魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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第27話 「力と考え」

 戦闘機人とガジェットによる地上本部の襲撃。時間にして10数分……そんなわずかな時間で管理局側は本部の機能を停止させられた。敵ながら見事とも言いたくなる手際の良さである。同時に敵が施設や警備の全てを知っていたのではないかとも思えるが。

 機動六課並びに六課メンバーにも被害は甚大。主力が出払っていた機動六課は壊滅し、重傷者が多数出ている。シャマルは比較的軽傷らしいが彼女を庇ったザフィーラとヴァイスは峠は越えているものの当分復帰は出来ないらしい。

 またヴィータの相棒であるアイゼンが破損。スバルのマッハキャリバーは大破してしまった。リインの方もヴィータを庇ったことで大きなダメージを受けたらしい。今夜中には目を覚ますだろうと報告は受けているが心配である。

 

「……だがそれ以上に」

 

 スターズ分隊の……正確に言えば、なのはやスバルが心配だ。

 スバルに関して言えば、目の前で姉であるギンガがさらわれ精神的にダメージを負っただけでなく体の方にも重傷と呼べる外傷を受けていた。彼女は身体的なダメージは普通の人間よりも治りやすいのだろうが、これまで周囲に隠していたであろう秘密が今回の一件で明るみになったことを考えると弱っている精神に追い打ちが掛かるのではないかと不安になる。

 ……意識ははっきりしているらしいし、面会も出来るらしいからスバルとはあとで話さないとな。俺は結果だけで言えば、助けられたであろうギンガを見捨てたのだから。

 なのはの方は今もいつもと変わらないように六課施設の現場検証を行っているらしい。これは病院に見舞いに来る隊員や実際に彼女に念話をして確かめたので間違いない。

 

「…………何がショウくんは怪我をしてるんだから休んでて、だ」

 

 確かに俺は左腕を骨折してしまった身ではあるが、折れてすぐに魔法による応急処置を行いそのあと病院で手当てもきちんと受けた。そのため骨は繋がっている。まあ激しく動かすと反動で折れてしまう可能性は残っているのだが。

 とはいえ、負傷したメンバーで言えば軽傷に入る。また利き腕が負傷したわけではないのだから出来る仕事はあるはずだ。今後六課の任務はレリックの捜索からスカリエッティ一味の追跡に切り替わるらしいので、戦力を整えるためにも負傷者は極力休ませようとするのは当然なのだが。

 でも……だからといって病院にじっとしてる気にはなれない。

 これまでの経験に基づく予想だが、なのはは今無理をして仕事をしている。不屈のエースオブエースと称される自分が……六課の隊長のひとりである自分が弱っている姿を見せるわけにはいかない。弱っている姿を見せると他の隊員の士気に関わる、などといった理由で。

 はやてやフェイトも今自分にやれることをやっている。なのはもなのはで今やらなければならないことをやっているだけ。管理局員としては正しいことなのだろう。

 だが……ひとりの人間として考えれば今のなのはがやっていることは自分をさらに追い込んでいるようなものだ。

 今回の一件でギンガと同様にヴィヴィオもさらわれてしまった。なのははヴィヴィオを実の娘のように思い始めていただけに精神的ダメージは六課メンバーの中で誰よりも受けているはずだ。なのはの性格を考えると早めに弱音を吐かせておかないと過去のあの出来事のようなことが起きかねない。

 

「……考えてばかりいても仕方がない」

 

 今は俺に出来ることをやろう。まずは……病院に居るんだからスバルと話しておくか。これに加えて、他の六課メンバーの様子を窺おう。それが一段落したらなのはのところに……。

 そう考えて壁に寄りかかるのをやめて歩き始める。が、すぐさま後ろから俺の名を呼ばれた。

 

「ショウ、こんなところでどうしたの?」

「フェイトか……仕事はするなって言われたからな。俺の治療自体は終わってるからみんなのところに顔を出そうとしてたところだ」

「そっか……ちゃんと今は休んでね」

 

 心配してくれるのは嬉しいが、微妙に俺が言っておかないと仕事をすると思われているように思える。あれこれ考えはするが、よほどのことがない限り念を押されなくても仕事をするつもりはないのだが。

 

「言われなくても分かってるさ」

「本当に?」

「今日はえらく疑うな。俺は仕事をしていないと落ち着かないような仕事中毒者じゃないんだが」

「それは分かってるけど……でも色々と今回のこと考えるよね? 何かに打ち込んでた方がそういうの考えないで済むから、いつもと違って仕事をするんじゃないかって心配にもなるよ。どことなく思い詰めてるような顔してるし……」

 

 フェイトの言葉に俺は反射的に自分の顔に触れる。感情を表に出しているつもりはなかったのだが、隠しきれていなかったのかもしれない。今はフェイトだけなので問題ないが、隊長という肩書きはないにしてもフェイト達隊長陣と同等に扱われる存在なだけに人前では気を付けておかなければ。

 

「そんなに顔に出てたか?」

「ううん、露骨に出てたりはしてなかったよ。多分ほとんどの人は分からないと思う」

「なのに分かったのか……」

 

 元から感情が表に出やすいほうではないし、すっかり社会人になっている今では昔以上に感情を隠すことは上手くなっているはずなのだが。まあ昔から付き合うのある相手にはそこまで隠すことはないのだが。

 

「分かるよ……ずっと前からショウとは一緒なんだから。……私はショウが私……ううん、私だけじゃなくなのは達も含めて弱音が吐けるように振舞ってくれるのも知ってる。それにこれまで何度も甘えたし助けられてきた。でもね……ショウだって甘えていいから。ひとりで強がり続けなくていいんだよ――」

 

 過去に何度も後悔をする出来事があった。

 その度にもう同じような起こさせないと強い思い、自分に出来ることに取り組んできた。

 六課の設立が決まってからはカリムの予言を元に今ある現実が訪れないように動いていた。けど……結局は予言通りの事態が起きてしまい、その中で俺はスバルのためにとギンガを見捨てた。

 その判断が間違っていたかと問われれば間違いではないと答えるだろう。その証拠に他の六課メンバーから俺は責められたりしていない。

 俺ひとりがどんなに頑張ったところでやれることには限界がある。それに最悪の予言を防げなかったことへの責任は俺だけでなく多くの者が感じているはずだ。

 ただ……それでも。

 俺にもっと力があったのならば、スバルだけでなくギンガも救うことが出来たのではないか。そう思わずにはいられない。

 だから今……俺だけを見つめている瞳と優しさに満ちた声の主を思わず抱きしめたくなった。人の肌に触れてその温もりを感じたいと思ってしまった。

 でもそうしてしまうと……それは本当に自分自身で自分が弱っていると認めることになる。

 そうなれば今後何かあったときに精神的に折れやすくなるだろう。平穏な時間を取り戻すにはこれからが正念場なのだ。スカリエッティ一味との一件が終わるまで気を抜くわけにはいかない。

 たとえそれが己の心を痛めつけるのだとしても……きっと俺は耐えられる。俺には俺のことを心配してくれる仲間がいる。守りたいと思う人達がいる。そして……これまでに託された想いと貫くと決めた意思がある。

 

「フェイト……お前のその優しさには救われるよ。でも……今は甘えるわけにはいかない。強がり続けなくちゃいけない。俺なんかより……きっとなのはの方が追い詰められてる。だから俺達があいつを支えてやらないと。スカリエッティ達との決着をつけるためにも」

「……うん、そうだね。……でもショウ、ショウももっと自分を大切にして。私……嫌だよ。傷ついたショウを見たりするの」

「それは俺も一緒だ。身近な人間が傷ついたところなんて見たくない……」

 

 お前もなのは、そしてはやても……ひとりで抱え込んでしまうところがあるんだから。俺だけでなくお前らの周囲に居る人間はみんな心配さ。でもこれは口にしない。

 俺が簡単に変われないようにフェイト達も簡単には変われないだろう。でも少なくとも今の彼女達は自覚した上でその行動を取っているはずだ。ならば過保護・過干渉は煙たがれるだけだろうし、10年の付き合いがあるのだから今の言葉だけでも伝わるだろう。

 

「……じゃあ俺はスバルのところに行くな。あいつとはちゃんと話しておかないといけないから」

「うん……」

 

 フェイトと別れた俺はスバルの元へ向かう。

 記憶が正しければ負傷したエリオも同室だったはずだ。エリオの怪我自体はそれほどひどくはないらしいが怪我をしたことには変わりない。弟のような存在なだけに思うところは多々ある。まあフェイトの様子からすると心配の言葉を掛け過ぎるとかえってエリオの方が気を遣ってしまうのだろうが。

 目的の一室に辿り着いた俺はドアをノックする。すると中から普段より弱々しくあるがスバルの声が返ってきた。

 

「邪魔するぞ」

「あっ……」

 

 俺が部屋に入ると中にはスバルの他にティアナが居た。六課の方で現場検証をしていると聞いていたが、なのはかシグナムあたりが見舞いに行って来いと言ったのだろう。

 エリオの姿はない……ティアナが来たから気を遣って部屋から出たのか。キャロも病院にいると聞いていたから多分エリオと一緒に居るのだろう。動き回れるのならとりあえず心配ないか。

 現状で問題になりそうなのは俺を見た瞬間に露骨に顔を逸らしたスバルだろう。逸らした原因は襲撃時の一件……俺の左腕にある。誰だって自分が傷つけた相手と会うのは気まずさを覚えるものだ。

 

「ショウさん、体の方は大丈夫なんですか?」

「お前が思ってる以上にはな。まあ仕事なんかしようものなら隊長達からあれこれ言われるだろうが」

「当たり前です、怪我人なんですから大人しく休んでてください。ファラさんやセイバーさんが代わりに働いてくれてるんですから」

「分かってる分かってる。ついさっきフェイトから釘を刺されたところだし、お前を始めこういうことには口うるさく小言を言う奴が多いんだから大人しくしとくさ」

「分かってる、だけでいいじゃないですか。後半ははっきり言って余計です。ショウさんはもう少し素直な言い回しをした方が良いと思います」

「そっちも後半は余計だ。素直じゃないところがあるお前から言われても説得力に欠ける」

 

 と言ってしまっただけに気の短いところのあるティアナがムキになり始める。しかし、真面目な性格なのでここが病院だということを言えば大人しくなるのは当然。ただ大人しくなっても機嫌まで直るわけではない。まあそのうち戻りはするだろうが。

 

「スバル、体の方はどうだ?」

「…………大丈夫です。……神経ケーブルが逝っちゃってたので……左腕はまだ上手く動かせないですけど」

「そうか……悪かった」

 

 気まずいだろうが話してくれるスバルに内心安堵しつつ、俺は彼女に対して深く頭を下げた。

 

「え……な、何で頭を下げてるんですか? それは……それは私がショウさんにするべきことのはずです。私の怪我だってギン姉がさらわれたのだって私がティア達の忠告を無視して先行したからで! もしもあのとき……ショウさんの指示を聞いて動いてたらギン姉を助けられたかもしれないのに私は自分勝手に動いて…………その挙句、ショウさんにも怪我させて。悪いのは……悪いのはショウさんじゃなくて私です! 私が悪いんです!」

 

 気持ちが高ぶって動こうとするスバルをティアナが止めに入る。

 確かにスバルが言っていることは最もなのだろう。客観的な見方をすれば誰もが同じ見解を持つはずだ。しかし……

 

「だとしても……ギンガを助けられなかったのは事実だ。それにお前にも攻撃をした」

「だからそれは……!」

「こんなことを言ったところでお前は悪いのは自分だ、と納得しないのは分かってる。でも謝らせてくれ」

 

 これは俺のわがままだ。

 けれど……これをしないまま先に進んでしまうと心の隅にモヤモヤを抱えたまま過ごすことになる。今後の六課を動きを考えれば、それが肝心な時に災いをもたらすとも限らない。その手の芽は今の内に摘んでおく必要があるのだ。自分勝手な考えだとしても。

 

「そんなこと言われても……」

「あぁもう! スバル、ショウさんに申し訳ないとか思ってるんならここはあんたが折れなさい」

「ティア、だけど……」

「うっさいわね。あんたがあんたで思うところがあるようにショウさんだってショウさんなりに思うところがあんのよ。それに要はお互いが悪かったって話になるだけでしょ。あんただって謝ってることにはなってるんだからそれで手を打ちなさい。多分だけど今日のショウさんは自分から折れてはくれないわよ」

 

 心身ともに弱っているであろう相棒に対して何とも容赦のない言葉である。俺に対してもある意味容赦がないわけだが……確かに今回は折れるつもりはないがそれでも多分とは言った割には凄まじく断定している言い方だったわけだし。

 ただまあティアナのおかげで、スバルは納得できないという表情を浮かべながらもどうにか納得しようと思考の方向性は変えてくれたようである。これならば先ほどのような平行線の会話にはならないだろう。

 

「それにしても……何となく予想は出来てましたけど、ショウさんは今日もいつも通りなんですね」

「そう努めようとはしてるが……正直スバルは俺とこうやって話すことに気まずさを感じてるだろうからな。それなりに思うところはあるぞ」

「いえ、それもありますけど私が言いたいのはそこじゃなくてですね……変に気を遣ってると話が進みそうにないので簡潔に言いますけど、ショウさんは今回の一件でスバルの体ことを知りましたよね?」

 

 なのに気まずい空気はあれど、スバルに対する意識はこれまでと変わっていない。そう言いたげな目を今のティアナはしている。これを見れば彼女の言いたいことは理解できる。

 

「その質問に対する答えはイエスだとは言えないな。俺は今回の一件がなくてもスバル達の体のことは知っていた」

「え……スバル、あんたショウさんには言ってたわけ?」

「ううん……ティアから止められてたし、ショウさんに言った覚えはないよ。でもギン姉は前からショウさんと親しくしてたみたいだから聞いてたかもしんない」

「いやギンガじゃない。俺に話してくれたのはゲンヤさんだ」

 

 俺の言葉にスバルとティアナは驚きの表情を浮かべる。が、俺ははやてとの繋がりもあって昔からゲンヤさんと顔を合わせる機会があった。そのことはふたりも理解できるだけに徐々に落ち着きを取り戻す。

 

「ゲンヤさんがですか……でも確か隊長達は夕方にでもゲンヤさんに戦闘機人についての話を聞きに行くって言ってましたよ。スバルやギンガさんのことについても知ってる感じじゃなかったですし。何でショウさんにだけスバル達のことを……」

「理由はそう難しいものじゃない。単純に俺が他の隊長陣……なのはやフェイト達よりもゲンヤさんと親しかったこと。それに加えて、魔導師であると同時に技術者でもあるからだ」

「なるほど……前線に出れば必然的に負傷する可能性は高くなる。もしも現場でスバル達に何かあったときに対応できる人間がいないのは不味い。なら現場に同伴できて技術者としてのスキルを持っているショウさんには話しておいた……そういうことですね?」

「ああ、大体そんなところだ」

 

 もしかするとそれ以外にも理由はあるのかもしれないが。あの人ははやての師匠的な存在なだけに意外と腹の内じゃ何を考えているか分からないところがあるし。まあ他にあったところで私的な理由の可能性が高いだろう。俺の身に何か降りかかる可能性があるのならば忠告といったことはしてくれる人なのだから。

 

「あの……私からも質問いいですか?」

「ああ。何だ?」

「その…………ショウさんは実際のところ私やギン姉のことどう思ってるんですか? あのノーヴェって子に戦闘機人だろうと人間だって言ってましたけど、私達は人間とは体の作りが全然違います。本当は……戦うために生み出された存在とか思ってるんじゃないですか?」

「スバル、あんた……!」

「ごめんティア、こういうこと言ったらティアが怒るのは分かってるし、怒ってくれるのは嬉しい。それに私だって自分の事は人間だって思ってるよ。だけど……私はあの子達と同じ戦闘機人でもあるから。……その力でショウさんには怪我をさせちゃったし」

 

 だからショウさんが本当の気持ちを隠しているのならちゃんと私は聞かないといけない。それがショウさんを傷つけた私の責任だから。

 そんな風に言いたげな顔をスバルは浮かべている。罵倒だって受け入れる覚悟が感じられるだけにティアナも何も言えないようだ。故にここからは俺とスバルで話すしかない。

 ……まあ話すことなんて俺の気持ちを真っすぐスバルに伝えるだけなんだが。

 にしても、今のスバルに六課の隊長達がダブって見えてしまうのか俺の気のせいだろうか。元々の性格もありはするのだろうが、一緒に居る時間が多かったこともあって抱えごみがちになるところまで似てきてしまっているように思えるのだが。

 それもあってか、俺はスバルに近づきながら名前を呼んで彼女の顔を上げさせ……無防備な彼女のでこにでこピンを撃ち込んだ。それ相応に力を込めて。

 

「――ッ……な、何するんですか?」

「ひとりでスムーズに書類を作れない頭でごちゃごちゃと考えるな」

「それが今私に言いたいことなんですか……って、確かに私は書類作るの苦手ですけど今のくらい言葉だけで理解できますよ。でこピンしなくてもいいじゃないですか」

「確かにそうだが……こうでもしないと俺と目を合わせて話さないだろ」

 

 まあ思った以上に力が入り過ぎてしまったのだが。

 なのでその点についてはスバルにきちんと謝り、一段落したのを確認してから話を進め始める。

 

「俺が実際のところどう思ってるかだったな。まあ色々とありはするが、お前が最も聞きたい部分で言えばお前の体のことで特別扱いするつもりはない。俺からすればお前は他のメンバーを変わらない人間だ」

「そう言ってくれるのは嬉しいですけど……でも本当にそう思ってるんですか? 私は普通の人間とは違いますし。別に何を言われても平気ですから本当のことを言ってください!」

「何度言われても俺の答えは変わらない。ただ……このあとまた同じ言葉を言ったらもう一度でこピンをするかもしれないがな」

 

 同じ話を何度もしていては全く話が進まない。先ほどまでは多少の停滞は問題なかったのだが、夕方になのは達がゲンヤさんの元へ行くと分かった以上、あまり無駄な時間を使うわけにはいかないだろう。

 怪我人であるため待機を命じられる可能性はあるが、俺は一応隊長陣と同じように扱われる立場だ。またゲンヤさんとの面識もはやてに次いである。加えて技術者として戦闘機人について分かる部分もあるのだ。そもそも、左腕が使えないだけの状態なのだから仕事はまだしもその場には同席させてもらいたい。

 だからこそ、スバルだけに時間を割くわけにはいかない。スバル以外にもシャマルやエリオといった話しておきたい人物は多く居るのだから。

 

「スバル、お前は俺に怪我をさせたこともあって必要以上に自分を責めているのかもしれないが対応できなかった俺にも責任はある。それに俺はお前のことを別に怖いなんてこれっぽっちも思っちゃいない」

「でも……私には!」

「確かにお前には戦闘機人としての力……触れるだけで外部だけでなく内部さえも破壊する力がある。それは事実だし、それ自体は危険な力として恐怖の対象になりはする。だがそれは別にお前だけに言えることじゃない。俺にだって似たようなことが言える」

 

 スバルは俺の言葉に首を傾げるが、続きを聞けば理解できるだろうと思い気にせずに話を進める。

 

「俺には戦闘機人としての力はないが《魔法》っていう力がある」

「え、でも……」

「あぁ、スバルやティアナを含めて魔導師なら当たり前の力だ。けれど一般人からすれば恐怖の対象になりえる。それに仮の話としてだが想像してみろ……もしも俺が非殺傷設定を切って本気で攻撃してきたらお前らはどう思う?」

「それは……悲しいだとかそういうことを考える前に」

「うん……怖くて仕方がないと思う」

 

 魔法世界で過ごしていると常識や当たり前の力として魔力を持つ者達は忘れてしまいがちになるが、魔法という力も戦闘機人としての力と変わらない人を傷つけることが出来る。ふたりの表情を見る限り、きちんとそのことを再確認してくれたようだ。

 

「なら分かっただろう。スバル、お前の戦闘機人としての力も魔法だろうと所詮はただの力。扱い方次第ではあるが簡単に人を傷つける同じ力になる。だから戦闘機人としての力があるからってあれこれ考えるな」

「でも……それを抜いても」

「人工的な骨格や内臓を持っている人間は世の中に五万と居る。戦闘機人はその延長線上のような存在だ。何よりスバル、お前にはなのはへの憧れやティアナ達への信頼や思いやり、自分の体に対して思うところやそれに伴う気持ち……それらをひっくるめた自分の《意思》がちゃんとあるだろう?」

 

 人形だとか兵器だとか呼ばれる存在に自分の意思なんてものはありはしない。だからこそ生身の人間に対してでもそのような言葉は使われるんだ。

 なら逆説的に言ってしまえば自分の意思があるのならば機械の体を持っていようと、魔導師のサポートを目的として作られたデバイスだろうと人間と変わりはしないだろう。

 

「スバル、俺はお前と同じじゃないからお前が自分に対して思ってることを完璧に理解してやることは出来ない。でもこれだけは言ってやれる」

 

 俺はゆっくりとスバルに近づいてベッドに腰を下ろすと、彼女の頭にそっと右手を乗せる。そして、かつてはやてにしていたように優しく撫で始める。

 

「スバル……お前はティアナ達と何も変わらない。お前のことを戦闘機人だとか兵器だとか言う人間はいるかもしれないが、俺にとってお前は《スバル・ナカジマ》っていうひとりの人間だ」

「ぅ……ショウさん」

「泣きたいときは泣けばいいし、困ったことがあればいつでも相談に来ればいい。お前は知識が足りない部分もありはするが、明るくて元気な俺の大切な教え子のひとりなんだから」

 

 我慢の限界が来たのかスバルは、ティアナが居るにも関わらず俺の右肩にしがみつく形で泣き始める。そんな彼女に俺は言葉は掛けたりしない。ただ優しく頭を撫でるだけだ。昔のはやてがそうだったようにこういうときは泣き止むまで泣かせてやればいい。

 ただはやての時と違って年齢差があるせいなのか、それとも俺があの頃よりも大人になったからなのか恥ずかしさのようなものは感じない。……感じはしないが、ティアナの何とも言えない微妙な顔と視線は気になるのだが。

 

〔ティアナ、何か言いたいことがあるのか?〕

〔いえ特に……ただショウさんが慕われる理由が分かっただけです〕

〔本当にそれだけか? お前の顔からして他にも何かしら考えてるように思えるんだが……〕

〔べ・つ・に……席を外そうかなって思っただけです〕

〔まあその気持ちは分からなくもないが……そこまで不機嫌にならなくても〕

〔別になってませんよ! 今後のことを考えると色々と思うところがあるだけです。変な勘違いしないでください!〕

 

 変な勘違いをした覚えはないのだが、それを言ってしまうと完全にティアナが怒ってしまうと思ったので言葉にはしないでおいた。

 そのあとしばらくして泣き止んだスバルに必ずギンガを取り戻すからと約束を交わし、俺は部屋をあとにする。別の部屋に見舞いに行こうとするが、スカリエッティ達との決着はこれまでとは比べ物にならない戦闘になるだろう。そのことを考えた俺は先にある人物に連絡を入れておくことにした。

 

「……ひとつ頼みたいことがある」

 

 

 

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