魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~   作:夜神

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第32話 「金色の姉妹」

 世の中にはあまり理解出来なかったり、共感できないことがそれなりにある。

 私にとってその代表と言えるものは恋愛だ。人を好きになるということは素敵なことだと思うし、いつかは自分も誰かを心から愛したいと思う。

 しかし……目の前に居る人物を見ていると複雑な気持ちになるのが現状なのですが。

 

「はぁ~……一向に進展しない」

 

 私の前で盛大にだらけている……いえ、突っ伏しているのは私と幼い頃から寝食を共にしてきた人物。簡潔に言ってしまえば、私の双子の姉だ。名前は黒崎ファラ、綺麗な長髪と整った顔立ち、それに抜群のスタイルと妹の私も素直に認める美少女……なのだが。

 学校といった場所では真面目ですが冗談も言ったりする社交的な感じに振舞っていますが……今のように近くに私しかいないと途端にだらしなくなるから困ります。学校の者に見られれば落胆されたとしてもおかしくないですし……そもそも、喫茶店に居るのですから突っ伏すのはやめてほしいのですが。

 

「セイ~、私どうしたらいいのかな~?」

「素直に告白でもすれば良いではないですか」

「なっ――そそそんなこと出来るわけないでしょ! まだそんなことが出来る仲じゃないし、物事には順序ってものあるんだから……いつかはしなきゃって思うけど」

 

 頬を赤らめながら髪の毛を弄る姿は、私の目から見ても可愛いと思える。大抵の男子なら一目惚れをしてもおかしくないのではないだろうか。この手の話になった時に毎度のように見ていると可愛さよりも鬱陶しいというか、苛立ちのような感情の方が勝るのが現実ですが。

 

「いつか、いつかと……そんなんだからファラは一向に夜月と仲良くなれないのですよ」

「し、仕方ないじゃない。セイみたいに夜月くんと一緒のクラスってわけでもないんだし、話すきっかけとかもないんだから」

「はぁ……」

 

 私の性格が男勝りなのか分かりませんが、誰かと仲良くなりたいと口にするのに言うだけでこれといった行動を起こさないのはどうかと思います。恥ずかしいのは分かりますが、自分が動かなければ何も変わりはしないというのに。

 昔はファラのようになりたい……などと思うこともありましたが、今となっては一卵性ではなく二卵性の双子で本当に良かったと感じます。髪色に関して同じ金色ですが、私はファラよりも中性的な顔立ちをしていますし。

 ただ……食べているものは同じはずなのにどうして差が生まれてしまうのでしょう。

 私はスレンダーな体型をしていますし、ファラも一見そのように見えるのですが……着やせするタイプ故に脱ぐとなかなかのものがあるのが現実。ファラの方が女性らしい顔立ちをしているのは認めますが、同じ日に生まれた姉妹なのですからそこに差を付けなくても良いものを。

 というか……なぜ私はファラとふたりで出かける際は男性らしい恰好をしなければならないのです。最初はファラに悪い虫が近寄ってきても困るので承諾していましたが、こう精神的にストレスを感じさせられることが多いと嫌になってきます。

 

「まったく……ファラは女々しいことこの上ない。告白してくる男子は大勢居るのですから、いっそのこと誰かと付き合ってみれば良いのではありませんか」

「なっ……セイには色々と相談しているし、自分が女々しいのは認めるけどそういう言い方はないんじゃないかな。大体セイは好きな人がいないから私のことを女々しいとか言うのよ」

「確かに私には好きな人はいません……が、あなたが夜月を好きになったのはいつのことですか?」

 

 今の季節は夏。ファラが私に夜月のことについて話すようになったのは今年の春頃……少なくとも1年の4分の1ほどの時間は流れているわけです。それだけの時間がありながら関係性に何も進展がないというのは、本人の努力が足りないばかりか何もしていないのと同じではないのでしょうか。

 

「好きだ好きだと言うのなら何かしら行動に移したらどうなのです。何もせずに仲良くなりたいなどと矛盾していると思わないのですか?」

「うぅ……だって」

「言い訳なんか聞きたくありません。そもそも、なぜ夜月なのです? ファラだって彼の周りにシュテル・スタークスやディアーチェ・K・クローディアといった存在が居るのは知っているでしょう」

 

 聞いた話によれば小さい頃から付き合いがあるといいますし、また学校でもよく話しているところを見ます。親密さで言えばファラとは雲泥の差があると言えるでしょう。

 ちなみに夜月は1学年下のレヴィ・ラッセルとも親しいようですが、彼女の場合は友人としての枠よりも上に行く気がしないので今回は口には出さないことにします。

 

「彼女達は飛び級で私達と同学年になっていますから外見的な魅力ではファラに軍配が上がるでしょうが、それも数年後には同等……下手をすれば逆転される可能性もあります。長年の片想いが成就する、という物語は人に感動を与えるものではありますが……ファラで考えた場合、長期戦になればほぼ失恋するでしょうね」

「いつもどおりのトーンで失恋だとか言わないでよ! 私だってそれくらい分かってる、分かってるわよ。でも仕方ないじゃない、気が付いたら好きになってたんだから。恋は理屈じゃないの!」

 

 恋は理屈じゃない……確かにそうなのかもしれない。でも今の私にはやはり理解できない言葉だ。

 故に……今のままでは私とファラが理解し合うのは難しいのでしょうね。私が誰かに恋をするか、それともファラが変わるか。いずれにしろこのままこの話を続けるのが得策ではないことは確かです。早々に切り上げることにしましょう。

 

「やれやれ……そこまで言うのなら多少なりとも進展させてもらいたいものです。現状では私以下なのですから」

「言われなくてもそのつもり……ねぇセイ」

「何ですか?」

「今何て言った? 私よりもセイの方が夜月くんと親しい、みたいなこと言われた気がしたんだけど」

 

 目の前に居るファラはにこやかに笑っている。

 しかし、そこにあるのは嫉妬めいた黒い感情……笑っているのに笑っていない顔というのはこういう顔のことを言うのでしょう。

 もしもこれを学校の者が見たら走り去るとまでは言えませんが、少なくとも怯えるでしょうね。少し前までは怒るときは怒ってますよと言わんばかり顔だったはずなのに。なぜこうもより怖い方へ進んでしまったのか。夜月への気持ちが原因なのなら……将来的に付き合い始めた場合、夜月の身が心配でなりません。

 

「確かに言いましたが……それが何か?」

「何か? ってことはないんじゃないかな。セイは私の気持ち知ってるはずだよね? なのに私よりも夜月くんと仲良しってどういうこと? いつからセイはそんなに性格の悪い妹になったのかな?」

「誤解しないでください。私はあなたと違って彼とは同じクラスなのです。故に顔を合わせれば挨拶くらい交わします。あなたよりも親しいのは当然でしょう」

 

 私の言葉に理解が及んだのかファラから黒い何かは消滅する。どこか怯えたような素振りもありましたが、それは気にしないでおくことにしましょう。私だって人間なのですから姉が愚かな発言をすれば目つきが鋭くもなるのですから。

 

「うー……昔はお姉ちゃんお姉ちゃんって私のあとを付いて回る可愛い妹だったのに」

「そうやってすぐにだらけないでください。それと勝手に人の過去を作らないでもらえますか。私にはそのような記憶はありません」

「ぐす……最近のセイはお姉ちゃんに優しくない。前はもっと甘やかしてくれてたのに」

 

 なぜ私はこれといって尊敬が出来るところがない姉にこのように言われなければならないのでしょう。

 私の記憶が正しければ……学校がある日は毎朝のように起こしてあげていますし、親が不在の時は料理や掃除も私がしているのです。それに今日のように聞いても何の面白みのない恋愛話に最後まで付き合おうとしているのですから……十分に甘やかしていると思うのですが。

 

「あぁー暑かった。毎日のように思うことだけど、やっぱり日本の夏は暑いね」

「はいはい、話はちゃんと聞いてやるからまずは空いてる席に座れ。入口で止まるのは邪魔になる」

「む……そうやっていつも子供扱いする。そんなこと言われなくても分かってるよ」

 

 と、不意に声が聞こえた。喫茶店に居るのだから普段なら聞き流すところですが、聞こえてきた中に先ほどまで話題になっていた人物の声が混じっていただけに、私とファラの視線は自然とそちらに向く。

 やはり夜月のようですね。まあ同じ街に住んでいるのですからこういうこともありえるでしょう。隣に居る少女は見たことがありませんが。

 雰囲気的に夜月と小柄な黒髪の少女はそれなりに親しい間柄のように思える。個人的に少女の顔立ちは夜月と似ている部分があるように思える、似ていないと言われれば似ていないとも言える。髪の色や背丈の違いで見れば兄妹のように見えなくもないが……。

 

「何なのあの子……ちょっと夜月くんと距離感近いんだけど」

 

 ファラの機嫌が凄まじく悪くなっていることから察するに妹という線は捨てるべきだろう。恋する乙女なだけに特定の人物が関わる判別に関して私よりも上なのだから。

 夜月達は私達の居る席から見ようと思えば見える席に腰を下ろし、店員にそれぞれ注文する。

 

「ショウ、今日も楽しかったね。明日はどこに行こっか?」

「今日はまだ終わってないし、明日のことは明日決めればいいだろ」

「今の内に決めてたら明日の時間を有効に使えるんじゃん……もしかして、明日はシュテル達と何かあるの? それともなのはちゃん達?」

「高町の名前を出した瞬間に表情を変えるのやめてほしいんだが。何度も言ってるが別に俺はロリコンじゃない」

 

 店内には夜月達の他にも客が大勢居るので何を話しているのかまでは聞き取ることは出来ない。けれど私は夜月と挨拶程度ではあるが会話をする機会があるだけに、普段よりも楽しそうにしているのは分かる。

 

「ねぇセイ……あの子、夜月くんのこと下の名前で呼んでたわよね?」

「私はよく聞こえませんでしたからその問いには肯定しかねます」

「呼んだのよ。しかも……くん付けとかじゃなく呼び捨てで。あの子何なのかしら……今日も楽しかったね? 明日はどこに行こうか? まるで毎日のようにデートしてますって発言してるんだけど」

 

 この人の耳はいったいどうなっているのだろうか。店内には夜月達より格段に大きな声で話している客も居るというのに……。

 まあ……それはどうでもいいとして、私は一足先に帰ってはダメでしょうか。正直今のファラの相手はこれまでの経験から面倒な状態にあると判断できるだけに相手したくありませんし。

 

「そういう割には……結構なのはちゃん達と仲良くしてるみたいだけど? あの子達が良い子なのは付き合いの短い僕でも分かるけど、小学生に色目を使うのはどうかと思うなぁ」

「いつ俺があの子達に色目を使った? ……まあお前みたいにこういうことを言ってくる奴よりはあの子達の方がマシではあるが」

「なっ……僕だってショウみたいにすぐ意地悪なことを言う子よりあの子達の方が良いよ。そういう性格だから未だに彼女のひとつも出来ないんだ!」

「彼氏が出来たことない奴に言われても全く心に響かないんだが」

 

 何やらケンカが始まったようにも思えますが……私の姉にはイチャついているようにしか見えていないようですね。どんどん表情が険しくなっていますし、本気で先に帰りたくなってきました。ただ普通には帰ることは出来ないでしょう……夜月に押し付ければチャンスはあるかもしれません。

 あとでファラから何か言われる可能性はありますが、夜月と話せるチャンスを作ってあげたことになるのですから文句ばかりは言われないでしょう。そのチャンスを活かせずに終わった場合は泣きながら怒られる気がしますが、それで今回の恋が終わればそれはそれで収穫はあります。黒いファラが出て来なくなるわけですし。

 ……と考えたいところではありますが、私は誰よりもファラという人間を知っています。迂闊な行動をすれば今よりもさらに面倒なことになりかねません。そう考えると聞き役としてこの場に居座ることの方が無難勝つ賢明な判断のように思えます。

 

「ねぇセイ、あの子は夜月くんの何なのかな?」

「私が知るわけないでしょう」

「だよね。セイが知らないんなら彼女って可能性は低いだろうし、同じ学校の子でもないよね。あれだけ夜月くんに馴れ馴れしく接してるなら学校では目立つはずだし、というか私が知らないわけないし……スタークスさん達の関係者? でも髪色的に姉妹って感じじゃないわよね。本当あの子何なの?」

 

 私からすればあなたの方が何なのと言いたいのですが。現状ではあちらの黒髪の子の方が夜月と親しいのは明確。対してファラの方は挨拶さえ交わしたことがないと言っても過言ではないのですし。

 

「もしかして他校の子? まあ夜月くんはカッコいいし、他校の女子が目を付けてもおかしくはないけど……でもパッと出てきた……しかもどこの馬の骨とも分からない小娘が夜月くんに馴れ馴れしくするのはおかしいわよね」

「ファラ、さすがに話したこともない相手をそこまで貶すのは人としてどうかと思うのですが……」

「え? 別に貶したりしてないよ。私はただ自分の気持ちを素直にセイに言ってるだけだもの。別にあの子に対して言ってるんじゃないわ」

 

 あの子から全く視線をずらすことなく言われても説得力がないのですが……。

 というか、この短時間でファラの中の何かが1段階進化したように思えてならない。あぁ……なぜ私はこんな姉を持ってしまったのだろう。こんな姉と一緒では恋愛というものが良いものとは全く思えてこない。

 

「あぁもう、ほんとショウってあれを言ったらこう言うよね。僕はまだ従妹だから良いけど、他の子にもそんな風にしてたら嫌われるよ」

「安心しろ、相手によって言葉は選ぶ。ここまでぶっちゃけて言うのはお前やシュテル達くらいだ」

「……何だろう、親しい関係だって言われてるんだろうけど素直に喜べない」

 

 何やら元気に話していた少女が大人しくなったように思えますが……赤面はしていないようですし、少なくとも夜月が歯の浮くような言葉を言ったわけではないようですね。

 もしもそんな言葉を言っていたなら……私は何も言わずにこの場を去る。姉が周囲に迷惑を掛けるだろうとか、あとで姉があれこれと言ってくるだろうと思いますが関係ありません。私は私の身を守るためにこの気持ちを大切にします。

 

「まあいいや。じゃあ明日も暇だったなら今日みたいに僕と一緒にどこかしらのショップに行こうね。グランプリまで時間もなくなってきてるし」

「はいはい、分かった分かった」

「やる気が感じられないんだけど! もう……少しは僕がカッコいい従兄だって言えるようになってよね」

「あのなユウキ……俺は自分を偽らない」

「言葉自体はカッコいいけど、今回の場合はカッコ悪いから!」

 

 少女の元気が戻ったようですが、怒っているように見えるだけに……私にどう見えたところでファラからすれば結果は等しい気がします。あれこれ考えるだけ無駄な気さえしてきました。心を空にして流れに身を回せるほうが楽かもしれません。

 そう思いながら意識をファラへと戻すと、そこには先ほどと打って変わって表情の和らいだ彼女の姿があった。いったいどうしたというのだろうか……。

 

「うん? どうかしたのセイ?」

「いえ……大分落ち着いたように見えたので」

「あぁうん、ちょっと取り乱してたもんね。でももう大丈夫だよ。あの子、夜月くんの従妹みたいだし。従妹ならあの距離感でもおかしくないよね……まあ私の見る限り、一方通行な気持ちがありそうだから要注意ではあるけど」

 

 私は別に悪くないのですからその笑っていない笑顔を向けないでください。というか、そこまで人の気持ちを理解できるのならもっと違う方向で使ったらどうなのですか。そうすれば夜月との関係にも変化はある気がするのですが。

 

「そういえば……ショップに行こうだとかグランプリだとか言ってた気がするけど、いったい何のことなのかな?」

「それは……多分ブレイブデュエルというゲームに関することだと思います。夜月はそのゲームの関係者に知り合いが多いと耳にしたことがありますので、イベントの手伝いなどをしてもおかしくないでしょうし」

「なるほど……ねぇセイ、そのゲームって誰でも出来るのかな?」

「出来るのではないですか。子供から大人までやっているそうですし……もしや」

「うん、そうだよ! 私もそれをすれば夜月くんと共通の話題が出来るわけだし、そうなれば関係も進展しやすくなるよね。学校で偶然そういう話をしてるところに混じって行ったり、ショップで偶然会ってそれで……えへへ♪」

 

 何を想像しているのか分かりませんが、おそらくあなたが今考えているような展開にはならないと思いますよ。というか、今すぐその恥じらいのある笑顔やめてください。この流れで見ると最高に不快です。

 

「よし、そうと決まれば明日から私達もショップに行くよ!」

「いやいや、何が決まったのですか? そもそも、何故私まで一緒に行くことになっているのです?」

「だってセイ暇でしょ? 付き合ってる男の子とかもいないし」

 

 実際に交際している相手はいませんし、明日は予定が入っていないので否定はできません……が、それでもこの愚姉に言われるのはムカつきます。

 とはいえ、ここでひとりで行けと言ったところで1日中行こう行こうと駄々をこねられるのが関の山。それにひとりで行かせることに成功してもそれが原因で人様に迷惑でも掛けられたら……。

 

「……分かりました。ですが行くのはやることをやってからですよ」

「うん、もちろんだよ。ありがとうセイ、大好き!」

「分かりました、分かりましたから暑いので引っ付こうとしないでください!」

「姉妹のスキンシップなんだから照れなくても」

「別に照れてなどいません。単純に鬱陶しいだけです」

 

 

 

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