ゲンドウ、再び   作:被検体E-1n

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目覚めと再会

 水底から湧いた気泡が水面で弾けるように、ゲンドウは唐突に目が覚めた。

 

 ここは何処だろうか。未だに意識が混濁していて状況が掴めない。

 周囲を見渡して見ると、かつて自分が住んでいた部屋によく似ている。

 

「これが走馬灯というものか?いや、それにしては思考が明瞭としすぎている」

 そもそもこれが走馬灯ならどうして幼少のころでなく、突然この部屋なのだろうか。

 とりあえず意識をはっきりさせるために洗面所へと顔を洗いに行く。

 

「これが…俺か?」

 冷水で顔を流し、ようやくはっきりしてきた意識で見た自身の姿は、まだ三十代の頃のものであり、かつて伸ばしては放っておいた髭もしっかりと剃られていた。

 

 そんな自分を確認していると突然自分を呼ぶ声がした。

「あなた~どうかしたの、目が覚めたのなら早くきて」

 

 聞き違えるはずは無い。しかし、あり得ないはずの人物の声だった。

 すぐにでも声の主を確認したかった。しかし、足が動かない。もしこれが夢だとしたら、そう思うとずっとこのまま確認せずにいたかった。

 

「もう、どうしたんですか」

 いつの間にか彼女が目の前にいた。その手には幼い赤子を抱いている。

「休日だからってお昼まで寝ているなんて、ゲンドウさんらしくないですよ」

 

 信じられない。その思いが口から言葉となり出てしまった。

 

「ユイ…なのか?」

 彼女の手の中にいるのはシンジだろうか、あまりにも突然の事態に再び混乱しはじめるゲンドウ。

 

 おかしい、自分はサードインパクトの中で自身を消し去ったはずだ。ではなぜここにいる、ユイが生きている、シンジは赤子のままなのだ。やはりこれは夢なのか?

 

「まだ夢をみているの?しっかりしてください。もう一児の親なんですから。

 あっ、お昼、すぐに温めますからシンジを抱いててください」

 そう言うとユイはシンジを渡して台所へ向かってしまった。

 

「夢、じゃあない…」

 実感がない。まるで過去に戻ってきたみたいだ。それともこれまでの事がすべて夢だった?いや、夢にしては余りにも正確に物事を思い出せる。

 であれば…

 

「サードインパクト…か」

 それしか可能性は考えられない。自身の手の中で眠る子供、シンジの体重が今はとても重く感じた。

 

 思い起こすのはサードインパクトの最期に自身の不甲斐なさを吐露する情けない自分の姿。世界が、他者が、シンジが、怖かった。守れなかったユイのことを責められそうで、彼女にとてもよく似ていて、自分の見たくない部分にもよく似ていて、息子にさえ拒絶されるのが恐ろしくて遠ざけた。そうやって自分に蓋をした。

 

「もしかしたらこれは、罰なのかもしれないな…」

 

 神にさえ逆らおうとした自分が、再び大事なものを奪われる様を見続ける罰だ。

 

 恐らく今の自分はまだゲヒルンの研究者でしかない時期のはずだ。このままいけば再びサードインパクトは起こってしまう。では自分にそれを止めることは出来るだろうか。いや、不可能だ。老人達(ゼーレ)に気づかれた時点で消される。ならば…

 

「ならばせめて、事が起こるまではお前たちと幸せでありたい」

 ゲンドウは手の中で眠るシンジを起こさないようにリビングへと向かった。

 

――

 

「ほらほら、冷めないうちに食べちゃって」

 テーブルには既に温められた食事が並べられていた。

 

「昨日の残り物だけどまだ美味しいわよ。そろそろシンジも離乳食にした方がいいのかしら」

 

「ああ…そうだな」

 

「もう!あなたも真剣に考えてください」

 

 何でもない会話が続いた。しかし、ゲンドウは今までにないほど幸福であった。

 例え時間制限のある幸せだとしても、今はこのままでありたい。そう思えるほどに。

 

 ほんの少し、しかし確実にゲンドウは変わっていた。

 それはサードインパクトで一瞬でも他者と繋がれたからかもしれない、自身の弱さと向き合えたからかもしれない。それはほんの少し、しかし良い方向へと彼を導いていた。

 

 ゲンドウはこの状況を罰と例えた。しかし、見方を変えれば、最後に謝罪することの出来たかつての息子からの、最後の贈り物だったのかもしれない。

 今やだれも真実を知ることは無い。ただ一つ分かっていることは、今の彼はネルフの司令碇ゲンドウではなく、ユイの夫でありシンジの父親である碇ゲンドウである。

 

 

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