魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~   作:夜神

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10 「迫り来る夏」

 日に日に気温が上がり、夏と呼べそうな季節を迎えつつある今日この頃。私、フェイト・T・ハラオウンはふたりの友達と買い物に出かけていた。

 

「今日は付き合わせてすまんな」

 

 謝罪の言葉を口にしたのは、はやて……ではなく、そっくりさんであるディアーチェだ。出会った頃はよく間違えてしまっていたが、彼女との付き合いも今年で3年ほどになる。また今年から同じ学校に通っていることもあって、顔を合わせることも多くなった。

 ――間違える回数は大分減ってきたけど……さすがに遠目だとまだ区別がつかないんだよね。背丈も同じくらいだし、髪型もほぼ同じだから。

 そういう意味では私とレヴィも同じではあるけど、私達の場合はレヴィが帽子を被るようにしている。話し合って決めたことではないので、レヴィ自身かディアーチェ達が言ってくれたのかもしれない。

 

「ううん、気にしなくていいよ。私も新しいの買おうかなって思ってたから」

「そう言ってもらえると助かる。レヴィを連れてこられればよかったのだが、ここ最近はユーリ達の手伝いをしているらしくてな」

 

 あのレヴィが……、とも思ったりもするけど、レヴィってああ見えて数学の分野においては誰よりもできるんだよね。前に勉強会しているときに遊びに来たことがあったけど、私達の課題を見て「簡単な問題ばかりだね」って笑いながら言ってたし。

 

「そうなんだ。頑張り過ぎないといいけど」

「そこは大丈夫であろう。ユーリは抜けているところもあるが、体調管理はしっかりしておる。それに一緒に居るセイバーも無理だと思えば忠告する奴だ。心配になるのは……」

 

 ディアーチェの視線が私の反対側へと向く。そこにいるのは、口元に手を当てながら何やら呟いているメガネを掛けた少女だ。おそらく彼女の職業柄、デバイスに関することを考えているんだと思う。

 

「シュテル、貴様何を先ほどからブツブツと言っておるのだ?」

「ん、口に出ていましたか。それはすみません」

「別に謝れとは言ってはおらぬが……いったい何を考えておったのだ?」

「それは……ふと試してみたいことが浮かんだので戻ってからのことを少々」

 

 試してみたいこと、というのは、シュテルが研究しているという新型カートリッジ。もしくは、平行して進めているという魔力属性変換をサポートするシステムのことだろう。

 ショウも一緒に研究してるらしいけど、学業のほうを優先させるために基本的にシュテルが進めてるんだったよね。ファラが代わりに手伝ってるらしいけど……聞いてた通り、あまり進展はしてないんだ。

 ベルカ式だけでなくミッド式も含めたカートリッジシステムの研究が大変なのは、素人である私にも分かる。いや、私が分かる大変さなんてものは微々たるものなのだろう。数多の失敗を繰り返し成功としても、時代と共により良いものを求められる。終わりというものが存在していなさそうな道を彼女は歩んでいるのだ。デバイスを使う私達は、彼女を含めた技術者の人達に心から感謝すべきなのだろう。

 

「はぁ……仕事のことを考えるなとは言わんが、買い物に来ているのだから今しばらくは忘れぬか。ここ最近の貴様は根を詰めすぎておるとユーリ達が心配しておるのだぞ」

「そのようなつもりは…………いえ、そうですね。少し焦っていたかもしれません」

 

 シュテルが感情を見せながら認めるのは少し珍しいかもしれない。

 ……そういえば、この前ショウが右手に包帯を巻いてたような気がする。詳しいことは聞いてないけど、今のシュテルを見る限りテストで何かあったのかも。

 カートリッジシステムは爆発的な魔力を得られるだけに制御が難しいシステムだ。新型となれば誰よりも慣れのありそうなシグナム達でさえも苦労するのではないだろうか。加えて、魔力変換サポートシステムも搭載しているデバイスとなれば、もう未知の領域とも思える。

 …………やめてほしい、だなんて言えないよね。

 危険性で言えば、戦場に赴く私達のほうが高いと言える。ショウ達だって心配しているはずだ。けれど私達の意志を尊重し、止めようとはしない。

 それにショウやシュテル達がやっていることが、私達や未来の魔導師達を助けることになる。私は執務官という道を選び、彼らは技術者としての道を選んだ。進む道は違えど、お互いに戦っている。自分勝手な感情でやめてほしいなどと言えるはずがない。

 

「ご心配を掛けてすみません。今日は心の底から楽しむことにします」

「ふん、礼ならユーリに言っておくのだな」

「はい。今度会ったときに必ず」

 

 シュテルの素直な感情表現に慣れていないのか、ディアーチェは顔を赤らめながら私のほうに顔を向けてしまう。これまで見てきたふたりのやりとりは、シュテルがからかってディアーチェが怒る。といったものが多かったが、内心ではお互いに大切に思っているのだろう。

 

「それで今日は何を買いに行くのですか? よく考えてみると、買い物をするとしか聞いていなかったので」

「それは水着だ。もうじき学校もプール開き、海水浴場のほうも開かれ始めるだろう。小鴉が行こう行こうとすでに騒いでおるからな。念のため準備はしておくべきであろう」

 

 仕方がないからって感じに言ってるけど、なんだかんだでディアーチェってはやてのこと好きだよね。たまにふたりで出かけてるみたいだし、毎度のように怒ってるけど無視したりしたことないし。はやてからお姉ちゃんって言われたら否定してるけど、内心では手間のかかる妹みたいに思ってるのかも。

 

「なるほど、先ほど言っていたレヴィの件も納得できました。フェイトを誘ったのは、彼女の分も買っておこうと思ったからですね」

 

 視線で問いかけてくるシュテルに、私は肯定の笑みを返す。

 昔から何度も間違われるほど似ている間柄だけに、今も背丈や体型は酷似している。多分私に合う水着はレヴィにも合うだろう。とはいえ、私と彼女では似合う色などに違いはあるだろう。そこはシュテル達に任せるしかない。

 

「それと聞いておきたいのですが、海水浴などには皆で行くつもりとお考えですか?」

「可能な限りはそうするであろう。意図的に誰かを仲間外れにしようとする者はおらぬであろうからな」

「ふむ……では真剣に選ばなければなりませんね。ショウを悩殺できる水着を」

 

 凛とした顔で発せられた言葉に私とディアーチェは一瞬呆気に取られ、理解するのと同時に顔を真っ赤に染めた。

 

「なな何を言っておるのだ貴様は!?」

「そ、そうだよ。べべ別にショ、ショウに見せるために買うわけじゃないから!?」

「だ、大体なぜそこであやつが出てくるのだ!?」

「なぜ? ディアーチェが言ったではありませんか、遊びに行くときは可能な限り皆で行くと。ならばショウも含まれるはず。殿方の目があるわけですから、我々は女を魅せるために最大限の努力をするべきではないのですか?」

 

 い、言ってることは分かるけど、私は学校以外でスクール水着を着るつもりはないんだけど。学校以外のプールや海水浴場でスクール水着じゃ浮きそうで恥ずかしいし。それは多分ディアーチェも一緒だと思う。

 うぅ……ショウに見られるかと思うと恥ずかしくなってきた。水着姿は今までに何度も見られてるけど、小学生のときはワンピース型みたいなのだったし。アリサ達はビキニみたいな感じにするって言ってたから、私もそっちにしようかと思ってたけど……見られると思うと恥ずかしくて死にそうだよ!

 

「あなた方は何を今更照れているのですか。分かっていたことでしょうに」

「改めて言われれば恥ずかしくもなるわ! そもそも、なぜ貴様はそんなに平気そうなのだ。見られることに抵抗はないのか!」

「そんなの……あるに決まっているではないですか」

 

 ほんのり頬を赤らめて視線を逸らすシュテルは、正直に言って可愛く思えた。普段あまり感情を出さないだけに破壊力抜群である。

 

「ただでさえ、私はあなた方に比べて私服姿を見られる回数が少ないのです。水着ともなれば恥ずかしいに決まっています」

「ならばなぜ先ほどのようなことを言うのだ」

「私も昔と違って年頃の女の子ですから。異性からの目は気にします。それに、可愛く見られることに越したことはないでしょう」

 

 そう言われてしまうと、大抵の女子が思うことだけに私やディアーチェは何も言えなくなってしまう。

 シュテルの言ってることは最もだけど……私は別に誰からでも可愛く見られなくてもいいかな。ひとりにだけそう見てもらえれば……何考えちゃってるの!?

 こんなこと考えたら余計に顔が熱くなるよ。街中だから人目だってあるし、変な視線向けられたら私だけじゃなくディアーチェ達にも迷惑掛けちゃう。考えないようにしないと……。

 

「……何より私はあなた方ほど人に見られて困る体をしていませんので。気合を入れて選ぶ必要があるのは当然かと」

「チラッと我らの一部を見るでない! というか、今の貴様の言動はセクハラにも等しいぞ!」

「ディアーチェ、場所を考えて。大声でセクハラとか言ったらダメだよ!」

「そういうあなたも言っていますがね」

 

 うぅ……さらりとそういうこと言わないで。恥ずかしさと精神的な痛みが同時に来るから。

 髪型を似せたらそっくりに見えるんだろうけど、シュテルとなのはは似てないよ。なのはは今みたいなこと言わないもん……。

 などと考えた矢先、シュテルが何か思いついたようにポンと手を鳴らした。

 

「そういえば、フェイトにはまだ見せる相手がいましたね」

「え?」

「何を呆けているのです。あなたにはなのはという相手がいるではありませんか」

 

 なのは……に見せる? 何を……普通に考えると、流れ的に水着だよね……水着!?

 いやいやいや、なのはは女の子だよ。何で私がなのはに水着を見せるの。似合ってるかどうかくらいは聞くかもしれないけど、ショウに対して思うような感情はないんだけど……って、ショウに見せたいとか思ってない。褒めてもらえたら嬉しくはあるけど、見られるのは恥ずかしいし。自分から進んで見せたいとか思ってない。

 

「凄まじい勢いで表情が変わってますが……まさか図星だったのですか?」

「ち、ちが……な、なのはとは大切な友達ってだけで」

「ほう……大切な、友達ですか」

「おかしな感情とか抱いてないから。分かっててからかうのやめて!」

「そうだぞシュテル、我々をからかって楽しいか!」

 

 ディアーチェの言葉に、シュテルは静かにメガネの位置を直し、真剣な表情を作る。そして

 

「楽しいか楽しくないかで言えば、楽しいですね」

「はっきり言えば許されると思うな! な、何だその顔は!」

「いえ、今日という日を楽しめと言ったのはそちらではなかったかと思いまして」

「ぐぬぬ……そうではあるが、人をからかって楽しめとは言っておらぬ。女子でしか出来ぬ会話などで楽しまぬか!」

「女子らしい会話ですか……」

 

 ディアーチェに掴まれたままシュテルは考え始める。真面目に考えているようには見えるが、どうしてか私の心はざわついてしまう。

 

「……では、好きな人はいますか?」

「――っ、馬鹿か貴様は!?」

「うん、そういうのは道端で話すことじゃないよ!?」

「そんなに慌てるということは、つまり心に想う相手がいる……」

「えぇい、黙らぬか! 黙らぬなら無理やりにでもその口を閉じさせるぞ!」

「やれやれ、ガールズトークというものは難しいですね」

 

 やれやれって……それを言いたいのはこっちだよ!

 

 

 

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