朧とする視界を限界まで開きながら、一歩一歩を踏み出す。

 

 さっきまで、二人の長船刀使に足止めされてた。すごく悔しかった。千鳥のおねーさんとせっかく勝負をつけれる所だったのに、邪魔をしたから本当に許せなかった……でも、あの二人の信頼しあった絆のコンビネーションが、本当は凄く羨ましかった。

 誰かを信頼して、信頼される関係性が……私にはなかったから。

 

 じわっ、と目端に滲む涙を拭いながら私は《ニッカリ青江》を抱きしめる。

 私は「天才」で、みんなから褒められる。

 そう、親衛隊でも一番強いのが私……燕結芽。

 

 その筈なのに、いまはとっても寂しい。寂しくて、寂しくて、寒い。引き攣るような呼吸が口から漏れる。

 

 「行かないと……」

 千鳥のおねーさんはきっと、紫様のところにいった。だから追いかけないと……

 

 私はふと、羽織っていた本革の上着を握り締める。

 

 あの、舞草殲滅作戦の翌日。

 

『また、闘おう――と、あなたを運んできた少年がそう言っていました』

 

 目覚めたとき、夜見おねーさんがそう言いながら、私にこの上着を渡してくれた。間違いない、百鬼丸おにーさんのものだ。夜見おねーさんがいうには、眠っていた私が握り締めて離さなかったらしい。

 

 あのとき、浅い眠りから感じた熱い大きな背中は、百鬼丸おにーさんのものだったんだ。

 

 私の胸の奥がじわっ、と温かなものが満ちる気がした。これまでの人生で味わったことのなかった、甘い痛み。

 

 (百鬼丸おにーさん……また会いたいなぁ)

 ボロボロの上着に頬擦りをする。たったそれだけのことで、私の寒さが少しだけ和らいだ気がした。

 

 「うっぐ……うっ……」

 喉の奥から悲嘆のような嗚咽が洩れた。

 

 真希おねーさんと寿々花おねーさんも一緒に、苺大福猫のグッズを買いに行きたい。夜見おねーさんにもプレゼントしよう。紫様は……似合うかな。

 

 千鳥のおねーさんとも、もっと戦いたい。

 

 次々と思い出が溢れて、それらに触れる度に幸せな気分と同時に辛くて、胸が張り裂けそうになる。

 

 ……だって、もうそこの風景に「私」がいないんだもん。

 

 体は無意識に、社殿奥に向かう。

 長い屏風の廊下を渡り、木の渡り廊下を出る。震えて言うことを聞かない足を必死に、一心不乱に進ませる。

 気付くと、社殿奥に通じる大きな木のある中庭にきていた。

 (あと……もうちょっと……)

 

 「うぅ……ぐっ……」

 肺に突き刺さる激痛。苦い、苦い、苦い。

 

 木の手すりに、体を預けながら歩いていく。

 

 ――でも、もう限界だった。

 

 私は木の根元で自分の足元が見えなくなった。足の感覚が急になくなって、地面が突然消えたみたいに膝から崩れた。

 

 

 「‘あ‘あぁっ、ゲホッ……ゲホッ……ぐっ、……」

 

 血塊が、一気に口から溢れて止まらない。鳩尾の辺りが締め付けられるみたいに、息ができない。

 

 「はぁ……はっ……はっ……」口を大きく開いて何度も息をしようともがくのに、なおさら苦しくなっていく。

 

 「――もう、おしまい……か」

 

 目をあげると、社殿に繋がる門が月夜に照らされながらみえる。

 

 「まだ全然足りないのに……もっとすごい私を皆に焼き付けたいのに……」

 

 熱いナニカが頬を両の頬を伝う。視界がじわりとした。

 

 「なんにもいらないから、覚えてくれれば……それでいいんだよ……」

 

 私はいろんな人の顔を思い浮かべて……笑う。悔いがないわけじゃないけど、もうここで休むのも悪くない――そう思った。

 

 御刀から手が離れ、地面に落ちる、直後――。

 

 『バカかお前、なんで自分で自分の生命(いのち)を諦めるんだ』

 ぴこん、と私のおでこを弾く指があった。

 

 (えっ……?)

 

 なんで、そんなまさか。

 

 霞む視界に精一杯焦点を絞ると、ボヤけた向こう側に懐かしい姿があった。

 

 知っている仕草、声。乱暴だけど、本当は誰よりも優しくて温かい人。

 

 「わりい、わりぃ、遅くなった」

 そのふざけ切った態度は、普通なら怒られても仕方ない筈なのに、不真面目だって嫌われる筈なのに……

 

 「うぅっ……」

 

 なんで涙が溢れて止まらないんだろう。諦めた筈なのに。

 

 「いまから結芽を助けるからな、待ってろよ」

 その人は、血まみれのボロボロの大きな掌で無理やり私の頭をくしゃくしゃに撫でる。

 

 

 ◇

 

 

 

中国の古書、准南子に曰く。

 

……昔、斉の荘公の乗る大きな車の路上にカマキリが前脚を上げて威嚇して立ち向かった。そのまま引き潰そうとした従者を荘公は止めて、カマキリを回避して車を進ませたという。

弱者が力量を弁えず、強者に立ち向かうこと言い表す故事成語「蟷螂の斧」の語源となる話である。

 

 そう、カマキリは絶対に背後には退かない。

 

 ◇

 鎌倉。

 折神家屋敷――日本の政財界すら操ると言われてきたこの名家に、六つの飛翔体が打ち込まれた。S装備を運搬する為の射出コンテナである。

 

 可奈美たち六人は、二〇年前の「相模湾岸大厄災」の元凶である荒魂を討伐するため、再び折神家の広大な敷地に足を踏み入れた。御前試合の会場であり、すべての始まりの場所に。

 

 

 この屋敷は、私有地でありながらヘリポートを有している。しかも、輸送機まで受け入れる余裕のある基地コンテナ設備が揃っていた。

 

 ドクターヘリの凄まじいローター音と風が混ざりながら、ヘリポートに着陸する。

 

 本来は許可をとるべきなのだろうが、折神家には緊急搬送として着陸すると虚偽の報告を現場指揮の大関が送っていた。

 

 「……ん、なんだもう着いたのか」

 寝起きのような声で、仰臥した百鬼丸は目覚める。体中アチコチ包帯などで止血され、点滴も右腕にチューブで繋がれていた。

 

 上から覗き込むように、

 「いいか、君を本当はここに連れてきたくなかった。本当は今すぐにでも設備の整った病院にいくべきなんだ……」手当を施した男が、諭す。

 手元で点滴を抜きながら、険しい硬い声だった。

 

 彼なりの職業意識があり、この目前のボロ雑巾のような少年にも強い使命感によって説得しているに過ぎない。

 

 だが。

 

 「ああ、ありがとう。んじゃあ、ちょっと行ってきますわ」百鬼丸は意にも介さず、軽く左腕を挙げて立ち上がる。

 先程まで瀕死状態だったとは思えない足取りで、百鬼丸はヘリを降りる。

 

 (なぜだ、有り得ない)

 

 男は思わず、

 「なぜ、君は一体なにをしに……?」

 聞かずにはいられなかった。

 

 この痩身の少年の一体どこにそんな力と、どんな理由によってその体を動かしているのか全く理解できなかったからである。

 

 肩越しに振り返った百鬼丸はただ一言、

 

 「元凶をぶっ飛ばしにいくんだよ」そう告げた。

 

 「あ、ああ……」

 茫然自失という表情でそのまま、歩き去ってゆく少年の背中を見送り続けた。

 

 

 ◇

 屋敷の裏に聳える丸みを帯びた山も、この家の持ち物だという。

 

 折神家祭殿は、この山中深い所にある。その祭殿は当主以外に入ることができない禁足地である。恐らく大量のノロを貯蔵しえる場所は、祭殿以外には無い。

 

 「順当に考えて、ここしかないだろうなぁ……奴がいるのは」

 百鬼丸は左腰のベルトに佩刀をしていた。

 黒い柄巻を握り、顎を摩りながら進み出す。

 

 以前は門の辺りで逃げたので、こうして内部に侵入するのは初めてだった。

 

 

 周りに人影らしいものも、気配も無い。

 

 地面一杯に敷き詰められた玉砂利を踏みながら、足裏に砂利の凹凸具合が感じられる。いやに明るくて、背後の夜空をみると、御門の上に完全な円盤型の青月が空に掛かっていた。僅かにたなびく雲を透けて月光が地上を照らす。

 

 次第に周囲の闇が霽れるように、建物の輪郭や構造物を浮かび上がらせる。

 

 

 (……ん?)

 

 彼の鼻に微かな血の匂いがした。最初こそ、自らの鼻に溜まっている血膿の匂いかとも思われたが、漂ってくるのは微量なノロの混じった香りだった。腫れて半分ほどが塞がれた視界を凝らして、そのノロが嗅がれた方向につきすすんでゆく。

 

 土足で木目の美しく清掃された縁側に上がり込み、匂いのする方へと赴く。

 

 

 社殿に続くであろう、長い廊下に出た。薄い月光が内部まで染み出していた。それに反射した金粉のあしらわれた襖が伸びる廊下を百鬼丸はゆきながら、徐々にノロの混ざった血の匂いが自分以外の者であることを確信した。

 

 ◇

 木柵と木目の粗い渡り廊下に出た。野外から吹く風が、百鬼丸の髪をさらう。

 森閑とした空気感の中、百鬼丸は高まる確信に苦々しく思いながら、歩幅を素早く広げる。軋む床板を無視して百鬼丸は、走る。

 

 膝小僧の亀裂がさらに広がり、苦痛が百鬼丸の舌に満ちる。

 ペッ、と唾を吐き捨てて走った。

 

 廊下を渡り終えると、遠く闇の奥に古い寺社仏閣風の御門がみえた。そこに繋がる中庭の石階段付近に太樹が植わっていた。

 

 

 不意に、右側の木の手摺に視線を投げる。べっとり、血が染み付いて長い尾を引いている。

 

 再び太樹の根元に目を凝らすと、華奢な人影が崩れるのが認められた!

 

 「んのバカ野郎か」

 

 百鬼丸は弾かれるように、駆け出した。弓から放たれる矢のように、がむしゃらに飛んだ。

 

 まだ、生命の感覚がする。

 

 彼女はまだ生きている。

 

 生きているならば、どんな理由があろうと助ける!

 

 そう誓った。

 

 「動け、このポンコツめ!」

 太腿を乱暴に殴りながら、激痛を紛らわせる。何回も玉砂利に足をとられながら、手を伸ばした。

 

 

 太樹が微風にざわめき、やたらにうるさい。木陰に埋もれた燕結芽は、すでに細い息を途切れさせようとしている。

 

 すでに、人の気配すら察知できないまでに衰えているようだ。

 

 『なんにもいらないから、覚えてくれれば……それでいいんだよ……』

 小さな切なる願いの呟きが聞こえた。

 

 百鬼丸は無性に腹がたった。

 

 ……なにが、覚えてくれなくても? だ! なにがそれでいい? だ! 

 お前みたいな、自己中心的で、わがままで、自分勝手な奴を一体誰が忘れるんだ? 十分お前なんか忘れてやるもんか。

 

 百鬼丸は拳を固く握り締めて、腕を伸ばす。

 

 ぴこん、と結芽の額を弾いてやりたくなったのだ。

 

 

 

 ◇

 双葉は仰向けのまま、眩い照明の天井テントに手を伸ばす。

 

 ――ねぇ、おにーちゃん。知ってる? 昔わたしに読んでくれた「幸福の王子様」って絵本。豪華な飾りの王子様の像がね、ツバメと一緒に苦労してる人とか、悲しんでる人に、自分の体の一部の宝石とか、金箔とかを剥がして分け与えちゃうんだよ。結局、全部なくした王子様は捨てられて、ツバメも南に行けなくて死んじゃうんだ。

 

 あのとき、わたしは王子様とツバメが不憫で「かわいそう」って言ったら、優しく頭を撫でてくれた。――それで「たぶん、王子様もツバメも、なにも残らなくても、感謝されなくても、幸せだったはずじゃないかな」っておにーちゃんが微笑んだの。

 

 

 「今なら、何となく言いたい事わかるけど……」

 

 王子様とツバメたちとは違って、今はもう百鬼丸を心配してくれる人がいるんだって事に気が付くべきなんだと思う。それが分からないんだから、大馬鹿者なんだ。

 

 「でもね。どうしても馬鹿にも幸せになって欲しいって思う人がいることも教えないと」

 ぐっ、と双葉は手を握る。

 

 

 ◇

 ……まず、青ノロのストックはない。

 ジョーの時には、奴の腹をさばいて取り出した。でもそれは現在できない。しかし結芽の体内には細胞レベルで結合したノロがいる。

 

 とすれば、話は簡単だ。

 

 おれの体を切り離して、結芽のノロに食わせてやればいい。

 

 「まじか、ションベンちびりそうだけど……」

 ふと、結芽の羽織っている本革の上着に気がついた。

 「ふっ」と笑みが百鬼丸の口元に零れる。

 躊躇っている暇なんてない。

 幸い、ジョーのおかげで右目が戻った。――手っ取り早く切り離せるのはココだ。

 血の気の失せた肌の結芽の頬を撫でて、

 「――んじゃ、ちょっくら頑張るから待ってろよ」

 おれは、自分の指を瞼の裏に突っ込み、思い切り引きずり出す。

 

 「がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 痛い、痛い、痛い、痛い!

 

 指先に伝うゼラチン質のぬめりが気持ち悪い。眼球の奥に、筋みたいなのがある。こいつを切らないとダメだ……

 

 御刀に手をかける。

 

 ブチッ、と爪で引きちぎる。

 

 全身が裁縫針で突き刺される感じがしていた。

 

 

 ◇

 「……はぁ…………はぁ」

 汗まみれの百鬼丸は、その場にしばらくヘタりこみながら、結芽を左目でみた。

 

 すーっ、すーっ、

 

 と、可愛らしい寝息をたてている。

 

 腕の包帯を無理やり右目の辺りで止血に使いながら、微笑む百鬼丸。

 

 激痛の対価としては、十分だった。誰かの命を救うことができた。その満足感と安堵で、力が無限に出る気がしていた。

 

 「しばらくまた、右目も義眼か……まぁ、あと五年以内になんとか研究が進めば……」

 

 百鬼丸はブツブツと言いながらも、しかし目前の太樹に背中を預けて眠る少女の頭を撫でる。撫子色の髪は柔らかい。

 

 長い睫毛の先に、涙の雫があった。

 

 口元は、柔和な笑みに曲がっていた。

 

 

 百鬼丸は足元に力を入れようとした……と同時だった。

 

 

 「おい、貴様ッ! 結芽になにをしたッ!!」

 凛々しい声が咆哮した。

 

 肩越しに背後を見やると、石階段の半ばに、獅童真希そしてその傍に此花寿々花が佇んでいた。ふたり共に手負いである。

 

 「もしも、結芽に危害を加えるようなら容赦しませんわ」

 

 剣呑な雰囲気で百鬼丸を威嚇する。

 

 馬鹿馬鹿しくて、百鬼丸は前に視線を戻す。そして――

 

 「あのな、おバカさんたち。いいことを教えてやろう。コイツ、結芽は生きてるしおれは危害なんて加えてない。結芽が安眠してんだぞ。ゴチャゴチャうるせえメスゴリラたちだな、おい」

 

 嫌味を吐いた。

 

 「……なに? 結芽は、それじゃぁ結芽は生きているのか?」

 驚愕に塗り固められた顔面で、真希は前傾姿勢になる。

 

 「自分で確かめろよ。嘘だったらここでおれを殺せばいいだろ」

 

 その自信のある態度に気圧されたふたりは、急いで階段を降りて、結芽のもとまで駆けつけた。

 

 「結芽、おい結芽! あぁ……本当だ。生きてる……なんで、どうしてだ……」

 病で血を吐いていた頃とは異なり血色のよい肌。口元の血筋を拭ってやる。

 

 「百鬼丸さん。あなた、一体なにをしましたの?」

 

 信じられない、とでも言いたげな顔つきで寿々花は訊ねる。

 

 「目ん玉を引っこ抜いた。それだけだ」

 

 「んなっ……それだけって」

 そもそも、なぜ目玉を引っこ抜くと結芽の病が……命が救われるのだろう。いいや、仮に何らかの方法があったとして、麻酔もなくおいそれと目玉を引っこ抜く人間がいるだろうか?

 

 「どうして、そこまでして結芽を助けてくれたんだ……」

 真希は自分の短慮を恥じ入り俯きながら、きいた。

 

 

 「――あ? 簡単よ。おれは刀使を守る、って約束したんだ。だからだよ」

 

 一瞬呆気に取られた真希は、ボロボロの傷だらけの百鬼丸に真正面から向き合い、

 

 「敵対する親衛隊でも、かい?」弱々しい皮肉で訊ねる。

 

 百鬼丸は間髪を入れず、

 

 「当たり前だろ。なにへんなこと言ってるんだ」

 当然とも言いたげに応じた。

 

 

 真希は、無意識に首を左右に振る。

 

 「参ったよ。君は本当にすごい。……結芽を助けてくれてありがとう」

 

 「わたくしからもお礼申し上げます」

 親衛隊のふたりは揃って、百鬼丸に感謝を示した。

 

 突然のことに、百鬼丸は戸惑い……面はゆくて首を巡らす。

 

 「お、おう」

 

 顔に熱を帯びるのがわかる。

 

 ◇

 

 真希と寿々花は、可奈美と姫和と闘い負けた。

 

 そして、折神紫のもとまで向かった。

 

 ふたりの口から、これまでの経緯を聴き終えたあと、百鬼丸はあぐらをかいたまま、左腕を引き抜いた。

 

 「んじゃ、ありがとうな情報」

 

 と、ふたりに笑いかけた。

 

 「一応言っておくが、ボクたちは君の敵なんだけどね……」

 真希は言いながら、百鬼丸の爽やかな態度に関心していた。

 

 「まさか、紫様のもとに向かわれるおつもりですの?」

 

 「ああ、そのつもりでここにきた」

 

 「その左腕で刺殺される……おつもりですか?」

 寿々花は身を固くした。

 

 ――だが。

 

 百鬼丸は、あははは、と破顔しながら手首を振って否定した。

 

 「いいや、おれは殺しはしないさ。とにかく可奈美たちを追わないといけないんだ……」

 

 んしょ、と立ち上がり百鬼丸は義手を装着し直して、御門の視点位置に拳を持ってゆく。

 

 「待ってろ、折神紫! いいや、タギツヒメ! 」

 

 百鬼丸は吼える。

 

 

 

 これまでに回収した肉体の部位、およそ十六箇所。消失三。残り、二十九箇所。

 

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