泥酔で書いてはいけませんね
「…なんというか」
「予想外に大きな話だったね」
穂苅純一郎と坂城匠
同じ中学で出会い、同じひびきの高校に入学した顔馴染みの会話である
クラスメートの中に名前で呼び合う男女が居て気になって話しかけたのだ
その時に幼馴染だと聞かせてもらったが…
「あー、奢ったせいでもう今月お金無いよ」
「別に喫茶店に入ってまで聞き出さなくても良かっただろうに」
「なんだよ、純もノリノリで聞いてたじゃん」
数日後、共に下校した時に匠が話の種に詳しく聞き出そうとしだし
それに呆れて静止した純一郎も聞いている内に続きを促してしまった
既に新しい友人である勇気は途中で分かれ
二人は慣れ親しんだ大通りを歩いて帰っていた
「まぁ聞けてよかったよ。女の子はこういうネタに食い付くからね」
「いや、広めるなよ?小波も恥ずかしがってただろ」
「コレが女子の共通認識になれば逆に感謝すると思うけど?」
「…どうして?」
「あー、純は分からないか」
匠が立ち止まり指を振る
そして小馬鹿にされたのを察した純一郎は嫌な顔をした
「恋愛初心者の純くんに、特別に匠先生が教授してあげよう」
「やっぱりソッチの話か…」
「まぁまぁ、理由が分からないと反対出来ないでしょ」
「…確かに」
純一郎は色恋沙汰が苦手だ
具体的に言うと女性というものに逆らえない弱さを持っている
末っ子に生まれ、三人の姉に可愛がられ過ぎた結果であった
そして匠はそれを分かった上でからかってくる
『こうなったら面倒だ、さっさと話を終わらせてやろう』
そんな考えの純一郎だからこその匠の態度なのだろう
彼は根っからのお人好しだった
「まず、純は話の3人の関係をどう思う?」
「ん?そりゃ幼馴染だろ?」
「うん、20点」
通行人の邪魔にならないよう壁に寄り掛かる
純一郎の家はすぐ近くの花屋なのだが
匠を連れて行くと姉達がめんどくさいのでここで話を終えて帰る気だ
「幼馴染ではあるんだろうけど、それだけの関係じゃないんだよ」
「と言っても…後は高校で再会しようって約束ぐらいだろ?」
「それ以上の芽生えてるものだよ、分かんないかなぁ?」
そう言われても…と首を傾げる純一郎
実は話の流れで答えは分かった
だが、勇気が言い切った関係を否定したくなかった
「本当に分からないのか?」
「…はぁ~、お前は…」
「ん?」
「お前、本当に下世話な奴だな」
「なんだよ分かってるじゃん」
匠の言った『恋愛初心者』でもう答えは出ている
どうせ話の三人が色恋沙汰だのなんだのと言いたいのだろう
そんな事を考えながら、純一郎は溜息をついた
「つまりお前は、三角関係になってるって言いたいんだろ?」
「そうそう!でも広める理由が分からないと50点かな」
「で、その事を女子に広める事で…」
「余計な横槍が入らないように、そこはノータッチにしようって事さ」
「最後は自分で言うのか」
笑う匠にはいはいと純一郎は手を振った
確かに勇気に対する光の態度を見るとなんとなく分かる
もう一人は別クラスなので分からないが…多分、同じだろう
そう思うが、純一郎は勇気が話した男女の友情を否定したくなかった
「お前、面白がって言ってないよな?」
「いや、本当に必要…というかやらなきゃマズイから言ってる」
「…だろうな、お前は本当に嫌われる事はやらない奴だ」
「分かってるじゃん」
念の為に確認を取ろうとしたら真面目な内容で返された
恐らく既に匠は何かの確信を持っていて
わざわざ勇気に奢ってまで話を聞き出さなければならなかった
腐っても、この変わり者と友人をやっているのだ
大体の行動原理は分かる
つまり
「そこまでやらないと三人纏めて不幸になるって言いたいのか?」
「不時着でも良いから何とかして終わらせないとヤバい」
「…そこまでなのか」
「ああ」
匠はその小柄さと童顔によって同級生であれ女子に可愛がられて喜び
男に対しては素の冷淡な態度であしらうようなお調子者で
争い事が起きれば、両方の味方のように見せてその実どちらにも味方しない
そんな誠意の欠片も無さそうな酷い男であるが
本当に不味い事態ならすぐに動いて我が身を切れる思いやりがあった
「どう不味いんだ?陽ノ下さんと水無月さんの関係か?」
「うん、結局の所でそれが原因だね」
「勇気が仲の良い幼馴染と言ってるその裏で…二人が勇気を巡って?」
「うん、勇気が原因の取り合いが起きてるんだ」
「再会してすぐにそうなったのか…」
「いいや、再会前からもう既に冷戦状態だよ」
「え?」
匠の吐き捨てるような声に思わず顔を見る
それは冷めきった、つまらないものを見る目だった
匠の嫌いな女のドロついた闇だった
「話からして、陽ノ下さんはずっと勇気を待っていたんだ」
「ああ、それは分かる。そして水無月さんもだな」
「そして約束の為に水無月さんが裏切る事になった」
「…裏切る?」
「フライングして一人だけ勇気と会ってた事だよ」
「いやいや、二人で話し合って決めたと勇気が言ってただろ?」
そう、勇気の話では『二人で決めて琴子が助けに来てくれた』だった
そこには裏切りも何も無いのだ
「うん、表向きはそうだね。でも仕方なかったって理由があるんだよ」
「だから…勇気の学力が原因だったんだろう?」
「それでも仕方ないって理由があった」
「…全く分からん。お前は何が言いたいんだ?」
「理由があっても、了承があっても、抜け駆けは抜け駆けになんだよ」
つまり匠が言いたいのは
表『分かったよ、これは仕方ないもんね』
裏『理由を盾にやりやがったなこのアマぁ!』
である
「今のは言い過ぎだけど、陽ノ下さんの心情的にはその方向」
「うーん、分かるような分からないような…」
「それにさ…前の日曜にようやく分かったんだ。水無月さんの中学時代」
「ん?それは入学式の日に勇気に聞き出してたろ?」
「日曜、女子の視点を聞いたんだ。二人と同じ中学の同級生から」
「…もえぎの中学校だったな?かなり遠いのによくもまぁ」
「まぁ、陽ノ下さんと水無月さんのギクシャク感が気になってたからね…」
「…なぁ、もしかして今月、もう金欠だって言うのは」
「ううん。アッチには行ってないよ。でもその娘は2県向こうの高校でさ」
わざわざ貯金を切って電車で行ったのだろう
そんな匠に純一郎は溜息をつく
「それで、どうだったんだ?」
「完全に彼氏と彼女の関係だったってさ」
「勇気は冗談で言ってたって考えてたが、本気でそう思われてたのか」
「うん、話を聞く限り、本当にカップルだったよ」
「…例えば?」
「ほぼ毎週のようにデートしてた」
「…は?」
「そう、その顔。俺もそんな顔してたと思う」
勇気の話では二人で出掛けたのはストレスの溜まった琴子を遊びに誘った時との事だった
それは稀な事で、滅多に無い出来事と言っていたが…
だが、現実は真っ赤な嘘だった
「じゃあ…中学時代に付き合ってた?それを隠してるのかアイツ?」
「どうかな?勇気は何処か変だって言ってたし」
「…どういう事だ?」
「なんでも…勇気の友人関係がおかしかったらしい」
「どうおかしかったんだ?」
「ほんの数人しか名前を覚えなかったんだと」
「…ん?」
「今のアイツを見ても分かるだろ?米屋や山田が話しかけても反応薄いだろ」
「…」
「ほら、前の席の今野なんて何度話しかけてもロクに反応無くて、もう諦めたろ」
確かに純一郎が思い出す限り、勇気は特定の人物以外には冷めた反応だ
なんというか、わざとというよりは夢の中のような鈍い反応で
何かに誘っても拒否して干渉を防いでいるようだった
「確かに…まともな返答するのは俺達だけか?」
「うん、何でか俺達だけなんだ」
「うーん…すぐに出会ったヤツにだけしか懐かないとかか?」
「どうも女性関係もおかしいんだ…本当におかしい」
「そういや、女子は陽ノ下さんにしかロクな対応しないなアイツ…」
おかげで今、勇気と話す男子は純一郎と匠だけだった
女子は光と…恐らく琴子の2人のみ
いくら友人を選ぶタイプだとしても、異常だった
何故、最初に話しかけた今野ではなく自分達だったのか?
純一郎はそれを考えたが答えは出なかった
「唐突だけど、御田万里って知ってる?」
「おだまり…確か役者だったか?」
「そうそう」
「…話の流れからして、御田万里にはまともな反応だったとか?」
「そう…それならただのミーハーで済むんだけどね…」
「何かあったのか?」
「和泉って彼氏持ちの娘を稀にデートに誘ってたんだってさ」
「…は?」
「うん、俺も暫く声が出なかった」
純一郎は頭を抱える
勇気は色々とおかしな友人だと認識していたが
まさか彼氏のいる娘にアプローチ等、本当に予想も出来なかった
「…その彼氏、どうしてたんだ?」
「とうとうキレて勇気を呼び出したんだと」
「それで?」
「呼び出しをブッチ切って無視したんだと」
「…」
「最後は彼氏が勇気をぶん殴って…でもそれでも無視してたんだと」
「…なんというか…なんて言えば良いんだ?」
「分かるかよ、本当に分からないよ」
本気で訳が分からない
純一郎は手で顔を覆い考える
匠は空を見上げながら途方に暮れる
「流石に、殴られてからは…」
「いや、全く気にせず…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「アイツ、何事も無かったようにデート誘ったんだって」
「アイツ、何なんだ!?」
「俺が聞きたいよ!」
純一郎の叫びに匠は泣きそうな顔で答えた
本当に訳が分からない
彼は…小波勇気は何なのか?正気なのか?
「その娘の情報網じゃ全然だったけど和泉さんと昨日コンタクト取れた」
「昨日?平日じゃないか、どうやって?」
「インターネットでホームページやってるんだよ」
「なるほど、そこで…メールを送ってやり取りした訳だ」
「うん、勇気の名前を出したらすぐ返事来た。相当困ってたのが分かる文面だったよ」
「…うわぁ」
なんというか、この数分で新しい友人が目も向けられない畜生になっていく
勇気の味方であろうと考えていた純一郎を後悔させる程の酷さだった
「殴った後も二ヶ月に一度はデートに誘ってたってさ…」
「ずっとやってたのかアイツ…」
「そこで話を聞いた娘が、水無月さんに直談判したんだって」
「ああ、彼氏を止めてくれとか言ったのか」
「うん…そこで水無月さんの返事が…『ごめんなさい』だったとさ」
「…ごめんなさい?」
「うん、『私ではどうしようもない』だって」
色々と気になる所が出てきた
琴子は勇気の異常性の何かを知っている
だが、肝心の琴子は居ない…純一郎は匠の言葉を待った
「…問い詰めたらしいけど、その後『ごめんなさい』の一点張りだったとさ」
「…」
「しかも泣きながら」
「泣きながら?」
「その娘が聞いた事じゃないけど、その後『私のせいだ』『でもそれは嫌』と呟いてたらしい」
「一体、何をやったんだ水無月さんは…!?」
ようやく純一郎は戦慄する
勇気が異常になる何かを仕出かしたのは琴子だと
しかも琴子はそれを止めたくない事に気付いた
吐き気がする…琴子という人物の女に…
いや雌の顔が見えた…男を雁字搦めにして泣く異常な女郎蜘蛛が見えた気がした
しかもそれが『止めれるが止めたくない』という、飢え死にしたくない蜘蛛に見えた
「分からない…ただ、会った娘の話だと…」
「他にまだ何かあるのか…?」
頭がクラクラする…もう嫌だ
それでも最後までと聞こうと純一郎は吐き気を堪え、親友に続きを促した
「入学前に勇気と会った覚えがあるらしい」
「え?」
「入試直後に、道に迷ってた勇気と話をしたんだってさ」
「…その娘、入学後の勇気の反応はどうだ?」
「何時も通り、空気同然だったと」
「入試の時は?」
「普通だった。外国帰りでちょっと日本語怪しげな、それでも普通の男子小学生」
「…」
「入試と入学後でまるで別人みたいだったと」
「うーん…その前後に何かあったのか?」
情報が少なすぎる
純一郎の頭では推測すら浮かばなかった
「本当に何もかもサッパリだ」
「うーん…何も分からず仕舞いか」
「そういや他にもアプローチ仕掛けたって言ってたな」
「ん?またアイツ変な事をしたのか?」
「うん、確か…名前は分からないけど緑髪の関西弁の娘と、地味な眼鏡の娘に」
「二人!?…もうナンパとか言ってられないな」
「しかもさっきまで挙げたのは、勇気が仕掛けた娘は、全員小学生」
「…は!?」
聞き間違いではないのか?
勇気ってロリコン!?
「そういえばそうだ!確かオダマリって子役だった!」
「そう…まだ小学生なんだよ、いや今やっと中学に入ったかな?」
「えっと…和泉って娘は?」
「うん、モチロン小学生…よく勇気を殴ったよな彼氏くん」
「本当にな!小学生のお遊びじゃなく本気なんだって事がわかったよ!」
純一郎は再び頭を抱える
友人は色々と…いや本当に冗談抜きにアレだった
そのショックもあるし、これからどうしようと途方に暮れるのもある
もう明日から勇気を無視するのが正解ではないのかと思う程だ
「…」
「…」
「つまり、勇気のやつは異常なんだ」
「よく分からないが、そうみたいだな」
「だから遠巻きに見る…しかない」
「消去法過ぎるけど…懸命な判断か」
「何か、条件は無いのか?例えばアイツが友達になろうとする条件…」
うーんと頭を悩ませる匠
純一郎は何かの救いを求めて祈るように見つめる
匠もそれに答えようとする…
「確か…」
「確か?」
「小学生の友人が居たらしい」
「また小学生か!」
「何でもアイス食わせまくってデブにさせったってさ」
「どういう事なんだ!?」
希望の答えが出てこなかった
純一郎は頭を抱えるか顔を覆う以外全く動いていない
『おーい?穂苅さんとこの。大丈夫か?』
『アッ、ハイ大丈夫デス』
『そっか、気を付けてな。調子悪いならすぐ家に帰りなよ』
という商店街の顔見知り以外への反応が無い
「まぁ、分かったのは勇気が異常って事だけだ」
「どうして俺達にまともな返事するのかもサッパリだな」
「本当にな。これ以上は何か知ってるっぽい水無月さんに聞くしかない」
「とはいえ、中学で3年間黙り続けただろう人が喋るのかと思うとなぁ…」
「言うなよ…そこがネックなんだよ…」
匠の反応は至極当然で、何の救いにもならない事を表していた
だが彼等はお人好し
勇気という厄ネタの変人を見捨てられないお人好しだ
「それで、三人の関係を遠巻きにする理由は?」
「厄ネタみたいだから、とりあえず隔離」
「後は三人が…特に勇気が変な事しないのを祈るだけか」
「とりあえず小学生には気を付けよう」
「あとは、やっぱり水無月さんから聞き出すしかないか」
「俺、やりたくねぇよ…」
「俺もついて行ってやるから頑張れ」
「いーやーだー…」