魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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07 「レヴィ・ラッセル」

 とある休日。

 ボクは昔行ったことがある遊園地に向かっていた。今はバスの中でボクの隣には穏やかな顔をしているショウが座っている。反対側にはショウと比べると格段に小さなふたつの影。ひとりはショウをそのまま小さくしたような黒髪の男の子、もうひとりにはボクによく似て青みを帯びた髪をセミロングくらいで整えている女の子だ。

 この子達はボクやショウの従兄妹や親戚じゃない。ボクとショウの大切な子供達だ。

 これを昔のボクを知っている人が聞けば驚くかもしれないけど、ボクだってもう大人なんだぞ。好きの違いだって分かるようになってるんだから。というか、そうなってないとショウと結婚して子供なんて出来てないし。

 

「ねぇねぇ、遊園地にはまだ着かないの?」

 

 元気な声で訪ねてきたのは女の子。ボクの娘で名前はライカって言う。漢字で書くと雷華だ。夜月雷華って字面も響きもカッコいいよね。ボクに見た目も性格も似てるし、運動も得意だからきっと将来はカッコいい子になるぞ。

 

「ライカ、それはさっきも聞いただろ。ちゃんと着くんだから大人しくしてろって」

 

 ぶっきらぼうな感じに返事をしたのはショウではなく息子のアオバだ。漢字で書くと蒼葉。

 アオバはショウに似て大人しい方だけど、運動も勉強も出来るしっかり者。ライカとか仲の良い友達には口調が荒くなるところもあるけど、いつもライカの面倒を見てくれる優しいお兄ちゃんだ。

 ちなみにこのふたりは二卵性の双子なんだ。初めての出産で双子なのは大変だったけど、そのぶん無事に生まれてきてくれた時には予想の何倍も嬉しくて幸せだった。きっとパパやママがボクを産んだ時も同じように思ったんだろう。

 あとこれは余談になるかもしれないけど、ふたりの名前はショウがボクとの繋がりを意識して考えてくれたんだ。

 ボクは結婚して夜月レヴィになったわけだけど、ショウ達と比べると血筋が違うのは丸分かりの名前だよね。でも苗字は夜月なわけだからそっちに近づけた方が字面や響き的に自然。だからボクの髪色とか魔法資質とかから連想してふたりの名前に蒼と雷が入ったんだ。アオバはともかくライカの方は将来的に何か言われる可能性はありそうだけど、でもきっと大丈夫。ボクの娘なんだから何か言われても逆にカッコいいだろって言えるはずだ。

 

「む……ライカは大人しくしてるもん!」

「いやお前が思っている以上にしゃべってるからね。というか、現在進行形で騒がしいんだけど」

「騒がしくない!」

「ライカ、分かったからもう少し声小さくしようね。アオバもあんまりライカのこといじめない」

 

 ボクが注意するとふたりとも静かにはなったけど、お互い納得してないのか頬を膨らませたりしている。こういうところが似るあたり兄妹なんだろう。もうちょっと別のところで似たほしい気もするけど、まあ可愛いからいっか。

 

「ふ……」

「ショウ、どうかした?」

「いや何でも」

「何でもないってことはないでしょ。いいから言ってよ、気になるじゃん」

「本当に大したことじゃないんだがな。あのレヴィがちゃんと母親出来てるって改めて思っただけで」

 

 優しいけどどこか意地悪な笑みにボクは恥ずかしさの混じった怒りが沸き上がる。

 母親出来てるって……大したこと云々の前に今更言うことでもないよね。というか、ショウはボクがちゃんとママ出来てないって思っての!?

 そりゃ確かにアオバ達が生まれたばかりの頃は初めての子育てで苦労したし、周りに迷惑も掛けちゃったけど。でもふたりが物心ついてからは結構ママとしてやれると思うんだけどな。ま、まあ……ふたりの精神年齢が同年代の子よりも高いから他のところよりも楽な部分はあるけど。ただそれでも……

 

「ボクはいつだってママしてるよ。そ、そりゃボクよりもショウの方が料理とか上手だけどさ。だけど毎日一生懸命やってるんだぞ!」

「分かってる、分かってる。お前がちゃんと母親として努力してるのは分かってるさ。だから落ち着けって。ライカに静かにしろって言ったばかりだろ?」

「うぅ……」

 

 何か適当に相手をされた感じがして言い足りないところだけど、正論なだけにここで言っちゃうのはママとして示しがつかない。

 

「母さんってさ……本当にライカの母さんだよね」

「うん? アオバ、何言ってるのさ。そんなの当たり前だよ」

「いや、そういう意味じゃなくて……父さん、よく母さんと結婚したよね」

 

 呆れたようにため息を吐きながらショウに話しかけるアオバは本当に昔のショウみたいだ。

 抱き着きたい気持ちが込み上げてきただけど、さすがにもう空気が読めないほど子供じゃない。大体息子からバカにされているような発言をされたのに喜びながら抱き締めたらそれこそ本当に呆れられてしまう。

 

「大人の割に落ち着きがないように思える母さんにだって良いところはあるからな」

「ふーん……父さんの性格からすればシュテルさんとかディアーチェさんの方が合ってる気がするけど」

 

 子供は時に残酷だって言うけど……アオバはそれが顕著だと思う。悪気はないんだろうけど、ボクもこれまでに何度か思ったことがあることを口にしちゃうだけになかなか精神的にダメージが……。

 こんなことでショウがボクのことを捨てたりするとは思わないけど、それでもやっぱり気にしちゃうよね。だってボクはショウの奥さんなんだから。

 

「アオバは分かってないね。パパみたいな人だからママみたいな人が良いんじゃない。人っていうのは自分にないものを求めるらしいし」

「確かに父さんと母さんは正反対な人ではあるけど……まあふたりが良いなら良いんだけどさ」

「アオバ、ボクとショウの関係っておかしく見える?」

「ううん、別にそんなことはないけど。たまに母さんが子供っぽく見えることはあるけど、僕達にはちゃんと母さんとして接してるし」

 

 さらりと子供から子供扱いされるような発言があった気がするけど、ママとして認めてくれてるようだから黙っておくことにしよう。

 そうこうしてる内に目的地である遊園地に着いたようでボク達はバスから降りる。その際、バスの運転手にきちんとお礼を言っていくあたりアオバもライカも良い子に育ったと思う。

 

「早く早く~!」

「ライカ、落ち着け。もう遊園地は目の前にあるんだからどこにも逃げやしないって」

「だから早く遊びたいの。遊べる時間は限られてるんだから。アオバは遊びたくないの?」

「遊びたくないわけじゃないけど……これまでの経験上、ライカと一緒に回ると疲れそうなんだよなぁ」

 

 ふたりのやりとりを見てると昔のボクとショウを見ているみたいだ。まあアオバは多少なりともボクの影響を受けているのか、ショウよりも口数が多い気がするけど。それに表情も年相応に表に出るし。

 

「むぅ……アオバはライカのこと嫌いなの?」

「は? 別に嫌いじゃないけど」

「じゃあ何で今みたいなこと言うの。ライカは何を言われても傷つかないバカじゃないんだよ。アオバのことだって大好きなのに!」

「いや、だから嫌いとは言ってないだろ」

「ちゃんと好きって言って!」

 

 前から分かっていたことだけど、ライカは本当にアオバのことが好きだよね。まあちょっと好き過ぎる傾向にあるというか、今はまだともかくこのまま大きくなると将来的にブラコンになりそう。ボクとしてはブラコンでも良いとは思うけど、アオバはショウに似てるからなぁ。距離感が近すぎたりするのは苦手なんだよね。

 

「何で言わなくちゃいけないのさ」

「うぅ……アオバなんて大嫌い! もうアオバのお嫁さんになってあげないんだから!」

「お嫁さんって……兄妹じゃ無理だろ。双子なんだから血だって繋がってるんだし」

 

 アオバはどうにかして、と言いたげな顔でボク達を見てくる。

 うーん……一般的にアオバの言っていることは正しいんだけど、ママとしてはもうちょっと妹の気持ちを考えて発言してほしいかな。優しいのは知ってるけど、ショウと同じでその優しさが分かりにくいというか素直じゃないところがあるし。恥ずかしがらずに愛情表現をしてほしいな。

 そう思っているとショウがライカに近づいていき、彼女の傍まで来るといったん腰を落としてそっと抱き上げた。

 

「泣くなライカ」

「泣いてないもん……」

「別にアオバはお前のこと嫌ってない。恥ずかしくて好きだって言えないだけさ」

「……ほんとう?」

「ああ。普段から接してるライカならよく知ってるだろ。アオバは嫌いなものとかにははっきり嫌いだって言う奴だって」

 

 ショウはライカを抱きかかえながら空いている片手で優しくライカの頭を撫でる。それにライカは安心感を覚えたのか、徐々に表情は落ち着いたものに変わっていく。

 

「パパはライカのこと好き?」

「ああ、大好きだよ」

「えへへ……ライカもパパのこと大好き。だから大きくなったらパパと結婚する~♪」

「なっ……!?」

 

 ラ、ライカは何を言ってるのかな。さっきアオバと結婚するって言ってたよね。そそそりゃ小さい子供はパパのことが好きだろうし、その場のノリみたいので今みたいな発言するだろうんけど。だけどショウはすでにボクと結婚してるんだぞ!

 

「ダ、ダメ! ショウはもうボクと結婚してるんだからライカとは出来ないの!」

「何で?」

「何でってそういう決まりなの。重複婚を認めてる世界もあるだろうけど、ボク達のところじゃダメなんだから」

「ライカ、難しいこと言われても分かんない」

「こういう時だけ子供ぶるなんて卑怯だぞ!」

「子供ぶってないもん。ライカは子供だもん!」

 

 一般的な子供はこういうときにそういう返しはしないから。

 もう……ショウ側の血筋は頭良い人が多いし、ボクも数学に関しては人よりも出来るからなのかライカもアオバも頭良い方なんだよね。

 悪い事じゃないんだけど、凄まじい勢いで言葉を覚えたりしてるからママとして日に日に不安になっちゃうよ。中学生に上がる前にボクよりもマセてる子になっちゃったらどうしよう……ママとしての威厳が保てなくなるというか、相談とかに乗ってあげられなくなるかも。って、今はそんなことはどうでも良かった!

 

「だったら結婚するとか言わない。結婚できるのは大人になってからなんだから。そもそも、ショウはボクと結婚してるんだからライカとは出来ないの!」

「うぅ……」

「落ち着けレヴィ、子供相手にムキになるなよ。ライカが泣きそうになってるだろ」

「あ……でも」

 

 ショウの奥さんはボクだもん。そりゃライカ相手に嫉妬するのはダメな気もするけど、好きとかならともかく結婚するのは奥さんとして見過ごすわけにはいかないよ。ショウが本気になるわけないとは思うし、ライカは大切な娘だけど……1番好きな相手はボクであってほしいもん。

 

「でも、じゃない。お前はライカのママなんだし、自分が大人だって言うなら我慢も覚えろ。大体今日はライカ達のためにここに来たんだろ?」

「それは……うん、分かった。ボクが悪かったよ……ライカ、ごめんね」

「ライカ、ママが謝ってるんだから許してやれ。お前も少しわがままが過ぎたからな」

「わかった……パパがそう言うなら。ママ、ごめんなさい」

 

 ショウに言われたから仕方なくみたいな感じがするけど、そこを突っ込んでたらまたケンカしそうなのでやめておくことにした。ただボクらの雰囲気が元に戻ってないとショウは察したのか、抱きかかえていたライカをボクに渡してきた。

 ケンカしたばかりでライカは体を震わせる。それを見たボクは大人げなかった反省し、優しくライカを抱きかかえると頭を撫でながら口を開いた。

 

「ごめんねライカ、ライカは何か壊したりしたわけじゃないのに怒り過ぎちゃったね。ボクが悪かったよ、本当にごめんね」

「ママ……ううん、ライカも悪い子だった。ごめんなさい」

「やれやれ……まだ遊んでないのに疲れた気がする」

「子供が何言ってるんだ。疲れて寝るくらいちゃんと遊べ」

 

 ショウはそう言ってアオバの頭を撫でる。それに対してアオバはブツブツと何か言ってるみたいだけど、抵抗しないあたり嫌がってるわけじゃないようだ。顔が少し赤くなってるところを見ると嬉しいけど恥ずかしくもあるのだろう。

 入場券を買ったボク達は仲良く遊園地の中へと入る。ボクやショウが子供の頃から続いている遊園地なだけに何度か改装されたようで前はなかったアトラクションもあるようだ。

 

「ライカ、アトラクションがいっぱいだね。どれから乗ろっか!」

「えーとね、全部!」

「父さん、ライカはともかく母さんは落ち着かせるべきなんじゃないの? あのままだと本当に全部乗ろうとするよ」

「お前の母さんはライカよりはるかに元気だからな。疲れて眠ったりしないさ。仲直りしたばかりなんだから好きにさせておけ」

 

 ショウとアオバが何か話してるみたいだけど何を話してるんだろう? あれかな、アオバもああ見えて遊園地を楽しみたいとか。うん、そうだよね。子供は遊ぶことは仕事だし、いつもお兄ちゃんとしてしっかりしてるアオバだって遊ばないと。

 

「あ……ママ、ライカこれに乗りたい!」

「おっ、コーヒーカップ。さすがはライカ、ボクの娘だけあって良いもの選ぶね!」

「……父さん、嫌な未来しか見えないんだけど」

「いいかアオバ、時として嫌な未来だろうと立ち向かう必要があるんだ」

「ふたりとも何やってるの、置いて行くよ」

 

 何だかアオバの様子がおかしいけど……ボクの記憶が正しければ別に体調は悪そうにしてなかったよね。まだ遊んでもないし、移動で疲れちゃったのかな。

 

「アオバ、どうかした?」

「いや別に……何でもないよ。慣れないところだから落ち着かないだけ」

「本当?」

「うん……大丈夫だから。父さん……達も居るし」

「そっか。でも何かあったらすぐに言うんだよ」

 

 アオバが頷くのを見たボクはライカを連れて目的のアトラクションに向かって歩いていく。

 休日だけあって多くの家族連れやカップルが訪れているけど、手を繋いでいればライカ達が迷子になることはないはず。ライカにはボクが付いているし、アオバにはショウが付いてるから大丈夫だよね。

 と思った直後、ボクの空いていた手を誰かが握ってきた。誰だろうと思ったけど、ボクの手を包み込めてまた握ってくる相手なんてひとりしかいない。というか、今までに何度も手を繋いできたんだから分からないはずがない。

 振り向いてみると、そこには予想していたとおりショウの姿があった。彼の向こう側にはアオバの姿も確認できる。手を繋ぐのが恥ずかしいのか少し顔が赤いけど、まあそこは気にしないで大丈夫だろう。

 

「ショウ、どしたの?」

「迷子になられたら面倒なんでな」

「む……ボクだってもう大人なんだから迷子なんてならないよ。いつまでも子供扱いしないでよね」

「これまでに何度迷子になったと思ってるんだ? ……ま、そうだな。いつまでも甘やかすのもダメだろうし、ここはレヴィを信じるか…………レヴィ、手を放さないのか?」

「子供扱いされるのと手を繋ぐことは話が別なの」

 

 ただでさえアオバ達が生まれてからは前よりもスキンシップが減ってるのに……ショウはボクとスキンシップ取りたくないのかな。ボクはいつでも手を繋いだり抱き締め合ったりしたいのに。あ、もちろんショウの膝に寝転んで頭を撫でてもらうのもありだよね。ショウは撫でるの上手いからね!

 

「よし、着いたよ!」

 

 目的のアトラクションであるコーヒーカップにはそれほど人は並んでいない。これならすぐに順番が回ってくるだろう。ちなみにこれまでに何度もコーヒーカップって言ってるけど、それが正式名称なのかはボクは知らない。

 そんなことを考えている間にボク達の順番が回ってきた。家族全員で乗ろうと思ったけど、恥ずかしいからなのかアオバはライカと一緒に乗るのは気が引けるらしく、またライカはショウと一緒が良いと言う。後ろに並んでいる人も居たのでライカはショウに任せてボクはアオバと別のカップに乗ることにした。カップが動き出したのを見計らってアオバに話しかける。

 

「アオバ、今日は何だかライカのこと避けてる感じだけど具合でも悪いの?」

「別に悪くはないよ……ただいつもよりライカはテンション高くなってるから一緒に遊ぶと疲れそうってだけ」

「うーん……ボクとしては仲良く遊んでほしいところだけど、それでアオバが楽しめなくなるのも嫌だね。けどライカとしては多分アオバと一緒に遊びたいと思ってるだろうし、大丈夫そうな時は一緒に遊んでほしいな」

「言われなくてもそうするつもりだよ。構わないでいると駄々こねそうだし……泣かれでもしたら面倒臭いから」

 

 素っ気ない言い方だけどアオバをよく知るボクからすると優しいお兄ちゃんだと思う。正直ボクでもたまにライカの相手をすると疲れることがあるのに、アオバはなんだかんだ言うけどライカの面倒を見ないことはないから。

 凄く私的なことまで言っちゃうと、アオバの言動はショウによく似てる。だからショウのことが大好きなボクからするとすっごくキュンと来ちゃうんだよね。正直に言えば、今も抱き締めてなでなでしたい!

 

「アオバ!」

「っ……そんなに大声出さなくても聞こえるんだけど」

「そこについてはごめんなさい」

「別に謝らなくてもいいけど……それでどうしたの?」

「ママはアオバをなでなでしたい!」

「なでなで……まあ良いけど」

 

 恥ずかしそうにしながらもオッケーを出してくれるアオバ超可愛い!

 その感情のままに距離を詰めるとボクはアオバを抱き締めて頭を撫で始める。顔立ちや性格だけじゃなく髪質までショウに似てるから愛おしい。

 ――いやはや……1日こうしてても飽きる気がしないよ。

 ちなみにこれは余談になるけどショウに凄く似てるアオバだけど、瞳の色はボクと同じで赤色なんだよ。ライカは見た目はボク似だけど瞳の色はショウと同じ綺麗な黒色。ボク達の特徴がどっちにもあるから本当自分達の子供って感じがするよ。

 

「あぁーこうしてると落ち着く~」

「僕としては落ち着かないんだけどね……というか母さん、アレ大丈夫なの?」

「アレ?」

 

 アオバの視線を追ってみると……凄まじい勢いで回転しているカップが目に入った。そこには太陽のような笑顔で回転速度を上げようとしているライカと、徐々に弱りつつあるショウの姿がある。まるで昔のボク達を見ているようで懐かしい気持ちが込み上げてくる。

 

「……って、懐かしんでる場合じゃない!?」

「ここで母さんが慌てても意味ないからね。アレを見て何を懐かしんでいるのかは知らないけど、アトラクションが終わるまでは懐かしんでていいから」

「アオバ、アオバのその冷静なところは良いところだよ。でもさ、アレを見るように言ったのはアオバだよね? パパのことを心配してボクに見るように言ったんだよね?」

「それはそうだけど、ここで母さんに動かれる方が周囲に迷惑掛けそうだし。父さんはああ見えて鍛えてるんでしょ? というか、父さんも覚悟してライカと乗ったんだろうから今は見守るしかないよ。母さんの仕事はこれが終わってから」

 

 日に日にショウに似てきてママはすっごく嬉しいぞ。その一方で……年不相応に冷静過ぎて周りからドライな子って思われないか心配になるけど。下手したら子供の頃のショウよりやばい気がする。ボクの遺伝子が混じってるせいか、こういう時は割と素直に何でも言っちゃうから。

 なんて思っているとアトラクションは終了の時間を迎える。まったく回転速度を上げていなかったボク達は何事もないけど、最高速度に到達していたであろうあちら側は予想どおりショウが気分を悪くしていた。テンションが上がっていたライカもショウの具合が悪そうを見て不安そうな顔を浮かべる。

 

「パパ、大丈夫?」

「これが大丈夫に見えたらライカの目は腐ってるよ」

「な……ライカの目は腐ってないもん!」

「はいはい、分かったからここは母さんに任せるよ。母さん、僕らは父さんに水でも買ってくるからお金ちょうだい」

 

 常識的に考えるとふたりに見てもらってボクが買いに行く方が良い気はする。かといって……ショウに何かあった時、ふたりがボクよりも対応できるかというと怪しい。

 うーん……でもアオバと比べるとボクの方が対応できないんじゃないかって思うボクもいるぞ。ここはアオバに任せてボクが買いに行くべきなんじゃ。けどライカが慌てちゃったら……ここはアオバを信じよう。しっかりしてるのは知ってるし、可愛い子には旅をさせろって何かで言ってたしね!

 

「別に大丈夫だから。少し休めば良くなる……」

「どうせ休むならちゃんと休むべきでしょ。今日はまだ終わらないんだから早く良くなってもらわないと僕らも困るんだから。それにすぐそこの自販機で飲み物買ってくるだけなんだから僕らだって出来るよ。ね、母さん?」

「うーん……よし、任せた!」

「おいレヴィ……」

「大丈夫、大丈夫。一応目の届く距離に自販機はあるし、ふたりはボク達の子供でしょ? 親としてここは信じてあげるべきだよ!」

「……まあそうだな」

 

 うんうん、ショウも納得してくれたみたいだ。何かボクに任せた方が面倒臭い展開になりそうだなぁ……みたいな顔を一瞬してた気がするけど、きっと気のせいだろう。

 アオバはボクからお金を受け取るとライカを連れて歩いて行く。ショウが大好きなライカは残ろうとしたけど、アオバに不安そうにしているライカが居ると父さんは逆に心配すると言われて渋々一緒についていくことを決めた。

 別にライカが居てもショウは気にしないと思うけど……いや、気にしちゃうかな。ショウは自分よりも他人の辛そうな顔を見たりするのが嫌に思うタイプだし。それに……多分アオバはボクに気を遣ってくれたのかな。あまりショウとふたりだけの時間って最近なかったし。

 ボクはいつまでもふたりの背中を見守ろうとしているショウの手を引いて、近くにあったベンチに腰を下ろす。

 

「……アオバにはもう少し子供らしくしてほしいんだがな」

「それは否定しないけどショウの子供だからね。……ほら、横になって。ちゃんと休んでないと戻ってきた時に何か言われるよ」

 

 ボクが自分の膝をポンポンと叩くと、やれやれと言いたげに大きく息を吐いたショウはゆっくりと頭を下ろしてきた。普段は逆の立場になることが多いし、恥ずかしがって乗り気じゃなかったりするけど、今みたいに体調が悪い時とかは素直に甘えてくれるから個人的に嬉しかったりする。

 

「……俺が子供らしくなかったのは認めなくもないがあいつの方が上だと思うぞ。下手に溜め込んで友達とケンカとかしなければいいが」

「うーん……ショウよりも素直だと思うし、割と何でも言うから大丈夫な気もするけど。ボクは感情を爆発させちゃうライカの方が心配かな?」

「ライカは周囲から好かれるタイプだろうし、意味もなく怒ったりする奴じゃないから大丈夫だろう。まあスポーツとかで熱くなって怪我をさせるとかはありそうだが」

 

 ちょっと不安そうな顔を浮かべるショウをボクは優しく撫で始める。

 人を撫でるよりも人から撫でられることが多かったボクだけど……ショウと付き合って、結婚してアオバ達を産んでからは撫でることも多くなった。だから今では力加減だって熟知してる。

 

「……そういえば、昔もこんな風にショウの頭を撫でたことあったよね」

「ん? ……あぁ、中学生の時か。そういえばそんなこともあったな。あの頃はお前とこういう関係になるとは思いもしなかったけど……」

 

 そういう言い方をされるとムッとするボクが居るけど、まあ確かにあの頃のボクは好きの違いなんて分かったなかったし、異性との距離感も同性と変わらなかったからな。

 ショウだけじゃなくシュテるんや王さま、なにょはやへいととかにも何度も注意された覚えがあるし。あの頃はよく分からなかったけど、今ではちゃんと理解してる。それにみんなには感謝してるんだ。

 ボクがショウへの好意が特別だって気づけたのはみんなが色々と世話を焼いてくれたからだしね。みんなが好きにも色んな好きがあるんだって教えてくれなかったら……きっとボクは今こうしてショウと一緒に居ないと思う。

 ただそれでも……今だから言えることだけど、ボクは昔からショウのことが好きだった。一緒に居たシュテるん達よりも構ってほしい、一緒に居てほしいって思ってたんだから。子供の頃からボクはショウに恋をしてたんだと思う。それを恋と気づいてなかっただけで……。

 

「ボクとこういう関係になったこと後悔してる?」

「してたら家族全員で遊園地になんか来ないだろ?」

「質問を質問で返すのは良くないよ。じゃあ……ボクのこと好き?」

「嫌いじゃない」

 

 むぅ……ショウの性格は知ってるけど、何でこういう言い方をここでしちゃうかな。結婚だってしてるんだからもっと素直に愛情表現しても良いと思うんだけど。

 

「たまには素直な言い回しもしてよ。ライカには好きだって言うくせに」

「拗ねるなよ。というか、娘相手に嫉妬するな……ライカに言うのと違ってお前に言うのは恥ずかしいんだよ」

「そ、そういう風に言うのはずるいぞ。……それでも言ってほしい時はあるんだから」

 

 あぁもう、恥ずかしいなぁ。全身がムズムズするというかソワソワして落ち着かない。ショウを膝枕してるから耐えるしかないんだけど。さすがに大好きな人を突き飛ばしてまで動きたいとは思わないし。恥ずかしいけど幸せだし……。

 なんて思っていると、そっと頬に手を添えられる。

 意識を向けた時には、ボクの唇にはショウの唇が重ねられていた。突然の展開にボクの思考は止まり、その間にショウはまたボクの膝の上に頭を下ろした。

 

「……これで勘弁してくれ」

「……ダメ。……今のは不意打ちだったから……あとでもう1回しないと認めてあげない」

「はいはい」

 

 投げやりの返事だなぁ……まあショウらしい返事と言えばそうなんだけど。

 こんなことを思うようになったのは……こういうことを考える自分が居ることに気づいたのっていつだったっけ? うーん……まあいっか。大切なのはそこじゃないし。

 大好きなショウに愛する子供のアオバとライカ。もしかしたらもっと家族が増えるかもしれないけど、それでもボクは幸せな毎日を過ごすんだろう。だってみんなと居るだけで幸せだし、困った時は友達が力を貸してくれるんだから。

 

「……ねぇショウ、今も楽しいけどもうひとりくらい子供が居たらもっと楽しくなりそうだよね」

「否定はしないが、子育ては楽しいだけじゃないぞ?」

「何言ってるのさ。そこを含めて楽しいんだよ」

 

 

 

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