とある欲望の幻想破壊《イマジンブレイカー》   作:歌音

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第三章・第2話/吸血殺し

 

 

 

その部屋には窓がない。ドアもなく、階段もなく、エレベーターも通路もない。

 

建物としてまったく機能するはずのないビルは、大能力者(レベル4)である空間移動(テレポート)がなければ出入りする事もできない最硬の要塞だった。

 

そんな、核シェルターを優に追い越す強度を誇る演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)のビルの中で二人の人物が話していた。

 

「君の情報網には恐れ入るよ、我が友よ」

 

この部屋の主であるアレイスターは巨大ビーカーの中で目の前のケーキを切り分けている壮年の男性…鴻上光生をみる。

 

「なあに、私の『欲望』も大きくてね。いろんな事が知りたいのだよ」

 

鴻上は笑顔でアレイスターに答える。機密事項の一つをこの鴻上という男は簡単に調べ、それを隠す事無くアレイスターを尋ねてくる。

 

彼らは等しく『対当』だった。

 

もちろんアレイスターにとって鴻上を殺す事自体は簡単だ。問題は…その後である。

 

鴻上光世…彼は自分が不当に死んだ場合、彼が関わる全ての経済活動が混乱し、ストップする。

 

そうなるように、鴻上は仕組んでいる。

 

もちろんそれは一時的な事だ。

 

すぐに鴻上ファウンデーションやそれに契約する他の企業が立て直しに入る。

 

しかし、『学園都市』の運営が立ち直れるかは…壊滅的で絶望的だ。

 

彼は…『科学』でも『魔術』でもなく、『経済』でそれらを握っている。

 

彼の一声で局地的な大恐慌を起こす事だって可能だ。

 

しかし、この二人が争う事は…存外にない。

 

なぜなら彼らは…

 

「まあいい。それにしても話すのは久しぶりだ。元気だったか」

 

「ははっ!まあね。君はいつまでたっても若い!うらやましいよ!」

 

気の合う話し友達だからだった。

 

世界のバランスは、案外こんな所で救われていた。

 

「しかし、吸血殺し(ディープブラッド)…『彼』で大丈夫なのかね?」

 

「魔術師として彼は極めて優秀だ。魔術師を殺す為に魔術を極めている」

 

「それだよ!」

 

鴻上の言葉にアレイスターは首をかしげる。

 

「なにがだい?」

 

「彼はまだまだ子供だ!これが正しいと思ったら間違っていても正しいと思って行動する…素晴らしい!それこそが欲望!」

 

「…では、いいじゃないか?」

 

「しかし…彼では私の欲望の一つを邪魔する可能性がある。それが実に心配だ」

 

「それで、君は『欲望王』を進めたのかい?」

 

「そう、彼ならば何とかしてくれる!」

 

鴻上はニヤリと笑って、

 

「なんといっても、彼は欲が深いからね…それは誰よりも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻は危機に瀕していた。

 

「スフィンクスを離すんだよシェイクドロボー!そんな乱暴な掴み方しちゃダメなんだよ!」

 

「やかましい!あのカザリの奴にはイライラしてたところだ!こいつで鬱憤を晴らす!」

 

「アンク!さすがにそれはまずい!」

 

インデックスが拾い、すでにスフィンクスとまで名をつけられた純日本産の三毛猫をアンクが虐待しようとしており、当麻が二人を止めようとしていた。

 

「ちぇりゃあ!」

 

「ちぃっ!」

 

アンクからスフィンクスを奪い返すインデックス。

 

「スフィンクスは私が護るんだよー!」

 

走り逃げるインデックス。

 

「こらぁ!うちでネコは飼っちゃダメだ!あんな高そうな家具で爪を砥がれたらぁぁぁあ!」

 

当麻の声も虚しく、インデックスは姿を消した。

 

その様子をアンクは呆れたようにファーストフード店を出る前に再度購入したシェイクを飲みながら、

 

「ふん…巧い事誤魔化したつもりか?あの小娘」

 

「へっ?」

 

「魔術を使った形跡を感じたんで、調べにいったんだろうよ。まったく…相変わらず人払いか?つくづく、こそこそしたがるのが好きなようだな、クソガキ」

 

 

 

 

「久しぶりだね、化物共」

 

 

 

 

 

アンクの言葉ともに表れたのは一人の赤髪の男だった。身長2メートルを超えているが、まだ少年のようだ。

 

(誰だ、コイツ?アンクは知ってみたいだけど…)

 

「ふん…久しぶりだというのに挨拶もなしか。うんうん、結構結構。やはり僕達の関係はこうあるべきだ、一度の共闘で日和ってはいけないからね。ああ、禁書目録(あのこ)なら気にするな。そこの化物のいうとおり、そこらに『人払い(Opila)』のルーンを刻んだからね、魔力の流れを射つけて調べに言っただけだろう」

 

「芝居は下手だったがな」

 

アンクは鼻で笑って、

 

「それに勘違いするな。挨拶をしないのは、貴様のような役立たずは存在すら忘れているだけだ。本当に役に立たない上にお株まで奪われたマヌケを覚えてる記憶のスペースなんてないんだろうよ」

 

「キサマ…!」

 

激昂する男。

 

(お、おいアンク。誰だよアレ)

 

(ん?ああ、アイツはそうだな。『この間』の関係者だ。まあ、お前の敵じゃない)

 

(『この間』…)

 

それは当麻にとって失くしたものだった。

 

(ルーンか…まあ、オーズに変身してるんだから知っててもおかしくないよな。どう見たって、コアメダルやセルメダルってオカルトだもんな…)

 

「ふん?」

 

赤髪の男はカードのようなモノを一枚取り出し、

 

「いちいち笑うな、ぶっ殺すぞ」

 

ゾグンッ!

 

当麻の中にある『記憶を失う前の』知識とオーズとしての戦闘経験が、体に電気を流すように危機感を訴えた。

 

当麻は考えるよりも先に右手を顔の前へ…

 

 

轟!

 

一瞬だった。

 

赤髪の男の手のひらから紅蓮に輝く炎剣が生まれ、一切の躊躇いと一片の容赦もなく、藤間の顔面へと炎剣を勢い良く振り下ろす。

 

炎剣は激突と同時に膨らみ、風船が破裂するように辺り一面へ炎を撒き散らした。

 

摂氏3000度の炎の地獄が渦を巻いて辺りを焼き尽くす。

 

「はぁ…ハァ…ッ!」

 

その炎を当麻は『幻想殺し』で防いだ。

 

『幻想殺し』…異能の力であれば、例え神の奇跡でも無効化し、絶望の怪物すらも滅殺する正体不明の異能力。

 

当麻は赤髪の男を睨み付ける。

 

「そうだよ、その顔だよ『魔王(オーズ)』!」

 

赤髪の男は凶悪に笑い、

 

魔王(オーズ)上条当麻とステイル=マグヌスとの関けボクギャッ!」

 

たぶんカッコいい台詞を言い終わる前に、アンクのロケットパンチが見事に顔面に決まった。

 

「いちいちスカしているな、ぶっ殺すぞ!」

 

激しい怒りに満ちたアンクの腕が体に戻って起き上がり、赤髪の男…ステイル=マグヌスに近づいて、

 

ガスッ!

 

「シェイクが溶けただろうが…!」

 

ステイルの頭をふんずけて、溶けたシェイクを飲み干すアンク。

 

結果的に…当麻は状況と情報を把握する時間を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?この『三沢塾』って場所を伝える為に、紙切れに大層なルーンを刻んだわけか?予備校に何があるんだか…まあ、結構な欲望が渦巻いているんだろうがな」

 

(ウヴァかカザリが稼げそうな場所だな…)

 

「で、どんなところなんだ?『みさわじゅく』って」

 

「一応、この国ではシェア1位を誇る進学校らしいけどね?」

 

ステイルが痛そうに鼻を擦る。

 

「こいつに聞いても無駄だ。知識欲ってのが大いに欠陥しているこの馬鹿が、大学受験なんぞ興味があるわけないだろう」

 

「アンク…お前どっちの味方だ。ていうか何で予備校なんて知ってんだよ」

 

「ツールパッドでそこのネット入学試験を受けてみた。もちろん…合格だ」

 

なんか悔しくなる当麻。

 

「おい、ここに何があるんだよ。お友達を紹介すると授業料でも負けてもらえんのか?」

 

 

 

「そこ、女の子が監禁されてるから。どうにか助け出すのが僕の役目なんだ」

 

 

 

当麻はそれを聞いてギョッとする。

 

「なるほどな…」

 

アンクは読み終えた資料をパンッと叩く。

 

「図面の見取り図と赤外線や超音波で使って図った実寸が食い違っている…隠し部屋があるな。ついでに電気機器と電気料金が合わない。なんだゴミまで調べてるのか。そして…おい、これならお前にもわかるだろう」

 

当麻はアンクに差し出された資料を見る。

 

それには今から一ヶ月前、一人の少女が『三沢塾』のビルに入って行く所を目撃した。学生寮の管理人からの話では彼女はそれから一度も部屋へ戻っていない。

 

「今の『三沢塾』は科学崇拝を軸にした新興宗教と化しているんだそうだ」

 

「科学崇拝?それってあれか?神様の正体はUFOに乗ってやってきた宇宙人とか、聖人のDNAを使ってクローンを作ろうとかっていう…?」

 

 

 

何気に言った事が数ヵ月後事実になり、それで悲しい思いをする事になる事を想像せずに当麻はステイルに聞く。

 

 

 

「教えについては不明だけどね。それに正直、『三沢塾』がどんなカルト宗教に変質していようが知ったことじゃないんだ。現在はもう潰れている。端的に言って…乗っ取られたのさ」

 

「なに?どういうことだ。ここを経営している会社の株は動いていないぞ」

 

『………』

 

当麻とステイルはこの古代生物がどこまで現在になじんでいるのかと思いながら、

 

「科学かぶれのインチキ宗教が、正真正銘、本物の魔術師…」

 

話を続ける事にした。

 

「いや、チューリッヒ学派の錬金術師にね」

 

当麻とアンクは目を見合わせる。

 

「本物に…?」

 

「錬金術師がねぇ」

 

「ふぅ、物分りが良いね。僕でも胡散臭い響きだと思うのに。こんな化け物と一緒にいるとコッチの方面も明るくなるのかい?」

 

「!?」

 

当麻はギョッとする。

 

どうやら今の会話は、自分の世界とはかけ離れた会話だったらしい。

 

(くそ…気づかれるなよ、気づかれるな…!)

 

アンクから聞いたがどうやら自分の立ち位置ではステイルの会話はまったく別の位置らしい。

 

しかし…

 

(こうもわからないもんなのか!?自分でもわからないものなのか!?)

 

「…っで、その乗っ取った奴の目的は?」

 

アンクは当麻を見ながらステイルにたずねる。

 

「一つは簡単だ、元々ある『三沢塾』って要塞(システム)をそのまま再利用したいと思ったんだろうね。生徒(しんじゃ)のほとんどは校長(きょうそ)の首がすげ変わってることにも気づいていないはずだよ」

 

ステイルは小さく息を吸って

 

「錬金術師のそもそもの目的は、『三沢塾』に捕らえられていた吸血殺し(ディープブラット)なんだ」

 

「ほぉ…」

 

アンクは感心する。

 

「珍しいが、あんな『蚊』どもにしか効果のないものを手に入れる為に大層なこった」

 

「!?まさか…本当に存在するのか!」

 

当麻を置いてけぼりに二人は会話する。

 

「なんだ、知らないのか?」

 

「おい、アンク。なんだそのでぃーぷなんとかって」

 

「ああ、『吸血鬼』を誘い寄せる餌だよ」

 

………

 

「…お前、さらっと物凄いこと言わなかったか?」

 

当麻は吸血鬼という単語を思い出す。ゲームや漫画に出てくる限りだと…

 

吸血鬼は十字架やお日様の光に弱い。

 

吸血鬼は胸に杭を打たれると死ぬ。

 

吸血鬼は死ぬと灰になる。

 

吸血鬼にか見つかれた人は吸血鬼になる。

 

「ああ、まあ気にするな。『俺達』にとっちゃあ、『蚊のような人間』だ。まあ、『お前達』にとっちゃあ絶望的な相手だろうがな」

 

(この古代生物は…!?)

 

ステイルはアンクを睨みつける。

 

(イギリス清教が持つ数少ない当時の記録でわかっている、『深緑(しんりょく)軍王(ぐんおう)・ウヴァ』、『深海(しんかい)女王(じょうおう)・メズール』…そして、最大主教(アークビショップ)が言っていた『赤炎(せきえん)空王(くうおう)・アンク』…!コイツを殺せるうちに殺しておきたいところだ!)

 

自分では相性が悪すぎる少年の姿をした化け物は

 

「吸血殺しは、吸血鬼にとって極上の血の持ち主だ。吸血鬼は吸血殺しがいるだけでホイホイよってくる。だが…吸血鬼は吸血殺しの血を吸うと灰になる。まさに欲望で身を滅ぼす事を体現しているな」

 

「ん、おかしくないか?なんでそんな物騒な奴ら呼び寄せるってことだろ?なんでその錬金術師…は、吸血殺しを?」

 

「未知の可能性があるからさ。上条当麻、君は『セフィロトの樹』という言葉には…覚えがあるはずないね」

 

「なめんなよ…」

 

当麻は不敵な笑みを浮かべて、

 

「アンク、いってやれ」

 

「はぁ…こんなのと組む羽目になった自分の不幸を嘆きたくなる」

 

アンクはかぶりを振り、気を取り直して、

 

「『セフィロトの樹』…神・天使・人間などの『魂の(レベル)』を記した身分階級表だ。人間の限界はここまでと断じられた神の傲慢な…なるほどな」

 

「察しが良いね」

 

気に食わない表情をするステイル。

 

「当麻。その錬金術師の目的がわかったぞ」

 

「本当か!?」

 

「あぁ…『欲望』だ」

 

アンクは嘲笑(あざわら)う。

 

「階級表が示している通り、人間には『絶対に辿り着けない高み』がある。だがな、人間の欲望は止まらん。欲望のまま、天使…神の領域に辿り着きたい…ならどうする。簡単だ、人間以上のモノの力を使えばいい。その通りだろ、魔術師?」

 

「事の真偽は関係なく、そこに僅かな可能性があるならば、それを試すのが学者という生き物だ」

 

「なるほど…上等な欲望だ。そして、だ」

 

アンクは少し視線を当麻達以外に向け、ニヤッと笑う。

 

「で、こいつが俺達にここまで話すのは、いい加減わかっただろ」

 

「まさか…付いて来いとか言うのか!?」

 

「当たり前だ」

 

ステイルは新しい煙草に火をつける。

 

「…だから突入前の打ち合わせ(ブリーフィング)をしたんだ」

 

「なんで俺達がそんな厄介事に関わらなきゃならないんだよ!」

 

「そうだな。普通ならば禁書目録(インデックス)を俺達から回収すると脅したい所だが、お株を奪われたコイツがあの聖人女もいないのにそんな事を強硬できるはずがない。俺と当麻(オーズ)じゃはっきり言って役不足だ。まあ…」

 

アンクは己の『腕』を見る。

 

「今ならお前らの組織が総当りしても、勝つ手段がある」

 

怪しく光る『緑のメダル』…

 

「ん…ちょっと待て。それがわかってるのに、なんでお前は俺達のとこに来たんだ?」

 

ステイルは当麻とアンクを睨みつけ、歯ぎしりをしながら、

 

「…君達にもメリットのある話だからだ」

 

「え?」

 

そう…ステイルはここに来る前に面会したアレイスターから得た魔王達に協力させる情報…!

 

「そこには…」

 

「ヤミーがいるな」

 

『!?』

 

「いい加減こそこそせずに出てきたらどうだ!『メズール』!」

 

突如!

 

バシャァァァァァァァァァンッ!

 

地面から!空から!大気から!大量の水が溢れ出す!

 

その水は宙を浮き渦巻きながら固まっていく。

 

「久しぶりねぇ、アンク」

 

パシャァァァァァァンッ!

 

幻想的な渦巻きが破裂し、現れた。

 

鯱の頭、影の体、蛸の足…

 

「800年の間に随分と可愛くなったわね。中身は…可愛げないけど」

 

グリードの1人、『深海の女王・メズール』が当麻達の前に姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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