拝啓編集長様   作:bui

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第13話

高台にある件の駐車場までの道のりでは、スタートしてから少しして、律は車に酔ったと言った。

止めて休もうかと言ったのだけど「運転してくれてるのにごめんなさい」と白い顔をして申し訳なさそうにしたから様子を見ながらも車を目的地に進める。前日から出かけることを楽しみにしていたようだったから気持ち的に疲れてしまったのかもしれない。

 

結局律は途中から寝てしまった。

 

窓ガラスに映っている律の顔はまだ幼さが残っているが、整った綺麗な顔は大人になったらさぞやもてるだろう。しかし、考えてみれば今日のデートはなんともこっぱずかしい話なのかもしれない。

なにしろ今からキスするぞと宣言してそれを実行するための前戯のようなものなのだ。

 

まあ…、そうは言っても結構無理やりに押さえつけてすでに初キスは済ませていて、その後は一応何度も軽いキスは挨拶程度にしているのだけどな。(さすがにそれ以上は年齢的にNGだろうから濃いキスは控えている。)

 

自分の独占欲について深堀をしてみるけど、これが愛とか恋というやわらかいものなのかは分からない。律がそばにいなくなった時の喪失感は身体の一部をえぐり取られるような辛いものだったから、ひょっとしてこの気持ちの折り合いをつけるために律を恋人と思う気持ちに切り替えただけなのかもしれないという迷いがなくはない。

 

こんなに幼い顔をして眠るヤツの人生を大の大人が翻弄していいのだろうか?

ラブとライクの境界線はどこにあるのだろう。

 

そんなことを考えながらも車は高台の駐車上に到着した。上着を布団のように眠っている律にかけて、タバコを手に高野は外に出た。晩秋のつるべ落としの日が暮れて、眼下の家の明かりが観光地の土産物屋の輝石掬いの桶の中のように無秩序な色であふれていた。

 

煙草に火を点け、柵に体重を預け宙を仰ぐと黄昏をとうに過ぎた藍色のキャンパスにもビーズを散らしたようなカラフルな本物の星が瞬いていた。

 

と、一瞬…、スッと目の前を火球が尾を引いて流れて行く。

 

そういえばニュースで流星群が極大と言っていたような…。願い事を三回唱えるとかなうって本当だろうか?

まあ、こんなに短い時間に三回言えるわけないか…。いや、言えるわけないからこそ言えたら願いぐらいかなえてやるぜってことなのかもしれない。その奇跡的な行為に対して。

 

フっとため息交じりに苦笑すると、吐き出された白い息はすぐに消えて、タバコの白い煙だけがその場にとどまってゆらゆらと揺れた。

 

煙草の毒も栄養と言わんばかりに身体に取り入れながらぼんやりとしていると、衣擦れの音が背後から迫るのがわかった。

夜が進むにつれて冷えの度合いも増し、上着のない身体はさすがにギュッと縮こまっている。

背を丸め柵にもたれかかったままでいると背後からの気配は高野の身体をきゅっと抱きしめた。

 

「体調は大丈夫か?」

先に声を発したのは高野だった。

「少し寝たので大丈夫です。」

「寝不足?」

「う…、昨日はあんまり眠れなく…。」

顔を見れなくても律が恥ずかしそうにしているのが分かる。やっぱり昨日は遠足前の子どもみたいな高揚感だったのか?

ふふっと笑うと胸に回っている腕にギュっと力が入った。

 

「サンドイッチ買ってあるけど、腹へっただろ?」

「うん。」

律はそう言いながらも胸に回した手を離そうとしない。高野も律を無理に引き剥がそうとしない。

 

「高野さん身体が冷たいよ。」

「お前は温かいな。」

 

抱きしめたらすっぽりと腕の中に納まるサイズだから、背から全身を温めようとしても少し空いてしまうところまで温まるにはもう少し時間が必要らしい。

 

「高野さん今日俺にキスするの?」

「ロマンチックなヤツだろ?」

「う…、ん…。どうなんだろう。」

「何か問題でも?」

「理想があるって言ってるでしょ?」

「お前言わねーから分かんねーんだよ。」

 

早くもギブアップかと自嘲が湧くけど、結局人の行ないは自己満足でしかない。律の気持ちは律にしか分からない。経験とデータで予想ができたとしても何もかもを理解しあうことはない。

 

「ねえこっち向いて。」

 

背中にグリグリと顔を摺りつけているくせに、律は甘えた声で高野を呼ぶ。ヤレヤレと思いながら高野が振り向いた瞬間に、律はグイっとマフラーを引き、柵についていた手がカクっと外れた。

 

バランスを崩して倒れそうになる身体を律の華奢な腕が引き留めて、高野の目の前には微笑む律の顔が迫る。

 

「高野さん。好きです。高野さんが俺を好きでなくてもいいんです。」

 

そう言って高野の項に差し込んだ手を律はまた少し引き、伸びあがる小さい身体が高野の唇に届く。冷えた唇が高野の力を抜いた唇をフワリと覆った。

驚いた高野が身体をばっと引き剥がすと「ロマンチックなキス、ご馳走様」と律が怪しく瞳を揺らしてにっこりと笑った。

 

「はあ!?」

「理想は俺からのキスですから。」

 

腕の中でふふっと笑う律の顔自体は見えなかったけどおそらく満足げなのだろう。まさかそんなことを思っていたとは…。

 

「高野さんの初めてをもらうのが楽しみです。」

 

不穏な律の言葉は聞き逃して、もう一度夜景を見ようと提案すべきかどうか迷う高野だった…。

 

 

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