魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

31 / 156
第13話 「終焉の始まり」

 月村とバニングスを見送った後、俺達はシグナム達と共に屋上へと移動した。

 俺の目の前にはシグナムとシャマル、やや後方には高町とテスタロッサがいる。ヴィータはというと、未だにはやての元に残っている。だがすぐにこちらへ来るだろう。

 

「……はやてちゃんが闇の書の主なの?」

「ああ……そもそもはやてが主でなかったなら、今日ここで俺達はシグナム達と会ってない」

 

 誰かに言ったのかは定かではなかったが、俺は肯定の言葉を口にした。少女達の方へ振り返ってみれば、信じたくないといった表情が浮かんでいる。テスタロッサは、顔から察するに俺がどちら側なのかというのが気になっているようだ。

 

「あの……ショウは……」

「俺は……」

「我々の敵だ」

 

 はっきりと放たれた言葉に、俺達の視線はシグナムの方へ集まった。

 この前のように弱々しい表情は浮かべられていない。彼女の中で、俺は完全に敵だと認識されたのだろう。もう手加減をさせるようなことはない。下手をすれば……だがそれでも。

 

「えーと……話が見えないんだけど」

「俺ははやてと繋がりがあったんだ。そしてはやては闇の書の主。俺の立場が管理局側なのか、あちら側なのか気にならなかったの?」

「あっ……えっと」

「シグナムが言ったとおり、俺は彼女達の敵だよ」

 

 高町達の味方だとは言わない。いや言えない。浮かべられた表情から察するに、彼女達は俺のことを信じてくれていた。だが俺はそれを裏切るような真似をずっとしてきてのだ。自分から味方なんて口が裂けても言えるはずがない。

 ゆっくりと視線をシグナム達へと戻し、はっきりとした口調で告げる。

 

「シグナム、それにシャマル。蒐集をやめてはやてと一緒に過ごしてくれ」

「……ひとつ聞くが、主はやてを救う術はあるのか?」

「…………」

「ならばこの前と答えは変わらん。我らの悲願はあと少しで叶うのだ。邪魔をするのであれば主の友人だろうと……お前であろうともう容赦はせん」

 

 いやに音を響かせながらシグナムは剣を引き抜いた。明確な敵意のある瞳をこちらに向けている。

 

「ショウくん、君ははやてちゃんのことが好きよね。なのに何で邪魔をするの? はやてちゃんが死んじゃってもいいってことなの?」

「そんなはずない!」

 

 声を上げたのは俺ではなく高町だった。彼女はその勢いのまま続ける。

 

「ショウくんのことを話すはやてちゃんは本当に嬉しそうだった。ふたりの間には強い絆があるんだって分かるくらいに。それはきっとショウくんの中にもあるはず!」

「それくらい私達だって分かっているわ」

「だったら何で死んじゃってもいいなんて言うんですか! はやてちゃんと会ったばかりの私でさえ救いたいって思ってるんです。ショウくんがそんな風に思ってるわけない!」

 

 なぜ彼女はこんなにも自分を庇ってくれるのだろう。

 俺と高町にはそこまで強い繋がりがあるわけじゃない。それに俺は、彼女に対して裏切るような真似をしていたのだ。なのに……

 

「はやてちゃんのことが好きだから……闇の書が完成しちゃったらどうなるか」

「うりゃあぁぁ!」

 

 突然響いた気合の声。テスタロッサは咄嗟に飛び退き、高町は防御魔法を展開させる。

 ヴィータの一撃は重く、デバイスなしで発動した防御魔法では受け止めることができなかった。高町の身体は後方へと吹き飛び始める。

 そうなるだろうと予測していた俺は、飛来してきた高町を受け止めた。が、あまりの勢いに一緒に吹き飛ばされフェンスへとぶつかる。ぶつかる直前に部分的に魔法を発動させていたので痛みはほとんどない。

 

「大丈夫か?」

「え……あっ、うん」

 

 追撃があるかと思ったが、ヴィータはシグナムほど割り切れてはいないようで罪悪感を覚えているような顔をしていた。

 ただヴィータに合わせてシグナムが動いたようで、テスタロッサが後方に飛び退いてデバイスを起動させていた。

 

「シグナム……」

「管理局に主のことを伝えられては困るんだ……そして、夜月。お前の存在は我らを迷わせる」

「私の妨害範囲から出すわけにはいかない……全員、覚悟してもらうわ」

 

 これ以上の会話は無駄と言いたげな物言いだ。だがシグナムは俺の存在が自分達を迷わせると言った。ここで諦めるわけにはいかない。

 

「さっきの質問の答えだけど、俺ははやてには生きてほしいと思ってる」

「……だったら邪魔すんなよ。あと少しではやては元気になってわたしらのところに帰ってくるんだ。これまで必死に頑張ってきたんだよ。だから……邪魔すんなよな!」

 

 こちらに歩いて近づきながら、涙ながらに訴えるヴィータ。彼女がどれほどはやてのことが好きなのかが窺える。それだけに止めたいという思いも一層強くなった。

 闇の書が完成してしまえば、集めた魔力と主の命を使って破壊をもたらす。つまり完成させてしまえば、ヴィータ達にはやてを殺させるようなものだ。

 完成した後も可能性は残されているが、その可能性は極めて低いもののはず。ならば、たとえ彼女達から嫌われることになろうと、できる限り完成させない道を選ばなければ。

 

「ヴィータ、その方法じゃはやては帰ってこない」

「――っ!?」

 

 俺が言ったからなのか、それとも自分達の行っている方法に不安を抱いているのか、はたまた両方か。ヴィータの顔はひどく歪み、涙が一層溢れ出した。

 

「闇の書は壊れている。このまま進んだとしても、その先にあるのは……」

「黙れ!」

「――っ、ショウ!」

 

 声に導かれるように視線を向けると、こちらに衝撃波が向かってきていた。反射的に近くにいた高町を突き飛ばし、防御魔法を展開。衝突と同時に光と音が発生する。

 ピンポイントに魔力を集めて展開したため撃ち抜かれることはなかったが、衝撃に耐えられず俺の身体はフェンスを突き破って宙へと投げ出された。

 浮遊感を覚えたのもつかの間、地面に向かって加速し始める。それとほぼ同時にふたりの少女が俺の名前を呼んだのが聞こえた。

 

「…………純粋な話し合いは無理か」

 

 半ば分かっていたことだが、出来ることならシグナム達と剣は交えたくない。だがシグナム達に俺の言葉を聞く意思はないようだ。ならば……

 俺の意思を読んだかのように胸ポケットががさがさと動く。中にいた人物は、ひょこっと顔を出したかと思うと外に飛び出す。

 プラチナブロンドの髪と青い瞳、端正な顔立ちが目を引く。戦闘用とも言えそうな黒のドレスを身に纏っていることもあってか、白い肌がより際立って見える。

 

「マスター」

「ああ、行こう――ファントムブラスター・ブレイブ」

 

 セットアップと発言するのと同時に、身体を漆黒の光が纏わりついていく。

 それが収束するにつれて、ぴったりとした黒のレザーパンツ、同じく黒のロングコートが身を包む。漆黒の球体を中心にやや大振りな両刃片手直剣が形成されていく。

 従来ならばここまでだが、相棒は生まれ変わっている。可能な限り小型化されたカートリッジ、それが入ったマガジンが出現。それを手に取り、剣の側面に装着してリロードする。

 

「……重いな」

 

 無意識に発していた言葉は、カートリッジシステムが追加されたことによる重量の変化だけを差しているわけではない。

 カートリッジシステムの導入は現時点では危険性の高い行為。ファラの場合、一般とは違った仕様だけにレイジングハート達よりも危険性は高かったかもしれない。

 だが彼女の修復を行ってくれたシュテルやマリーさんを責めるつもりはない。

 少し前の俺だったならば違ったかもしれないが、ファラは人間らしく扱うだけでなくデバイスとしても扱ってほしいと言っていた。カートリッジシステムの導入も彼女が望んだことだと聞いた。

 自分自身のことよりも俺のことを想ってくれての決断であるのだから、もちろんファラを責めるつもりはない。そもそも俺が強かったならば、彼女にそんなことをさせる必要はなかったのだから。

 

〔マスター……〕

〔大丈夫。上手く扱ってみせるさ〕

 

 そう……俺が失敗しなければファラを危険にさらすことはない。だからといって気負いすぎるつもりもない。気負えば結果が悪いものにしかならないのだと、はやてとの一件で理解しているのだから。

 全員の姿が見える位置まで空を翔る。

 高町やテスタロッサは安堵や喜びの表情を浮かべるが、シグナム達の顔はそれとは対照的なものだった。デバイスの形状が若干とはいえ変わっているから、俺が本気で止めようとしているのだと理解したのだろう。

 はやてと比べれば、シグナム達とは出会ってからの時間は微々たるもの。だけど彼女達との時間は、鮮明に思い出が蘇るほど楽しいものだった。

 覚悟していたこととはいえ……シグナム達と二度と道が交わることはない。彼女達に辛い顔をさせているというのは苦しい現実だ。

 だけど彼女達が止まれないように、俺も止まるわけにはいかない。

 世界のため、だなんてことを言えたら一番いいのだろうが、俺にはそんなことは言えない。友達であるはやてのため、彼女の家族であるシグナム達のために俺は止めるんだ。

 

「……何で、何でだよ! はやてのこと大切なんだろ。わたしらに負けないくらい好きなんだろ!」

「ああ」

「だったら……、だったら何でわたしらが戦わないといけねぇんだよ! ……分かんねぇ、全然分かんねぇよ。はやてを助ける手段見つかってねぇんだろ。わたしらに任せてくれていいじゃねぇか!」

「……それはできない」

 

 お前達がはやてのことをどれだけ大切に想っているか知っているから。俺にとっても大切な存在だから。だから……お前達にはやてを殺させたくないんだ。

 この想いを言葉にしても、今の彼女達には届かないのだろう。ヴィータはまだしも、シグナム達は敵対する意思を固めている。言葉を届けるには戦う道しか残っていない。

 

「……お前……今のお前はわたしの好きだったショウじゃねぇ! 悪魔だ!」

 

 涙を流しながらもはっきりと告げられた言葉に、胸の内が切り裂かれるような感覚に襲われた。

 何で俺は……ヴィータと戦わなくちゃいけない。あの子を泣かせる真似をしているんだ……。どうして悪魔なんて呼ばれないといけないんだ!

 そんな思考が脳裏を過ぎり、今すぐにでも和解したい衝動に駆られる。だが、自分が辛いからといってここで逃げるわけにはいかない。

 はやてのために、騎士達のためにも闇の書の完成を止めさせると決めたんだ。……今回が俺に残された最後のチャンスかもしれない。

 両親の死でバラバラになりかけた心を繋ぎ止め、癒してくれたはやてはかけがえのない存在だ。彼女の幸せのためならば、心が砕けることになるとしても……。

 どんなに辛くても、苦しくても逃げるな。やれるな、俺……。

 

「……悪魔で構わない。俺には……貫きたい想いがあるんだ」

 

 剣を構えながら真っ直ぐ見つめると、ヴィータは怯んだように後退った。噛み締めながらぎゅっと目を瞑ったのち、彼女は八つ当たりするかのようにデバイスを振り上げ高町の方へ走り始めた。カートリッジがリロードされ、次の瞬間には爆炎が巻き起こった。それもつかの間、桃色の光と赤色の光が屋上から飛び去っていく。

 どうやらヴィータは、俺ではなく高町との戦闘を選んだようだ。高町もそれに答えるつもりらしい。この場に残っているのは俺とテスタロッサ。敵対する側はシグナムとシャマル。

 数は同じだが、あちらは数多の戦闘経験がある騎士達だ。シャマルは戦闘向きの魔導師ではなさそうだが、油断は禁物だろう。

 

「……シャマル、お前は離れて通信妨害に集中しろ」

「……相手はふたりいるのよ?」

「彼らとはそれぞれ剣を交えたことがある。力量は分かっているつもりだ。勝てない勝負を今するつもりはない」

「……本気なのね?」

「ああ……それに蒐集を行うと決断したのは私だ。お前は戦闘向きではないし、ヴィータは夜月とは戦えんだろう。主の存在がバレてしまった以上、手加減するわけにもいかない……十字架は私が背負う」

「……分かったわ。だけど私は、あなたの力を信じてるわ。それに、たとえ十字架を背負うことになったとしても、あなただけに背負わせたりなんかしない」

 

 シャマルは後方に下がりながらバリアジャケットを身に纏った。

 俺はテスタロッサの近くへと移動し着地する。彼女と視線が重なるが、俺と同じ想いでいてくれているのか力強く頷いてくれた。俺達の視線はシグナムへと向く。

 

「シグナム、闇の書は悪意のある改変によって壊れてしまっています。今の状態で完成させてしまっては、はやては……」

「お前達があれをどう決め付けようと、どう罵ろうと聞く耳は持てん」

「そうじゃない、そうじゃないん……!」

「聞く耳は持てんと言った! 邪魔をするのなら――」

 

 シグナムの身体を炎のような魔力が包み込み、衣服が徐々に戦闘用のものへと変わっていく。剣を振り上げ、振り下ろす形で構えると包み込んでいた魔力が霧散する。

 

「――斬り捨てるのみだ!」

「っ……」

 

 言葉では無理だと悟ったのか、テスタロッサもバリアジャケットを展開した。ただ普段とは違ってマントはなく、両手足には魔力翼が確認できる。

 

「薄い装甲をさらに薄くしたか……」

「その分、速く動けます」

「緩い攻撃でも……当たれば死ぬぞ?」

「あなたに……勝つためです」

「……夜月といい、お前といい。……こんな出会いをしていなければ、私達は良き友になれていただろうにな」

 

 シグナムは俯きながら鞘を出現させ、流れるような動きで剣を納めた。

 

「まだ間に合います!」

「……止まれん」

 

 そう静かに発せられた次の瞬間、彼女の頬を涙が伝った。それを見た俺とテスタロッサは、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「我ら守護騎士……主の笑顔のためならば、騎士としての誇りさえ捨てると決めた。この身に代えても救うと決めた……」

 

 シグナムの剣から薬莢が排出され、足元に魔法陣が出現。彼女は涙を隠そうともせずに顔を上げる。

 

「こんなところでは、止まれんのだ!」

「……いや、止める。止めてみせる!」

 

 互いが同時に前進し始めた。俺とシグナムとの距離は瞬く間に縮まり、彼女と視線が重なる。

 迷いのない一撃が放たれる。それに対して、こちらも上段から斬り下ろす。交わったふたつの刃は、甲高い音を響かせた。

 競り合う形になったものの、体格や筋力の差もあってか徐々に押されてしまう。

 

「夜月、相手がお前であろうと手加減するつもりはない。斬り捨てる!」

「ああ……」

 

 シグナム、お前は俺と友達になれたかもしれないって言ったな。だけど友達はなろうと思ってなるものじゃない。互いに相手のことを大切に思えるようになっている、と自覚したときにはすでに友達なんだ。

 お前は何度も俺の身を案じて身を引くように言ったくれたよな。俺に稽古をつけてくれたよな……。

 

「そうでもしない限り、俺は何度だってお前と剣を交える……友達としてお前を止める!」

「――っ……お前は敵だ!」

 

 生じた迷いを振り払うかのように、シグナムは強引にこちらの剣を弾き飛ばした。

 体勢が崩れて行く中、切り返された刃がこちらへと迫ってくるのが見える。剣で防ごうとすれば、結果的により体勢が崩れることになるだろう。

 

「あなたの相手は、ショウだけじゃありません!」

 

 魔法を使って防ぐしかない、と判断を下そうとした瞬間、頭上に鎌を振り上げているテスタロッサの姿が見えた。シグナムもそれに気が付いたようで、攻撃をやめて鞘を振り上げた。耳障りな衝撃音が鳴り響く。

 体勢を立て直し再度シグナムに仕掛けようとした瞬間、ふと彼女の背後にいたシャマルが視界に映った。シャマルの瞳には普段の優しい色はなく、何かを狙っているように見える。

 俺はシグナムへ向かっている。彼女の力量を考えれば、テスタロッサとの競り合いをやめることは可能のはずだ。その上で純粋な戦闘タイプとは思えないシャマルが取る行動は……。

 脳裏に浮かんだ答えが当たっている確証はなかったが、俺は適当な方向に向かって高速移動魔法を発動させた。何をやっているんだ、といった視線を向けた者もいたが、シャマルだけは違った反応を見せる。予想通りバインドか何かを仕掛けていたようだ。

 ――個々の戦闘能力じゃ俺やテスタロッサよりもおそらくシグナムが上だ。シグナムの一撃の威力を考えれば、防御力の低い俺達にはどれも致命傷。まとも受ければ一撃で倒れる。シャマルをどうにかしなければ……

 カートリッジをリロードしながら魔力弾を生成。これまでの魔力弾よりも一回り大きく、数も多くなっている。扱いきれるかという不安を強い想いで押し殺し、シャマルへと導いていく。

 

「ショウくん……私もヴォルケンリッターなのよ」

 

 シャマルは飛来する魔力弾に怯む様子は見せず、手にしているデバイスで大きな輪を描いた。そして彼女は、輪の内側へ手を伸ばす。

 理解しがたい行動だと思ったのもつかの間、シャマルが力強く腕を引っ張ると突如テスタロッサが現れた。予想になかった事態に俺とテスタロッサは共に驚愕する。とはいえ、思考を止めれば魔力弾がテスタロッサを襲ってしまう。俺は必死に魔力弾を別の方向に誘導した。

 

「お前達はシャマルを侮りすぎだ」

「――っ!?」

 

 わずかな隙を見逃すことなく、シグナムはテスタロッサに一閃。テスタロッサは持ち前のスピードでかろうじて防御することができたが、浮遊していたこともあって吹き飛ばされた。シャマルから遠ざけようとしたのか、テスタロッサを飛ばした先には俺がいる。魔力弾に意識を向けていたこともあって、テスタロッサと衝突した。

 

「う……」

「ぐっ……」

 

 鈍い痛みを感じるが一刻も早く体勢を立て直さなければならない。俺はテスタロッサの腹部に手を回し、剣を地面に突き刺すのと同時に両足の踏ん張りを利かせる。一瞬と呼べそうな時間、周囲に摩擦音が響き渡る。俺達は、どうにかフェンスを突き破ることなく静止することができた。

 

「テスタロッサ、平気か?」

「う、うん……さっきの魔法だけど」

「おそらく転移系の魔法……転送というよりは取り寄せる感じのものかな」

「だとすると厄介だね……もしかしたら」

 

 テスタロッサが言いたいのは、リンカーコアを対象にしても使えるんじゃないかということだろう。だが

 

「可能性はあるけど、今は無理だと思う」

「根拠は?」

「俺を狙わずに君を盾にしたからだ。リンカーコアを対象にできるとしても、それなりに条件があるんじゃないかな。例えば、バリアジャケットが破損しているとか」

「……うん、充分に考えられると思う」

 

 俺とテスタロッサは互いに構え直す。

 シャマルに攻撃性はあまりないが、転移魔法の使い方やサポート能力から考えて充分に脅威だ。シグナムに関しては言うまでもない。

 2対2であるが個々の戦闘経験、仲間との連携から考えて総合力はあちらが上だ。ここにいるのが俺ではなくて高町ならば、テスタロッサとの連携も格段に良くなるため違ったのだろうが……。

 とはいえ、高町はヴィータを相手している。交代しようとしても、ヴィータは俺との戦闘を避けかねない。3対3という状況になれば、俺がより足手まといになって状況は悪化するだろう。こんなことならば、もっと内容の濃い戦闘訓練を積んでおくべきだった。

 

「大丈夫だよ」

「……この状況でよくそんなことが言えるね」

「うん、だって諦めたら勝てないけど今のショウには強い想いがあるよね。ショウが諦めないなら私も諦めるわけにはいかない、って思えるから」

「……俺は」

 

 続きを口にする前にテスタロッサは、言わなくていいと言わんばかりに首を横に振った。

 

「大切な人がいなくなるんじゃないかって不安で……、あの人達のためにも頑張って……。きっと今日までに……ショウはいっぱい悩んで、苦しんで、傷ついてきたんだよね」

 

 テスタロッサはそこで一旦口を閉じ、優しい瞳を真っ直ぐこちらに向ける。

 

「それでも今もこうして戦ってる……私はそんなショウのこと信じてるよ」

 

 心の中にあった何かが砕かれた気がした。

 ……本当に君は優しい子だね。俺は高町のように君に心を開いていたわけじゃないのに……。

 喜び、自分への嫌悪などを覚えつつも、俺の口は無意識にこう発する。

 

「……俺も君を信じる」

 

 視線は自然とシグナム達へと向いた。テスタロッサも、少しの間の後彼女達へと意識を戻したようだ。

 実力的な何かが変わったわけではない。だがそれでも、先ほどまでよりも戦える気がするのはテスタロッサの言葉のおかげだろう。

 再び戦闘が開始される、まさにその瞬間だった。

 とある方向から爆音が響く。一瞬ではあるが桃色の光が見えたため、おそらく高町の砲撃によるものだろう。

 爆発や爆音は魔法を使用した戦闘には付き物だ。これだけだったならば意識はすぐにシグナム達へ戻っていただろう。

 煙が晴れると共に姿を確認できたヴィータの周囲には、不気味な色の障壁があった。高町の砲撃を受けて無傷というのも驚くべき事実だが、それよりも注目すべき点があった。

 

「……闇の書?」

 

 ヴィータの顔にも困惑の色が見える。

 突如出現した闇の書は、障壁を消すと少し上昇した。直後、蛇のような闇色の魔力が多数出現する。

 

「あれは……」

「ナハトヴァール……何故!?」

 

 ナハトヴァール――闇の書に搭載されている自動防衛システムであり、暴走を引き起こす原因。だがあれが起動するのは完成後ではなかったのか。

 

「待て、今は違う! 我らはまだ戦える!」

「そうか……こいつ、こいつがいたから」

 

 疑問を抱いているのは俺達だけではないようだ。騎士達まで闇の書の行動を理解できていないとなると、いったい何が起こるというんだ。

 そのように思った矢先、ナハトヴァールからシグナム達の維持を破棄して完成を最優先するといった発言があった。それを間近で聞いたヴィータは、誰よりも早く怒声を上げながらナハトヴァールへ向かって行く。だがあっさりと返されてしまった。

 ナハトヴァールは次なる行動に移る。強固なバインドを複数発動させ、この場にいた全ての者を拘束した。敵対していた俺や高町だけでなく、闇の書の一部であるシグナム達でさえも。

 蒐集されたことがある高町とテスタロッサを除いて、リンカーコアが出現。必然的に魔力の蒐集が始まる。

 

「ぅ……」

「く……!」

「シグナム、シャマル! うぐっ……!」

 

 高魔力保持者から蒐集を開始したのか、騎士達の顔が歪んだ。助けたいという想いに駆られるが、バインドを破壊することができない。

 ――どうする……。高町やテスタロッサでもバインドは解けそうにない。俺もすぐに蒐集される……そうなったらしばらく戦闘することは不可能。何もできないまま最悪の未来を迎えるのことになるのか……。

 

「うおおっ!」

 

 突如、気合の声と共にナハトヴァールへと殴りかかった人影があった。

 見慣れた姿ではないが、ザフィーラだろう。彼の放った攻撃は決して軽いものではないだろうが、ナハトヴァールの防御は異常なまでに強固のようだ。ザフィーラの拳から溢れ散っている鮮血がその証拠だろう。

 標的をザフィーラに定めたナハトヴァールは、彼を吹き飛ばすと蒐集を開始。ザフィーラは抵抗を見せたが、結果は言うまでもなかった。

 次は俺の番か……

 と思ったが騎士達の魔力によって完成したのか蒐集は行われなかった。

 だが解放されることなく、拘束された状態のまま高町達と共に闇に包まれ始める。

 闇に包まれる直前に見えたのは張り付けされたように拘束された騎士達と、それを見つける少女の姿だった。

 

 

 




 シグナム達を説得するために剣を交える道を選んだなのは達。だがナハトヴァールが起動したことによって、その場にいた者は拘束されて魔力を蒐集されてしまう。それによって、ついに闇の書が完成してしまった。
 しかし、少年と少女達の心は折れていなかった。はやてや騎士達を助けるという想いを胸に抱いて行動を起こす。

 次回 As 14 「闇の書の意思」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。