刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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キャラ崩壊してますが、許してください。


第8話

 追跡する二人の残留思念が途切れた、その場所が丁度『押上駅』周辺だった。それ以上に詳細な思念の読み取りは不可能であった。大勢の人間の中に埋もれてしまい、二人のものと判別するのが難しい。

 (こうなれば、足で探すしかないかな……)

 百鬼丸は思った。

 バイクを道端に乗り捨て、ナンバープレートを腰に佩いた刀で切り刻んだ。それから心置きなく街を歩きだした。

 が、暫くしてから気がつく。

 「と、その前にこの体から漂う異臭をなんとかせねばなぁ……」

 軽くボヤいた。

 先程からすれ違う人々が百鬼丸をジロジロ見ながら鼻を摘んでいる。

 「風呂かぁ……いやだなぁ。恐らくおれのご先祖様に風呂嫌いな奴がいたに違いない」

 腕を組んで独り合点する百鬼丸。

 周りを見回すと、すでに夜の時刻といえた。街灯があちこちで降り注ぎ目が痛くなる。山奥で暮らしていた百鬼丸には耐え難いものだった。

 「しかも、なんというかガスの匂いがするな」

 新鮮な空気が欲しくなっている始末。

 

 (それに、着物姿だとこの辺りでは悪目立ちするようだな……)

 百鬼丸はおもむろに、懐に手を入れて茶封筒を取り出す。

 「いくらあるか知らんがとにかく、服を買うのが先か」

 面倒事が増えたなぁ、と思いながら百鬼丸は思念を探りながら街を彷徨う。

 

 (――ん? この服屋の近くから思念が強くなっているな)

 

 贋作の鼻をクンクン動かし、歩き出す。

 と、店先で何やらもめている騒がしい娘ふたりが居る。

 「~~~~っ、この馬鹿もの!」

 「ひどい、姫和ちゃん! 」

 (姫和? まさか……)

 こんな簡単に見つかっていいのだろうか? 百鬼丸は突然の発見に嬉しさよりむしろ呆気に取られていた。だが千載一遇の機会である。言い争うふたりの元まで近づき、

 「もし、すまんが十条姫和は君か?」

 指をさしたのは、いわゆる黒髪ロングの姫カットの少女だった。生真面目に切り揃えられた前髪の下には意思の強く鋭い両目が覗く。

 「……貴様、何者だ?」

 冷たい声で誰何する。

 「おれは百鬼丸だ。聞きたいことがある、そもそも君たちの敵ではない」

 少し困ったように説明した。しかし姫和は警戒の色を強め、腰に装着された特殊ベルトに手を滑らせ、左腰元に佩いた垂直の御刀の柄に手を触れる。

 臨戦態勢をとる。

 (……いや、参ったなぁ)

 ふと、意識を別のもうひとりにやると、こちらの少女は僅かに驚いた様子だったが、それ以上には反応をしていない。

 「ええっと、君は……そう、衛藤可奈美であってる?」

 甘栗色をした髪をショートボブで整え、左側頭を髪で短く束ねている。まるで尻尾のように可愛らしく揺れていた。人懐っこい表情と愛らしい顔立ちをしており、姫和とは受ける印象が対照的である。

その可奈美が、

 「あ、はい。そうです。美濃関学院二年の衛藤可奈美です」

 一応、礼儀正しく挨拶を返した。

 「よかった。実は、舞衣殿が君を探していた」

 「――舞衣って、もしかして、まいちゃ……ごほん。柳瀬舞衣のことですか?」

 「そうだ、心配していた。ここに来るのも彼女の助けがあってきた。もし、よければ連絡をして迎えにきてもらえばいいだろう」

 その言葉に可奈美は表情を硬くして、

 「ごめんなさい、百鬼丸さん。私まだ帰ることができないんです」

 怪訝に首を傾け、

 「なぜだ?」

 「私は姫和ちゃんと一緒に行くことに決めたんです」

 と、そこへ横槍が入る。

 「いいや、可奈美。いい機会だからお前だけでも戻れ。そもそも、これは私自身の問題だ。お前に付き合ってもらう義理はない」

 厳しく切り捨てた。

 「……で、でも」

 可奈美が一歩、踏み出して続ける。

 「姫和ちゃんひとりだと、結構はやく捕まる気がするよ。だって、ここまで短い間一緒に行動したけど、意外におっちょこちょいだから親衛隊とか本気だせばすぐ見つかりそうだし……」

 「は?」

 こめかみに青筋を浮かべ、攻撃対象を百鬼丸から可奈美へ変更したようだ。

 「だって、道結構間違えてたし――」

 「それはお前も同じだろう!」

 「それに、スキあらばチョコミント味のアイスとかお菓子に釣られるし……」

 「当然だ、美味しいに決まっているものを逃せるか! それより、お前の狂った審美眼ではあの『爆炎天使ファビュラスさん』なる、明らかに薬をキメた感じのキャラを可愛いとするその感性が理解できない。あんなもの、邪教の神だと言われた方が納得するレベルだ」

 「あ、ひどい! 私はいくら悪口言われてもいいけど、あの子たちを悪くいうのはいくら寛大な私でも許さないよ!」

 「なんだと、この感性の方向音痴め」

 「姫和ちゃんの味覚音痴、ばか」

 

 ふたりの不毛極まるやり取りを目の前に百鬼丸は、

 (なんだコイツら……。はやく帰りたい)

 出会って五秒、心が挫けた。

 

 2

 結局、数十分に及ぶ小学生以下の口喧嘩を百鬼丸は仲介しておさめた。

 「とにかく落ち着いてくれ。いや、そもそも、君らはおれの話をきけ」

 窶れ切ったように、呟く。

 「……あはは、ごめん。言い合ってて百鬼丸さんの存在忘れてた」

 「え」

 「ああ、お前まだ居たのか。それで話とはなんだ?」

 え、なに二人共ひどくないか? 内心ショックを受けながらも「ゴホン」と咳払いを一つして落ち着く。

 「話す前に、おれは服を調達して風呂に入りたいんだ。それからでいいか?」

 目を瞑り、腕組みをしていた姫和が片目を開き、

 「構わないが、宿を決めねば話にならんだろう。生憎、こちらの逃走資金はそんなに無いから……」

 「だったら、おれのをやるよ。どうせ、金はあんまり使わないしな。いや、そもそも金をあまり使ったことがない」

 再び、懐から茶封筒を取り出す。

 明らかに分厚い。姫和は眉を顰め、

 「悪いが、お前に逃走の手助けを受けるつもりはない」

 「なぜだ?」

 「当然だろう。私は私自身のやり方でこの復讐を完結させるつもりだ。なぜ、突然現れたお前に手助けされなければならないんだ」

 「まぁ、別にそれでもいいけど……。あ、でも折角だしさっき話していたチョコミント? とやらを奢らせてくれ」

 片耳がピク、と動いた。

 「なに? それは本当か?」

 「え? ああ、まあ。それにこの封筒の中の金は君たちにも必要になると思うんだがなぁ……」

 可奈美が、

 「まず、服を買ってから銭湯にみんなで行かない?」

 提案する。

 「その方がよさそうだな。ウム、分かった」百鬼丸が首肯する。

 

 

 3

 百鬼丸は四肢の仕掛け上、いつでも戦えるような服装を求めたが、結局街中に溶け込むことを主眼として服を選んだ。

 下は分厚いブーツに、スタンダードジーンズ。上はタンクトップに、腕の微妙な長さを隠す為に本革のジャケットを買った。

 それから、銭湯で十分に悪臭を洗い流し、数十日ぶりの入浴に開放感を感じた。筋肉が弛緩していくのが判る。先程買った衣服を身にまとい、着物は丸めて道端に落ちていたビニール袋の中に入れる。

帰りがけに銭湯の主人に呼び止められた。

 「ああ、お兄さん。今日は商店街の抽選会だからこれ、引換券持ってって」

 「どうも」

 頭を下げて、受け取る。

 その後、女湯から出てきたふたりと合流し、楽器屋に行くハメになった。

 

 楽器屋の店内には、数多くの名も知らぬ高額な楽器が並んでいた。

 「ギターケースで偽装するから……あ、このケース可愛い。ね? 姫和ちゃん」

 「……お前は御刀を隠すのに、なぜ可愛いいなどと――」

 姫和も、なにか気になるものがあるのか、視線を先程から頻繁に移動させている。

 「百鬼丸さんは……」 

 「おれ? おれは適当でいい」

 「え~だめだよ。百鬼丸さんのソレは普通の刀だけど、でも粗末な扱いは可哀想だよ」

 うむむ、と唸った百鬼丸は可奈美の謎の説得力に押されて渋々適当なものを買うことにした。

 三人の会計は全て百鬼丸のポケットマネーで賄われた。あとで返済するとふたりは言ったが、別にそれは百鬼丸にとって、どうでもよかった。

 会計を終え、宿を探そうとしたとき、ふと思い出した。

 

 「少し、寄り道したいがいいか?」

 

 「「?」」

 ふたりは顔を見合わせた。

 

 4

 抽選会では、参加賞の「おたま」と「菜箸」が当たった。

 くじ運のなさに、がっかりしながら民宿のある方角へと三人は向かう。

 

 台東区と荒川区の丁度、区の境に位置する宿に着いたのは、夜の九時近くだった。

 

 「いらっしゃい。お客様は三名さま?」

 人の良さそうな四、五十代の店番の女性が聞く。

 「ええ」

 姫和は頷きながら、帳簿に記入をしていた。

 「ふーん、お客さんたちはどういう関係の人たち?」

 何気ない世間話から、なにかを怪しんでいるような目線で訊かれる。おそらく家出かなにかと間違われているのだろう。

 「えーっと、それは……」 

 困ったように可奈美は視線を宙に彷徨わせ、不意に気まずそうな姫和と顔を見合わせる。

 百鬼丸は助け舟を出そうと口をひらく。

 「おれたちは、『ばんど』なるものを組んでいる」

 「バンド? ああ、楽器をやっているのね。それで、お兄さんはなにを担当しているの?」

 ん? という間抜けな顔をする百鬼丸。

 「お兄さんたち本当に楽器やってるの?」

 「と、当然だ。おれは……」

 先程の抽選会で当たったおたまと菜箸が右手に握られている。

 (これだ!)

 「おれは、おたまと菜箸を担当している」

 「「「えっ?」」」

 三人がびっくりした声をあげる。

 その反応から、百鬼丸は得意げにもう一度、

 「だから、おれはバンドのおたまと菜箸担当だ」

 それをきいた姫和が振り返り、

「アホかお前は! その素っ頓狂な回答に戸惑って聞き返したのだ」

 容赦なくツッコむ。

 「……な、なんだと! ああ、そうか。君らがそういうつもりなら、今日限りでこのバンドは解散だ。いわゆる、音楽の方向性の違いというやつだ」

 ぷい、と顔をふたりから背ける。

 可奈美が困ったように眉をハの字に曲げ、

 「……百鬼丸さん、多分それ音楽以前に道具の方向性の違いだと思う」

 

 そんなこんなで、三人は民宿で一泊をすることになった。

 

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