ゲンドウ、再び   作:被検体E-1n

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日々を進む

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 前作戦の終了からちょうど一週間。戦後処理や、今回行われた特殊な作戦形態の事後処理に追われるネルフとは違い、戦闘の当事者であるチルドレンたちには僅かながら休暇が与えられていた。

 とはいえ学生である彼らの学業に対してではなく、増えた仕事で首が回らなくなったネルフの、エヴァとのシンクロテストが免除されただけとも言える。

 

 「時間取らせてすまんのぉ。ほな行くでシンジ。」

 

 「いいよ、今回は僕が頼んだんだし。」

 

 放課後の予定が空いたシンジは、友人となったトウジと共に歩き出す。そのシンジの手には小ぶりな花束が握られていた。

 今回の戦いの後、生きていることに、周囲に対してより強い感謝を身に覚えたシンジは、自身の未熟さゆえに傷つけてしまったトウジの妹の見舞いを彼に持ちかけた。初めは複雑な表情をしたトウジだったが、シンジの説得に負けて妹の病院へと彼と共に向かう運びとなった。

 

 「妹の見舞いに来た鈴原です、308号室の鈴原サクラの容体はどうですか?」

 

 「あっ、サクラちゃんのお兄さんですね。只今確認を取りますので少々お待ちください。」

 

 病院に着き、受付の職員とやり取りするトウジは手慣れたように待合室の席へと向かった。

 

 「面会には少しかかるからな、まあここ座って待とうやシンジ。」

 

 「あっうん。―それにしても結構大きい病院なんだね。」

 

 周囲を見渡せば学校の体育館よりも広い待合室に、広大な多目的スペースや他の患者達が心を休められるであろう庭園など、第三新東京の中でもかなり大きい部類の建物だという事が良く分かる。

 

 「まあ一応オトンがネルフ関係者やからな、かなり気を利かせて貰ったみたいやわ。それにシンジの親父さんのおかげで随分良い治療受けさせてもらってるみたいやからな。ほんま助かっとるで。」

 

 「えっ!?父さんが?なんで?」

 

 自分の父親の話題が突然出てきたことに困惑するが一向に答えが導き出せず、頭上に疑問符が浮かぶ。そんなシンジの様子になるほどと、合点がいったトウジが説明を始める。

 

 「前にワシとケンスケがエヴァに乗り込んだ事故があったやろ―」

 

 「あれは事故と言うかミサトさんの判断と言うか…」

 

 「―せや。その時にな、ワシとケンスケがネルフに呼び出されてな、ホンマ金玉縮みあがったで。なんせお前が戦ってる所邪魔して、しかもワシがシンジ殴った事もバレててな。あの時は流石に死ぬ思うたわ。」

 

 そういえばそんな事もあったなと、ここ数カ月でとてつもなく濃密な時間を過ごしているせいでたった数週間前の出来事さえ随分と昔の事のように感じてしまう。

 

 「ほんでもってネルフの司令が殴ったシンジの親父さんや、もう終わりやーって思った時にな、なんとシンジの親父さんがワシらに頭下げてな、『シンジを戦場に立たせた責任は私にある。つまり君の妹が怪我負った責任も私にある』って言うたんや。お陰でサクラもええ治療受けられとるし、ほんまにええ親父さんやな。うちの飲んだくれとは大違いやわ。」

 

 「…父さんが、そんな事を。」

 

 「ああ、ええ親父さんや―っと、シンジ面会許可おりたで。」

 

 館内放送で呼び出しがかかり、立ち上がるトウジ。遅れてシンジも立ち上がり、二人で病室へと向かう。

 

 

――――

 

 

 「―サクラ、入るで」

 

 ノックもせずにガラガラと扉を開けるトウジにシンジは少しばかりデリカシーのなさを感じるが、これが家族の距離感かと少し羨ましく感じ、しかし同時にトウジはいつでもこんな感じだったと思い直した。

 

 「なんや、おにいちゃ―えっと、そっちの人は誰?」

 

 困惑気味のトウジの妹、サクラを前に、トウジはしたり顔でシンジの紹介を始める。

 

 「おうサクラ、よくぞ聞いてくれた。こいつはワシの友達の碇シンジや。今日はシンジがどぉ~してもサクラの見舞いをした―」

 

 「しっ!信じられん!お兄ちゃんなんでもっと早く言ってくれなかったんやっ!。ウチいま超だらしない格好やないか。はぁーもう髪もぼさぼさやし、服はよれよれ、ほんまにもぉー。あほ!あほ!お兄ちゃんのどあほぉ~」

 

 「な、なんやとサクラ、アホは無いやろが。せっかく見舞いに来とるっちゅうのに。」

 

 「お兄ちゃんはいつも来とるからええやないか。」

 

 シンジの名前を聞いた途端にあたふたと自分の身だしなみに気を付け始めるサクラだったが、時すでに遅しと悟り、トウジに対する罵詈雑言を吐きながら布団に包まってしまった。

 

 「…あの、サクラちゃん。僕が誰か知ってる?」

 

 おずおずと尋ねるシンジに布団から頭を半分だけ覗かせたサクラが答える。

 

 「…お兄ちゃんには話よう聞いてます。ウチらを助けてくれたロボットのパイロットの碇さんですよね。」

 

 「ああ、うん。そうだね。それで間違ってないと思う。でも、僕が弱かったからサクラちゃんや他の人達に怪我をさせちゃったから、今日は無理言ってトウジに頼んで着いてきたんだ。ごめんね。」

 

 見た所かなり元気になり完解したようにも見える彼女だが、そんな姿を見てしまうとやはりこの子を守ったという実感はあまり湧かず、少し及び腰になってしまうシンジ。しかしそんなシンジの様子を、自分の態度が失礼だったからだと勘違いしたサクラは、布団をまくりその姿を見せる。

 

 「いえ、そんな碇さんが謝る必要なんて無いんです。事前に連絡をくれないお兄ちゃんが全部悪いんですから。―」

 

 両手を目の前でぶんぶんと振りつつ在りもしない誤解を解こうとするサクラの視線がシンジの手元で止まる。

 

 「―ん?ああ、これはお見舞いに―」

 

 「碇さん、怪我してはるやないですか!やっぱり危ない戦いをウチらのためにしてくれはるから…」

 

 シンジの手に巻かれた包帯を見つめ心配そうに声をあげるサクラだが、当のシンジは自分の怪我にはあまり頓着をしていなかった。

 

 「気にしなくていいよ。僕の怪我は仕方ないし、それにネルフで治療を受けられるからもうほとんど治ってるよ。

 それよりもはい、サクラちゃんにもお見舞い。」

 

 そう言って花束を手渡すと、サクラは嬉しそうに受け取った。

 

 「あっ!ありがとうございます!大切にします。あっあと応援してます。碇さんはウチ…ぅらのヒーローなんです。

 あぁ、でも碇さん、無茶だけはせんといてくださいよ。ウチ、それだけが心配なんです」

 

 包帯越しにシンジの手を握り、サクラはこれまでの感謝の念をシンジに伝えた。

 

 「あはは、ありがとう。頑張るよ」

 

 『ヒーロー』と、シンジにとって実感のない言葉だったが、自分が世間の人からどういった姿で見られているのか、その一端を受け止めたシンジは、少なくとも彼女達にとっての『ヒーロー』であろうと、彼女の掌を優しく握り返した。

 

 その後も三人で会話をし、つつがなく面会は終わった。

 

 

――――

 

 

 「トウジ、今日はありがとう。」

 

 「気にせんでええ。サクラもシンジに会ってあんなにはしゃぐとは思わんかったが、日に日に元気になっとるみたいやさかい。親父さんとシンジに感謝したいのはワシや。」

 

 「ううん、でもやっぱり父さんだけに責任を負わせたくない。あの時エヴァに乗ったのは僕の意志だから、僕は僕の責任を守りたい。そう思えたから良いんだ。」

 

 夕暮れの道を二人で歩き、今日を振り返る。今までの自分が行ってきたことは、少なくとも間違っていなかったと、シンジはそう感じられた。しかし隣で歩くトウジは少しうつむき、足を止めて神妙な顔でシンジに向き合った。

 

 「シンジ、最後にサクラが頑張れって言うたけどな、ほんまはワシはシンジにも傷ついて欲しくないんや。せやけど、ワシら、助けてもらってる身やからなにもいわれへん。エヴァの中で苦しんでるシンジの姿、見てるからなあ。だから碇のこと、ゴチャゴチャ抜かすやつが居ってみい!わしがパチキかましたる!だから辛かったら、ワシに出来る事なら何でも言うてくれ。」

 

 「トウジ――なんか変だよ。」

 

 「う、うるさいわい!」

 

  いつもとはうって変わって真面目なトウジの態度に何だか調子が狂う。しかし、この掛け替えのない友人を、友人達を大切にしようと心に誓った。

 

 「あははっ、でもありがとう。」

 

 

――――

 

 

 「碇よ、第六の使徒殲滅ご苦労であった。」

 

  暗く何もないがらんとした空間に浮かび上がるモノリス。ゲンドウは、ゼーレの会合にて、円を描くようにして並んだモノリスに囲まれていた。

 

 「しかし外部組織に隙を見せかねないやり口は感心しないな。君らしくもない。」

 

 「左様、これはエヴァの絶対性を揺るがしかねないやり口だ。下手を打って計画が破綻する事だけは避けなければなるまい。」

 

 右から左からと毎度のように繰り出される小言にももう慣れた。後はあらかじめ決めておいた弁明を述べるだけだ。

 

 「ご心配なく、今回の事があり、戦略自衛隊や他の組織においてのエヴァの評価は逆に上昇しています。他の兵器での代用は不可能だという証明も同時に行えました。彼らにはいい薬になったでしょう。」

 

 「フン、だと良いがな。」

 

 「よい。碇よ、くれぐれも間違いのない組織運営を行え。そして今回の議題はこの事についてではない。」

 

 モノリスに刻まれた番号01のキールが場を整え、この場を本来の議題へと戻す。

 

 「碇に任せたエヴァの運用は問題なく進んでいる。エヴァの建造も予定通り四号機まで差し掛かっている。しかし、肝心の補完計画の要が未だに見つからん。」

 

 そうしたキールの言葉に追従するように周囲のモノリスたちも声を挙げる。

 

 「我々も南極海を中心に調査を行っているが、一向に見つかる気配が無い。」

 

 「もう第三者の手に渡っている可能性は?」

 

 「まさか、あり得んよ。下部組織には我々の手の上に居る事さえ知らぬ連中も多い。情報が止まるはずもない。」

 

 「そうだ、何処かに必ず在るはずなのだ。約束の日までに必ず見つけ出さねばならん。」

 

 「碇、お前も何か情報を掴み次第通達を怠るなよ。」

 

 そう言うと幾ばくかの情報共有を行った後に議会は解散となった。

 

 部屋には明かりが戻り、いつの間にかゲンドウの隣には冬月が立っていた。

 

 「ゼーレ共も焦りを隠しきれていないな。」

 

 「14年探して見つからんのだ、焦りもするだろう。」

 

 そう、彼らは未だに補完計画の要となるパーツを集めきれていないのだ。

 

 「私としては永遠に見つからん事を祈るよ、『アダムの胎核』など。」

 

 「ああ、ロンギヌスの槍だけでは契約は果たせん。発見されない限り奴らも補完の強行は不可能だ。そのまま寿命を迎えてほしいものだな。」

 

 彼らが見つけられずにいる『アダムの胎核』、それはかつてセカンドインパクトの爆心地にて卵にまで還元しようと失敗し、しかし胎児サイズまでは縮小に成功したはずの、かつての世界でゲンドウの右手に宿ったアダムの本体である。だが、何故かこちらの世界では一向に見つからず、想定していた事態より、余裕をもってゼーレへの対策を講じる事の出来る時間稼ぎとなっていた。

 

 「だが結局使徒は現れ続けている。つまりあちら側のガフの部屋が未だに存在する証拠であり、アダムの生存が続いてるという事実に繋がる。安心はしていられんだろう。」

 

 

 司令部の二人には、連日の処理と今後の対策で疲れ切った表情が浮かんでいるが、それでもまだ時間が足りないとばかりに考えを巡らせる。

 

 「まあいいだろう、暫くは使徒殲滅に注力していても老人共の動きに変化はない。もうすぐ弐号機も到着する予定だ。対使徒迎撃にも余裕が生まれるだろう。」

 

 「だと良いんだがな。」

 

 山積みとなった問題の取捨選択を行い、執務室の時間は過ぎていく。

 

 

――――

 

 

 「そんなに身を乗り出すと危ないぞ。」

 

 海に向かって反り立つような鉄板と、その縁に立てつけられている手すりから身を乗り出す少女に声がかかる。

 ここは海上、その上を悠然と突き進む国連最大の艦隊、オーバーザレインボウの甲板上である。

 

 「大丈夫だって加持さん。それにしたって第六の使徒にも間に合わないなんて、何たる不幸。

 アタシという天才をのけ者にして勝手に活躍するファーストとサードは覚悟してなさい。このアスカ様が本物のエヴァパイロットと言うものを見せつけてあげるわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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