刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第7話

 レッドカラーのカワサキNinja250が、首都高の湾岸線を疾駆する。

 

 鎌倉を出、押上方面へと百鬼丸は赴く。

 

 現在時刻は午後五時。

 

 (遅くなったなー)

 

 バイクを調達する、と簡単に言っても鎌倉周辺を秘密裏に厳戒態勢を敷いた警察などの目を抜けるのである。容易ではない。なんとか舞衣の協力を得て、折神家の直轄支配地域を切り抜けた所だ。

 

 

 事実、首都圏に近づくにつれて警戒のヘリコプターが空に散見された。

 

 

 そういえば、舞衣と別れる直前に、

 

 『百鬼丸さんは自動二輪の免許を持っているんですか?』

 

 唐突に聞かれた。

 

 「いや、ない。だが安心してくれ。世の中には無免許医でも凄腕がいる」

 

 と返事をしたら舞衣は落胆した調子だった。だがおれは気にしない。

 

 柳瀬家の男性執事が簡単なレクチャーをする。それを三分くらいで飲み込んだおれは、

 

バイクに跨り、地面を軽く蹴りながら準備を済ます。しばらくして、グリップを思い切りひねる。エンジンの激しい排気を受けて、後輪が回転を強め、地面を振動が伝うと同時に発進した。

 

 

 エンジンの心地よい小刻みな震えが全身を包む。すると最早、柳瀬家の執事を後方に置き去りにし、景色は流れ出したようで体に風が激しく吹き付けた。

 一台のオートバイが連続する車列間を縫い、東京湾に沿った地形の湾岸を駆け抜ける。

 

 

 今日は日没が遅いらしく、右手にみえる水平線の夕日で、世界が茜色に染まっていった。

 

 

 

 ちなみに、百鬼丸が去ったあと舞衣は内心、

 (えぇ~、全然安心できない……)

 と思ったという。

 

 1

 

 墨田区……定住人口約二十五万以上の首都圏でも有数の立地にある。

 

 単独で世界一の電波塔であるスカイツリーは、かつて御伽噺や神話にあったような「バベルの塔」に似て、雲を貫き聳えている。

 

 夕刻。展けた関東平野を見下ろす塔を仰ぎながら、

 

 「おぉ~、みて姫和ちゃん。すっごく大きいね」

 

 子供のように指を差す無邪気な可奈美が隣りの少女……十条姫和にいう。 

 

 「おい、そんなことを言っている場合か。このままではマズいから身を隠す方法を……」

 

 「だったらさ、変装とかしない?」

 

 可奈美の提案に対し怪訝に眉根をひそめ、

 

 「変装……? どいうことだ?」

 

 「うぅ~んと、制服のままだとすぐ見つかっちゃうでしょ? だから、まず上着だけでも……あ、できれば御刀を隠せるとベストかも」

 

 単なる能天気な奴ではない、と姫和は頷いた。

 

 ふと、視線を斜向かいに移すと二人の誂向きに衣類量販店があった。

 

 

 

 店独特の耳に残るジャズ風のBGMを聴きながら、二人は売り場で品定めをする。

 

 「あっ、ねぇ姫和ちゃん! 見てみて、これ」

 

 そう言って可奈美が目前に突き出したのは、禍々しいキャラをプリントしたTシャツだった。

 

 「……な、なんだ、これは?」

 

 「これはね、地獄天使マーベラスちゃんっていうアニメに出てくる『爆炎天使ファビュラスさん』だよ! でも、このアニメ低視聴率でなぜか打ち切りになったんだよ~」

 

 それだけ言うと、唐突に悲しそうに表情を曇らせる。

 

 姫和は内心「当然だろう」と思った。

 

 シャツを一瞥し溜息を零すと、

 

 「で、これをどうするつもりだ?」尋ねる。

 

 満面の笑みで可奈美は、

 

 「もちろん、保護しないと! それに提案なんだけど、これ一緒に着ない? 多分姫和ちゃんも似合うと思うよ~」

 

 「正気か、この悪夢に出てきそうなキャラを着るのか? 却下だ、却下」

 

 「えぇ~ひどいよー姫和ちゃん。こんな可愛いのにー」

 

 「どこがだ! 明らかに、目がイッてるし全体から滲み出る気持ち悪さが不愉快だ。こんなものを着て外を出歩いてみろ。絶対に怪しまれるどころか、警察に補導されるのがオチだ。そんな馬鹿な理由で捕まるワケにはいかない」

 

 姫和は腕を組んでそっぽを向くと、ふん、と鼻を鳴らす。

 

 「うぅー。ごめんねファビュラスさん。私にもっと力(お金)があれば保護してあげれたのに」

 

 悲しそうに俯く可奈美を横目に姫和は、

 

 (なんだ、この言いようのない罪悪感は……)

 

 そんな内心の葛藤を知ってか知らずか、ちら、と上目遣いで可奈美が、

 

 「だめ……?」

 

 と甘く囁くように訊く。

 

 「ダメだ」

 

 「こんなに可愛いのに?」

 

 「だから同じことを言わせるな。ダメなものはダメだ」

 

 「ほんとに?」

 

 「…………しつこい」

 

 眉間に皺を寄せて口端を釣り上げる。

 

 ――分かった

 

 悲しそうに可奈美は渋々ワゴンにTシャツを置いた。

 

 

 

 

 結局二人は無難にレディースのアウターパーカーを買った。

 

 可奈美の濃紺と姫和の黒色のパーカーは昏れる街中に上手く溶け込んでいた。

 

 「ごめんね、姫和ちゃん。あとでお金はちゃんと返すから」

 

 「ああ」

 

 ――と返事をした……しかし。

 

 (おかしい、パーカー二着分の値段になぞの一着分の値段が計上されている)

 

 レシートを眺めながら、姫和の手元は震えた。

 

 「……はぁ」

 

 可奈美は後ろで口笛を吹く真似をしながら、目を泳がせていた。

 

 

 

 「あとは御刀を隠す……」

 

 「楽器屋さんがあるし、ギターケースとかでいいんじゃないかな?」

 

 適当に呟く可奈美。

 

 「……。」

 

 姫和は無性にムカついた。一々冴える提案をされて、ムカついていた。無論、八つ当たりである。

 

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