魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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第2話 「遭遇」

 結界内に突入すると、遠方の空を舞う桃色の光が見えた。それを火の玉のようなものが追っている。桃色の光は高町の魔力色であるため彼女だろう。彼女を追いかけている火の玉のようなものは、おそらく魔導師。火の玉のように見えるのはブーストの役割として火が噴射されているからだろう。

 

「なのは……」

 

 心配そうに彼女の名前を呼ぶテスタロッサ。普段ならば励ましの言葉くらい言えたのだろうが、今日の俺にその余裕はなかった。胸に渦巻く不安が徐々に膨らんでいっているからだ。

 高町が押されているから。彼女が負傷するから、といった不安もあるのだろう。だがそれより遥かに大きい何かが存在している。

 それが何なのかは分からない。だが、あそこに行けば判明するはずだ。

 そう思う一方で、あそこに行きたくないという気持ちも存在していた。あそこに行ってしまったら、何かが壊れそうな気配がしてならないからだ。

 

「ショウ、大丈夫?」

「何が?」

「何がって、顔色悪くなってきてるよ」

 

 シュテルほどではないが、顔に感情が出る方ではなかったのだが……それだけ嫌な予感がしてるってことか。いや、それもあるが純粋に実戦への恐怖もあるだろう。

 

「君ほど実戦慣れしてないから。少し緊張してるだけだよ。だから今は……」

 

 不意に口を閉じてしまったのは、テスタロッサが俺の手を掴んできたからだ。彼女の力強い瞳はまっすぐとこちらに向けられている。

 

「大丈夫。ショウは私が守ってみせるから」

 

 簡単によく言えるものだ。俺は胸の内で思っても、口に出すことはできないだろう。誰かに守ると言えるほど、自分の力を過信していないから。

 いや、この言い方だとテスタロッサが過信しているみたいになってしまうか。彼女にはきちんと力があるのだから、過信とは言えない。

 

「……ありがとう。少し気分が楽になったよ」

「そっか」

「だけど、今は俺よりも高町のことを優先するべきだ。君だって心配なんだろ? 先行してくれて構わないよ」

「でも……うん、分かった」

 

 テスタロッサも遠目に見えた戦闘で高町が押されていると感じていたのだろう。一瞬迷った素振りを見せたが、すぐに首を縦に振った。

 彼女のあとを追って移動を続けていると、ファラから高町の魔力反応の低下、レイジングハートからの応答がないこと、新たな魔力反応の出現と次々と報告が入る。

 新たに現れた反応は3つ。ひとつは先行したテスタロッサの元に。もうふたつはアルフの元で感知されたらしい。

 

「マスター、どうする?」

「どうするも何も、俺が高町のところに行くしかないだろ」

 

 近接戦闘を行っているのか、金色の光と紫の光が何度もぶつかり合っている。テスタロッサが戦闘を開始したのは間違いない。

 魔導師の中でもテスタロッサは近接の技術に長けている。だが敵のほうが上手なのか、彼女は吹き飛ばされてビルに直撃した。

 

「……なのはッ!」

 

 大したダメージはなかったようで、テスタロッサはすぐに煙の中から出てきた。しかし、先ほどと打って変わって敵とは違うものに意識が向いているように見える。彼女の視線の先に意識を向けてみると、倒れている高町と敵の姿があった。背丈からして子供のようにも見える。

 ――高町の魔力の低下は魔力を奪われているからか。

 意識をテスタロッサに戻すと、敵の一撃でデバイスを真っ二つにされたところだった。その後、数度打ち合ったものの、上段からの攻撃を受けて落下した。

 反射的に止まりそうになったが、すでに高町に接近していた。必然的に敵との距離も縮まっているということだ。テスタロッサの方に向かえば挟み撃ちにされる可能性が高い。

 テスタロッサに罪悪感を感じながらも、俺は左手でしっかりと鞘を握り締め、右手を剣の柄にかけながら全速で高町の元に向かった。

 

「……ん?」

「ッ……!」

 

 抜刀しながらの一閃は間一髪のところで回避されてしまった。紅のバリアジャケットを纏った敵は空中で体勢を立て直すと、持っていた本のようなものを消した。

 いや、あれで高町の魔力を奪っていたとすれば、テスタロッサを相手していた仲間に渡したのか。

 ハンマーのようなデバイスを両手で握り締めた敵が気合の声を上げながらこちらへ襲い掛かってくる。こちらも剣を両手で握り締め、接近していく。

 デバイス同士がぶつかった瞬間、金属音と火花が散った。一瞬火花で視界がゼロになる。

 

「……ぇ」

「……なっ」

 

 ほぼ同時に声を漏らした。俺の視界に映っているのは、赤髪の少女。目を大きく見開いた状態で凍っている。おそらく俺も同じような表情を浮かべているはずだ。

 ――何で君が……ここにいるんだ?

 目の前にいる少女は、間違いなくヴィータだ。俺の大切な人の家族であり、妹のような存在になりつつあった少女。言葉遣いは悪いが、根は優しい子だ。

 どうして彼女がここにいるのか。人を襲撃して魔力を集めるのか、といった疑問が次々と沸き起こる。それと同時に胸の中にあった不吉な予感は、現実を認めたくない拒絶へと変化していった。

 

「な……なんで」

「はあっ!」

 

 話そうとするヴィータを強引に押し飛ばした。戸惑いを隠せずにいる彼女は、さらに続けて話しかけようとする素振りを見せる。

 

「く……」

「おい、やめ……」

「ふ……」

 

 ヴィータが口を開くたびに剣を振るうが、簡単に止められてしまう。

 彼女と同じように俺も動揺して力が入っていないことも理由だが、実際のところはどうでもいいのだ。

 ヴィータがいるということは、あとのみんなもいるということだよな。こいつらは、はやての頼みなら大抵のことを聞きそうではあるが、はやてが他人を傷つけるような真似はしない。おそらくヴィータ達の独断のはずだ。

 だがヴィータ達ははやてのことが好きだ。はやてが傷つくようなことはしないはず……しかし、今起こっていることは現実だ。他人を傷つけてまでこんなことを行っているのには、何かしら理由があるはず。

 はやてを巻き込まないようにしていると分かる以上、ヴィータ達が俺と繋がりがあったことを他者に知られるわけにはいかない。知られてしまえば、はやての存在が明るみに出てしまう。そうならないためには、剣を振るい続けるしかない。

 

「うわああぁぁぁぁぁッ!」

 

 突如響いたテスタロッサの悲鳴。魔力を奪われているに違いないのだが、俺は視線を向けるだけで助けに行こうとする気力はなかった。

 何でこんなことをしているんだ、という意味を込めて視線をヴィータへと戻すと、彼女は俺から視線を逸らした。歯を食いしばっているあたり、簡単には言えない理由があるのだろう。

 ヴィータはしばらく無言を貫いた後、ゆっくりと視線をこちらに戻した。今にも泣きそうな顔を浮かべながら、デバイスを構える。

 

〔……ご……ごめん。で、でも……〕

 

 謝罪の念話と共に繰り出された攻撃を受け止めはしたが、力の入っていなかった俺の身体は簡単に吹き飛んでいった。地面に激突し、勢い良く転がり続ける。その間にファラから手を放してしまった。

 全身に痛みを感じるが、それに対する感情は全くといっていいほど沸いていない。高町達と同じように魔力を奪われるかと思ったが、タイムリミットだったのかヴィータは姿を消していた。

 

「何で……何でなんだ……」

 

 泣きそうだったヴィータの顔。でも、という言葉に続いていたであろう言葉。それらについては考えることができるのだが、考えれば考えるほど心の中の何かが消失していく気がした。それに伴って力もろくに入らなくなり、俺は仰向けのまま摩天楼を見上げ続けた。

 

 

 




 ショウが結界の中で出会ったのは、はやての家で暮らしているヴィータだった。予想もしていなかった出会いに、ふたりは困惑した。だがはやてへの思いが両者を動かし、戦闘は幕を下ろした。
 とある公園に集合したシグナム達は、ヴィータの様子がおかしいことに気づく。ショウの存在を知った彼女達は、はやての存在を知られないために最悪ショウを手にかけることを決めた。その矢先、彼女達の前にひとつの影が現れる。

 次回、As 03「騎士達と少年」
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