魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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黒衣を狙いし紅の剣製 01

 時間というものは自分で思っている以上に早く流れていく。

 最近そのように思うようになったのは、学生という身分から社会人に変わったからだろうか。

 我の名前はディアーチェ・K・クローディア。親しい者からは王さまという愛称で呼ばれておる。

 今年大学を卒業した我は長年過ごした地球から魔法世界に戻り、ミッドチルダで一人暮らしを始めた。実家に戻らなかった理由は、ミッドチルダで自分の喫茶店を始めるからだ。

 喫茶店の名前は《翠屋ミッドチルダ店》。

 名前から分かるものもおるだろうが、高町夫妻が地球で経営している喫茶店の2号店だ。

 我は長年翠屋でバイトをさせてもらっていたのだが、高町夫妻にコーヒーの入れ方やお菓子作りをご教授いただき、将来自分の店を持ちたいと相談したところ翠屋の名前をぜひ使ってほしいということになったのだ。

 断る理由がなかった我は無論それを承諾した。

 多くの客に安らぎを与えたいとも思っているが、何より働いてばかりの我の友人が少しでも休みに来てくれたら嬉しいからな。中学生の頃などは共に地球の翠屋で何度も茶会をしたのだから。

 

「……ん?」

 

 洗い物をしていると、来客を知らせるベルが鳴る。

 翠屋の名前を使わせてもらっているとはいえ、魔法世界では馴染みはない。そのため開店して間もない今、ここに来る客は多くない。まあ我ひとりしかいないような状態なので繁盛し過ぎるのも困るのだが。

 店の中に入ってきたのは我の古くからの友人達。いつもデバイスの研究に打ち込んでいる者達だ。ただひとつおかしいことがある。

 我の記憶が正しければ、まだ昼休みの時間には早い。早めに休憩を取ることにでもなったのだろうか。まあこやつらが仕事をサボるとは思えんから深く考える必要はないのであろうが。

 

「ディアーチェ、お邪魔します」

「王さま、お邪魔するよ~!」

「レヴィ、あんまり大きな声出しちゃダメですよ。お邪魔しますねディアーチェ」

 

 店内に入ってきたのは3名。

 まずは短めに整え襟足付近だけ伸ばしている茶髪の女性。名前はシュテル・スタークス。メガネを掛けていて周囲からはクールな性格だと思われていそうだが、無表情の割に人のことをからかう茶目っ気のある奴だ。まあ意外と人に構ってほしい可愛い奴なのだが……頻繁にからかわれると苛立ちしかしないが。

 元気に挨拶をしてきたのはレヴィ・ラッセル。青い長髪と赤い瞳が特徴的でスタイルも良い。他の者が悪いわけではないのだが、身長が高い分良く見えてしまうのが人の性というものだろう。子供の頃とあまり変わらないように思えるが、社会人として生活は出来ているので多少は落ち着いたのかもしれない。

 最後はユーリ・エーベルヴァイン。彼女はウェーブの掛かった金色の長髪に金色の瞳が目を惹く我やシュテル達の妹のような存在だ。昔は小柄で小動物のような印象もあったが、さすがに今ではすっかり大人びた外見をしている。まあ背は我らの中で最も小さいのだが。

 

「今日はずいぶんと早い来店だな」

「王さまがお客さんいなくて暇にしてそうだな~って思ったからね」

 

 確かに来客が少ないから暇ではあるが、我は店長なのだぞ。そもそも人手がないのだから接客以外にも仕入れや事務作業といったものも全部我がやっておるのだ。別に暇にはしておらん……それらも終わったら暇だがな。

 

「レヴィ、そういうことを言うものではありません。たとえ事実でも人は傷つくものです」

「シュテルよ、貴様のような言い回しが最も人は傷つくのだぞ」

「そうですシュテル。ディアーチェはああ見えて意外と傷つきやすいんです。だからそういうことあまり言っちゃダメです」

 

 ユーリ……貴様は善意で言ってくれておるのだろうが、時折貴様のストレートな優しさは人の心を傷つけておる。優しさも人を傷つけるものなのだ。だからどうか……それ以上は言わないでくれ。

 我ももう大人……昔みたいに怒鳴り散らすような真似はしたくないのだ。店長としての風格や店の雰囲気にも影響が出かねんからな。まあ今くらいのことなら流せるようになっておるが。

 そんなの王さまじゃない!

 などと思った奴がおるかは知らんが、さすがの我も多少なりとも慣れるし成長する。これまでにどれだけからかわれてきてと思っておるのだ。

 我が学友であったアリサやすずかもああ見えて意外と人のことをからかってくるのだぞ。中学から大学まで同じだったのだから……我が最もからかわれたのではなかろうか。回数だけで言えばなのは達も多いとは思うが、年を重ねるほどからかってくる内容が変わるものだ。どれだけ我があやつのことでからかわれたことか……

 

「ディアーチェが本気で怒ったら怖いんですから謝りましょう。私も一緒に謝りますから」

「別に謝らんでよい。その程度のことで目くじらを立てたりはせんからな。それより……今日は何かあったのか? 普段ならまだ働いておる時間だろう」

「それはですね、機材の大型メンテや実験室の改修などが重なりまして」

「ボクらを含めて大抵の技術者は何もできない状況なんだよね。予定では新デバイスのデータ取りするはずだったのに……」

「まあまあ、元気出してください。実験室が使えないことには魔法を使うわけにもいきませんし、明日には再開できるんですから」

「そうだけど……うん、そうだよね。考え方を変えれば明日もシュテるん達と会えるわけだし」

 

 何気ないことで喜んでおるように思えるが、互いに仕事をするようになると会える機会は減る。レヴィ達は同じカテゴリに分類される仕事をしているわけだが、研究している内容が違うだけに普段は別の場所で仕事をすることが多い。

 特にレヴィはデバイス開発にも関わっておるが、新デバイスのテストマスターでもある。それ故にあらゆる研究室に赴くこともあるだろうから、下手をすれば我よりもシュテル達と顔を合わせておらんかもしれん。

 シュテル達のことも説明しておくと、我の知る限りシュテルは主にデバイス用新システムの開発をしておったはず。昔から魔力資質変換を補うシステムや新カートリッジシステムの研究をしておったからな。ユーリはユニゾンデバイスに関わることを中心に研究しているはず。

 そこにあやつが加わることで人型フレーム採用デバイスの研究チームのようなものが出来上がるわけだが、今は昔ほど一緒には仕事はしておらぬだろうな。それぞれ任せられる仕事も増え、自分がしたい研究も分かれておるから。

 

「……ところで貴様らだけなのか?」

「大丈夫ですよディアーチェ。ショウさんならもう少ししたら来ると思います」

 

 いや……別にあやつに来てほしいという意味で言ったわけではないのだが。貴様らが一緒に仕事をするならあやつも一緒なのではないかと思っただけで。

 断じてあやつに会いたいとかそういうのではないからな。あやつとはそれなりに顔を合わせておるし、この店の準備やお菓子の試食に協力してもらったからな。

 か、勘違いするでないぞ。

 別に貴様らが思っているようなことはなかったのだから。普通に過ごしただけだ。断じて鼓動が高まるような展開はなかったぞ。そもそも普通にしていればそのような展開になるわけがない。

 

「やれやれ……大人になってもディアーチェは相変わらずのようですね」

「それはどういう意味だ? 昔から言っておるだろ。別に我はあやつのことなど……大体貴様にだけは言われたくないわ。本心を語らん割合は貴様の方が上であろうに」

「いえいえ、こう見えて私は素直ですよ。日頃彼に会ったら素直に最低3回はちょっかいを出すようにしていますから」

 

 そんな素直さはあやつからしたら邪魔なだけだろう。そもそも我が言っておるのはそういう素直さではないな。

 我の見立てが間違っておらぬなら貴様も我と同じで……ううん、何でもない。我と同じという部分に他意はないからな。あったとしてもそれは我と似て素直でないところがあるというだけよ。別にあやつに対してどうこうというものではない。

 

「ずるいぞシュテル、ボクだってショウと遊びたいのに!」

「レヴィ、一言断っておきますが別に私はショウと遊んでいるわけではありませんよ。仕事をしながらスキンシップを取ってるだけです」

「それでもずるいよ。ボクなんて年々ショウと一緒に仕事する回数減ってるのに」

「それを言ったらみんな減っていますよ」

「そうですね。ショウさんは魔導師としても活動されていますから」

 

 笑ってはおるが我には少しユーリが寂しそうに見える。

 ユーリは昔からショウに懐いておったからな……いや、この言い方はユーリに失礼か。

 あの小さかったユーリも今は一人前の女性だ。そしておそらくあやつに想いを寄せておるだろう。まあ独占欲がないのか、みんなで仲良くという感じもしなくはないのだが。

 実際のところどうであろうな……この手の話を本人に聞くのも抵抗があるし、あやつに聞くのは筋違いな気がする。かといって話題的にシュテルやレヴィでは頼りにならんだろうし……。

 消去法で思い浮かぶのはあやつのユニゾンデバイスであるセイだ。

 我の記憶が正しければ、あやつのデバイス達はシュテルやユーリと仕事をする日も多いと聞く。ショウが参加できぬ日にフォローで入っていたと聞いているが、今では並の技術者よりも知識を有しておるだろう。ユーリと仕事をすることが多いのはセイであったはずなので、機会があればゆっくり話してみたいものだ。

 

「ボクも魔導師の仕事もしようかな……そのへんの魔導師より強い自信あるし。魔導師になればショウと一緒に仕事できるかもしれないから」

「決めるのはレヴィ自身ですが、ショウと一緒に居たいという意味で言うならオススメはしません。魔導師は常に人手不足。しかもレヴィは資質的に言えば高ランク認定されるでしょう。ショウも高ランクの魔導師ですから別の仕事をさせられる可能性が高いです」

「それに今でもレヴィはテストマスターや研究のお仕事してるんです。魔導師のお仕事まで始めたらお休みが少なくなってショウさんと一緒に居れる日も減っちゃいますよ」

「うぅ……よし、決めた! ボクは魔導師なんかにならない。今のお仕事を頑張るよ!」

 

 世の中のためを考えるとひとりでも優秀な魔導師が居たほうがいいのだが……。

 まあ我の立場からすれば正直魔導師の仕事はしてほしくはない。人のためになる仕事だと理解してはいるが、常に危険と隣り合わせの仕事でもある。現状で魔導師として活動しておるあやつらも何度も怪我をしてきた。

 信念を持って仕事をしておるからやめろとは言えぬが……心配事がこれ以上増えるのは正直に言って嫌なものだ。

 それに……我の周りには心配を掛けたくないから黙っておる者も多いからな。待つ方からすれば、あとで報告される方が嫌だというのに。心配しかできぬ身なのだから心配くらいさせてくれても良いだろう。

 

「レヴィは本当にショウさんが好きなんですね」

「うん! でもそういうユーリだってショウのこと好きなくせに~」

「え……えっと、まあそうですけど」

 

 だらけきった顔のレヴィと恥ずかしそうに赤面しているユーリ。

 これを見てふたりが恋敵と思う人間がどれだけいるだろうか。正直我には恋敵には見えん。ユーリはともかく、レヴィが同じ土俵に居るようには見えんからだ。

 まあ……レヴィらしいといえばレヴィらしいのだが。

 身体こそ大きくなったが精神的には昔からあまり変わらんからなこやつは。散々あやつや我などから言われた結果、多少は男女の距離感を考えるようになったというか、過度なスキンシップは控えるようにはなったが。

 しかし……今日の様子を見る限り、あやつが来たら抱き着きそうだ。あやつはレヴィに対しては厳しく言えんからなぁ……そうなれば我が言うしかあるまい。

 

「……む?」

 

 ふと耳に車のエンジン音が聞こえてくる。

 店の隣には小さいが駐車場はある。なので来客や業者の車両はそこに止まるだろう。

 だが……エンジン音からして一般的なものとは異なる。この音からしてスポーツカーに搭載されているようなエンジン音だ。

 この店にそのような車で来そうな者は……

 

「悪い、野暮用で遅れた」

 

 店の中に入ってきたのは先ほどから話に出ていた人物。

 我らとも10年以上の付き合いになる夜月翔である。180センチほどの長身であり、落ち着いた雰囲気のある男だ。まあ我を含めた身近な者からは無愛想だの冷たいだの言われたりもしているが。

 

「ショウさん、大丈夫ですよ。私達もまだ来たばかりですから……それにしても今日は車で来たんですね。一度家に帰られると言っていたのでバイクで来るかと思ってました」

「確かにバイクの方が乗り慣れてるし、楽なんだが資料やらを届けないといけなかったからな」

「やれやれ……そこは素直に言わずに私達が居るから帰りは送ってやろうと思ったんだ、とでも言えば好感度を稼げたでしょうに」

「前は素直になれって言っておきながら今度は逆かよ。お前って本当捻くれてるよな」

「えっへん」

「褒めてねぇよ」

 

 まったく……仲睦まじくしよってからに。

 日頃我の知らんところでこのような雰囲気で話しておるのかと思うと……少し思うところがある。まあ別々の道を選んだのだから仕方がないことではあるが。

 にしても……真っ先に行動しそうだったあやつの声を聞いておらんな。あやつはいったい何を……何をしておるのだあやつは。

 我が探した人物は窓際に移動していたかと思うと、旅行中の子供のように目を輝かせた状態で駐車場の方を見ている。

 

「レヴィ、貴様は何をしておるのだ?」

「王さま!」

「何だ?」

「あの車ってショウの車なのかな? 黒でスタイリッシュでカッコいい!」

 

 ああそういうことか。

 一緒に仕事をする機会の多いシュテル達や我は店の手伝いの時などで見たことがあったが、レヴィはまだ見たことがなかったようだ。 

 レヴィは昔からスポーツだけでなく、ロボットやメカといった男が好きなものが好きだった。あのように騒ぐの無理はない。

 

「ねぇねぇショウ、ボクあとであれに乗ってみたい!」

「ん、あぁいいぞ」

「やったー!」

 

 子供のようにはしゃぐレヴィにショウは温かい笑みを向けている。

 普段からそのような顔をすればもっと女も寄ってくるだろうに。まああやつの周りには良い女が集まっておるから大抵の女は身を引いてしまうだろうが。

 

「ねぇショウ、あの車いつ買ったの? 何で買ったこと教えてくれなかったのさ!」

「少し前に買ったばかりだからな。それに普段はバイク使ってるし、お前とは今日久しぶりに会っただろ」

「そうだけど……電話とかで教えてくれてもいいじゃん!」

 

 他に客がおらぬから構わんが……少しハイテンション過ぎる。

 まったく…あれで成人しておるのだから質が悪い。世間的に見ればまだ若手に見られるだろうが、職場的にこれからは後輩も入ってくる。そうなれば先輩として教える立場になったりもするだろう。

 明るくて元気なのはあやつの長所ではあるが、もう少し大人になってもらいたいものだ。昔と比べたら大人にはなっているのだろうが。

 

「仕方ありませんよレヴィ。あの車はフェイトが愛用している車の後継車。フェイトと一緒に買いに行って選んだものなのです。ショウ達も年齢的にそういうことは隠したいものですよ」

「何で? 別に車を買いに行っただけなら隠す必要なんてないと思うんだけど?」

「それはですね……」

「そのへんにしとけ。変な誤解を与えようとするな。俺達の中でフェイトが1番車に詳しそうだから話を聞いただけだ」

「……それであの車を買ったのですか? 高いのに? 彼女の愛用しているものに似ているのに?」

 

 シュテルよ、貴様はどういう目線でそのようなことを言っておるのだ。

 嫉妬から来ているのなら理解できるが……正直今の貴様にはそれよりもからかいたいという思いが勝っているように思えるのだが。

 

「フェイトとは好みも似ているし、仕事で使おうと思って買ったんだから金は別にいいんだよ」

「まあそうですね。あなたもレーネも貯めてばかりで派手に使おうとはしませんから。世の中の景気によくないですし」

「仮に俺や義母さんが財産を使ったところでそこまで景気は変わらねぇよ。そもそもお前だって似たようなものだろうが」

「いえいえ、私はこれでも色々と散財していますので。美容や健康、娯楽と女の子はお金が掛かりますので」

 

 我が友はいったい何を言っておるのだろうか。

 美容や健康はまあ良い。こやつもショウ達と関わるようになってからは服などに興味を持ち始めたし、元々食事などは健康志向だ。それがなくとも凝り性が故に何かしらにハマったのなら費用は惜しまんだろう。

 しかし……女だから娯楽に金が掛かるというのはおかしくはないだろうか。

 まあ娯楽といってもこやつのことだから本を買ったりしているくらいなのだろうが……何というか表現的によろしくない。

 

「シュテル、そのような物言いだと我らにも偏見の目で見られるかもしれん。それ以上は口にするな。これでも飲んで落ち着け」

「ふむ……ディアーチェにそう言われては仕方がありませんね。ですがディアーチェ」

「何だ?」

「私はコーヒーより紅茶を希望します」

 

 メガネを外してキリッとした顔で言うでないわ!

 何で貴様は要所要所でボケないと気が済まんのだ。危うく他の者のコーヒーをぶちまけそうになってではないか。まったく……少しは仕事中の時のように真面目に振る舞わんか。

 この店は貴様らにくつろいでほしいと思って開いた場所ではあるが、それとこれとは話は別なのだからな。いくら我が我慢強くなったとはいえ、琴線に触れれば容赦はせぬぞ。

 

「だったらもう少し早めに言わんか。準備しておるのは見えておっただろう」

「こういうのはタイミングが重要ですので。今日のディアーチェはまだ元気な姿を見せてくれていませんので」

「叫んでる姿が元気な姿ではなかろう! 貴様の頭はいったいどうなっておるのだ!」

 

 ……ぐぬぬ。

 今日は怒鳴らんと決めておったのにやってしまった。シュテルの思惑通りに動かされた自分に腹が立つ。それ以上にシュテルのしたり顔に苛立ちを覚えるが……。

 

「まあまあ落ち着けよ。こんなのはいつものことだろ」

「うるさい……落ち着いておるわ。……何を笑っておるのだ」

「お前がすんなりと人前で拗ねた顔するなんて珍しいと思って」

「っ……べべべ別にそんな顔しておらん!」

 

 というか、仮にしてたとしても笑うようなことではないであろう。

 我だってそういう時だってある。まあ……少しばかり昔よりはそういう感情も素直に顔に出るようになったと思わなくもないが。昔から見せておったのは怒ったものばかりであったし。

 だが我とて高校・大学を経て変わったのだ。大きく変わったわけではないが、我なりにあれこれ考えて過ごしておるのだぞ。別にアリサやすずかにあれこれ言われてきたからではないからな。

 

「そんなことより……最近どうなのだ? 何やら忙しくしているようだが」

「まあぼちぼちってところだな……研究に関してはシュテルやユーリに丸投げのところもあるけど」

「仕方ないですよ。ショウさんは魔導師としての仕事もあるわけですから……」

「まあそうですね。3年前のJ・S事件……あれをきっかけにあなたの世間的に認知されましたから。技術者じゃなく魔導師として売れたのはあなたにとっては嫌かもしれませんがね」

 

 嫌味のようにも思えるが、ショウの性格を考えるとあまり表舞台に立ちたいとは思っておらぬだろう。技術者よりも魔導師の方がニュースに取り上げられることも多いだけにシュテルの言葉は的を射ているかもしれない。

 

「私としては……もう少し一緒にお仕事したいですけど。あの子達のことに関しては私だけで進めるのもどうかと思う部分も多いので」

「あの子達? ユーリ、それはどういう意味だ?」

「えっと、まだ詳しくは言えないんですけど……私とショウさんで新しい人型デバイスを作ってるんです。ファラやセイはショウさんの仕事の都合で居ない時もありますし、彼女達も長年一緒に研究してきたからか自分なりに興味のあることを見つけ始めてるみたいなので」

 

 つまりファラ達に代わってデータを取っていくデバイスを作っておるということか。

 確かにあやつらはデバイスではあるが、考え方は人間と変わりない。たとえ相手がマスターであるショウであろうと間違っていると思えばそれを口にする。

 それにしても……デバイスが自分の興味のあることを見つけるか。

 それをサポートする環境や尊重するこやつらが居るから出来ることなのだろうが、そう遠くない未来にデバイスが人と同じように人の隣を歩む日が来るのかもしれんな。

 

「確かに……ファラはシュテルと新システムの開発とかをしてきたし、セイはユーリとユニゾンデバイスや人型フレームに関して研究してきたからな。それに……なのはやヴィヴィオを見てて思うところもあるみたいだし」

「む? それは母性的な意味でか?」

「ああ多分な。ユーリと作ってるデバイスにはあいつらの意見を取り入れたりしているところがあるし。今度は妹じゃなくて娘のように思うかもな。年齢差で言えばなのはとヴィヴィオとそう変わらないことになるから」

 

 な、なるほど……デバイスが娘か。

 我が思っておる以上にあやつらは人間らしくなっておったのだな。数年前から外見を大人らしく変えたのは知っておったが……。

 少しばかり我よりも先に行かれているような気がするのは気のせいだろうか。

 確かになのは達を見ていて我もいつかはあのように自分の子供と……、と考えなくもない。だがまだそういうことは考えられぬからな。子供の生むにも相手が必要であるし、その相手も……

 

「……どうかしたか?」

「べ、別に何でもないわ。予想以上に人間らしくなっておったから思うところがあっただけよ。それより……ユーリがああ言っておるのだから少しは都合をつけられんのか?」

「ディアーチェ、そういうこと言わないでください。ショウさんも大変なんですから。それにもう私は子供じゃないです」

 

 それはそうだが……我からしてみれば今も昔もユーリは可愛い妹分なのだ。顔を合わせる機会も減っておるし、世話を焼きたいと思ってしまうのも無理はないだろう。

 

「まあ俺としても善処したいんだが……」

「何か問題あるの? ボクももっとショウと仕事したいのに」

「そう言ってくれるのは嬉しいし、やろうと思えばやれると思う。けど……」

「はっきりせぬか。何か出来ぬ理由でもあるのか?」

 

 ショウは少しばかり時間を使って考え始める。

 ダメならダメだとはっきり言える方なだけにこのように迷うのは珍しい。仕事の都合ですぐには無理な場合もそのように言うはずだが……

 

「……確証があるわけじゃないんだが、最近誰かに見られてる気がするんだ」

「え……そ、それってストーカーですか!?」

「まあ……世間的に認知されてきているだけにそのような者が出てきてもおかしくはありませんね。技術を盗もうとしているスパイという線も考えられますが」

「ああ……ただ個人的にそういうのとは違う気がするんだが。何というか、技術云々より俺個人に対して何かあるような……そういう視線をたまに感じる」

 

 ふむ……。

 ショウは長年に渡って剣術や体術を鍛錬してきた。それ故に人の視線や気配には敏感なところがある。それ故に安易に片づけていいものではないだろう。

 しかし、現状では確証がないのも事実。

 この漠然とした状況では管理局といった組織も動けんだろうし、仮にそのような動きを取れば何が起こるか分からない。

 

「無視してよい問題ではないが……現状は様子を見る他にあるまい。勘違いということもありえるのだからな」

「そうですね。ただ各々気を付けておいた方が良いでしょう。仮にその人物が居るとして、ショウだけを観察しているとは限りませんので」

「とはいえ、俺を狙っている可能性が高いのは事実だ。だからお前らと必要以上の接触は避ける。まあ今後の予定的に仕事で顔を合わせることは多いわけだが」

 

 ショウが我らを巻き込みたくないのは分かるが……我らとしてはショウだけ狙われるのも嫌なものだ。

 しかし、この中で最も戦闘に慣れているのはショウだ。

 シュテルやレヴィは仕事でデバイスを扱うことがあるからまだマシだろうが、研究中心のユーリや魔法から離れて過ごしてきた我は足手まといだろう。故に……最善を考えるならばショウの言うとおりにするしかあるまい。

 

「ディアーチェ、どうかお気を付けて。私達はまだ働く場所が場所なので襲撃されたとしても対抗する手段がありますが、ここには何もありませんので。……念のため今度あなたのデバイスをお持ちします」

「我が狙われる可能性は低い気もするが……備えておいて損はないからな。しかし、貴様らも気を付けるのだぞ。特に……」

「言われなくても分かってるさ。迷惑だとは思うが万が一が起きても困るしな。だからフェイトやはやてに連絡を入れておくよ」

 

 人からすればそこまでする必要はないと思うかもしれん。だが……事件というものはある日突発的に起こるものだ。

 それに……ショウは普通の魔導師ではない。

 人の視線や気配に敏感なことはもちろんだが、魔導師だけでなく技術者としても若いながらも成功を収めている。また親であるレーネ殿は技術者で知らぬ者はいないであろう天才。妬みや恨みがある人間は世の中に無数に居るだろう。暴挙に出る者は多くはないだろうが。

 

「まあまあ、この話はここまでにしておこうよ。話したところですぐに解決する話じゃないし。これからあまり会わないようにするならボクは今日くらいパ~とやっておきたい!」

「……そうだな。あまり悪い方向に考えても気持ちが塞ぐだけだ。……しかし、貴様らそんなにゆっくりする時間があるのか?」

「それなら大丈夫です。早くてもメンテや工事が終わるのは夕方になるそうなので。それに何かあれば呼び出しが掛かりますから」

「そうか、なら良いのだが……とりあえず準備するとしよう」

「あ、私も手伝います!」

「一応立場は店主と客なのだが……したいのならば好きにするといい」

 

 

 

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