刀使ト修羅   作:ひのきの棒

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第98話

 小型フェリーの航路は小笠原諸島沖に進路を取り、十時間以上が経過していた。

 早朝、横須賀から出航した時は明るかった空も、既に夕日に暮れて夜の匂いが近づいていた。どうやら、ノーチラス号は予想よりも遠い海域を航行しているらしい。

 

 

 夕空を渡る海鳥たち。広大な海原に幾つか伸びる黄金の光帯。……潮の濃密な香り。

 いつまでも飽くことなく、甲板上で欄干に肘を預けて遠景を眺める十条姫和。

 わずか四か月前が遠い昔の出来事のようにも思っていた――そればかりでなく、討伐した筈の「タギツヒメ」が未だその影響を残しているのだ。

 そして何より、仇敵だと思っていた折神紫がタギツヒメに憑依され操られていたという事実に愕然――というより、寧ろ困惑が勝った複雑な心境である。

 (どうしたいんだろう、私は……。)

 小烏丸の柄に白い滑らかな細指を沿わせる。

 迷っていた。それでも尚、姫和は刀使として留まり腰に、こうして《小烏丸》を携えていた。母との繋がりを象徴する御刀。二〇年前の過去と現在を結びつける唯一の鍵。

 水平線の向こうの色調は既にドス黒くモノトーンに沈みつつある。

 

 

 

 

 「姫和ちゃん」

 背後から声がかけられた。

 振り返ると、手にマグカップを持った衛藤可奈美が微笑を浮かべている。

 「…………。」

姫和に見つめられている事を不思議に思ったのだろうか? 小首をかしげながら、自然な所作で手に持ったカップを渡す。

 「――ああ、すまない」と、受け取りながら礼を述べる。

 「どうしたの? 考え事とか? ……もしかして、紫様のこと――だよね。もうタギツヒメじゃないって、朱音様は言ってたけど」

 「分かってる」

 「でも、納得はできてないんだよね」

 「…………。」 

 沈黙という反応に対し、快活な少女が苦笑いする。

 「姫和ちゃんらしいな。心が正直で」

 「お前だって人の事は言えないだろう。何より剣術を優先させるじゃないか」

 その言葉に可奈美は困ったように笑いながら「確かに」と首肯する。

 「あぁ~、もう一度紫様と太刀合いたいなぁ……」

 呑気なまでの言い方に半ば呆れながら、

 「あれほど斬り合ったのにか」と、姫和が零した。

 「今度は二天一流の折神紫としてね!」

 キリッ、とした眉と表情で断言する可奈美。琥珀色の虹彩は鮮やかに光を灯していた。

 そんな単純とも言える相手の反応に口元が思わず緩む。

 「分かりやすくていいな、お前は」

 「姫和ちゃんも分かりやすいと思うけど?」

 「――わかりやすくない! お前もブレないな、という話しだ! お前はお前。私は私……」

 「そうだね。私にとってチョコミントは歯磨きの味だし」

 そう言って、笑いかける可奈美は悪戯っ子のようだった。

 「はぁ!? それは――」

 躍起になって反駁する姫和の様子を眺めながら、可奈美はくすっ、と可笑しさがこみ上げてくる。

 この四ヶ月間で、様々に蟠っていたものが少しだけ解消された気がした。

 

 

 2

 フェリー船室には、元親衛隊一席、獅童真希と二席此花寿々花も乗り合わせていた。

 彼女たちもまた、出航前に同乗していたのでる。理由は無論「折神紫」との再会であるが、ただそれだけではない。

 薄闇に沈みゆく船室の丸窓を眺めながら、一人憂鬱な表情を保つ真希。

 普段の中性的で野性味すら溢れる雰囲気は鳴りを潜め、年相応の苦悩する少女らしい姿だった。

 「そうか……結芽が」

 意外にも反応の薄い事に対し、寿々花は戸惑った。

 「どうされましたの? 親衛隊一席とは思えませんわね。もっと、激昂されるものだと思っておりましたのに」

 ワインレッドの緩くカーブした毛先を指で弄びながら、眼を細める。

 もちろん二人は昨日の首都高での事件を知っている。そして、先程百鬼丸から大方の事情は聞かされた。

 現在その百鬼丸は、フェリーの医務室で検査を受けている。

 事情を聞き終わった後から、真希は態度を崩しているように見受けられた。

 

 「紫様が荒魂を受け入れていることは知っていた――でも、タギツヒメだとは思わなかった」

 と、不意に口を開いて語りだした。まるで独り言のように小さく。

 「…………。」

 

 「もし知っていたら……」

 「紫様を斬っていた?」冷徹な皮肉がかった調子で、寿々花が訊く。

 「それはわからないが、少なくとも荒魂は受けいれなかったと思う」

 「――なぜ受け入れる気持ちになったんですの?」

 戦い続ける力が欲しいと思ったからさ、と虚しく呟いた。

 ――どんな光もやがては闇に飲まれて消えてしまう。膨大な闇に立ち向かうには自らも闇を受け入れるべきだ。

 真希は内心を吐露しながら、数年前……まだ親衛隊にも入隊する以前の〝事故〟を脳裏に浮かべていた。関西圏で起こった大規模な荒魂の発生とそれに付随する、大規模討伐作戦――。

 綾小路と平城は無論、応援で長船からの刀使派遣もあり事態は収束した。

 〝多大な被害を受け〟ながら……。

 それまで実力に応じた無意識の慢心を有していた獅童真希という刀使が、この経験を転機にしてしまった。

 だから、荒魂を受け入れた。

 

 だが、そんな事情は寿々花には関係ない。

 「親衛隊一席の言葉とは思えない、案外臆病でしたのね」

 強く凛々しい―――それだけではない事を寿々花は知っている。だからこそ、いまは憎まれ口を叩いても、やる気を出させようと思っていた。

 「臆病……か。あの夜、長船の子にも同じことを言われたよ。ボクは改めて自分の弱さを知ったよ。だから今回の結芽の件は彼を責められないんだ。そもそも、彼は結芽の命を救った――感謝こそすれ、恨む気持ちはない」

 「だけど悔しくない、と言えば嘘でしょう?」

 「ははは……そうだね。寿々花はなんでもお見通しなんだね」

 弱気な真希の微笑に、思わず顔を逸らす。

 「真希さんにだけ――ですわ」ボソっ、と小さく頬を微熱に染ながら嘯いた。

 「ん? ごめん。よく聞こえなかったよ」

 「もう、鈍感」

 眉間にシワを寄せながら頬を膨らまして寿々花は怒った。

 

 「ですが、轆轤秀光という男も含めて、このまま結芽を囚われのままにしておくのは癪ですわ」

 

 「……ああ、そうだね。ボクたちは親衛隊だ。紫様をお守りするだけじゃない。ボクたちから何かを奪ったら、その分の代償も払ってもらわないと気がすまないからね」

 本調子を取り戻したように、真希は足の間に置いた御刀を引き寄せる。

 ――結芽を奪われた、と聞いたときのショックが気持ちを沈ませていたが、冷静に考えれば取り返すことができるのだ。

 死の淵を彷徨ったあの頃の結芽とは違う。

 そう決意すれば、話しは早い。

 「もちろん、親衛隊の頭脳様は何か考えでもあるんだろう?」 

 「ええ、勿論ですわ。……首都高とそれに付随する状況を加味するに、紫様にお会いして幾つかの確認をとれば結芽の居所は把握できますわ」

 自信をのぞかせる口ぶりで、寿々花は勝気な眼差しを真希へ送る。

 

 「ははは、流石はボクが見込んだ相手だ」

 と、軽口とも本音ともつかぬ口調で笑いかける。

 その屈託のない雰囲気に胸が甘く疼いた寿々花は、

 「…………真希さんは、そうやって誰にでも勘違いさせるところ、本当に嫌いですわ」

 再び真希を直視できずに、眼を逸らす。

 

 寿々花の反応に訝りながらも、

 (取り戻すんだ、結芽を――もう一度親衛隊で集結するために)

 真希は己のやるべきことを見定めた。

 

 

 3

 小型フェリーは一応、民間の所属としている。現在の世論では刀剣類管理局を含む公安の対応や動きが逐一監視されている。とすれば、海上保安庁の動きも鈍くならざるを得ない。

 小型フェリーが速度を緩めながら、並走する物体を捉えていた。サーチライトを照射すると半浮上した黒い巨影が白泡の軌跡を曳きながら、隣りにいる。

 原子力潜水艦、ノーチラス号である。

 その甲板上に一人の影があった。

 純白のパンツスーツに肩は金モール、シンプルな服装であるものの峻厳な雰囲気が辺りの気配を圧倒する。海風に嬲られ、純黒の長い髪を靡かせる女性――折神紫その人であった。

 

 

 折神紫、その人である。

 

 

 ◇

 

 無事にフェリーから潜水艦へと移動した可奈美たちはすぐにその足で船室へ向かった。

 

 

 潜水艦の比較的大きな一室で、

 「病院で療養中の局長がまさか、武装した潜水艦の中とは――」

 開口一番、姫和は強い敵意と皮肉を込めた口調で言い放つ。積年の恨みを未だ燻らせている様子だった。

 

 この一室には可奈美と姫和、折神朱音。その対座のソファーに、紫と親衛隊の真希と寿々花、そして累も関係者として居た。

 

 「医療施設を完備してますから、嘘というわけでもないんですよ。現に百鬼丸さんも今は傷口の手当を本格的にできていますし」

 困ったように穏便な調子で朱音は付け加える。

 「でも、紫様はもう荒魂じゃないんですよね?」

 場の雰囲気を読まずに可奈美が明るく問いかけた。

 

 「衛藤さん!?」

 「お前……」

 親衛隊の二人は、元とはいえども、主人である紫に対し不遜な態度をとるような可奈美の発言に度肝を抜かれた。

 

 しかし、可奈美の質問を引き継ぐように累が答える。

 「ええ、何度も検査しましたが局長からは荒魂は検知されませんでした。肉体年齢は十七歳のままですが」

 

 「獅童さんや此花さんの体からは完全に荒魂を除去できなくて……ごめんなさい」朱音は申し訳なさそうに、付け加えた。

 実際、技術の進歩は著しいものの完全に克服する術をまだ模索中の段階であった。

 「紫様はどうやって、荒魂を克服を?」率直な疑問を可奈美がぶつける。

 「克服したのではない、捨てられたのだ荒魂に……」

 半ば自嘲気味に答える。

 「捨てられた?」

 問たわしげに真希が口を挟む。

 「――恐らくですが局長を自らの意思でタギツヒメが排斥したのではないか、と」累が更に補足を加える。

 

 だとすれば、

 「〝あの夜〟ですか?」

 可奈美が思い当たる節は一つしかない。すなわち、四か月前の折神家襲撃事件の夜である。

 「――なにがあった?」

 不遜な物言いで姫和は、目前の折神紫を睨み据える。

 「十条、言葉を控えろ」

 あまりの横暴な態度に噛み付きそうになった真希を、紫が手で制する。

 「――あの夜、タギツヒメと同化していた私はお前たちに討たれた。諸共滅びる寸前だったが、奴はこの肉体を捨て隠世に逃げた。荒魂を撒き散らしたのはその後の追跡を攪乱する為だ」

 全ての事情を聴き終えた可奈美は「ふむ、ふむ」と頷きながら、最後に一言、

 「トカゲの尻尾きり、ですね」

 と、真面目な調子で断言した。

 そのあまりの物言いには、思わず親衛隊の二人も絶句した。

 

 

 「…………可奈美ちゃん、もうちょっと言葉を、ね」

 困ったように累がフォローを入れる。

 

 そのぞんざいというか、大雑把な物言いが、紫を懐かしい気分に浸らせた。

 (やはり、美奈都の娘だな。親子変わらず……か)

 口元を僅かに緩めながら、

 「そうだ。私は切り捨てられた尻尾だ。――だが、そうも言ってられない事態となった」

 

 三女神、タギツヒメは三柱に分裂して現在争っている。

 各地でノロを奪取していたタギツヒメ。

 防衛省に匿われているタキリヒメ。

 残る、イチキシマヒメ。

 

 この三柱を宗像三女神になぞらえていた。荒魂が神を名乗った――西洋の唯一絶来信でもなく、またインドの地から発祥した仏教とも異なり、マニ教、その他の神話とも事情を異にする……日本の神の名を冠する荒魂。

 

 「なぜ、同じ荒魂だったもの同士が争っているのですか?」

 真希は疑問に思った。そうすべき必然的な理由が見えないのだった。

 

 「あなたたちに合わせたくて、ここに連れてきました」朱音が冷静な声音で告げる。

 

 「…………ッ、残りのひと柱、イチキシマヒメが〝ここ〟に居るのですね?」

 姫和は直感的に悟った。どう考えても、それ以外に理由が見当たらない。

 

 朱音は重々しく頷いた。

 

 

 

 

 

 4

 いい加減イヤになるぞ、おればかり隔離して治療巡りとは……。

 百鬼丸は一人、苛立っていた。腹部を含む傷は自然に回復しつつある。それだのに、やたらしつこく検査する必要性を見出せずにいた。

 「折神紫がいる。別に奴には用がない……、タギツヒメだ。あの夜、紫の体を離れたあいつらがなにをしているのかが問題なんだッ」

 姫和の一之太刀を喰らって、分裂した。それを確かにこの眼で確認した。

 一刻も早く事情を知りたい、それに今は燕結芽もタギツヒメ一派だろう轆轤秀光の手の中にいる。

 フェリーに乗り合わせたとき、親衛隊の真希と寿々花に直接昨日の内容を語った。

 真希は百鬼丸を責めることはしなかったが、ただ「そうか……」と、悲痛な表情で頷くだけだった。

 それに比べて寿々花は「貴方が一緒にいながら何をなさっていたの? どうしてあの娘の手を離したんですの? 自分の力量だけを過信されていたのではなくて?」と矢継ぎ早に辛辣な言葉を浴びせられた。

 しかし、百鬼丸としては寧ろ寿々花の態度に感謝せざるを得なかった。真希のように何も言わずに、悲愴な表情を見ることが百鬼丸にとっては、一番精神的にキツかった。

 

 

 椅子がわりにしていた手術台の上、上半身を裸に晒して俯く。

 「…………人じゃない、おれは…………じゃあ、ヒトを――刀使をどう捉えればいいんだ」

 あの夜、少女は目前から立ち去ってしまった。

 命を助けた、たったそれだけで満足していた。

 今までおれは、おれに生きる理由を与えてくれた「刀使」を守ろうと、助けようと思って生きていた。勿論、肉体を取り戻すことも重要だ。でも、それは本能的に動いている部分があるに過ぎない。おれの自意識で初めて決めて動く理由になったのは、間違いなく「刀使」だった。

 

 ――だのに、結局誰ひとりも救えていないじゃないか。

 

 百鬼丸は強く唇を噛む。口端から血が滴り溢れた。鉄分の濃密な味が口腔いっぱいに広がる。

 

 『おにーさんは、私が特別だから助けたんだね』

 脳裏を過る言葉。

 「おれはどうしたら、よかったんだ……」

 人に疎まれて暮らしてきた自身が、今更人と関わるのか?

 考えたこともなかった。考えないように生きてきた。戦うことが、おれ自身の存在証明だったから。

 

 両手をまじまじと眺める。

 

 ――肉体の右手

 

 ――義手の左手

 

 同時に握っては開く。この手で救えたのは、助けることができたのは一体何だったんだろう。

 

 

 「百鬼丸くん、ちょっといいかな?」

 と、突然扉の隙間から中を窺うように顔を出したのは、恩田累であった。

 

 「……はい? ああ、えっと何か用でも?」

 深い思索から覚めたように顔をあげ、マヌケ面で笑う。正直に言えば、可奈美たちと別れてからは気分が楽だった。「刀使」と顔を合わせること自体が、苦しくなっていた。

 

 累は百鬼丸の内心を、敢えて探らず、

 「うん……よかったら、なんだけどさ。君も一緒に来て話しを聞いて欲しいんだけど――怪我の具合は大丈夫かな?」

 

 「はい、問題ありません」

 百鬼丸は頷きながら、手近に置かれた着替えの黒いTシャツに袖を通す。手術台から飛び降りて《無銘刀》を素早く掴み取ってベルトの間に差し込んだ。

 

 足早に扉を出て、通路の向こうへと歩き出す少年の背中はどことなく、思いつめた雰囲気が漂っていた。

 

 薄暗い通路の闇へと消える寸前、

 「ねぇ、百鬼丸くん」

 累が声をかけた。

 「――はい?」

 

 「君は、まだ〝子供〟だからね」

 

 「ええ……」

 

 「難しいことは大人に任せなさい!」

 胸を叩いて断言する。……それが、実際にはどれほど空虚で、彼のような子供を危険に晒していると痛感していても。

 

 

 「あはは……どうしたんですか、急に?」

 

 「君には、この世の中も私たちも何も報いることができていないからね」

 

 「おれは別にそんなもの要りませんよ。ただ肉体を取り戻す過程で、たまたま利害が一致した。それだけの話しです。さ、行きましょう」

 百鬼丸は笑顔で促した。

 

 「…………。」

 累は、何か言葉を探ったが、しかし彼の背中を結局は追いかける。

 

 

 5

 分厚く、重苦しい隔壁に一箇所扉が拵えられていた。

 鋼鉄の血管が張り巡らせるように、非常用の電灯が血潮のように赤く周囲を照らしている。先程の部屋で会話を切り上げ、一同はこの場所まで移動していた。

 

 ゴクリ、と思わず衛藤可奈美は唾を呑む。

 この厳重な設備の向こうに一体何があるというのだろう? 腰に佩いた《千鳥》の鞘を握った。

 

 隣で、

 「スペクトラム計に反応がない」

 と、十条姫和が言った。掌の上に乗せた小さな方位磁石に似た物を一瞥する。

 

 「ごめんね。遅れて。今、百鬼丸くんを呼んできたから……」

 息を切らしながら、累が謝罪して扉の側面に取り付けられた電子ロックキーに数字を入力してゆく。

 

 「傷の方は平気なのか?」

 姫和は一切百鬼丸の方を向かず、聞いた。

 「……ああ、まあご覧のとおり平気ですぜ?」

 ニヒヒ、と笑う。

 「百鬼丸さんも、ってことは何があるんだろう?」可奈美が逡巡する。

 

 

 ピッ、という短い電子音のあと、扉が機密性の高い内部を開いていった。

 

 徐々に、緩慢な速度で隙間を広げる扉の向こうには単なる部屋が広がるばかりだった。――その空間の椅子に腰掛ける〝姿〟を視認するまでは。

 

 「……!? スペクトラム計が反応した?」

 先程までなんの反応も示さなかった計測器が、活発な反応を示していた。

 

 ……と、可奈美と姫和たちの頬を疾風の如き一陣の風が瞬間的に吹き付けた。

 

 「えっ?」

 

 「なっ!?」

 

 二人が突風の方向に意識を向けたが、そこに人影……正確に言えば百鬼丸の姿はなかった。

 

 「ようやく見つけたぞ、タギツヒメッ!! てめぇを膾切りにしてやるッッ!!」

 百鬼丸は左腕の義手を抜き放ち、椅子に座った「何者か」に対し、殺意をむき出しに迫り、その侭移動速度を利用して右腕の肘で喉を潰しながら、壁際に追い詰め左腕の刃を頬へと当てる直前だった。

 

 『……ッ!!』

 室内の何者かは苦悶に呻く声をあげている。

 

 「やめろ百鬼丸っ!!」

 咄嗟に反応し制止したのは、折神紫だった。

 

 「……………なぜ、止める?」

 冷徹な眼差しで、肩ごしに百鬼丸が振り返る。感情を一切宿さない、結晶化した暗闇のような瞳。

 

 その激しい殺意の視線が、背後の一同にゾワリ、と鳥肌をたたせた。

 しかし、紫は臆することなく百鬼丸へと歩みを進める。

 「話しをまずは聞いて欲しい」

 穏当な口調で、再び制止した。

 

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