魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

127 / 156
03 「八神はやて」

 茜色に染まり始めていた空。

 それを見上げたのは、かつて大切な家族を空へと還した場所。そこに足を運ぶだけで……ううん、あの日のことを思い出すだけで今でも悲しみや寂しさを覚える。

 せやけど……過去があるから今がある。

 あの出来事を通して管理局に入り、様々な経験を出来たからこそ私は自分の夢を見つけ歩んで行こうと決めた。だからこそ……その想いを折れることがない強固なものにするために私はひとつの覚悟を決める。それがあの人に向けて言ったあの言葉――

 

『あんな……わたし、ずっと前から……ショウくんのことが好きやったんや』

 

 ――正直今も昔も自分勝手な告白だったと思う。

 突然自分の想いを伝えたというのに返事はしないでほしい。もしも自分の夢を叶えることが出来て、そのときも今と変わらない想いを抱いていたなら再び告白する。そのときに返事してほしい。

 そんな内容の告白をされれば普通なら怒られてもおかしくない。もしも私が告白された立場だったなら、ショウくんのような返答をすることが出来ただろうか。もしかすると頬を引っ叩いて帰っていたかもしれない。

 

 でも……ショウくんは気持ちのやり場がなくて怒ってたけど激励の言葉をくれた。

 

 それがあったから私はどんなに辛いことがあっても逃げずに前だけを見てやってこれた気がする。もしもあのとき絶交なんてされていたら……多分自分の部隊を作れたとしても六課ほどのものには出来なかったかもしれない。

 告白してからしばらくはお互い距離感が分からなくなってもうてギクシャクもしたんやったなぁ。穏やかな気分で思い返せるということは私が大人になったのか、それとも私を成長させてくれたひとつの糧だったのか……。まあそのへんは置いとくことにしよ。

 

 最も大切なんは……ショウくんが私にとってかけがえないのない人ってことや。昔も今も……そしてこれからも。

 

 でも私の中で変わったこともある。

 初めてショウくんを見た時は私と同じで寂しい目をしてる子やと思った。表情は人から心配されるのが嫌で笑顔を作っていた私と違って無表情やったけど。それでも似たような傷があるのは何となく分かったのを今でも覚えてとる。

 それから図書館で何度か見かける内に話しかけてみたくなった。本が好きな者同士なら何かしら話せると思ったし、自分のことを理解してくれると内心期待しとったからや。まあ最初の方は嫌がられたりしとったけど、根負けしたのか気が付けばショウくんとはよく会うようになっとった。

 年下ということが分かってからは弟みたいに思うときもあった。私よりもしっかりしとったからこっちが甘えてばかりやったけど……。

 

 けどそれも闇の書事件……壊れてしまった夜天の書を巡る事件がきっかけで変わり始める。

 

 あの事件がきっかけで私には新しい家族が出来た。ショウくんは疑問を抱いたはずやけど、それを口には出さずにヴォルケンリッター達を受け入れてくれた。

 せやけど……私の体が蝕まれてたことでヴォルケンリッター達は罪を犯してしもうと。ショウくんともそれでぶつかることになってお互いに悲しい想いをさせてもうたんや。

 結果的に言えば、これまでの中で最善の終わり方を迎えた。でもあの子達が犯した罪が消えるわけやないし、私はあの子達の主。ならあの子らの罪は私の罪でもある。

 あの事件がきっかけで私は1歩踏み出すことを決意した気がする。それに悲しい出来事ではあるけど、それだけやない。魔法と出会ったことでヴォルケンリッター達に出会って……なのはちゃんやフェイトちゃん達とより親しくなれた。親友と呼べて仲間とも呼べる人達と出会うことが出来たんや。

 

 まあ……そのせいと言ったら失礼なんやろうけど、ショウくんの周りに可愛い子が増えたのも感じた。

 

 ショウくんの性格が性格やから友達が出来たことは嬉しいと思った。でもなのはちゃん達とどんどん仲良くなるのを見て……それまで感じてなかった気持ちが出てきたんや。アリサちゃんやシャマルとかにからかわれた時は否定しとったけど、本当は早い内からやきもちを妬いてたと思う。

 でも仕方がないやろ。年々ショウくんは男らしくなっていくし、信念みたいなもの持ち始めてからはよりカッコ良くなった。それに自分以外の女の子が次々と仲良くなっていくんやで。しかも全員可愛いわけやから気が気でないんは当然のはずや。

 だからといって行動に移ったんは中学3年生の時やけど。……よう考えてみたらあの頃からショウくんのことを好きとまではいかんでも気になっとる子は多かった。よく誰とも恋愛に発展しなかったもんや。

 まあ中学卒業してからは私らは魔法世界に移ってもうたし、仕事ばかりしてあんまり交流らしい交流がなかったからやろうけど。

 

 だからちょっと安心しとったわけやけど……ショウくんは昔からさらりとときめくこと言ってまう。六課が解散したあの日のみんなの反応見て正直焦ったわ。

 

 今思い返してみても六課が解散してからの私はこれまでで最も仕事を捌けていたと思う。恋は人をダメにするって言われたりもするけど、人それぞれってことやな。

 事件の後処理を速攻で片づけた私は、どうにか勇気を振り絞りショウくんに連絡した。可能な限りいつもどおりに振舞ったつもりやったけど、多分ショウくんには感づかれてた気がする。

 私がショウくんを呼び出したのはアインスが空に還って場所。時間帯はあの日と同じ空が茜色に染まり始めた頃だ。

 覚悟を決めてその場に立ったはずなのに私は長い時間沈黙したままで……それでもショウくんはただ静かに私の方を見つめて待ってくれた。どれくらいの時間が経ってから口を開いたのかはよく覚えていない。

 

『…………あんなショウくん。……あの日、自分勝手な告白して……それで長い事待たせてもうてごめん』

『……そうだな、あの日からずいぶんと経った』

『うん……正直私がこないなこと言うていい資格はないんかもしれへん。せやけど……せやけど聞くだけ聞いてほしいんや』

 

 このときほどショウくんの目を見るのが怖いと思ったことはない。長い間振り回し続けてきた相手に再度告白なんて自分勝手にほどがある。そう自覚しとったからや。

 でも……言わないでいたらきっと後悔する。前に進んでいくことが出来なくなる……そう思ったんや。やから私は……

 

『私は……ショウくんのことが好きや。正直気が付けばショウくんのことを考えてまうくらい大好きなんや。もしも……もしも許されるのなら私のことをお嫁さんにしてください!』

 

 

 

「…………あれ……ショウくん?」

 

 先ほどまで目の前に居たはずの愛しい人の姿が見えない。それどころか、頭がぼんやりとしている。まるで寝起きのように……

 ……あぁー私、寝てしまっとったんやな。

 今日は休日なのでいくら寝ても問題ないんやけど、寝落ちしてしまったんはええことやない。そのへんで寝て風邪でも引いてもうたら社会人失格。というか、そないな人間が自分の部隊を持つなんて夢のまた夢や。

 

「……まあ体調は問題あらへんし、気持ち良かったから良しとしよ」

 

 それにええ夢も見れたしな。あれからそんなに時間が経ったわけやないのにずいぶんと前のことに感じる。それだけあの日からの日々が濃密やったってことなんやろうな。

 左手の薬指に煌く指輪。これだけ言えば大抵の人は理解してくれるだろう。

 そう……私こと八神はやては無事ショウくんと交際をスタートさせた。正直に言えば、告白の際に付き合ってくださいやのうてお嫁さんにしてくださいと言い間違えたりもしたんやけど。ただそれが功を奏したのか、交際を始めて初めて迎えた私の誕生日にショウくんは指輪をくれた。

 

「ほんと昔からそういうとこ大胆というか……1番嬉しいと思うものをくれるんやから」

 

 左手の指輪見ながらにやける私は、見る人によってはおかしな人に見えることだろう。これまでにヴォルケンリッター達にも見られてしまったことがあるのだが、ヴィータにはにやにやし過ぎだと言われてしまったことがある。まあ私が幸せならそれで良いとも言ってくれたわけだけど。

 

「……って、もうすぐお昼やないか。昼には帰って来るって言うてたしご飯作って待っとかんと」

 

 ソファーから起き上がりながら一度大きく背伸びをし、私はキッチンへと足を運ぶ。冷蔵庫の中を確認して、残っている材料で作れる料理を考えながら昼食を作り始める。

 

「毎日のようにやっとることやけど……やっぱりショウくんに作ってあげると思うと幸せや」

 

 シグナム達に作ってあげてるときも幸せな気分ではあったわけやけど、やっぱり抱いている愛情が違うだけにまた違った気持ちになる。

 ただ今私がしている指輪は婚約指輪でもある。つまりショウくんは結婚も視野に入れてくれてるわけや。結婚したら今の気持ちもシグナム達と同じような感じになってまうんやろか。出来ればずっと今の気持ちを持って生活していきたいんやけど。

 

「でも……いつまでも恋人気分ってわけにもいかんやろな。なのはちゃんとこは今も昔も新婚みたいにラブラブやけど、誰もがあのふたりみたいに過ごせるわけやないし。多分やけど子供が出来たら変わってくる部分があるやろうしな」

 

 ショウくんにはまだ言うてないことやけど、私は今すぐにでも子供が欲しい。

 キスとかあっちの方の初体験はすでに終わってるけど……まだ籍は入れとらんからなぁ。私は別にいつでもショウくんのお嫁さんになって《夜月はやて》になる準備は出来とるんやけど。

 ただ……ショウくんはともかく私の方の仕事が落ち着いてなかったりするからな。子供が出来たら今よりも格段に気を遣わんといけんごとなるやろうし……すぐには言えんやろうな。

 

「でもやっぱり子供ほしいと思ってまう……出来れば最低でもふたり。男の子ひとり女の子ひとり……」

 

 男の子はショウくん似で口数は少ないけど優しい子。女の子は私に似てよくしゃべる活発な子がええな。でも逆に男の子が私似で女の子がショウくん似でもええ気がする。ただどっちがお兄ちゃんお姉ちゃんになっても、多分私に似た子はショウくん似の子が大好きでべったりなんやろうな……

 

「双子とかやったら最初は大変やろうけど、育ててる内に昔の私とショウくんを見るような感覚になりそうやし……母親と恋人、ふたつの意味で幸せを感じられそうや」

 

 まあショウくんとの子供なら何人でも欲しいんやけど。

 今はシグナム達がしばらくショウくんとのふたり暮らしを楽しめと気を遣ってくれてるわけやけど、そのうち一緒に暮らすはず。そのときはみんな八神やのうて夜月になっとるかもしれへんな。

 私にショウくん、シグナムにヴィータ、シャマル、ザフィーラ……それにリインとアギト、ファラとセイバーも居るわけやからすでに大家族やな。

 

「そこに何人も子供が生まれたらテレビに取り上げられてもおかしくないなぁ……せやけど手間が掛かるんは生まれてくる子供だけやろうし、みんな可愛がってくれそうやから幸せな日々が過ごせそうや」

「まあそれは否定しないが……シグナムとかはあやすのに苦労しそうだがな」

「せやな……それに普段は厳しいやろうけどああ見えて甘いから私らに黙ってこっそり何か買ってあげたりしそうや。まあそれはヴィータとかシャマルも同じやろうけど……」

 

 ……ちょい待ち、今私は誰と会話したんや?

 さっきまでこの家には私しかおらんかったはず。私がひとりで会話した……なんて可能性はゼロや。だって聞こえてきた声は低かったんやもん。というか、聞き慣れた声やから誰かと間違えたりするわけない。

 

「――ショ、ショウくん!?」

「よう、ただいま」

「う、うんおかえり……って、いつ帰って来たんや!?」

「いつと言われても……お前が俺に料理を作るのが幸せだとか言ってたあたりにはすでに居たが」

 

 …………。

 ………………。

 …………………大分前から居るやないか!?

 ちょっ……ということは子供がほしいとか私が思い描いている未来図みたいなのを聞かれたってことに。な……何ですぐに声を掛けてくれへんのや。めっちゃ恥ずかしいやないか!

 

「ショウくんのバカ、アホ! 帰ってきてんならさっさと声掛けてくれてもええやろ。放置して独り言聞くとか趣味悪すぎるわ!」

「怒鳴る割に調理を止めないのはさすがだな……まあそれはいいとして、言っておくが俺は声は掛けたぞ。それで反応がなかったから近づいて声を掛けたんだ」

「う、嘘や!?」

「否定するのは勝手だが紛れもない真実だ」

 

 ショウくんの目を見つめるがそこには全く揺らぎのようなものはない。それ故に昔から付き合いのある私にはショウくんが嘘を言っている可能性はほぼないということが分かってしまう。

 

「そ……その、今聞いたことは適当に流しといて。こうなったらええなっていうただの妄想であって……別に深い意味はないから!」

「まあ……そう言うならそうするが。俺は別に現実にしてもいいんだがな……子供がほしくないと言ったら嘘になるし」

 

 一瞬ショウくんが何を言っているのか理解できなかった私はフリーズする。

 私の聞き間違いでないなら……今ショウくん私との子供ほしいって言ったよな。それってつまりあんなことやこんなことをして愛を深めたいということで……

 

「ショ、ショウくん今のほんまか!?」

「お、おう……まあ世間的なことを考えて籍は早めに入れた方が良いだろうし、お前の仕事に支障が出ないならだが。子育てに必要な貯蓄はあるし、シグナム達も居るから不安もそうないから……」

「じゃあ今すぐ役所に行って結婚届出そ……って、その前にレーネさんに挨拶に行くべきやな。いや、でもあの人ならあっさりと認めてくれそうやし……というか付き合い始めてから孫はまだかいって聞いてくるからなぁ。別に行かんでもええような気はする……」

 

 今の言葉を知人に聞かれたらそんなあっさりと結婚していいのかって言われそうやけど、よう考えてみてほしい。私は二度目の告白で付き合ってほしいやのうてお嫁さんにしてくださいって言うたんやで。つまりプロポーズは済ませとるんや!

 

「とはいえ、今後は親子になるわけやから自分勝手に進めるのは悪手や。幸せな結婚生活のためにもそのへんの関係はちゃんとええものにしとかんと。となると今すぐにでも出来ることは……」

「はやて……少し落ち着いたらどうだ?」

「ショウくん、私は至って冷静や。……せやから……今日から子作りに励もうな」

「……あのな……恥ずかしいならそういうこと言うなよ」

 

 そうやけど……言わんと伝わらんこともあるし、そもそも私は本音を聞かれてもうたんやで。それなんに遠慮するとかバカみたいやん。というか、ショウくんかて顔真っ赤なくせに……

 

「それは嫌や……ショウくんの子供ほしいんやもん」

「お前な……だったら遠慮しないからな」

「え、ちょっ……さすがに今からは。せめてご飯食べてから……あと出来れば少し遠慮してほしいかなぁなんて。足腰に力入らなくなってまうから」

「本気でやれって誘ってきたのはお前なんだが?」

「そ、それは……いや、女は度胸や。私も覚悟決めた。今日はショウくんのが出なくなるまで徹底的にヤるで!」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。