魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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第30話 「悪夢の英知」

 なのはと共に艦内を歩いているとリインと合流し、そのあと今後の動きなどを話し合いながら歩いていた。すると突如艦内に緊急事態を知らせるアラートが鳴り響く。

 すぐ傍に表示されたモニターに映ったのは、地上本部が開発を進めていたアインヘリアルと呼ばれる兵器が、戦闘機人達に襲撃され制圧される光景だった。

 

「そんな……こうもあっさりと地上の部隊が倒されるなんて」

「敵にはAMFがあるから魔法が通りにくいし、あの戦闘機人達も出てる。しかも……私の感覚が間違ってないならこれまでよりも動きが良い気がする」

「ああ、間違いなく速くなってる」

 

 インテリジェントデバイスは稼働時間に応じて人間らしくなり、所有者に適した運用をしていくようになる。それと同じように戦闘機人達が得たデータから自身をアップデートさせることは十分に可能だろう。

 いや……だろうなんて予想ではなく可能のはずだ。何故ならあの戦闘機人達を作り上げたのはジェイル・スカリエッティなのだから。

 仮に他の犯罪者が戦闘機人を作ったとしても、あそこまでのスペックはない。アップデート出来たとしても、潜在的なスペックには雲泥の差があるはずだ。故に……

 

「あいつらをこのまま放置すれば……厳しいなんて言葉じゃ足りなくなるな」

「うん。早いうちに手を打ちたいところだけど……嫌な具合に分かれてる。私達が出て行くと何かあったときの対応が遅れかねない」

「だからはやても命令を出せずにいるんだろう」

 

 六課をリミッターを外せばSランク越えやSランクに迫る魔導師達が多く存在している。ランクで全てが決まるわけではないが、単純に考えれば現状で六課以上に戦力を持つ部隊はほぼないに等しい。つまり六課は切り札……俺達の負けはこの戦いの敗北を意味する。

 そう考えていると、ヴェロッサからの直通通信がアースラに届いた。内容は敵のアジトを発見したが、現在ガシェット達の攻撃を受けているというもの。聖王教会の方に増援要請をしたが、こちらからも制圧戦力を投入してほしいそうだ。

 さすがは捜査官……と言いたいところだろうが、現状でそれを伝えるのはナンセンスだ。そもそも、伝えたところであいつはフェイトやゲンヤさん達がこれまでに集めた情報のおかげだ、などと言うだろう。

 

「アジトを見つけるなんてすごいです。そこを制圧出来ればこっちが勝ったも同然……!」

「それはそうだが……あのスカリエッティがこれで終わるとは思えない」

 

 俺が言い終わるのと同時に地上本部に向かう敵勢力の映像が表示される。その中には先日ヴィータ達を退けたあの騎士と炎を操る融合騎の姿もあった。

 こいつらだけ別ルートで向かっているようだが……。

 思考を遮るように続いて廃棄都市に膨大なエネルギー反応が確認される。それは戦闘機人であり、こちらも地上本部に向かっているそうだ。

 

「――っ……あれって!?」

「ギ、ギンガじゃないんですか!?」

 

 なのは達の反応が示すように映像にはギンガの姿が確認できる。他の戦闘機人達が纏っているバトルスーツのような恰好をした状態で。

 映り出された映像から見る限り洗脳状態にあるような顔はしていない。が、ウェンディとか言う戦闘機人や二振りの光剣を持っている戦闘機人と行動を共にしているあたり、俺達の知るギンガとは考えにくい。

 捕獲した相手のデータをただ取って終わらせる、なんて温い事をスカリエッティがするとは思ってなかった。だが覚悟していても身近な人間が敵側に回るというのは精神的に来るものがある。

 

「そ……んな」

「しっかりしろなのは」

「でも……」

 

 確かになのはの気持ちは分かる。もしも戦場で顔を合わせれば、今のギンガは俺達を容赦なく攻撃してくることだろう。

 人質として使われるのも助け出すまでに何かされる恐れがあるので困るが、敵戦力として投入されるのも最悪のケースが考えられるだけに実に嫌な手だ。

 とはいえ、ギンガが生きていてくれた。

 最も考えられた最悪はデータは取れたからもう必要ないと命を絶たれることだった。だが何かしら記憶が改ざんされているとしても生きていてくれたのならば救い出すチャンスはある。

 おそらくスバルもアースラに来ててこの映像を見ているだろう。この前の戦闘で負った怪我自体はスバルもマッハキャリバーも完治しているだろう……が、精神的ダメージが完全に消えているとは思えない。俺やなのはでさえ動揺や不安が過ぎるのだからあいつの精神は今誰よりも揺れていることだろう。

 だが……だからといって俺が成すべきは変わらない。六課メンバーと協力してこの事態を収束させる。そのうえでギンガとヴィヴィオを必ず救い出す。スバルやなのはと約束したのだから。

 

「敵に捕獲された時から考えられたことだ」

「それは……そうだけど」

「今すぐ割り切れとは言わない……だがこういうときこそ前向きにだ。考え方を変えればギンガを助けるチャンスが巡ってきたことになる。悪い事ばかりじゃない。だから少なくともフォワード達の前では顔に出すなよ」

「……うん、そうだね。私はもう子供じゃない……スターズの隊長なんだから」

 

 本当ならなのはにはそんな言葉を言ってほしくはないし、言わせたくもない。

 なのはの日頃浮かべるあの笑顔を知っている者ならば……彼女が魔法と出会ってからの日々を知っている者なら俺のように考える奴は他にも居るだろう。

 けれど……なのはの言うように俺達はもう子供じゃない。

 リンディさんやクロノのように今でも守ってくれる人は存在している。だが俺達が守ってやるべき相手も存在しているのだ。

 守るためには力が居る。力がある者にはそれ相応の責任が伴う。故に俺達はそれを今は果たさなければな

らない。

 

「……ふふ」

「どうした急に?」

「ううん、何でもないよ。ただ……ショウくんの言うとおりだなって思って。気持ちで負けてたらダメだよね」

 

 そう言って笑うなのはの瞳には力強い意思が宿っている。

 これまでに何度も見てきた真っ直ぐで不屈の心を感じさせる目。どんな状況でも諦めないこいつが居たから……こいつに出会えたから今の俺はあるのだろう。

 もしもなのはが居なかったならジュエルシードを巡る事件に深く関わることはなく、いつまでもただ変わらなければと思うだけの子供だったかもしれない。闇の書を巡る事件では、はやてやヴィータ達を助けたいと望みながらもアインスに敗北したことだろう。あのとき隣になのはが居てくれたから……俺ははやて達を救い出すまで戦えたんだ。

 出会ったことで傷ついたこともある。けれどその傷があったから……それに負けない幸せな時間があったからこそ今の俺はある。

 スカリエッティ一味との抗争は終盤を迎えているだろうが、終止符が打たれるまでに次々と心が折れるような出来事があるだろう。ただそれでも俺は諦めたりしない。大切なこいつらとの繋がりを守ってみせる。

 だがスカリエッティは、狡猾さを出し惜しみするつもりはないのか、管理局側の気持ちを砕くかのように更なる一手を投じる。

 例の召喚士の少女が確認されたかと思うと、彼女が召喚した無数の虫達が地鳴りを起こし始める。それと同時にスカリエッティからの映像も流れ始めた。

 

『さあ……いよいよ復活の時だ。私のスポンサー諸氏、こんな世界を作り出した管理局の諸君、偽善の平和を謳う聖王教会の諸君……見えるかい? 君達が危惧しながら恐れていた絶対的な力……!』

 

 スカリエッティの言葉に呼応するかのようにモニターに映る地面は次々と裂けていき、繋がりを絶たれた一部の大地が浮かび始める。

 数キロメートルはあるであろう大地を持ち上げたつつ姿を現したのは……蒼色と金色を基調とした装甲の空中戦艦だった。

 

『旧暦の時代……一度は世界を席巻し、そして破壊した古代ベルカの悪夢の英知!』

 

 名前は《聖王のゆりかご》。

 確か旧ベルカ時代に劣勢に立たされていた聖王軍が使用したとされ、見事勝利へと導いた超大型質量兵器……あれがスカリエッティの切り札か。

 

『見えるかい? 待ち望んだ主を得て古代の技術と英知の結晶は今その力を発揮する!』

 

 そこで画面は切り替わり、聖王のゆりかごの内部と思われる映像を映し出す。

 玉座のような場所に浮かぶひとつの小さな影。目を閉じて玉座に座っている幼い顔立ちと金色の髪の少女は、つい先日まで俺達の傍に居たヴィヴィオに他ならない。

 

『……――ッ!? 痛い……いや、怖いよ! ママ、ママぁぁッ!』

 

 泣き虫な一面のあるヴィヴィオだが、それでも今味わっている痛みが転んだ程度のものでないことくらいは分かる。顔を歪ませて泣き叫ぶヴィヴィオの姿に誰もが悲痛の表情を浮かべている。

 特に愛情を注いでいたなのはの瞳からは先ほどまでの力強さは消え失せ、今にも心が壊れてしまいそうな顔をして体を震えさせている。それでもレイジングハートを固く握り絞めモニターから目を離さないのは、彼女の胸中に必ずヴィヴィオを救うという強い想いがあるからだろう。

 

「ヴィ……ヴィオ……」

『うぅ……痛い、痛いよぉぉぉッ! ママぁぁぁッ、パパぁぁぁぁッ!』

『さあ! ここから夢の始まりだ。フハハ……フハハハハハ……フハハハハハハハハッ!』

 

 ……スカリエッティ。

 何が夢の始まりだ。貴様の自分本位で自分勝手な欲望を満たすためにあの子を……ヴィヴィオを利用するのか。

 俺はなのはやフェイトのようにヴィヴィオの保護責任者でもなければ、特別子供な好きな奴でもない。正直なところ、ヴィヴィオにパパと呼ばれることに困っていた。

 俺はあんな大きな娘が居る年齢でもないし、昔と違って俺達にはそれぞれの立場がある。別に管理局は恋愛を禁止しているわけではないが、俺と違ってなのはやフェイトは世間にも認知されている有名人だ。

 六課のメンツはともかく、世の中には好き勝手あることないこと捏造して騒ぎ立てる連中も居る。夢に向かって進み続けるあいつらの障害になる可能性は少しでも低くするべきだろう。いや、この言い方は正しくない。俺がそうしたいだけだ。

 

「……だが」

 

 それでも、自分の事をパパだと呼んで慕ってくれた子供を無下にするつもりはない。

 俺にとってあの子は……ヴィヴィオは娘というわけじゃない。今後の流れ次第ではそうなる可能性がないわけではないが、少なくとも今はそれはない。

 ――けれどこれだけははっきりと言える。

 ヴィヴィオは俺の中ですでに大切な存在だ。笑ってくれれば嬉しいと思うし、泣いているところを見れば辛いと感じる。出来ることなら今すぐにでもあの子の元に駆けつけて助け出し抱きしめて安心させてやりたい。

 スカリエッティ……このまま貴様の思うがままに物事が進むと思うなよ。貴様の野望は止めてみせる……必ず!

 

 

 

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