「本日午前10時58分15秒、2体に分離した目標甲の攻撃を受けた初号機は、駿河湾沖合い2キロの海上に水没。同20秒、弐号機は目標乙の攻撃により活動停止。」
薄暗い
「この状況に対するE計画責任者のコメント。」
「無様ね。」
狭い室内に責任者であるナオコの言葉が冷たく響く。
集められた準幹部級の職員や、現最高責任者である冬月達は作戦の報告に頭を抱え、映し出された二機のエヴァが晒す醜態にため息をついた。そんな大人達の様子が我慢ならなかったのであろう弐号機パイロットのアスカは、その肩をわなわなと震わせて乱暴に立ちあがった。
「もぉ、あんたのせいでせっかくの本部デビュー戦が目茶目茶になっちゃったじゃない!」
怒りの対象は、数時間前まで作戦行動を共にした初号機パイロット、碇シンジである。しかし、シンジとてただ黙ってそんな罵倒を受け入れるわけではなく、同じように立ち上がるとアスカに食って掛かる。
「何言ってんだよ、惣流が間抜けなことしただけじゃないか!」
「まぬけぇ~!?どうしてグズのあんたがそんなこと言えるのよ、図々しいわねぇ!」
「何だよ!焦って倒そうとするから大変なことになるんだろ!」
「何よあれ、海の中でドザエモンみたいに!だっさぁ。」
「ー午前11時3分をもって、NERVは作戦の遂行を断念、国連第2方面軍に指揮権を譲渡。」
パイロット二名の言い合いを他所にオペレーターは淡々と事実の報告をおこなっていた。
「まったく恥をかかせおって。」
会議室内でも最も高い位置に座る冬月は、こめかみに指を当てながら、今まさに眼下で繰り広げられる幼稚な諍いに頭を抱えたくなる。これが世界を背負うパイロットの姿なのかと、この場にゲンドウが居れば少なくともシンジだけでもおとなしくしていたのではと考え、耳に入ってきた情報にため息を吐く。
「同05分、N2爆雷により目標を攻撃、構成物質の28%を焼却に成功。」
「また地図を書き直さなきゃならんな。」
作戦は失敗し、現状は停止した使徒との膠着状態が続いていた。
ここまで使徒との戦闘では快勝を続けてきていたネルフは、追加で着任した弐号機もあり、このまま順調に作戦行動が進められると考えていた。しかし現状は最悪の一歩手前。敗北とまではいかないが、これまで単体で攻めてきた使徒とは違い、分裂する使徒の見事なまでの連携によって翻弄されているのであった。
「ま、建て直しの時間が稼げただけでも、儲けもんっすよ。」
作戦報告に同席していた加持の発言に職員一同は気を引き締め直し、いつの間にか言い合いを終えていたパイロット二名は、次の作戦を意識してか再びにらみ合いを始める。
そんな状態を見かねた冬月は、目下で今にも掴みかからんとするアスカとシンジに言葉を飛ばす。
「いいか君たち、君たちの仕事は何だか分かるか!?」
流石の両名も、最高責任者から叱責を貰えばその場で立ち止まり受け取った言葉に返答を考える。
先に口を開いたのはアスカだった。
「EVAの操縦。」
アスカの口から飛び出した言葉に、一瞬眉を震わせた冬月であったが、遂に口からは普段の温厚さからは考えられない声量の言葉を吐く。
「違う!使徒に勝つことだ!このような醜態をさらすために我々NERVは存在しているわけではない!そのためには君たちが協力し合って…」
「「なんでこんな奴と!」」
そんなパイロット同士の協力を求める声も、一瞬にして鏡合わせのように指を差し合う二人によって否定された。
次第に険悪な雰囲気を広げつつある会議室内に、その他の職員達は冷汗を流し始める。もし次に冬月の口が開かれたときは、叱責の方向が自分達にも向かうのではないかと。そして冬月は、互いに指を差し合うパイロット達を見回すと大きく息を吸い込みー
「ー…ハァ、協調性の低さは親譲りか…。」
ーため息をつくと、先ほどまでの怒気は一気に萎み、とぼとぼと冬月は会議室を後にした。
副司令が抜けたことで報告会は一応の形で終わりを告げ、室内に蛍光灯の明かりが落ちる。その他のスタッフ達も資料をまとめ、各自の持ち場に戻る準備を始めた。
そんな中でも先ほどのやり取りに納得がいかないアスカは、不満げな声を上げる。
「どうしてみんなすぐに怒るの?」
「大人は恥をかきたくないのさ。」
腕を組みつつ不満気なアスカをたしなめるように、加持が言葉を続ける。
周囲の慌ただしく動き回るスタッフとは対照的に加持はどこかのほほんとした雰囲気をもち、その独特な空気に当てられたシンジはなんとなくこの場に居ない人物について尋ねる。
「そういえば、ミサトさんは?今回の作戦責任者って確かミサトさんですよね?」
思い返した疑問を反芻するようにシンジは周囲を見渡す。先ほどの作戦報告会議にも顔を出していないようであったが、一体彼女はどこにいるのかと。
その疑問に対して加持は生暖かい笑みを浮かべ、明後日の方向へ目線を飛ばし答えた。
「後片付け。責任者は責任取るためにいるからな。」
––––––––
数時間後、呼び出されたチルドレンの前に立つミサトは見違えるほどやつれていた。
「…苦情…責任…対応…減給の可能性…ローン…。」
半開きになった口からぶつぶつと何かをつぶやくミサトに並ぶリツコが蹴りを入れる。
「各省への通達は終わったし国と直接対応するのは副司令でしょう。作戦は未だに継続中なんだからしっかりなさい!」
そうして衝撃により意識を取り戻したミサトは、新たな作戦を通達するために再び召集をかけたチルドレンに説明を始める。
「…ゴホン、先の戦闘から分かるように今回の使徒は分離、及び融合による連携攻撃をすることが確認されているわ。よってチルドレン二名による同時連携攻撃をコアに叩き込む作戦、『ユニゾン作戦』を決行します。質問があるなら聞くわ。」
そう言い先ほどの姿から仕事をする姿に切り替わったミサトに対し、アスカからの質問が早速述べられる。
「なんで分裂すること前提なのよ?アタシ一人ならでかい状態のコアを攻撃して終わりよ。今度こそ失敗しないわ!」
横目でシンジを威嚇しつつ一人でも作戦遂行可能だと言い張るアスカに、今度はモニターに数枚の画像と分析結果を表示したリツコが返答する。
「見なさいアスカ、前回の戦闘ではあなたに切断された外傷部から分裂したように見えるけど、MAGIによる分析の結果それが否定されたわ。もちろん外傷からでも分裂可能なのでしょうけど、あなた一人による攻撃でたとえコアまで至っても、この使徒の場合はコアの無事な部分ごと分裂可能よ。だからこそのユニゾン攻撃なのよ。」
「そんなの、分裂した二体を同時に撃破すればいいじゃない!」
尚も食い下がろうとするアスカに対してミサトはこめかみを押さえながらいい含む。
「確かにそれが出来る状態ならその攻撃方法でも構わないわ。でもそれは目の前で分離された場合のみ有効なのよ。こちらから接触する前に分離されて距離を取られては意味がないの。あなたは一人で勝利することに拘りすぎて視野が狭くなっているわよ。」
ミサトの言葉に少なからず納得を見せたのか、アスカはぐっと歯を噛み締めると腕を組んで外方を向いてしまった。
「あの、僕も質問いいですか?」
そんな様子を横目におずおずと手を挙げたシンジにミサトは肯定の言葉を返す。
「ええ、良いわよ。」
「えと、何で同時攻撃なんですか?」
シンジの質問の何かが気に食わなかったのだろうか、その発言にアスカが吠える。
「アンタさっきの戦いで何も見てなかったの?アタシらが別々に攻撃しても何も効果なく再生したでしょうが!しかもお互いにコアにまで攻撃が届いてたのにコアすら再生してたのよ?だからあいつらは二体で一体、一体で二体のリンク状態なのよ。つまり分裂前に正面突破するか、分裂した状態で同時にコアを攻撃する必要があんのよ!」
「うぉ…、成る程。」
その剣幕にたじろぎつつも意外と冷静な分析にシンジは納得を示す。
「そうね、概ねアスカの説で正しいわ。だからこそこちらも呼吸を合わせた連携が必要なのよ。他には何かある?」
先ほどのやり取りを肯定しつつチルドレンを見回すミサト。雰囲気の悪化したシンジとアスカを他所にレイからも手が挙がる。
「葛城一尉、私は出撃しますか?」
「いえ、零号機はまだ修理中よ。ただ一応、もしシンジくんに何かあった時はレイに初号機に乗ってもらうから、そこはヨロシクね。」
「わかりました。」
そうしてレイの質問を終えるとミサトは手を叩き作戦開始の言葉を告げる。
「さっ、分かったなら作戦開始よ!まずは移動するから二人とも付いてきなさい。」
「移動するって言ったってどこに?」
シンジ達からの疑問にニコリと笑顔を見せたミサトは答えた。
「わ・た・し・ん・家♡」
––––––––
「
ミサトの家に着いてからの第一声だった。誰が口に出したかはもはや関係なく、この場に来た全員が思った事の代弁であった。
家に着いて直ぐにリツコはレイの肩に手を回し180度回転して来た道を戻りだした。
「私は本部でやる事があるから戻るわ。レイも訓練が必要になったら呼びなさい。あと、この前来た時より散らかってるわよ、ちゃんと掃除なさい。それじゃ。」
あまりにも清々しい裏切りに誰も何も言い出せなかった。連れられていくレイもまた、頭に疑問符を浮かべながらもそのまま連れられて帰ってしまった。
「ひっどいわねリツコったら。ま、ちょぉ〜っち散らかっているのは確かだけど。気にせず二人とも上がりなさい。」
ミサトの部屋でシンジと六日間過ごすと初めに聞いた時は大反対したアスカだが、どうもそれどころではなさそうだという事は肌で感じ取った。
同じくシンジもミサトの監督下だからこその共同生活だと覚悟を決めてきたはずだが、違う覚悟をこの場でさせられた。
そんなミサトの様子に、玄関ですらこの惨状を作り出している元凶に、アスカとシンジは互いに見つめ合い、同時に大きなため息を吐いた。
「あら、早速二人とも息が合ってるじゃない、その調子よん!」
チルドレン二名の心中を知らずに吐かれた言葉に、シンジ、アスカ共に動きを同じくして指をミサトに突きつける。
「「そんな事より!まず掃除!」」
––––––––
「お届けものだぞー、…葛城?」
ダンボールをいくつか抱えた加持がミサトの家の玄関をくぐったが、返事は返ってこず、部屋の奥からは謎の声が聞こえてきた。心配になった加持は荷物を置き部屋へと上がる。
かつて加持が付き合っていた頃とは随分ミサトも変わったとは思っていたが、それでもあまり変わらない雰囲気の部屋に懐かしさと、私生活を含めるとチルドレンの監督役には向いてないのではないかと一抹の不安がよぎる。最悪の場合十四歳の子供二名に飲酒をさせてしまっているのではないかと。かくして目に入ったものは−
「おねがい〜!それも捨てないでぇ!」
シンジの足に縋りつき、アスカに抑えられているミサトの姿であった。
「サード!こんな命乞い(?)気にせずさっさとそのばっちい塊をゴミ袋に纏めなさい!」
「わかった!」
訓練用の道具を持ってきた加持の頭上にはいくつもの疑問符が浮かび上がるが、内容はおおよそ理解する事ができた。そしてそんな様子のミサトを観察していると、部屋にいる者たちも加持の存在に気がつき声を掛けてくる。
「か、加持くん!お願い、この二人の凶行を止めて!」
ミサトは助けを請い−
「「加持さん!ちょっとこの部屋の掃除を手伝って!」」
アスカとシンジは息ぴったりに加持へ援護を要請した。
両者の言葉を聞き届けた加持は分別されたゴミ袋の山を一瞥し、にこやかに口を開いた。
「
「なぁ〜にが順調よ!少しは元恋人を助けようとッ…わぁぁ!ギブギブ!、アスカ絞まるッ!」
「加持さん、応援ありがとっ!」
笑顔のままミサトを締め上げるアスカに若干引きつつ加持はシンジの方へと助けに向かった。
足元のフローリングを見るに何かが染み込んだ跡や、重いものを引きずったキズ、へこみなど、この部屋の現状よりも悍ましかった状態が理解できてしまう。そしてこの状態も部屋に積まれたゴミ袋の山を一掃すればひと段落つくことは想像に難くない。
チルドレン二名による汚部屋の主との戦闘は難航を極めただろうに、ここまで綺麗になったのならその苦労を労ってやるのが大人の務めだろうと加持は目尻に涙を浮かべた。
「すまないねシンジくん。学生時代はこいつの部屋の掃除は俺がしてたんだ。ここにあるゴミ袋は捨ててくるから、君たちは特訓を始めるといい。道具類と説明書は玄関のダンボールに入ってるからな。」
「ありがとうございます加持さん。」
加持に礼を言いつつも、シンジの目はどこか遠くを見つめていた。
−分かるよシンジくん、立派だと思っていた人の思わぬだらし無さを見て落胆したんだろう。でも、人間誰しもそんな一面を持っているものさ。きっと君のお父さんもね。−
そう思いつつも口には出さず、加持は黙ってゴミ袋を纏め始めた。背後から聞こえる裏切り者との叫び声には一切耳を貸すことは無かった。
お久しぶりです。投稿が滞ってしまい申し訳有りません。言い訳をさせていただくと、私生活に大きな変化がありましてそのごたごたに追われていました。小説のことを忘れたことは一度もありません。
一応この作品は今年中に決着を付けたいと思っている所存ですので、優しい読者の皆さんは応援をお願いします。厳しい読者の皆さんも応援をお願いします。感想などがいただけると作者の筆が加速するので何卒よろしくお願いいたします。
とりあえずイスラフェル戦の後編は一週間以内に投稿します。
今まで感想を頂けた方々、誤字脱字に修正をしてくれた方々、ブックマークをくれた方々、その他多くの方々にこの作品は支えられています。よろしければ最後までお付き合いいただければと思っています。
年をまたいでお待たせしてしまい本当にすみませんでした。