拝啓編集長様   作:bui

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第16話

「下手くそだなお前。これじゃあナノももよおさねー。」

 

さんざん律に好きなようにさせておきながら、唇が離れた瞬間、わざとにやりと意地悪に笑って高野はそう言った。

律は唇を合わせている間も襟から首に手を入れて、襟足の生え際をスリスリと撫でたり、背から肌をたどり腰骨のあたりを摩ったりと一応それなりに攻撃をしかけようとがんばっていたけど、高野は簡単にその気にはならないようにと意地を込めて腹の下の方に気合を入れたのだ。

 

高野の少し上ずった気持ちは知らずにさも平然とそう言われた(ように見えた)ことにムッとしているらしい律をよそに、高野はさらに言葉を続ける。

 

「二人ですることなんだからちゃんと相手の反応を見ねーと。自分だけ気持ちよくなってどーすんの?」

 

スルっと顎に指を這わせてから到達地点で指先に力を入れてデコを押すと、律はカメのように首をキュっと縮めたけど、それでも言われたことの方が気になるらしく、探るように「気持ちよくなかった?」と上目づかいでつぶやいた。

 

「まずは無理やりとかぜってーにダメだろ。それは強姦って言うんだ。」

「ご…。」

 

律がハッとして高野から身体を離そうとする。まだ幼い律にはその言葉はひどくショッキングに聞こえたようで心もち顔色も青くなっていた。

 

「ほら…、そうやってすぐに泣きそうな顔する。ホントお前って…、」かわいい、と続けるべきか迷った高野は、言葉の代わりに顔の輪郭に沿ってサラリと落ちている紅茶色の髪の束を律の目の前でフサリとつかみ、そのままスリスリと髪の毛の束をもむように愛で唇に寄せてチュっとキスをした。

 

戸惑いで揺れる視線で髪の束を見つめる律に高野は細めた目で「どうしたらいいか分からないの?」とさらに耳に口を寄せて言う。

喉の奥を開いてできるだけ甘く響くように意識したその音は、直に触れるより律の鼓膜を官能的に摩ったようで律は声にならない小さい悲鳴を上げた。

 

高野の上に跨ったまま一瞬身体を跳ねらせ身体を引いてた律は、それでも気持ちを立て直したようでふうっと少し長めの息を吐いてから、手を支えにおずおずと目の前の熱い胸板にあてて、唇から高野に身体を寄せる。

 

「顔が好き…、」

「うん(笑)?」

「頬から口の端につながるところと耳につながる顎のラインが特に好き。」

「マニアックだな。」

「キスしたくなる。」

 

チュッと律が啄むような軽いキスを落とす。

 

「濃い茶色の瞳も好きだけど、うっすらと目を瞑った時の長い睫毛はもっと好き。」

 

今度は律が目じりにチュッとキスを落とす。

 

「口は意地悪言うからあんまり好きじゃないけど、笑う時のちょっとだけあがる口の端っこは好き。」

 

チュッチュっと小さい音を立てながら好きを連ねて律が数えるようにキスを落とす。

 

「だんだん意図が見えて来たぞ。」

 

まだまだ幼さの残る律のかわいい行為に、身体の中心から焙られるように上がる熱を含ませてそう言うと、律は正解をもらったと思ったのか少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「長い指も好き。見てると触れたくてぼーっとする。」と力を抜いて放り出していた高野の手をつまみ、ツツっと持ち上げて長い人差し指を唇で付け根から輪郭に沿って這わせるようになぞり、節くれだった指の関節から先端までを咥の中に納め、ピチャっと湿った音を立てて舌で舐めあげる。

 

「グッときた。」

 

ご機嫌な童話の猫のように目を月形に細めて高野はそう言うと、律の口に入った指をグルリと旋回させて上あごを撫でるように持ち上げた。

急な動きに律がえずくように顔をゆがめて逃げようとするが、高野は首筋を掴んで律を抑えつけ口の中の指を二本に増やしてかき回すように動かした。

 

「ふっ…、は、ぁぁ…。」

 

閉じることのできない口の端からは切れ切れの声とまるで喘ぐような息が漏れて、ツゥっと唾液が一筋高野の胸に落ちる。涙の幕が張った翡翠の瞳は戸惑いが浮かんで揺れている。

 

「エロいな…」

 

歪む律の瞳には劣情を浮かべた獣の瞳が写り、支え手はもはや役に立たず骨の浮いた律の華奢な身体はふわりと高野の胸に落ちる。

いよいよとばかりに唾液の伝う痕を舌で逆にたどり、指の代わりに意思を持った動物のような舌を咥内に進入させ、今まで誰にも触れさせたことのないようなところまで高野は易々と陣地にしていった。

 

点と点で囲った場所は全部裏返ってしまう。

もう自分はどこにも居なくなってしまう。

みんな高野に征服されてしまう。

 

律は朦朧としてきた意識でそんなことをぼんやりと考えていた。

 

固形を保てずぐにょぐにょになった境界のない自分を律は手放しそうになっていくけど、それが少しも嫌じゃなくて全部溶けてしまえばいいのにと何もかもを流れにゆだねて漂う。

 

「ダメだな。」

 

急にギッとした痛みが肩に走って明け渡していた意識が戻る。ハッとして視線をそこに向けると痛みの先では高野がにやりと口の端をあげて笑いながら薄い骨に噛みついていた。

 

「そんなに簡単にされるがままになっていいわけ?」とまた意地悪な高野の口が歯型をぺろりと舐める。

 

「いい?って?」

「自分でしたいとか言ってたくせに。」

 

高野の唇がチュっと音を立てて律の唇に吸い付く。軽いのに啄むような慈しみのキスとは違ってヤケドをしそうに熱かった。

 

「律から舌入れて俺を気持ちよくして。」

 

そう言いながらも主導は高野のままで、律は操り人形のように言われるがままに高野の頬に手を当てて、ぎこちなく顔を寄せてお手本になぞらえて咥内で舐るように舌を動かす。

高野はその出来栄えを味わうようにそっと目を閉じた。

 

熱を持った唇に比べて頬に添えられた指先が冷たくて、律がひどく緊張していることが解ってそっと温めるように掌で指を覆う。

 

「どう?俺の味は?」

「シャトーブリオン。」

「極上だね。」

「まだ俺には無理かも…。」

「おこちゃまはハンバーグかな?」

「エロい事したいのに…。」

 

身も蓋もない律のつぶやきに、ククっと笑いが漏れるのを止められず高野はとうとう白旗をあげざるを得なかった。

 

「あと二年はダメかな…。」

「え!?二年!?」

「せめて大学生になるぐらいじゃねーと。」

 

そう言いながら高野が律を抱え込んで下腹部に手を伸ばす。咄嗟のことに驚いて、律は声も上げられずに身体をよじるけど、後ろから回り込んだ手は器用で、易々とベルトは外されて人には触れさせないところを大きな手が柔らかくも無造作に包み込んだ。

 

「とりあえず一回抜いとかねーと辛いだろ?」

「は!?うそでしょ!?」

「一緒にするか?」

「ば!馬鹿じゃないですか!?あ!やっ!」

「そういう割にはすっかりその気になってるけど?」

 

ヤワヤワと握り込まれていた筈が、だんだんと扱かれるように上下に動かされて、緩急付けた動きに律は脳の中心がしびれて気が遠くなる。

こんなに簡単に陥落するなんて恥ずかしいと思うのに、突っ張っていた手にも力が入らず、このまま出したくて自分の気持ちと添わないと物足りなくて、強くされるともっととその手に性器をこすり付けたくなる。

 

「あ…ぁ…、た、かのさん…ん…。」

「イっていいぞ。」

「やだ…。」

 

首の後ろにチュッチュっと高野がキスをしながら耳朶を噛まれて、下っ腹に力を入れて堪えるけどもはや紙一枚ほどの矜持も持つことのできない律は呆気なくその精を放つ。自慰をすることは今までもあったけど一人でするのとは比べ物にならないほどの興奮と快感が細く尖った頂上から一気に落ちた。身体が重力の存在を思い出す。

 

「早く大人になれよ…。」

 

高野が耳元で熱くそんな言葉を吐くから、律は文句を言おうと開いた口で高野の腕にかみついた。

そして、それからももうどうしていいかわからなくて、何度も何度もクチクチと高野の腕を甘噛みし続けた。

 

 

 

 

 

「高野が最後には常識を持ってくれたみたいで安心したわ」

「言ってる意味が解んないです。」

 

突然現れた社長の言葉に高野の眉間に強い皺が寄る。それは『春野三月先生』最新号のゲラが出た段階だと高野にも分かっていたから反論できなかったということで、決してしらを切ろうとしたわけではない。

 

そもそも高野は春野三月の最新のゲラは読んでいないから、何を書かれているかは当然知らない。際どいことを書かれていたとしても結局未成年に淫行するわけには行かないからぎりぎり止めたので文句を言われることもない。

 

第一実践で得たことばっかり書いてあると思う方もどうかしている。よく言われるようにミステリー作家が殺人ばっかりしているわけでも目撃しているわけでもない。

同様にエロ作家がセックスしまくっているわけでもないだろう。

 

 

 

「いや~、途中までどうしようかと思ったけどさ。結構エッチなシーンだったし。」

「実話とは限らないでしょ。」

「まあ、そうだけど。先生の場合はエロランク最低レベルだから、どこで仕入れたって話ですよ。」

 

返す言葉もない…。

 

「まあ。高野君今後のためにも頑張ってくれたまえ」

 

小声だったから他所には聞こえてないだろう会話をさっさとやめてくれたのはこの上司にしては常識ある対応だとホッとしたのもつかの間、差し入れは修羅場のエメラルドへか、高野個人へか…。悩ましいところだ。

 

 

「はあぁぁぁぁl」

 

 

手渡された超効きそうな高いドリンク1ケースから、おもむろに一つ掴み出して無造作に喉の奥に注ぎ込んだ高野は泥のように濁ったため息を一つ吐いた。

 

 

 

今日もお仕事頑張ります。(by編集長)

 

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