魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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エピローグ

 俺達は無事にアースラへ帰艦することができたが、テスタロッサとアルフは事件の重要参考人ということで隔離された。高町は心配そうであったが、最後こそ協力していたがテスタロッサ達は元々管理局と敵対する立場にあったのだから仕方がない。

 しかし、クロノの話によればテスタロッサ達は真実を知らなかった。言い方は悪いが、道具として扱われていたため、執行猶予が付くまで持っていくつもりとのことだ。

 出来る限りテスタロッサに罰が与えられないように善処するという発言に高町は喜んでいたが、エイミィが言うにはこの手の裁判は長引くらしい。

 振り返ってみると様々な出来事があったが、ジュエルシード事件はひとまず終わりを迎えることとなった。俺や高町達は、必然的に地球に戻ることになる。地球に転移する少し前まで、クロノやエイミィに今後はあんな無謀なことはするなと厳しく注意されていたのは言うまでもない。

 

「……ふぅ」

 

 地球に戻ってくると、辺りはすでに暗くなっていた。

 濃密な一日でさすがの高町も疲れたようだが、笑顔を浮かべられるあたりまだ余力が残っているのだろう。さすが現場で叩き上げられて育ったというべきか。

 

「あっ……お疲れ様夜月くん」

「ああ……それはこっちの台詞だと思うんだけどね。俺はほとんど何もしていないし」

「ショウってさ……何ていうか素直じゃないよね」

 

 フェレット姿のユーノとは話し慣れていないため、何とも言えない微妙な気分になる。人間の姿だったならば、笑みでも浮かべているのだろうか。

 

「ある意味では素直だと思うけど」

「まあそうだけどさ。そういう返しするところとか、素直な性格してるとは言えないんじゃないかな?」

「そういうことを言うあたり、君もじゃないのか?」

「うーん……」

 

 腕を組んで考えるフェレットというのは、何も知らない人間からすれば珍しい光景だろうな。まあ辺りは暗いし、人気もないから問題はないだろうけど。

 周囲を見渡してから視線を戻すと、ユーノが高町に聞いているところだった。高町はユーノは素直だと思う、ということらしい。

 

「あっ、別に夜月くんが素直じゃないってことじゃ……!」

「別にいいよ。君達よりも素直じゃないってことは自分でも分かってるから」

「その……ごめん」

「謝らなくていいよ。それよりもう暗い。さっさと帰ろう」

 

 歩き始めると、高町が駆け足で隣にやってくる。あまり親しくもない人間の隣をよく歩けるものだ。

 暗いのが怖いのか? とも思ったが、高町の顔を見る限りそれはなさそうだ。そもそも初めてジュエルシードを封印したときも夜だった。暗いのが怖いのなら、高町はユーノには出会っていないだろう。

 

「あの……夜月くんって強いんだね」

 

 無言が辛かったのか、高町がポツリと呟いた。何を言っているのだろうか、と思ったが、つい先ほど自分の戦っている姿を見られたことを思い出した。

 

「俺は……強くなんかないよ」

 

 高町のように優れた魔力資質があるわけでもない。彼女は資質が並みの魔導師よりも偏り過ぎているとも言えるが、小さくまとまっていると言える俺よりは良い。

 総合的に高い状態なら優秀だが、平均レベルなら器用貧乏だと言えるだろうから。まあ不得意なことがないという意味では、デバイスのデータを取る場合はプラスだろうけど。

 それに……俺には高町のような強い心はない。

 心を許している相手なんて片手で数えるほど。クロノやエイミィとは事件の間に距離が縮まったような気がするが、それはふたりが俺との距離を詰めすぎないようにしてくれたからだろう。そうでなければ、あんな風には話せなかったはずだ。

 ……短時間であそこまで変われるなんて、テスタロッサは凄いよな。俺はずいぶんと前からこのままじゃいけないと分かっているのに、少しも変われていない。

 そういえば……バタバタしてて言えてなかったな。テスタロッサと面会できるようになったら、一言だけでも言っておかないと。

 

「夜月くん、大丈夫?」

「ん、ああ大丈夫だよ。君ほど実戦慣れしてないから疲れてはいるけど」

「そっか……あれ? 確か夜月くんって私よりも先に魔導師になってるんだよね?」

「なってはいるけど、俺はデバイスのデータを取るための魔導師みたいなものだからね。まあ、そもそも君みたいに現場で叩き上げられる魔導師は滅多にいないと思うよ」

 

 クロノも「一体どんなスパルタだ」と言っていたから間違いないだろう。それに冷静に考えてみれば、魔力資質も関係あるだろうけど、高町のいびつな成長は現場で叩き上げられたからかもしれない。

 

「そうなんだ……いや、そうだよね。普通はいっぱい練習してから本番だもんね」

「ごめんなのは……ボクが巻き込んだばっかりに」

「ユーノくん」

「ぁ……うん、もう言わないよ」

 

 確かにいまさら巻き込んだことを言っても遅すぎる。それに高町は、最初は違っただろうが途中からは自分の意思で事件に関わっていた。自分から首を突っ込んだのだから、ユーノに謝ってほしくはないだろう。

 

「あ、あの夜月くん」

「何?」

「そのね……魔法のこととか色々と教えてくれないかな? できれば訓練の方法とかも……」

「嫌だよ」

 

 返事を返してから数歩歩いた後振り返ってみると、高町は瞬きをするだけの状態で固まっていた。俺があまりにもさらりと返事を返したからか、理解が追いついていないのかもしれない。

 

「えーと……なんで?」

「何でって、君にはユーノがいるだろ」

「……それもさっき一緒に言おうよ!」

 

 怒り始める高町だが、こちらが時間帯上騒ぐのは迷惑だと言うと口を閉じた。ただ言いたいことは多々あるようで、むすっとした顔でこちらを見たままだ。こういう姿を見ると、ただの女の子にしか見えない。

 

「夜月くんって意外といじわるだね」

「……じゃあもうひとつ、いじわるなことを言おうか。今ならまだ元の生活に戻れる可能性がある。今日までのことをなかったことにするつもりはないか?」

 

 高町がこのまま魔法に関わっていれば、性格も相まって辛い経験や悲しい思いをたくさん味わうことになるだろう。管理局で働くとするならば、危険とは隣り合わせ。周囲の人間の心配は絶えないはずだ。地球で周囲と変わらない生活を送るほうが幸せなのではないか。

 俺の考えていることを高町は感じ取ったのか、先ほどのように怒声を上げることはなく、静かだが力強い声で返事を返してきた。

 

「そのつもりはないよ」

「……そうか」

「心配してくれてありがとう」

「……君に対する心配はそこまでしてないけどね」

「何で真顔で言うの!?」

 

 ★

 

 久しぶりに自宅で迎えた朝。目覚ましとなったのはアラームではなく、管理局からの連絡だった。内容はテスタロッサの裁判の日程が決まったため、来週から本局の方へ身柄が移ること。少しだけ話す時間を作ったので話さないかということだった。

 短い時間しか会話できないのなら、同じように連絡が行っているであろう高町に譲ったのほうがいいという気分になる。だがテスタロッサは高町だけでなく、俺にも会いたがっているとのこと。

 それに……個人的にも、彼女に一言だけでも謝っておかないとな。そうしないと、いつまでも胸の内がもやもやしそうだ。

 身支度を済ませると、指示された場所へと向かう。

 目的地には私服姿のテスタロッサにアルフ、制服姿のクロノと高町の姿があった。急いで向かったのだが、どうやら高町の方が早かったらしい。

 

「僕達は向こうにいるよ」

 

 クロノ達は高町達がふたりで話せるように気を利かせたようで離れ始める。

 ふとクロノ達と目が合い、ふたりの方へ行くようにジェスチャーで指示されるが、俺はそれに首を横に振って返した。

 

「フェイトに会いに来たんだろ?」

「俺は高町と違って、一言挨拶をしに来ただけだよ。それにあのふたりは何度もぶつかって今に至る。できるだけ話をさせてやりたいんだ」

 

 納得してくれたのか、それ以上は何も言わなかった。一緒に高町達から距離を取る中、ちらりとふたりの様子を確認する。

 はたから見ても、あのふたりから発せられる雰囲気は独特だよな。あそこに割って入れるのは、空気が読めない人間か仕方がない場合だけだろう。

 ベンチに座って見ていると、ふたりは見詰め合ったまま何かを言い始めた。アルフは聞こえているかもしれないと思い、何気なく聞いてみるとテスタロッサが友達になるにはどうしたらいいか聞いたらしい。それに対する高町の答えは、名前を呼べばいいというものだった。

 

「名前を呼んだら友達にね……あの子らしい」

「他にも君とかあなたとかじゃなくて、名前で呼んでとか言ってるよ」

「……俺は高町の知り合いであっても友達じゃないよ」

 

 アルフはどことなく呆れた顔を浮かべた。フェレット状態なのではっきりとは分からないが、彼女の肩に乗っているユーノの顔も同じように見える。

 

「まあ……あんたとあの子の問題だからとやかくは言わないけどさ。ただ、フェイトはあんたとも仲良くなりたいみたいだから……その、よろしく頼むよ」

「頼むよって……俺は高町と違って、名前を呼んだら友達なんて思ってないんだけど」

「あんたね……」

「お互いの呼び名なんてどうでもいい。お互いに相手のことを自分のことのように考えられるように……大切だって思えるようになったら友達だと思う。いや……友達だって思う相手には、いつの間にかそんな風に思ってるのかな」

 

 あの子とも最初は友達になるつもりなんてなかった。

 あの子とは図書館で出会った。最初に言われたのは、隣で読んでいいかといった感じだったはずだ。その日を機にちょくちょく彼女の方から話しかけてくるようになったんだった。

 彼女は車椅子に乗っている、が明るい性格をしている。そのため彼女に同情めいた感情は抱いたことはない。ギリギリ手の届かないところの本を代わりに取ってあげたことはあるが、それは同情とは違うだろう。

 彼女と顔を合わせれば普通に話すようになったのはいつからだろうか。思い返してみても、きっかけになった日は分からない。だがそこは、本音を言えばどうでもいい。

 俺はいつの間にか彼女の家にも足を運ぶようになっていた。会話したり、一緒に料理をしたりと、友達とやるようなことを自然にやれている。俺にとって彼女は友達だということ……大切な人だということは間違いない。

 ジュエルシードの一件でしばらく顔を出せていないが、彼女は怒っていないだろうか。いや、彼女はこんなことでは怒らない。きっと顔を出せば、笑顔で久しぶりと言ってくれるだろう。

 ただ……彼女は笑顔で本音を隠してしまう子だ。わがままを言ったりすれば、人との繋がりが切れるのではないか、と恐れているから。

 長期休暇に入ってしまえば、俺はファラのデータ取りや叔母の家の片付けに地球を離れなければならない。それまでに、彼女とできるだけ会って話しておこう。

 

「……ふーん。まああんたにはあんたの考えがあるだろうし、素っ気無い態度を取らないでくれるだけでいいよ」

「それくらいなら了解するよ。元々無視をしたりするつもりはないから……」

 

 自分から話しかけたりすることはあまりないだろうけど、と思ったが言わないでおいた。

 会話が終わったため、アルフはふたりのほうに意識を戻した。俺もふたりの様子を見る以外にこれといってやることもないので戻す。

 遠目でよく分からないが、別れに寂しさが膨らんでいるのかふたりは泣いているように見える。高町はテスタロッサに抱きつき、テスタロッサは高町を優しく抱き締めた。その状態のままふたりは会話を続けている。

 

「う……あんたんところの子はさ……なのはは、本当に良い子だね。フェイトが……あんなに笑っているよ」

 

 ふたりの様子を見ていたアルフは感動したのか、泣き始めてしまった。会話の内容が聞こえているのも理由だろうが、主と使い魔の間には精神リンクがあると聞いた。それによってテスタロッサの気持ちが流れ込んでいるのかもしれない。

 ユーノはそんなアルフを見て、彼女の頬に手を置いた。泣いている子供をあやしているという解釈でいいだろう。

 そろそろ時間がなくなってきたのか、クロノが立ち上がって高町達の方へ歩き始める。彼から視線で合図をもらった俺は、少し遅れる形であとを追った。

 

「時間だ。そろそろいいか?」

 

 クロノに話しかけられた高町はテスタロッサから離れた。テスタロッサは俺の姿を確認すると涙を拭う。

 彼女はこちらに話しかけそうな気配を見せたが、俺は視線で高町の方を見るように合図した。高町が話しかけようとする素振りを見せていたからだ。

 

「フェイトちゃん」

「……ぁ」

 

 高町は髪を結んでいたリボンを解き、テスタロッサに差し出した。おそらく思い出の品として、テスタロッサにあげようとしているのだろう。

 それを見たテスタロッサも自分のリボンを解いて高町に差し出す。ふたりは見詰め合ったまま、互いに差し出されているリボンを手に取った。

 

「……ありがとう、なのは」

「うん……フェイトちゃん」

「きっとまた……」

「うん……きっとまた」

 

 ふたりは名残惜しそうにしながらも、それぞれリボンを受け取った。

 アルフは泣き止んで近くに来ていたようで、ユーノを高町の肩に置いた。彼女に気が付いた高町は、そのまま別れの挨拶を始める。

 

「あの……」

「……悪いけど、俺は君に渡せるようなものは持ってないんだ」

「え、あの、それはいいの。その……君の名前……教えてくれないかな?」

 

 人に名前を聞いたりしたことがほとんどないのだろう。テスタロッサの顔は、恥ずかしさで真っ赤になっている。

 無駄な会話をしている時間もなく、勇気を出して自分から名前を尋ねてきた彼女にいじわるをするのも良心が痛むため、素直に言うことにした。

 

「夜月翔だよ」

「ヤヅキ……ショウ……あの」

「何?」

「その……ショウって呼んでもいいかな?」

 

 同年代の子に名前を呼ばれるのに慣れていないため、名前で呼ばれることを考えると、どことなくくすぐったい気分になる。だが変なあだ名で呼ばれたりしなければ、苗字だろうと名前だろうと構わない性分だ。

 

「ああ、構わないよ」

「……ありがとう……ショウ」

「それは……何に対しての礼?」

「それは、本当の自分を始めようって思えたのは……」

「違うよ」

 

 テスタロッサは俺の言葉がなくても、きっと行動していただろう。彼女にはそれだけの強い心がある。

 それに……俺はプレシアを助けられなかった。テスタロッサの心が強くなかったなら、何で助けてくれなかったんだ! と言われてもおかしくない。彼女に礼を言われる立場じゃないんだ。

 

「君は、強くて優しい心を持ってる。ひとりでも、同じ考えを持ったはずだよ」

「そんな……こと……」

「フェイト~、時間だってさ~」

 

 まだ話したいことがあるのか、テスタロッサは顔を俺とアルフに交互に向ける。

 俺との会話はここで打ち切っても内心の問題だけで済むが、本局に行くのが遅れると彼女の今後に関わる可能性がある。ここは、もう行くように促すべきだろう。

 

「行きなよ。話はまたできるんだからさ」

「……うん」

 

 短く返事を返してきたテスタロッサは、走ってアルフ達のほうへと向かう。彼女とすれ違う中、俺は本当に言いたかったことを念話で伝えた。

 

〔君のお母さんを助けられなかった……ごめん〕

 

 伝え終わるのと同時に振り返ると、テスタロッサが立ち止まってこちらを振り返っていた。驚きにも似た表情を浮かべていた彼女だが、すぐに優しげな笑みに変わった。

 

〔ううん、ありがとう。お母さんを助けようとしてくれて〕

 

 アルフに再度呼ばれたテスタロッサは、返事を返しながら走って向かう。

 魔法陣が展開し、転移が始まる。テスタロッサは小さくだが、俺や高町に向かって手を振ってくれた。それを見た高町は、涙を堪えながら大きく手を振って返す。

 テスタロッサ達の姿が消えた後、高町は彼女達が転移した場所から動こうとせずに空と海を眺めている。

 

「…………」

 

 俺は高町に声をかけずに、その場から離れ始める。

 胸の内にあるのは、別れへの悲しみよりも変わった彼女に対する尊敬が強い。ふと空を見上げながら、俺はポツリと呟いた。

 

「……俺も……少しずつでも変わっていかないとな」

 

 

 

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