魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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04 「アリサ・バニングス」

 人生何が起こるか分からない。

 なんて誰かが言っていた気がするけど、確かにそう思えることは人生の内に一度はある気がする。例えば……それは長年の夢にしていた仕事をできる場所にダメだと思ったのに就職できた時。マイナス面で言うなら歩道を歩いていたのにそこに車が突っ込んできて怪我をしてしまった時なんだろう。

 まあ……あたしの場合、どちらかといえばプラスの方なんでしょうけど。

 こんな言い方をしてしまうとあいつに悪いのかもしれない。だけど多分この話をすれば、あいつもあたしと同じ感想を抱く気がする。

 夜月翔。あたしの親友であるなのは達よりは付き合いは数年くらい短いけど、それでも幼馴染と呼べるくらいには交流が続いている人物。そして……あたしの恋人でもある。

 

「……本当不思議よね」

 

 あいつと話すようになったのは小学3年生の時からだ。

 正直な話をすれば、あたしはそれよりも前からあいつの名前だけは知っていた。あたしも含めてあいつもテストの成績でいつも上位に入っていたからだ。

 だから初めて同じクラスになった時、あいつがあの夜月なんだと思った気がするわ。他には……愛想がないというか無表情な奴だって思ったわね。あの頃のあいつってあんまり笑ったりしなかったし。

 あの頃のあたしは今よりも子供で負けず嫌いな部分を表に出してしまっていた。まああいつとの会話なんてないに等しかったから露骨に嫌な顔をしたり、テストの成績で負けて悔しがったりしてたわけじゃないけど。密かに若干ライバル視してたくらいで。

 

「いつからかしら……あいつと普通に話すようになったのって」

 

 最初は口を開くにしても挨拶や事務的な会話だけだったはず。でもいつの間にかなのはがあいつと仲良くなってて、すずかも趣味が合うということで交流を深めていた。

 なのはは誰とでも仲良くなる子だからすぐに納得した。あんな無愛想な奴とよくやるわ……、なんて思った気もするけど。すずかの方は……内気な方で異性とすぐに仲良くなることが出来る子じゃないから良い機会かもとか思ってたかしら。

 そんなことを思ってる内にフェイトやはやてと出会って、そのふたりもショウと交流があって……一緒に居ることが多かったあたしも必然的にあいつと話すことが増えたのよね。中学に上がった頃には何でも気軽に言い合える感じになってて……

 

「……それでも他と比べたら話した回数は少ないでしょうけど」

 

 あいつと話すことに抵抗があるわけでもなければ、楽しくないわけじゃない。それでもなのは達と差が出てしまったのは性別による違いからなのか、それともあいつがなのは達ほど心配する必要がなかったからなのか……。

 多分……その両方でしょうね。

 あいつは在学中から言っていたようになのは達と同じように中学を卒業してから魔法世界に移った。いつものように顔を合わせていたのになかなか会えなくなるのは寂しいことだけど、それでも自分の夢のために選んだことなのだから止められるはずもない。

 だけどなのはもフェイトもはやても……滅多にこっちに戻らないのよね。

 仕事が忙しいのは分かるし、あの子達の仕事が多くの人達の助けになっていることも知っている。でもあの子達だって普通の人間だ。笑いもすれば泣いたりもする。魔法なんて力を持っているだけのただの女の子。休まずにずっと頑張れるはずがない。

 それに……ひとりで抱え込む癖があるから余計に心配になる。話してもらったところであたしが力になれることはないのかもしれない。でもだからって友達が苦しんでいるのに何もできないのは嫌だ。たとえ待つことしかできないのだとしても、ここがあんたの帰って来る場所なんだと言うくらいのことはあたしはしたい思ってしまう。

 

「…………だからなのかしらね」

 

 最初は定期的にこっちに帰って来るあいつを経由してあの子達に気持ちを伝えるのが主な目的だった。

 だけど、あいつにも辛い過去がある。こうだと決めたらそれを貫き通す意思がある。誰かのためなら傷つくことを厭わない強さがある。それに……弱みを見せずに抱え込んでしまう脆さがある。

 それが話す度に分かってきて、気が付けばなのは達と同じように放っておくことができない存在になっていた。いや……あの子達よりも休みを取る真人間なだけに余計に心配していた気がするわ。

 そのせいかこっちから連絡を取るようになったし、定期的に帰って来ないと不安に思うようになった。だから顔を合わせた時は安心したし、別れる時は寂しさも相まって心が揺れた。

 そんな日々を過ごす内にふと自分の気持ちに気が付いた。

 気が付けばあたしはあいつのことを誰よりも心配していることに。あいつからあいつやあの子達の話を聞くことを楽しみにしていることに。そして……

 

「――あたしがあいつのことを……」

 

 ショウのことを……好きになってしまっているということに。

 それが分かった時、とても恥ずかしくてむず痒くて……それと同時に嬉しくもあり、悲しくもあった。好きになってしまった自分を責めもした。だって……あの子達の中にはショウに想いを寄せている子が居たから。それも昔から分かっていたから。

 そのとき、不意に体に振動を感じる。揺れ方からしてマナーモードにしていたケータイが振動しているようだ。この揺れ方からして着信中なのだろう。ケータイを取り出すとそこには《月村すずか》と表示してある。

 

「もしもし?」

『あ、アリサちゃん。今大丈夫かな?』

「ええ、問題ないわ。それでどうしたの?」

『えっとね、簡単に言っちゃうと暇だからどこかに遊びに行こうってお誘いなんだけど……』

 

 長年の付き合いなのだから顔色を窺うように訪ねるんじゃなくビシッと言いなさいよ。

 そんな風に思わなくもないけど、ビシッと言われるとそれはもうあたしの知るすずかじゃなくなるのよね。フェイトに似て内気な方だし、1歩引いて相手を立てる大和撫子みたいな子だから。

 故にまあこれがすずかよね、ということに結局落ち着いてしまう。

 

「いいわよ……って言いたいところだけど、あいにく今日は先約があるのよね」

『そうなんだ……あ、ふふふ』

「何で急に笑うのよ?」

『ううん、別に何でもないよ。ただ今日のアリサちゃんはイチャイチャするんだろうなって思っただけで』

 

 笑いながら言っているであろう声からしてすずかはあたしが会う人物が誰か分かっているんだろう。しかし、だからといって……

 

「別にイチャイチャなんかするつもりないわよ。というか、何であんたの脳内ではあたしがショウとそういうことすることになってんの!」

『ふふ、私はショウくんとなんて一言も言ってないんだけどなぁ。それにアリサちゃんはショウくんの彼女でしょ。イチャイチャする理由はちゃんとあると思うんだけど?』

 

 揚げ足を取られる言葉にあたしの羞恥心はさらに増し言葉が詰まって反論できない。

 あぁもう……何であいつの名前を口にしちゃうのかしら。これじゃあ本当にあたしがあいつとイチャつくことを考えていたみたいじゃない。……まあ全く考えてなかったかと言われたら嘘になるけど。あいつはあっちに住んでるし仕事もしてるからなかなか会えないし。

 けど、そもそもすずかが茶目っ気を出さなければいいだけなんだけど。冷静に考えると昔からそういうところはあったにはあったけど、あたしがショウと付き合うようになってから頻度が増した気がするわ。

 

「あのね、外で会うんだからあんたの思ってるようなことはしないわよ」

『ならどこかに入ったらするんだ』

「しないわよ!」

 

 ……あいつがしたいって言うなら別だけど。甘やかすつもりはないけど、今は毎日顔を合わせられるわけでもないし。腕を組んで歩いたり……周りに誰もいないならキスをしても。あいつがゆっくり出来るのなら……その…………それ以上のことも。

 すでに何度かしてるわけだし、あたしにだってそういう欲求はあるわけで。あっちにだって同じようにあたしを求める欲求はあるわけだし、望むのなら応えてあげるのが道理というものでしょ。

 そもそも、あたしとあいつは遠距離恋愛……地球とミッドチルダっていう一般人からすれば考えられない距離での恋愛をしているのよ。

 しかもあっちには今でもショウのことが好きそうな子達が結構居るわけで……あいつが浮気なんてするなんて思ってないけど、酒に酔った勢いでとか禁欲し過ぎで爆発しそうな時に誘惑されたら間違いが起こる可能性は十分にある。

 

「そろそろ待ち合わせの場所に着くから他に用がないなら切るわよ」

『うん、ショウくんとのデート楽しんでね。あっ、ついカッとなってケンカとかしちゃダメだよ。落ち込んでるアリサちゃんを励ますより惚気話を聞く方が楽なんだから』

「うっさい、一言余計よ。じゃあね」

 

 そう言ってあたしは通話を切る。

 怒鳴りはしなかったけど、最後のはどう考えても余計だと思うのはあたしだけだろうか。あたしのためを思って忠告してくれているんだろうけど、正直に言って素直に喜んだりはできない。

 ……と言っても、あいつへの気持ちで悩んでたあたしの背中を押してくれたのってあの子なのよね。

 すずかが居たからあたしはあいつに告白することが出来た。だからこそ今がある。そう考えるとすずかへの悪口を言うのに罪悪感を感じるわ。

 そんなことを感じている内に待ち合わせ場所へと到着する。ほぼ待ち合わせしていた時間になっているけど、他にも待ち合わせしている男女が多数居る。この中からあいつを探すとなると地味に骨が折れるかもしれない……

 

「よう、久しぶりだな」

 

 聞こえた声に反応して後ろを振り返ると、そこにはあたしの彼氏の姿があった。昔から分かっていたことだけど、相変わらず感情が表に出ていない。

 前から分かっていたことではあるけど……何というか微妙に癪に障るわね。毎日のように会ってるのなら別に良いけど、久しぶりに彼女に会ったんだからもう少し嬉しそうにしてもいいでしょうに。

 

「ええ、久しぶり」

「……何か怒らせるようなことしたか?」

「別に何もしてないわよ」

 

 素直に言えば変わる気はしないでもないけど、それは何だかあたしが会えなくて寂しがってたというか、もっとあれこれしたいと思われそうで負けた気になる。

 こういうところが人から素直じゃないとか言われるところなんでしょうけど、ただあたしはあたし。自分を偽ってまで人に好かれようとは思わないわ。まあ仕事とかなら話は別だけど。

 

「ならいいが……何かあれば言ってくれよ。鬱憤を溜められてすずかとかに当たられでもされるのは困るし」

「なら言わせてもらうけど、今の一言は余計よ」

 

 あんたが隣に居るんだからあんたへの鬱憤はあんたにぶつけるに決まってるじゃない。というか、何でそこですずかが出てくるのよ。子供の頃から付き合いがあるのは分かってるけど、まるでよく話してるみたいな口ぶりで言わなくてもいいと思うんだけど……。

 もしかしてすずか……あたしがこいつへの愚痴とかこぼしたり、惚気と思われるようなことを言っちゃってるからこいつに連絡してるんじゃないでしょうね。

 あの子大人しそうな顔してるけど、割と茶目っ気があるというかイイ性格してるから不安になるわ。……こいつのこと狙ってるとかじゃないわよね。……うん、さすがにこれは考え過ぎだわ。あの子はあたしの親友だし、そんなことするはずない。そもそも、あたしはいつの間にこんなにも独占欲が強くなったのかしら。

 

「さて……無事に会えたんだし、そろそろ行きましょうか」

「ああ。……そういや今日はお前がプランは考えるって話だった気がするが、現状どういう予定を立ててるんだ?」

「現状で言うならこれといって立ててないわよ」

 

 あっさりとした口調で正直に答えると、ショウの表情に呆れが現れる。

 話は逸れてしまうけど、昔からこいつって呆れとか嫌悪みたいな感情は素直に顔に出るわよね。まあはやてとかシュテルみたいな連中に絡まれてたからだってのは分かってるけど……ただ今でも仲良くしてるんでしょうね。

 別に遊ぶなとか言うつもりはないけど、昔みたいに距離感を考えてなかったら…………こんなことを考えるのはあとでもいいわね。

 

「あのね、あんたがどれくらいこっちに居れるのか分からないのに明確なプランなんて作れるわけないでしょ」

「まあ、それもそうだな」

「それで今日はいつまで居れるわけ?」

「いつまででも構わないぞ。有給も溜まり気味だったから数日分の休みは取って帰ってきたから」

 

 それはつまり……一夜を共に過ごしても問題ないってことよね。って、これじゃあまるであたしがこいつとしたいって思ってるみたいじゃない。したいかしたくないかと言われたら……だけど。

 というか、ゆっくりできるように休みを取ったのならこいつだって今日じゃなくても休みの内にしたいと思ってるはず。そうよ、そうに決まってるわ……もしこの考えが間違ってるなら若いのに枯れつつあるのか、あたしに女としての魅力がないか。はたまた……どこぞの女狐共に誑かされたか。

 

「おいアリサ、顔が怖くなっていってるんだが?」

「うるさいわね、今日のプランも考えてるだけよ」

 

 まったく、こいつは人の気も知らないで。いつも一緒に居るわけでもなければ、すぐに会える距離に居るわけでもないのよ。これに加えて、こいつの近くには可愛かったり綺麗な幼馴染達が居るわけで。あたしだって不安になったりもするんだから……言葉にはしないけど。

 

「……そうね、ついこの間出来たばかりの大型デパートがあるからまずはそこを見て回りましょ。そのあとはそのときの流れで決めていくわ」

「何ていうか……今日はずいぶんとアバウトだな」

「たまにはのんびりとするのもいいでしょ」

 

 あんたと一緒なら行く場所なんてどこでもいいのよ、と口に出しそうになってしまったのはここだけの秘密だ。

 フェイトやすずかみたいに大人しい感じの子が似たようなことを口にしたのなら男としても胸を打つものがある気がする。あたしが言うとなると……何というかタイプじゃないって感じよね。というか、そもそも恥ずかしくてまともに言える気がしない。

 そんなことを思いつつあたしは、ショウの腕に自分の腕を絡ませながら彼を引く形で歩き始める。

 手を繋ぐ形でも良いと言えば良いんだけど、個人的には腕を組む方があたしは好きだ。世間で言うところのお嬢様的な教育を受けたり、これまでにパーティーに何度も参加したことがあるので手を繋ぐことよりも腕を組むことの方が抵抗がないだけかもしれないけど。

 

「……やれやれ」

「どうかしたの?」

「いや別に……今日はやけに人の目がこっちに集まってるな、と思っただけさ」

 

 周囲を一瞥してみると確かにこちらをチラ見する人間は何人も確認できた。まあその中にはあたしが視線を向けたからそれに反応した人も居るでしょうけど。

 

「別にガン飛ばしてる人はいないようだし気にしないでいいんじゃない」

「まあそうなんだがな……」

「何よ、言いたいことがあるならはっきりしなさいよね」

「言えって言うなら言うが……あまり見られるのは気分として良くない。大分温かくなってきたからお前も肌を出してるし」

 

 その言葉にあたしの思考はわずかな時間だけど停止する。

 今の言葉の解釈は……目立つのが嫌ってのもある可能性はあるけど、それ以上にあたしが他の男に見られたくないってことで良いのよね?

 束縛どころか嫉妬すらしなさそうに見え、また口数が多いわけでもない奴なだけに今の発言はなかなかの破壊力だ。そう感じるのはあたしくらいかもしれないけど、正直他人の場合なんてどうでもいい。重要なのはあたしがどう感じたかってことなんだから。

 

「た、確かに前に会った時よりは薄着だけど別におかしくないでしょ。というか、あたしの彼氏ならそんなこと気にせずに堂々としてなさいよね!」

 

 なんて言ったけど、顔に感じる熱からしてあたしの顔は赤くなってるはず。それに今の声をあたしを知っている人に聞かれてたら嬉しそうだとか言われてただろう。

 つまり……ただでさえ人の感情の変化に敏感があるところがあるこいつには、あたしの内心がバレバレのはずだ。そもそも、顔は背けてるものの腕を組むのやめてないのだから怒ってないのはバレる……

 

「そうだな。お前と付き合う時点で予想出来てた状況でもあるし」

「そういう風に言われると……何か癪に障る者があるわね。厄介事に巻き込む女みたいな意味で」

「アリサは綺麗だから人の目を惹くのは仕方がないって解釈にしてくれ」

 

 ――き、綺麗って……さらりと何言ってんのよバカ!

 べべ別に嬉しくないんだからね。綺麗とか美人だとか今までに何度も言われてきてるんだから。ただ綺麗って言われただけでデレデレする女とか思わないでよ。

 というか、何であんたはさらりとそんなセリフが吐けるわけ? 前々から時々そういうことを言うのは知ってたけど、ここぞってタイミングで言うのやめてほしいんだけど。嫌ってわけじゃないけど、こっちとしても心の準備が出来てないから破壊力が凄まじく感じるし。

 それに……人の目を惹くのはあんたもでしょうが。長身で顔だって悪くないんだし、鍛えてるから全体的に引き締まって見えるんだから。ここに来るまでにあんたをチラ見する女が何人居たと思ってんのよ。

 まあどこの馬の骨とも分からない女が近づいてきたところで敵じゃないけどね。あたしにとって敵になるのはあの子達だけよ。可愛い顔してやると決めたら何でもやりそうだし。

 

「……ところで」

「ん?」

「あんた今後どうしていくつもりなの?」

 

 今ショウは技術者としての仕事をメインでやってるらしいけど、こいつはあの子達と同じように危ないこともする。

 本音を言えば危ないことはしてほしくないけど、人のためになる仕事なのは理解しているし、自分で選んだ道なのなら応援してあげるべきだろう。あの子達もだけどこいつも言って聞くようなタイプじゃないし。

 

「前になのはみたいに教導だっけ? そういう道もありかなって言ってたでしょ」

「まあな。とはいえ、俺には技術者としてのキャリアはあってもそっちのキャリアはほとんどないからな。前になのは達と一緒にやったことがあるだけで……資格は持ってるし、なのはあたりに頼めばどうにかなりそうな気はするが」

 

 やろうと思えばやれるチャンスはありそうなのに実行に移してはいない。それって本当はやりたいと思ってるの? それとも思ってないの? まったく……

 

「はっきりしないわね」

「仕方ないだろ。派遣として一時的にやるならともかく、仕事をがらっと変えるのは難しいんだから。急に技術者をやめるなんて言ったらシュテルに何されるか分からんだろ……いや、される方がまだマシか。無言で拗ねられるのが1番面倒だし」

「相変わらずあの子のことはよく分かってるわね。さすがはあの子のパートナーだわ」

 

 皮肉ではなく呆れの口調になったのはシュテルがどういう性格をしているか知っているからだろう。

 日頃からすぐからかってくる相手が傍に居るのは疲れるし、他にもショウの周りにはレヴィやユーリも居たりする。元気でうるさいのと何でもストレートに言葉にする子の相手をするのもなかなかに体力や精神力を使ってしまうだろう。

 単純に仕事のパートナーはあの子でもプライベートのパートナーはあたしだっていう自負があるから余裕なのかもしれないけど……でもそれほど強いものでもないのよね。すぐあれこれ考えてやきもち妬いちゃうし。

 

「……というか、あんたの周りって異性が多すぎない? 話に出てくるのが知ってる子達ばかりだからあれだけど、普通なら彼女から質問攻めとか小言を言われてもおかしくない状況よ」

「それは……まあそうなんだろうな。アリサも本当は何か言いたいのか?」

「あの子達とのことをあんたに言っても仕方ないでしょ」

 

 昔から付き合いがある子達ばかりなんだから距離を取れなんて言いにくいし、社会人が多いから会える機会だって多くはないんだろうから。

 

「浮気しなければとやかく言うことはないわ……してないわよね?」

「してるわけないだろ……アリサもそういうこと言ったりするんだな」

「あんたのこと信じてるから言いたいとは思ってないけど、あたしだって人の子よ。知り合いとはいえ……ううん、知り合いだからかしらね。あんたの口から異性の名前ばかり出てたら少しは間違いが起こるんじゃないかって考えもするわよ」

 

 なのは、フェイト、はやて……はやてのところは下手をすれば八神家全員で何か仕掛けてくるかもしれない。さっき言ってた教え子の中には割と年齢の近い女の子がふたり、確かスバルとティアナだっけ。あのふたりが居たはずだし。

 他にもシュテル、レヴィ、ユーリといった技術者としての仕事仲間。同じ大学に通っているすずかやディアーチェあたりも内心どうなのか分からないわ。

 本音としては全員疑いたくはないんだけど、ショウと親しい関係だし……学生時代はショウに気があるんじゃないかって反応をしていた子がチラホラ居る。それに全員可愛かったり綺麗だったりすれば普通に考えて心配にもなるわ。

 

「大学を卒業したらそっちに行こうとは思ってるし、そうしたら安心するかもしれないけど」

「別にこっちに居てもいいんだぞ」

「は? 何よ、あたしが近くに居たら嫌なわけ?」

「いやそうじゃなくて……正直こっちに来てくれるのは助かるし、嬉しいことではある。ただアリサは大学で勉強もしてるわけだし、将来の目標とかあるだろ?」

 

 確かになのは達が自分の道を見つけたようにあたしも自分の道を見つけて歩んできた。そのために大学に入って勉強してた。でも今は……

 

「心配しなくていいわ。あたしはあたしの意思でそっちに行くって言ってるんだから」

「お父さんの会社とか継いだりできなくなるぞ?」

「大丈夫よ。確かに前は会社を継いでとか思ったりしたこともあるけど……どうせやるなら自分の会社を持ちたいし、ここよりももっと広い世界でやりたいじゃない」

 

 地球以外にも世界は存在しているわけだし、あっちの世界は色んな世界と貿易してるんだから。それを知ってるなら、こんなちっぽけな世界で頂点を目指すより色んな世界が繋がってる世界で頂点を目指したいしね。

 

「まあ……あ、あたしとしては大学を卒業する前に迎えてに来てもらっても構わないんだけど。そ、その……誰かのお嫁さんっていうのも立派な就職だと思うし」

 

 …………あたし何言っちゃってるの!?

 今の完全に自分を嫁をもらえって言ってるようなものじゃない。そそそりゃ将来的には結婚してあれやこれやしたいって願望がないわけじゃない。けど何も今このタイミングで言う必要はないでしょ。何やってるのよあたしは……恥ずかし過ぎてショウの顔が見れない。

 というか、今すぐこの場を立ち去りたくなってきたわ。

 なんて思った直後、不意にあたしはショウに両手を顔に添えられる。強引に視線を合わせられたかと思うと、次の瞬間にはショウの顔がすぐ近くにあった。唇に何か触れているけど、何度も味わったことのある感触からして……あたしはキスされたらしい。

 

「…………ななな何やってんのよ!?」

「あ、いや……悪い。……今のお前が可愛かったからつい」

「なっ――!?」

 

 あれこれ言いたい気分なのに何も言葉にできない。こんなにも恥ずかしくて、嬉しい気持ちで溢れているのに気持ちを出せないというのは何てもどかしくて苦しいのだろう。というか、こいつはあたしのことを感情を高ぶらせて殺す気なのかしら。

 

「だ、だからって…………も、もう少し……場所くらい考えなさいよね」

「そ……そうだな。今後気を付ける」

「……今のは突然でよく分からなかったからもう一度しなさい」

「え……」

「どうせ一度したんだから……変わらないでしょ」

 

 あたしはショウに近づくと彼の肩を両手を置く。そのまま背伸びをすると、静かに自分の唇を重ねる。人前でするのはどうかと思ったりする自分も居るけど、いつかは人前でする日が来る。それの予行練習だとでも思えば問題ない。

 ううん、それ以上に今はこの気持ちを止めることはできない。だってあたしは、こいつのことがこんなにも好きなんだから。

 

 

 

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