刀使ト修羅   作:ひのきの棒

49 / 262
波瀾編
序章 凶星たち 


   We are like,(僕たちはまるで、)

 

   It's like a rolling stone――(転がる石のようだ――)

 

  Ⅰ

 

 プラハ郊外を白と赤を基調とした路面電車が緩慢な速度で走行する。宵闇から降り続く糠雨により、御影石に似た舗道タイルは更に黒く濡れた。雨の濃い匂いがした。街灯の古びたアークがスパークして、白光を放っている。

 

 ……時間ならまだある。

 

 男は、シックに着こなした黒で統一されたスーツと外套を翻し、橋の手摺の上にコーヒーの空ボトルを置いた。

 容姿の整った男は、しかし、無感情な顔つきでポマードに固めた縮毛気味の毛先を一撫でする。

 (ここは……どこだ?)

 日本に先程まで居たハズだ。こんな欧州の一隅に身を置いた覚えはない。しかも、自身の内部に備わる感覚が告げる。

 

 『この宇宙はお前の居た場所とは異なる』と。

 

 口内に未だ残る珈琲の苦味の後味を感じながら、切れ長の眼で周囲を眺める。

 

 闇に沈んだ石造りの建物。街灯に照る臙脂色の屋根や、連なる教会群の尖塔が闇の中から浮き彫りなっていた。

 

 やはり、違和感がある。国も違えば宇宙から何もかもの感覚が異なるのだ。

 「まだ、オーブとの決着をつけていないというのに……」

 悔いの滲む表情で、口を歪める。

 彼の手には『ダークリング』と称される、不思議な形状の円形の道具が、禍々しく輝いていた。

 

 

 

 ジャグラスジャグラー

 

 それが、彼を唯一知る手がかりである。

 

 かつて、光に属せし者。

 

 ……そして、闇に見出されて堕ちた者の名。

 

 真紅のワイシャツの首元から覘く喉仏が上下に笑って動く。

 

 「あはははは、なんだこれは? 悪夢か?」ジャグラーは、クレナイ=ガイとの対決機会を逸して異世界の狭間――隠世に紛れ込んだ。結果として、異世界へとたどり着いたのである。

 

 

 「まぁいい……この、不完全燃焼の気分を……」

 

 と、言いながらジャグラーは傲慢な口調で言葉を区切る。そして心中で、

 

 ――戯れに世界を滅ぼしてやる

 

 小さく、確かに呟いた。

 

 東の空を見つめながら、

 

 「日本か……」

 

 ポケットに手を入れた。

 

 とりあえずの目的で日本に向かうことに決めたジャグラーは、プラハを満喫するように歩き出す。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ――同時刻、チリ・サンティアゴ。

 南米の強烈な日差しが僅かに和らいだ時、町の大衆酒場の一角に佇む「異国」の男がいた。東洋の精悍な顔立ちは、まるで鋭い刃物を思わせて、纏う雰囲気すらも常人ならざるモノを有していた。

 

 ……腑破十臓

 

 彼は、ひたすら酒を呑むわけでもなく酒場の片隅に佇み続けていた。

 『お客さん、注文は?』

 バーのマスターが不機嫌に鼻を鳴らしながら訊ねる。

 しかし、異国の言葉を解せない十臓は相手を無視し、物思いに耽る。

 

 (ここは日本ではない?)

 

 間接照明のみの埃っぽく薄暗い店内を一瞥して、検討する。

 

 『おい、クソ野郎聞いてるのか?』

 店主は堪りかねて怒鳴りつけた。

 十臓はようやく目を上げ、「なんだ?」と呟いた。

 

 十臓の不気味なまでの余裕。店主はその雰囲気に圧倒されながらも、辛うじて強気を保ち『おい、いいか? 何も頼まないなら店を出て行け』と荒い語気で言い捨てた。

 

 ようやく相手のいいたい意味を理解した十臓は無言でその場を立ち去ろうとした――。賑やかだった店内は、しん、と静まり不思議な一介の東洋人に対し固唾を飲んで注視する大勢の客たち。

 

 直後。

 

 ゴロッ、と質量のある落下音が床板を叩き転がる。……先程、十臓を怒鳴った店主の首である。首は鮮血を噴水のように噴き上げながら、胴体は膝からドサッと崩れた。

 

 ――首を刎ねた。

 

 そう理解するまでに、さほどの時間は必要ではなかったようだ。店内は、「ギャアアアアアア」という悲鳴を合図に阿鼻叫喚の様相を呈した。

 

 治安の悪いこの町でも、まさか日本刀で首を突然吹き飛ばすような凶行はなかった筈だ。混乱して慄然とする人々。

 

 

 彼はにわかに口元を曲げて、真紅の刀身の『裏正』にこびり付いた血を払い鞘に収める。顔を朱に染め上げ、濃密な鉄分を含んだ香りを堪能する。

 

 シンケンレッド……志葉丈瑠と決着をつけねば

 

 十臓の頬に残忍な笑みが浮かび、日本へと赴くように踵を返して出口に繋がる階段を歩き出した。

 

 

 Ⅱ

 

 同月同日、千年の都……京都。

 刀使を育成する機関、伍箇伝のひとつ綾小路武芸学舎はここにある。

 

 その、綾小路の校舎の深部。祭殿を司る地下では御簾が鎮座していた。

 

「――時が来たか」

 

 童女のように幼い声音に似つかわしくない、酷く冷徹な印象を受ける物言いが、御簾の奥からきた。

 

 一枚隔てた脇に待機していた女性は、

「姫、いかが致しましょうか?」

 すぐさま反応する。

 

 片時も離れず傍にいる彼女――高津雪那は、現在鎌府の学長を事実上追放された形である。

 

 それを煩わしそうに、「慌てるな」と咎めた。

 

 更に続けて、

 

「いや、まだ行動する必要はない。凶星たちの訪れを今は待つ。……ふふっ、楽しみだな、〝百鬼丸〟よ」

 うっとりとしたように、御簾の奥で忍び笑いが漏れる。

 

 折しも、この時期に観測史上でも珍しい流星群が夜空を鮮やかに彩り滑ったという。長い尾を曳く星たちは淡く夜闇に消えゆく。

 

 美しく、それでいてどこか不吉な印象を与える星たち。各国の天文台では、この時の記録が残っている。

 

 曰く、

「天を一瞬だけ焦がすような紅の星である」と。

 

 

 

 『刀使ト修羅』 波瀾編 

 

 

 




今回は試験的なのですが、教えて頂いたキャラは原作のように忠実ではないので、ほぼ外見をマネたナニカです。あとで本文は消すかもしれません。

色々アドバイスしてもらっても、反映できる部分とできない部分あります。予めご了承ください。


また、あとで文章の追加をします。

合わせて、活動報告をご覧いただくと幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。