ゲンドウ、再び   作:被検体E-1n

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プロローグ

 『サードインパクト』それは全ての人類を一つに纏め、互いの足りなかった部分を違う誰かで補い合う。

 秘密結社ゼーレが計画し、実行。そしてエヴァンゲリオン初号機パイロットである碇シンジを依代とすることで引き起こされた、人類史上最大の災害ともいえよう。

 数世紀もの時をかけて計画され、一瞬にして人類の全てを巻き込んだ未曾有の事態。

 しかし、もはや一つになった人類にとっては、そんな事は些細な事でしかなかった。

 

 そしてここにも一人、サードインパクトによって意識を人類すべてに統合されようとしている男がいた。

 

 男の名は碇ゲンドウ。

 サードインパクトの計画要項でもある『人類補完計画』。その中心人物の一人にして、そして同時に被害者でもあった。

 彼の目的はただ一つ。十年前に失った妻、碇ユイとの再会であり、その目的のために他の全てを犠牲にした。

 そして全てが一つになることでやっと再会できた最愛の人、ユイに対して出てきた言葉は、愛をつぶやくようなことではなく、自身の自責と後悔による想いの吐露であった。

 

――

 

「俺がそばにいると、シンジを傷つけるだけだ。だから、何もしない方がいい」

 所詮、自分は親になれるような人間ではなかったのだ。

 

「シンジが怖かったのね」

 ユイの言葉が胸に刺さった。

 

「自分が人から愛されるとは信じられない。私にそんな資格はない」

 本心からの言葉であった。守ると誓ったユイを失ったあの日から、自分は誰一人幸せにできないのだと、そう思った。思い続けていた。

 

「ただ逃げているだけなんだ。自分が傷つく前に、世界を拒絶している」

 混濁した意識の中で語りかけてきたフィフスチルドレンの言葉が真理だった。

 

「人の間にある、形もなく、目にも見えないものが」

「…こわくて、心を閉じるしかなかったのね」

 ユイとレイによって紡がれた言葉は、現実から、息子から逃げ出そうとしていた自分を捉え、やがて自身をがっしりと掴む巨大な手となりゲンドウを見つめる。

 それはシンジでもありユイでもある、二人の象徴ともいえるエヴァンゲリオン初号機であった。

 

 一つになってしまった今、もはや逃げ場など何処にも存在しなかった。

 

「その報いがこのありさまか、すまなかったな、シンジ…」

 こんな事までして、結局は自身からも逃げ出したかっただけなのだ。

 誰かに縋らなければ自分を保てない。ネルフの司令などという肩書を持ちながらも、自身はその程度でしかなかった。だが、今更それが分かったところでもうどうしようもない。

 せめて、一つになった世界でもシンジの邪魔にならないよう、自身は消えるとしよう。それがせめてもの、息子に対する贖罪だ。

 

 そんなゲンドウの想いを聞き届けたのか、彼を掴んだ初号機の手はゆっくりとゲンドウを自身の口へと運んだ。

 

――

 

 全てが一つになった惑星、地球。かつての美しい青い姿は失われ、赤く染まった世界にたった二人のヒト(アダムとイブ)を残して。


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