刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第87話

 医療用照明の円が目に眩しくて、思わず眼を細める。――

 (あぁ……わたし、本当に〝受け入れるんだ〟)

 ぼんやりとした頭で考えながら、内里歩は手術の台に仰向けになった。禁忌中の禁忌である《ノロ》を体に受け入れる……そんな事に一切の罪悪感を覚えないのは、何故だろうか? ――きっと、置いて行かれたくないからだ。

 自問しながら、手を照明の方へ伸ばす。

 「高津学長……」

 隣りで、小瓶から注射器へと吸わせ内容物を確かめていた高津雪那は「なんだ?」と冷淡な声音で応じる。

 「ありがとうございます。わたし、強くなりたいんです。もう二度と衛藤さんにも――百鬼丸さんにも誰にも置いて行かれたくて。それに、やっぱり誰かを『守れる』だけの力がないと刀使じゃないって気づかされたんです。つよく……」

 「…………。」

 歩の言葉を聞きながら、雪那は無表情に注射器を眺める。

 本来は自らの手塩にかけた最高傑作である糸見沙耶香へと投与する筈だった《ノロ》を今、別の少女へと打ち込もうとしている。以前の《ノロ》アンプルと異なり、より純度を高め、かつ精神的な安定を図ることに成功した。

 準備は全て整った。雪那は踵を返して少女へと近づく。

 「お前が望むなら、いくらでも強くなるだろう。そして、〝コレ〟を使い私に強さを証明しろ」

 出来損ない――とまでは、言わなかった。否、言えなかった。

 かつて、自ら相模湾岸で発生した大規模な厄災の光景が生々しく脳裏を過る。その度に、己の無力を呪うことしかできなかった。だが今は違う。刀使を正しく、強く導くことができるのだ。

 内里歩は、謂わば嘗ての自分なのだ……

 《御刀》を継承した糸見沙耶香も所詮は、選ばれた遠い存在。彼女を見出した時、その才能に素直に感嘆した。だが、結果的に裏切られた。

 

 ……だったら。

 

 全てをこの手で壊してやる。

 

 雪那の口端に皮肉な笑みが浮かぶ。

 「貴様は、ヒメの忠実なる下僕の最初となるのだ。よく肝に銘じておけ」

 そう言いながら、手術台に横たわった少女の細い首筋を顕にして、柔肌へと注射器を突き刺す。

 「――ッ、」

 一瞬、苦悶の表情を浮かべた歩。

 頚動脈を烈しい動悸が襲う。まるで脳みそを直接掴まれてシェイクされるような強烈な感触が五感を脅かす。朦朧とする意識――徐々に薄れゆく視界。

 (あれ……? わたし……)

 最後に見えた光景は、どこか哀愁の漂う高津雪那の眼差しだった。

 歩の伸ばした腕はガクリ、と垂れ落ちた。

 

 

 

 2

 十臓は半顔で残忍な笑みを浮かべ、もう半分の顔は闇に埋もれている。その闇の中から、赤い残光が長い尾を引いた。

 「卑怯と詰るか? 不条理と嘆くか?」

 軽く挑発するようだった。。冷静な判断力を奪う。それから相手を生け捕りにする算段だろう。

 

 頭を低くしながら、

「私を捕まえるって言ったよね? ふふっ、おじさん。一ついいこと教えてあげるね。――私、すっっっごく強いから!!」

 叫ぶのと同時に、《写シ》を貼り、《迅移》によって超人的な加速を得た。虹色の燐光を放ちながら、半ば影に埋もれた十臓へ突きを繰り出した。

 

 パキッ、という氷に罅が入ったような音がした。

 「――ッ!?」

 結芽は慌てて剣の白柄を握る手を緩め速度を殺した。

 少女の目前には、美しく澄んだ鏡面に黒い線が円形に伸びた。

 

切っ先が捉えたのは実像ではなく淡い幻影だった。

 砕けた鏡面は一気に放射状に亀裂が走り、歪な線は連鎖をして硝子片が周囲に散らばった。氷雨の如く、外気に煌き渡った欠片たちは両者の間を紗幕のように流れた……

 「その程度か?」くぐもった声が真横から囁かれた。

 乱反射し、方向感覚が著しく乱れた空間内において、十臓は一歩も動かず相手の出方に応じて対応していたに過ぎない。法衣のような上衣に硝子片が張り付く。

 十臓は一切物理現象に頓着せず、右の禍々しい腕を伸ばして少女のほっそりとした繊細な首を掴む。その侭、喉元を握りながら背後の鏡面へと叩きつける。

 バキッ、という細やかな音に混ざって重い衝突音がした。

 「がはっ……」

 一瞬で呼吸困難に陥った。刀使の場合、《写シ》と呼ばれる身体防御術が施されているものの、痛覚などは実際の身体と変わりなく、また精神力も著しく消費する。

 「ッッ!!」

 結芽は眼を眇めながら、何かを呻き男の腕に《ニッカリ青江》の刃で貫いた。

 

 

 ……が、しかし。

 十臓は慌てる様子もなく、むしろそれを待っていたかのようにニヤリと軽く邪悪に笑う余裕すら見せた。

 

 「軽いな……軽すぎる……」落胆した声音で低く呟いた。

 

 (軽い――? なに言ってるの?)

 結芽は酸素を求めて口を喘がせながら、必死で抵抗していた。だがこの男の呟きに、胸がザワついた。

 

 

 喉を片腕で締め上げ、宙吊り状態にしながら男は獰猛な双眸を幼き少女へと向ける。

 「失望した。お前ほど剣の才覚があれば、もっと楽しめると思ったのだが……お前には、剣を持つだけの〝理由〟がない。切実さがない――命の煌きを、生死を賭した意思の強さ鋭さが失われている。……いや、正確には〝失われた〟みたいだな」

 虚ろで濁った真っ暗な目が、苦悶に歪む結芽へ固定されていた。

 

 

 「もう一度、機会をくれてやる。今度こそ俺を失望させるな」

 鏡の砕けた壁面に叩きつけた結芽の華奢な体が、無造作に地面へと放り投げた。まるでものを投げ捨てるような素振りだった。

 

 「げほっ……ゲホッ……」

 喉が解放され、思い切り咳き込む。無意識に《写シ》が解けていた。衝撃で御刀を手放してしまった。痺れる手で喉元をさすりながら、結芽は怒りに十臓を睨み上げる。

 

 

 「――――っ!?」

 ゾワッ、と肌が粟立つ。背筋に悪寒が駆け抜ける。

 

 少女の目の前に立っていたのは、人の形をした絶望だったのだ。

 

 凄愴な男の顔は、半分闇に埋もれており今まで目視できなかった。しかし、青い照明が微かに掠めると、猿面のように真っ赤な貌が浮かび上がった。白い……蜘蛛の卵に似た白薄膜の眼球から、紅の光が揺らめき尾を曳いた。

 そして、先程貫いた右腕は太く、不気味なほど真っ白な「骨」にも似た下博は鎧外殻を有していた。一切の傷口が無く、ただ無機質に人殺しをするだけに生まれたような五指の動きに畏怖せざるをえない。

 

 『どうした? この格好が恐ろしいのか?』

 心を見透かすように、せせら笑う。人間の肉声と、ノイズがかかったような、この世の声とは思えぬものが混在した「音」――。

 

 

 禍々しい……余りに邪悪な容貌だった。

 

 技倆の優れた剣士である少女は直感で理解する。

 

 荒魂とも異なる邪悪の存在が――この世の者あらざる事に。

 

 そして、相手の力量もある程度把握した。

 

 (このおじさんには……)

 

 〝勝てない〟

 

 と、冷静な分析から導き出される答えに対し、結芽は臍をかんだ。それを、口にすればきっと心の根元から折れてしまう。最早、二度と立ち向かうことはおろか剣を握ることすらできなくなる……以前の自分であれば、こんな弱気な気持ちは持たなかっただろう。ただ、生死こそが命題であり、それに準じて闘えばいいだけなのだから……。

 

 ――でも。

 

 ぐっ、と震える拳を握り締めて傍に転がった御刀へ手を伸ばす。

 不意にむせた。痛む首を撫でながら、結芽は咳き込む。ゆっくり顔を上げ、不敵に口端を曲げる。

 「へへっ、おじさんに教えてあげる……」

 

 『……?』

 

 

 「大事な人の為に闘うってことが〝強い〟ってこと!!」

 下腹部に力を込め、《写シ》を貼る。曲芸燕のように、軽やかにステップを踏んで一気に《迅移》に依って加速を試みる。細い通路を華麗に美しく少女は燐光を振りまきながら、十臓へと剣戟を打ち込む。

 

 「紫様も!」「真希おねーさんも!」「涼花おねーさんも!」「夜見おねーさんだって!」「百鬼丸おにーさんも、双葉ちゃんだって……」

 剣戟を流星群の如く叩き込みながら、結芽は叫ぶ。彼岸の戦力差は圧倒的であり、不利を承知で刃を動かす。 

 

 「みんな、皆が私を大事にしてくれたもん! 私の方が強いのに――だけど、だから皆を守れるのは私なんだからっ!! おじさんみたいな人に、皆を傷つけられたくない!!」

 

 剣尖が突き、一閃する銀線の刃が燦き、十臓に襲いかかる。

 

 ……だが。

 

 男は片腕の《裏正》で正確に全てを弾き、押し返す。十分な重量で、結芽の軽い体を飛ばした。

 

 ズズズ、と小靴裏を擦りながら飛ばさた衝撃を逃がす。《御刀》を杖に、屈した膝を伸ばして眼を眇める。

 「はぁ……はぁ……っ、絶対に負けたくないから……ひとりぼっちだった私を助けてくれた皆も――百鬼丸おにーさんをこれ以上、いじめて欲しくないから!」

 大粒の涙の雫を目端に溜めながら、上擦った呼気を堪え敵に怒鳴る。

 

 「随分と威勢のいい言葉だな……だが無意味だ。力なき者はただ強者に屈するより他ない。貴様は所詮、才能だけ――殺意が足らん」

 十臓が放つ殺気が痛いくらいに感じられる。

 

 「―――」

 結芽は跳んだ。ニッカリ青江の手に馴染む感触が一層強まり、心と共鳴する。

 周囲を囲む鏡の壁には一切彼女の姿は映らない。

 

 「ふん、甘いッ!! 小娘ッ!!」

 軽く周囲の半円を描き真正面に飛び込む結芽に対し、十臓は化物の腕を大きく振り上げ《裏正》を振り下ろす。

 

 バキィイン、という耳を甲高い亀裂音が聾する。

 

 「!? なに」

 十臓は思わず驚きを上げ、剣を止めた。

 

 大きな鏡の破片がバラバラに砕けて再び地面へと冷雨の如く降り注いだ。

 

 

 

 『おじさん、まだまだだね♪』

 甘ったるい、子供っぽい口調で楽しげに背後から声がした。

 

 肩越しに十臓は、燕結芽を捉えた。

 

 彼の目にも止まらぬ刀の突撃が繰り出された。既に反応できず、十臓は左腕と肩を犠牲にすることにした。

 

 ガリッ、という外殻を抉る音と感触がした。刺し貫かれた肩甲骨の部分は細長い刀傷が穿たれていた……

 

 バキ、バキッ、という二箇所の亀裂が走る音がした。ポロポロと砂の落ちるように地面に外殻の粉が舞う。

 

 「――!?」

 左の眉の辺りと大腿部を同時に穿たれていたのだ!

 

 かつて存在した、幕末の天然理心流天才剣士、沖田総司が行った伝説の技「三段突き」である。一撃の突きに見せかけ、三撃を繰り出す高度な剣技を、まだ少女の燕結芽は土壇場で見せつけたのだ。

 

 

 貫いた刃を素早く引き抜き、結芽は距離をとって地面に着地した。鏡破片が靴裏にパキパキと踏むたびに鳴る。

 

 肩で浅く息をしながら赤らんだ頬、満足気な表情。

 

 「なるほど……訂正しょう。貴様は、確か燕結芽と言ったな? 貴様は俺と闘う相手として相応しいようだ。侮っていた。今の剣技は見たことがない」

 そう言いながら、十臓は慌てることなく首を巡らせ己がなぜ不覚をとったか推測する。

 

 そもそも、燕結芽は「地面を跳んだ」わけではないようだ。先程切り捨てた鏡の破片から察するに、彼女は《迅移》という加速によって鏡壁を足場にして周囲を旋回した。そして、旋回しながら、鏡を両断し、相手の正面へと鏡が飛ぶようにコントールして飛ばし、自分は背後から攻撃を仕掛ける。

 相手の正面は虚像が映って、錯覚を起こす。

 

 (なるほど、機転の効いた戦い方だ……)

 

 戦闘センスも、技倆も、全て幼い少女というには相応しくない。

 

 

 「となれば、こちらも全力でいかせてもらう」

 全身を紫の濃い炎に包まれた。

 

 腑破十臓と云う男の体躯を、全てが化物の白い外殻に覆われた。甲虫が蛹から羽化したように純粋で、毒々しいまでに美しく、そして――殺戮の象徴ともいうべき姿と化していた。

 

 もし、《神》というべき存在があるとしたら、この目前の存在はきっと《神》の破壊=殺戮の部分を司り、具象化としてその姿を現したのかもしれない。

 

 そんな不吉な予感を感じながら、目線だけは外さない。

 

 

 紅の猿面に似た顔貌が刹那、動く。

 陽炎のようなオーラを振りまき、狭い通路から一瞬にして姿を消した。断じて《迅移》などではない……彼、腑破十臓の持つ固有の能力のようだった。

 

 「――!?」結芽は、突如の出来事に眼を瞠る。

 先程の強靭な力とは異なる、そして刀使同士の斬り合いとも異なる超次元的な存在。

 何が起こっても不思議ではない。平正眼の構えで相手の次の襲撃に備え全身を隈なく五感を鋭くした。研ぎ澄ます五感には、集中力が必要であり――先程までの短いやり合いによって体力も精神も著しく劣化した。

 だがここで気を抜けば、必ず仕留められる。

 張り詰めた神経は痛いほどに研ぎ澄まされ、自然口から緊張に喘ぐ呼気が洩れた。

 

 

 と、目前から「腕」だけが現れた!

 

 右腕は結芽の喉を潰さんと凶暴な五指を開き、掴みかかった。

 

 「……ッ、」

 危うくのところで屈んで躱し、一拍置き後方へと跳んだ。

 全く、存在が分からなかった。まさか真正面からくるとは予想もしなかった。視認で頼るだけでは捕まっていただろう。第六感……剣士の「勘」が助けたのだ。

 

 「はぁ……はぁ……」

 体力が限界を迎えていた。

 

 『……お前は、確かに優秀だった。俺の生まれた時代から後の洗練された剣技……それも味わえた。――だがこれで終わりだ』

 冷淡に告げる。

 

 直後――十臓は、腕とは更に別の左斜め方向から躍り出た。肩で大きく息をつく結芽の目前には巨体に映る「白い骨鎧の化物」が、刹那的に一閃を曳いた。その残影のみが捉えられたに過ぎない。

 

 「がはっ……」

 強烈かつ単純な切り上げる袈裟斬りを喰らった。結芽は《写シ》を剥がされ、生身を晒した。

 

 

 御刀につけた苺大福猫のストラップ紐が切れた。可愛らしいマスコットがころん、と地面に転がり落ちた。

 

 結芽は無意識に手を差し出して拾い出そうとした。ーーしかし、十臓はそのストラップを無残にも足裏で踏みつぶす。

 

 ――やめて……百鬼丸おにーさんとの思い出も………消えちゃう……、そう云う暇すらなく視界が暗転した。

 

 しかし、相手は容赦せず、宙を舞う少女の首元を掴み地面へ組み伏せた。そのまま骨が軋るのではないか、と思われる程の力で締め上げた。鮮やかな手並みが、彼の殺戮によって鍛えられた実力の程をうかがわせる。

 

 ギリッ、ギリッ、という感覚ではない。――それは下手くそのやり方だ。

 頚動脈を一瞬で締め上げ、脳へ酸素の補給を途絶させる。意識を一瞬にして奪った。

 親衛隊第四席、最強と謳われた燕結芽はその瞬間、眼を閉じた。完全に意識が奪われ、全身の筋肉が弛緩したようにダラり、と力が抜けていた。

 

 

 『この娘は、いずれ強くなる……その時、再び剣を交えたいものだ、アハハハ……』

 暫時の胸の渇きを癒す闘いを出来たことで、十臓の顔に……正確にいえば、化物の声音に喜悦に混じったものが感ぜられた。

 

 

 仕事は終えた。

 

 十臓は、化物の姿を解除して、周囲に濃霧のようなもので辺りを充たす。……直後に人間の姿で現れ、華奢な少女の抱き抱えると、轆轤秀光と合流すべく出口を求め歩き出した。

 

 

 

 3

 百鬼丸は爆発を察知し、ベンチから腰を浮かせて動き出そうとしていた……だが、体が鉛のように動かなくなってしまった。

 

 (なんだ……これ?)

 

 体の異変に気づき、膝を屈して地面へ倒れこむ。全身の毛細血管が痺れて、全く機能しなくなった。

 

 遠く、去り際だった秀光が肩越しに冷徹な眼差しを送りながら呟く。

 「君は随分と用心深いんだね。せっかくの水も、一口呑んだと思ったら、その三分の一を喉に通しただけで毒見をするんだから困ったよ。化物の君なら少しくらいの毒なら平気だとでも思ったんだろ? 残念。こちらも対策している。」

 饒舌、というより早口に恨みのこもった低い声で秀光はまくし立てる。

 

 (なに言ってるんんだ、コイツ)

 突然の事態に頭が追いつかず、口から涎を流しながら目だけを上にあげて睨みつける。

 

 

「……お前みたいなバケモノをどう殺そうかいつも考えていた。そして分かった」

 

 残忍かつ、兇悪な笑みを口元に湛え、続ける。

 

「お前を殺すには、まず心から折ればいいのだ、と。確かにお前は強い……少なくとも、力ではな。だがその心は脆弱を極める。――そして、決めたんだ。〝刀使〟を、それもお前と交流のある刀使を奪えばいいのだ……とな」

 

 

 その瞬間、百鬼丸は理解した!

 

 この男の目的は最初から「それ」だったのだ、と。

 

 この遊園地の存在も気になっていた。余りに全ての事柄に都合が良すぎたんだ。こんな爆発物の異常事態だって周囲に人の気配すら感じられない。彼の謀略によって自然とこの場所までくるように仕向けられていたのだ。

 

 

 「あが……えが……」

 呂律の回らない舌を必死に動かし、牙を剥き出しにする百鬼丸。己の未熟さが呪わしく、無力さが憎かった。

 

 しかしそんな百鬼丸を嘲るように顔を前に戻し、秀光は歩き出す。

 

 「せいぜい大事なものを奪われるのをお前も体験するがいいさ。……尤も、お前のようなバケモノなんぞ、この世界で誰ひとりとして受け入れる人間なんていないがな。どれだけ綺麗事を吐いても人とバケモノは相容れない存在だ。それをもう一度噛み締めるんだな」

 

 秀光はそう言い残して『鏡迷宮』の方角へと向かっていった。

 

 

 ……やめろ、やめろッ、おれから――また、大事な日常を奪わないでくれ!!

 

 必死に強訴するよう、痺れの満ちた左腕を伸ばしてもがく。

 

 だが時間は無情にも、百鬼丸と秀光の距離を離していった。

 

 

 こつ、こつ、こつ、という舗道を鳴る靴音だけが無情に鼓膜に響く。

 

(お前をここで殺すのは簡単だ……だが、苦しめ。私の味わった地獄をお前にも味わせてやるッ!!)

 

 秀光は炯々とした眼光で足を早くした。

 




感想を下さった皆様、ありがとうございます。返信遅れてスイマセン。
先月に更新したかったのが心残りです……。

あ、でも今月からみにとじ始まったぜ、うれC

みんなも画面の前で全裸待機だよな? な? このままの勢いで2期か映画でもやろう(提案)
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