ゲンドウ、再び   作:被検体E-1n

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レイ、心のどこかに

――

 

 

 「碇シンジ14歳、マルドゥックの報告書によって選ばれず(・・・・)にエヴァを動かした、サードチルドレン。」

 

 遅々として進まない第四の使徒の解析をよそに、自らの中で腑に落ちない疑問が研究者、赤木リツコの口からこぼれ出る。

 第三の使徒との決戦が始まろうとしている時に突然ミサトが連れてきた一般人、指令の息子。答えの出ない問答を繰り返していると隣から声がかかる。

 

 「で、先の暴走の原因は何だったの?」

 

 「いまだ不明。初号機のレコーダーには何も書き込まれていなかったんですもの。」

 

 問題を連れてきた張本人であるミサトだが、当の彼女はどこ吹く風である。

 

 「零号機の時はどうだったのよ、あっちも実験中に暴走したんでしょ?」

 

 建造から十年近くも経っているにもかかわらず制御不能に陥るばかりのエヴァ二機に、人類の科学の限界を感じる。しかしリツコにとって勝手知ったる零号機の暴走と、パイロットの全容をまだ把握しきれていない初号機では訳が違った。

 

 「あれはどちらかと言えばレイと零号機間の相互リンクに齟齬が発生しての暴走よ。でも初号機は違う。あの時シンジ君は完全に意識を失っていたわ、本来は動けるはずないのよ。」

 

 結果を口にしてなお、事実を確認してなお認められない事実であった。

 科学者として認めたくない仮説が、エヴァの内側についての想像が働いてしまう。

 

 「いえ、まさか…ね。」

 

 「ふうん…まあ良いわ。解析、頼むわね。」

 

 そんなリツコに対し分かったような分からないような返事をしつつ、ミサトは第四使徒の解析作業へ戻るようにリツコを促し、現場の作業テントを後にした。

 

 

――

 

 

 夏以外の季節を失った炎天下の中、作業用重機たちは第四の使徒の解体作業に勤しむ。

 作業員の掛け声とともにクレーンに釣られた使徒の一部が、現場の視察に来ているゲンドウと冬月の前にゆっくりと降ろされる。

 

 「これがコアか?残りはどうだ?」

 

 「それが…劣化が激しく、資料としては問題が多すぎます。」

 

 冬月の問に答える作業員をよそにゲンドウは今後の方針について思い悩んでいた。

 

 ここでコアのサンプルを入手できるのは対使徒の予測を立てる上でも、MAGIに入力するサンプルとしても大変に申し分なく、今後の作戦を有利に推し進める事が出来るだろう。

 しかし、これを回収すれば四号機の稼働時間解決用の実験に使われ、アメリカ支部が文字通り消滅する。そして何より、ここで実物のコアのサンプルがあったからこそS2機関搭載型のエヴァシリーズが完成した。熟考の末、諸刃の剣になりかねないこのサンプルをすべて破棄することを決定する。

 

 「現状で収集可能なデータだけで良い。サンプルは全て破棄しろ。」

 

 「碇、正気か?…いや、私はお前についていくと決めたのだ。決定には反対せんよ。

 聞いたか、サンプルは全て破棄だ…良いんだな。」

 

 「…ああ。」

 

 要らぬ悲劇の芽は早めに摘んでおくに越したことは無い。

 

――――――

 

 照りつける日差しがプールサイドのタイルを焦がし、第壱中学校の生徒達を健康的な肌色へと染めてゆく。そんな授業の様子をプールサイドに設けられた廂から眺める綾波レイ。以前の実験時の怪我が治ったと言えど、この日は大事を取って見学をしていた。

 水中ではしゃぐ生徒をぼうっと眺めていると、もう一人の見学者がレイに話しかけてきた。

 

 「ねえ綾波さん、碇君のこと、どう思ってるの?」

 

 「…え?どうして?」

 

 藪から棒にどんな質問なのだと、問いかけてきた少女、クラス委員長の洞木ヒカリに問い返してしまう。

 

 「ど、どうしてって…綾波さん、よく碇君の事を見てるから。」

 

 自分はそんなに彼の事を見つめていただろうかと疑問に思い、なるほど確かにと腑に落ちる。

 自分と同じパイロットとして気になっていたために、同居している姉代わりの人物から聞き及んだ評価が気になり彼の事を見ていたことがある。しかし目の前で勝手な妄想を繰り広げ、くねくねと身をくねらせる彼女の望んでいる答えではなさそうだ。

 

 「ううん、最近越して来たって聞いたから、どんな子かちょっと気になっただけ。そういう洞木さんこそ、よく鈴原君の方を見てるじゃない。」

 

 「ええっ!いやっ、そのっ、違うの綾波さん!あっあれは―」

 

 早口で言い訳を始める様子から、見事にカウンターは決まったようだ。

 

 「そういえば鈴原君、碇君と喧嘩したみたい。」

 

 「え゛っだ、大丈夫だったの!?」

 

 先日見かけた男子のやり取りを伝えたところ、先程まで真っ赤だった顔が一気に青ざめる。どちらが【大丈夫】だったかなど聞くまでもないだろう。

 

 「ええ、それが切っ掛けで仲良くなったみたい、漫画で読んだ通りね。」

 

 「意外、綾波さんも漫画とか読んだりするのね。」

 

 その後、ヒカリは話を誤魔化すように話題を変え、姉妹や自分の好きな少女漫画の話などで時間を潰した。

 

 余談であるが、レイが読んだことのある漫画はオペレーターの青葉シゲルが貸してくれた。

 気張った学生が学校の頂点を目指すものであったが、途中でリツコに没収された。

 

 

―――――

 

 

 「何よ、これー!」

 

 「カレーよ。」

 

 目の前に出された皿に盛り付けられた物体に、信じられないと悲鳴を上げるリツコに対し、レイの全快祝いと明日の零号機機動実験成功を祈る会と祝し、二人を呼びつけたミサトは悪びれもせずに皿の内容を答える。

 

 「相変わらず、インスタントな食事ねえ。これ、本当に食べられるのかしら。」

 

 ミサトの生活能力の低さを知っているリツコでさえ、目の前の物体に疑問を投げかける。カレーを名乗る皿からは異様な臭気が立ち込めていた。

 

 「お呼ばれされといて文句を言わない。さっ、レイも育ち盛りなんだしぃ、じゃんじゃんお代わりしてね。」

 

 もりもりとレイの目の前の皿にもカレー(仮称)を盛り付けるミサト。

 汚部屋に住むと人の感覚はここまでおかしくなるのかとミサトの狂った味覚と嗅覚にげんなりするリツコは、自分のポーチから携帯電話を取り出す。

 

 「リッちゃん、これは何。目がしぱしぱする。」

 

 「レイ、食べなくていいわよ。ここに来ることは分かっていたんだから、出前を取るわ。」

 

 「二人ともひっどぉーい。良いもんねぇ~だ。私一人で食べちゃうんだから。」

 

 出されたものに手を付けず出前を注文しはじめるリツコと、目を瞬かせるレイをよそにミサトは一人で宴会を始めるのであった。

 

 

――

 

 

 「あ、忘れるところだったわ!レイ、頼みがあるの。」

 

 

 食事会もひと段落付き、各々が落ち着いたところで思い出したようにリツコが懐から二枚のカードを取り出した。

 

 「何?」

 

 「あなたとシンジ君の更新カード。渡しそびれたままになってて、悪いんだけど、本部に行く前に彼のところへ届けてくれないかしら。」

 

 リツコから渡されたネルフのセキュリティカードを、レイは覗き込むように見つめる。

 

 「どーしちゃったのー?シンジ君の写真をじーっと見ちゃったりしてー。」

 

 からかうようにレイを茶化すミサトだが、昼間と同じような会話故にあまりレイに効いた様子は無く、昼間と同じように思ったことを口に出す。

 

 「同じEVAのパイロットなのに、碇君のことよく分からなくて…」

 

 そう、自分と同じパイロットでもあるのにほとんど接点のなかった事が不思議で仕方がなかった。一度話してみたいと思っていたレイは、渡りに船だとカードを受け取った。

 そんなレイの疑問に答えるようにリツコが口を開く。

 

 「いい子よ、すごく。碇司令に似てとても真っ直ぐで。」

 

 ゲンドウの話題となり顔を顰めるミサトをよそに、レイは疑問を投げ返す。

 

 「真っ直ぐって、何が?」

 

 

 

 「…生きることによ。」

 

  自分と母の関係とは違うと感じるリツコが返した返答は、どこかばつが悪そうだった。

 

 

――

 

 

 何事もなくカードを渡したレイに、僕もネルフに行くよとご機嫌なシンジが着いてきた。

 好都合であったため、本部へ向かう途中でシンジに問いかける。

 

 「碇君は恐くないの?またエヴァに乗るのが。」

 

 「どうして?」

 

 シンジは逆に綾波に問い直した。自分より長くここにいる綾波が、なぜそんなことを聞いてくるのかが逆に気になったのだ。

 

 「前の実戦で、大怪我したと聞いたから…平気なのかと思って。」

 

 レイは、自分と同じくエヴァの暴走に巻き込まれ、同じ経験をしたにもかかわらず、何故シンジはそんなにも笑顔でいられるのか疑問だった。

 そしてそんなレイの心中を知ってか知らずか、シンジはにこりと答えて見せた。

 

 「僕は父さんを信じてるから。それに自分のやるべき事を、ううん、責任を見つけたんだ。だから大丈夫。」

 

 リツコに聞いた通りの真っ直ぐな人柄に、レイは少しでもリツコや他のスタッフを疑った事に顔を伏せた。

 

 「零号機の再起動、今度は上手く行くといいね。」

 

 「…うん。」

 

 義姉の、リツコの仕事を今度こそ信じようと、レイは機動実験に向かった。

 

 

――

 

 

 『再計算、誤差修正無し。』

 

 『零号機、起動しました。』

 

 何とか再起動が出来た事に、レイも、そしてスタッフやリツコも胸をなでおろす。

 

 『レイ、お疲れさま。上がっていいわよ。』

 

 スピーカーから聞こえる実験成功の声にどっと疲れが出てきた。しかし悪い気はしなかった。

 

 そんな安堵の空気の中、大音量の警報が一気に意識を警戒へと引き込んだ。

 

 

――

 

 

 「目標は、塔の沢上空を通過。」

 

 「エヴァの出撃要請が来ています。」

 

 モニターに映る無機質な正多面体に汗を握るゲンドウ。純粋な火器出力ならば五本の指に入る厄介な使徒の出現に気が気ではなかった。

 なぜならば、前回はこの使徒の迎撃に兵装ビルの八割は蒸発させられ、外すことは許されない一撃必殺の勝負を、あらゆる外部機関の反感を買いつつ行いながら辛勝という結果しか掴めなかった厄介な存在だからだ。

 そして何よりここで出撃したシンジが大怪我を負う。それを分かって黙って見ているなど、ゲンドウにはできない。

 

 「第四使徒戦闘時の例もある。まずは目標の出方をうかがうためにダミーバルーンを出せ。良いな。」

 

 勝率の低い決戦計画が再び始まろうとしていた。

 

 

 




Q.なぜ青葉シゲルに漫画を借りたのですか?

A.レイが中学に上がるときに中学生らしいことを聞いた相手が偶々オペレーターのシゲルだっただけです。

ちなみにシゲルは中学生らしいことと聞かれて少年誌を読むことだと考えましたが、レイとリツコには曲解されています。
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