魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~   作:夜神

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第17話 「チヴィット」

 デュエルに夢中になったユウキは、気が付けば俺がいなくても問題なく動き回るようになっていた。ただ街そのものに慣れたわけではないため、家からT&Hといった限定的な場所だけではあるのだが。まあ彼女の性格ならば学校に通い始めるまでには俺がいなくても大丈夫になっているだろう。

 今日俺は、ひとりでグランツ研究所を訪れている。何でも小学生達のチーム名が決まったとのことで、ユーリやディアーチェがお祝いをしたいそうだ。その手伝いをしてほしいと頼まれたのである。

 ユウキも連れて行こうかと思ったのだが、最初のデュエルで通り名のあるデュエリストを撃破。その後も凄まじい勢いで勝ち続ける彼女にホビーショップT&Hからオファーがあったらしい。何でも小学生組の代わりにイベントデュエルに出てほしいとのこと。

 

「結果的に引き受けたそうだが……」

 

 多分エイミィあたりに押し切られたんだろうな。まあ何でも楽しむ奴だから問題ないだろうけど。リンディさんとかにもユウキのことはお願いしておいたし。

 とはいえ、ここ最近常に一緒に居たせいか心配になる。張り切り過ぎて失敗しそうなエイミィに何か迷惑を掛けられていないだろうか。エイミィに電話して釘を刺しておくべきか……クロノに頼んでおいたほうが確実かもしれないな。

 そんなことを考えている間に、グランツ研究所の玄関が見えてきた。青空が広がっているだけにここまでの道中は暑かった。さっさと中に入って涼むとしよう。

 

「……ん?」

 

 中に入ると、見慣れた少女達の姿が見えた。内訳としては制服を着た小学生が5人に制服姿のディアーチェ、それと私服のユーリだ。

 ユーリは高町と話しているようだが、なぜ顔を赤らめているのだろうか。転んで鼻でも打ったのだろうか……割と転ぶ子なのでありえなくはないな。でも盛大に転んだのならディアーチェが慌ててるだろうし……転びそうになったところを高町が受け止めたのかもな。

 

「なのはさんとまた会えて嬉しいです」

「うん、私もまた会えて嬉しいな」

 

 笑顔で会話するふたりの姿は見ていて微笑ましくある。のだが、彼女達を見ているフェイトとディアーチェは微妙な顔をしている。フェイトは高町を、ディアーチェはユーリを大切に思っていそうなのでやきもちでも妬いているのだろう。

 遠巻きで見ているのもあれなので、俺はひそひそと話しているアリシア達に近づく。

 

「アリシアちゃん、あのふたりって……」

「色々とあるんだよ、イロイロと……」

「見た目に反してよく分かってるな」

 

 気配は殺さずに近づいたつもりだが、そのへんを歩くスタッフとでも思われたのかアリシアとバニングスの体が一瞬震えた。全く動じなかった月村は俺に気が付いていたようだが……。

 

「うわ、びっくりした……何でショウさんがここに」

「別にここに来てもおかしくはないと思うんだけど?」

 

 ここはブレイブデュエルの総本山だし、ここの人達とは前から付き合いがあるんだから。

 

「うん、まあショウもデュエリストだからね。ここに来るのはおかしくないし、わたし達を見て自分から挨拶をしてくれたのは嬉しいことだよ。でもね……さっきのはどうなのかな、さらりとわたしのこと侮辱してたよね!」

「侮辱? 失礼な言い方だな。小さくて可愛いってことを暗に表現しただけだろ」

「まだこれから大きくなるし。というか、暗にじゃなくて素直に表現してよ!」

 

 頬を膨らませてそっぽを向くアリシアの頭を「悪かった」と言いながら軽く何度か叩く。完全に機嫌は直らなかったが、まあ口を利いてくれないことはなさそうだ。

 意識を他に向けてみると、アリシアが大きな声を出したせいか視線が集まっていた。俺とアリシアのやりとりが大体の人間が知っているので基本的に問題はないのだが、留学中の中学生に関しては問題があるようだ。不機嫌そうにこちらを睨んでいるし。

 ディアーチェ、お前の言いたいことは分かる。いくら親しい間柄でも礼儀を弁えろとか、小学生だからといって異性に気軽に触れるなって言いたいんだろ。気を付けるから機嫌を直してくれ。

 長年の付き合いがあるだけに言葉がなくとも俺の気持ちを理解したのか、顔を逸らされてしまった。普通は悪化したように思えるかもしれないが、あれは「今後は気を付けろ」といった表現だ。なので問題ない……はず。

 

「話が本筋から逸れてしまっているな。ユーリ、言うことがあるのだろう」

「あっ、はい……みなさん」

 

 真剣な顔で小学生達に話しかけたかと思うと、「えいっ」という掛け声と共に何かのスイッチを押した。

 すると、天井に付けられていたくす球が開き、『祝 チームT&Hエレメンツ結成おめでとう』という文字が現れる。同時に周囲から拍手が起こり、小学生達は慌てながら感謝の言葉を述べ始めた。

 

「ささやかながらようやく殻の取れた雛鳥への祝いだ」

「みなさんに贈り物もあるんです」

 

 ユーリの後ろにあった巨大な箱から現れたのは、小学生達のチヴィットだった。

 チヴィットは本来ブレイブデュエルのAI-NPCなのだが、グランツ博士が現実でも遊ばせたいとそれぞれに専用のロボットを作ってしまったのだ。なぜ知っているかと言えば、前に来たときにシュテル達のチヴィット達と遊び、そのときに話を聞いたのである。

 

「わあ」

「可愛い」

「この子達ってまさか……」

「はい、皆さんのデータを元にして作らせていただいたチヴィットです」

「給仕のみならずデュエルサポートを行える優れものぞ。ありがたく受け取るがいい」

 

 小学生達の声が一段と元気になる。その声や表情を見る限り、とても喜んでいるようだ。作ったユーリ達も嬉しそうである。

 いつの間にか保護者的な立ち位置で見ている自分にツッコミを入れた矢先、誰かにズボンの太ももあたりを引っ張られた。視線を落としてみると、そこには小学生達のチヴィットとは別のチヴィットが居た。

 

「お前も来てたのか」

 

 足元に居たチヴィットを俺は抱きかかえて目線の高さまで持ってくる。

 他の素体に比べて愛想のない顔立ちに黒ずくめの衣装……そう、俺のチヴィットである。名前は確か《クロ》だったか。

 いつもはユーリに抱きかかえられたり、シュテゆ達の面倒を見ていた気がするが……今日は小学生達のチヴィットの面倒を見てたのかもな。

 そう考えると微笑ましい気持ちにもなるが、無愛想とはいえクロはチヴィットだけあって可愛い姿をしている。それだけに中学生の俺が持っているのは少々恥ずかしい。手の空いているユーリかディアーチェに渡そうと思った直後、こちらをじっと見ている少女が居た。

 

「それ……ショウさんのですか?」

 

 その少女は高町のチヴィットを抱きかかえているフェイトだ。顔を赤らめているが、それは高町のチヴィットを抱き締めたときからなので、おそらく人前で可愛いものを抱き締めている姿を見られるのが恥ずかしいのだろう。

 しかし、恥ずかしくても可愛いものに触りたい。そんな感情がフェイトの中にはあると見えた。まあアリシアよりも大人っぽいが、彼女も小学4年生。そういう気持ちはあって当然だろう。

 

「ああ……触る?」

「い、いいんですか?」

「もちろん、自分で自分のを抱いてるのも何かあれだし」

 

 ということで俺はフェイトにクロを差し出す。ただ2体のチヴィットを持つのは、まだフェイトには無理なようなので彼女が抱いていた高町のチヴィットを預かる。

 

「あ……あの、この子抱き締めても大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思うよ。ユーリとかによく抱き締められてるみたいだし」

 

 俺がそう言うとフェイトは一度深呼吸し、そっとクロを抱き締めた。一般的なチヴィットならば笑顔を浮かべる状況なのだろうが、クロは照れたような顔でそっぽを向いている。俺のデータを使っているだけあって、素直に喜べるタイプではないようだ。

 

「……にしても」

 

 俺なんかに持たれて嬉しいのかね。

 抱きかかえている高町のチヴィットは、何が嬉しいのかずっと笑顔を浮かべている。頭を撫でたりしているわけではないのに……いや、彼女のチヴィットと考えれば何となく理解もできるか。

 

「なのは……あんたのチヴィット、ショウさんが持ってるわよ」

「え……」

「なのはちゃんのチヴィット、すごく嬉しそうだね」

「ち、ちが……そんなんじゃ!」

 

 あそこの小学生達は何を騒いでいるのだろうか……1名顔が異常に赤いのだが。それに俺のほうをやたらと見ては、視線が合うと顔を背ける……という行動を繰り返している。

 ……あぁ、自分のチヴィットが男に持たれてるっていうのが恥ずかしいのか。確かに俺もクロが誰かに持たれてるのを見ると恥ずかしいしな。ここはフェイトに返す……のは無理そうだな。何だかクロに夢中みたいだし。となると……

 

「……ディアーチェ」

「ん?」

「この子預かってくれ」

「は? なぜ我なのだ。ユーリの手も空いておるだろう」

「いや、お前ってこういうの好きだと思って」

 

 実年齢よりも大人びているが、ディアーチェもまだまだ年頃の女の子だ。可愛いものに興味はあるだろう。

 そう思っての発言だったのだが、誤解をさせてしまったのかディアーチェは顔を真っ赤にしながら怒り始める。

 

「ば、馬鹿者! わ、我はもうそのようなものを愛でるような年ではないわ!」

「あれ? ディアーチェ、このまえ……」

「なっ!? ユ、ユーリ見ておったのか。ちち違うぞ、あれはあちらのほうから構ってほしいと近づいてきたのだ。決して我から近づいたというわけではなく……!」

 

 相変わらずディアーチェはユーリに弱いな。……という俺もユーリには弱いのだが。一般的に恥ずかしいこともストレートに言う子だから。

 

「……この子どうするかな」

「ショ、ショウさん、私の持ってるフェイトちゃんのと変えましょう!」

「え、ちょっなのは!」

「止めないでフェイトちゃん!」

「ううん、止めるよ!」

 

 …………この子達は何をしてるんだろうか。

 自分のチヴィットをそんなに持たれたくないのか。まあ早い子なら思春期を迎え始める頃かもしれないし、年上の男に持たれるのは嫌かもしれないが。

 でも……それならクロを俺に返してくれれば丸く収まると思うんだよな。そんな簡単なことが分からないほど慌ててるみたいだけど。俺が話しかけると余計にパニックになりそうだし……。

 

「アリシア達、誰かチヴィットを変えてくれ」

「しょうがないな~、ならわたしのチヴィットと変えてあげよう。わたしのチヴィット可愛いでしょう?」

「そうだな」

「うんうん……わたしは?」

「アリシア・テスタロッサ」

「そのとおり! って違うよ、可愛いかどうか聞いたんだよ。分かってて惚けるのはひどい!」

「あぁ……カワイイカワイイ、小さくてカワイイ」

「投げやりに言うなぁぁぁッ!」

 

 

 

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