幻へと至る   作:鬼畜!krmtが何をした!

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例のkr○t動画とベンチを暖める彼の勇姿を見て決意しました。


プロローグ

 生まれた時からなんでも持っていた。

 欲しいものを強請れば即座に買ってくれる親、親身になって接してくれる家庭教師、信じられないほどに高い身体能力、クラスでは人気者で誰とだって友達になれた。

 

 満たされていた。

 この恵まれた環境は自分にとって普通で、そして平凡だった。日本を代表する財閥の一つ、前原財閥の御曹司として全てを思い通りに動かして来た。

 

 何かが変わったのは小学三年生の時だろう。今ではおぼろげな記憶になっているが確かに覚えていることがある。

「いってらっしゃい」

 

 きっと最後に聞いた言葉はこれだった。どこまでも普通でふとした時に忘れてしまいそうな言葉だ。朝起きて、ご飯を食べて、学校に行く。確かその日は授業参観で子供から見ても親バカだった両親は二人揃って見にくると言っていたのを覚えている。

 

 でも両親は来なかった。授業中に職員室に呼び出され、急いで病院に向かったが間に合うことはなかった。

 交通事故だった。運転中にブレーキが破損していたことから停止ができずに壁に直撃、二人は重度の怪我を負い、そして病院で息を引き取った。遺体は見ないほうがいいという言葉が脳裏に焼け付いていたのを覚えている。

 悲しいというよりは疑問しか湧かなかった。あまりにもあっけなくて、現実味がなくて涙は出なかった。

 

 そのあとは加速度的にことが進んで行った。初めて見た親族たちが目敏く挨拶にきて両親との思い出をやけに熱心に語り、父の仲の悪かった叔父は財閥の跡を継ぎ、殆ど厄介払いのような形でオレはある孤児院に引き取られた。

 

 お日さま園。前原財閥と企業提携を結んでいた吉良財閥が立ち上げた孤児院らしく、事故で両親を失い、信頼できる相手もいなかったオレを引き取りたいと吉良星二郎その人が家に来た。

 その時はこいつも金が欲しいのかという疑念で一杯だったが、なんども説得しに来る吉良会長とその娘、瞳子さんを次第に信じてもいいかもしれないと思い始めていた。

 

 彼らは話を聞こうとしないオレになんどもお日さま園の子供たちの話をした。サッカーが好きで毎日のように練習している少年、明るくて活発な少女、毎日喧嘩をしているが本当は中の良い二人の少年、話を聞いているうちにいつしかオレは心を開いていた。

 

 ヒロトは少し引っ込み思案だがサッカーが大好きで、玲奈はとても元気でいつだって笑顔で、荒々しくてガサツな晴矢とクールで冷静な風介、誰よりもサッカーに対して熱い治、諺が大好きなリュウジ、他にも大勢の子供達が一緒に暮らしているらしい。

 

 オレもサッカーは好きだ。通っている学校が日本有数の名門校であることもその要因の一つだが、友達と集まって遊ぶ分には最高の遊びの一つであると思っている。

 父も野球よりもサッカーの方が好きで、よく一緒に見に行ったものだ。

 

 吉良会長と瞳子さんはいつしか一週間に1回は必ず家に来るようになった。家にはオレと住み込みの家庭教師の古谷さんだけだ。つまらないわけではないがやはり暇なことが多かった。

 

 

 古谷さんは孤児院に行くことには反対気味だった。彼は父の後輩でオレの学校のOBでもある。厳格で絶対に妥協はしない人だった。

 

 彼曰く、吉良財閥は信用ならないとのことらしい。吉良と前原は協力関係にあったがどうやら父が死んでからは交流は途切れたらしく、何を企んでいるのかわからないとのことだ。

 

 馬鹿馬鹿しい、と一蹴できない自分が情けないが、考えれば考えるほど怪しい。世の中には大勢の子供がいる。少なくとも両親が事故で死んだなんて話は特段珍しいわけではないし、少なくとも金だけは持っているオレを引き取りたいなんて怪しさしかない。

 

 

 父と旧友だったなんて言われてもそんな話は初耳だ。

 

 

 事故からしばらくして、オレは再び学校に通い始めた。1ヶ月ほど心の整理ということで休み続けていたが心は全く休まらない。それどころか日々金を求めてやって来る自称親族と訳の分からない宗教団体のせいでむしろ心境は最悪だ。

 

 久しぶりの学校は新鮮だった。

 事情を知ってる奴はやけに気を遣っていたが、そんなことはどうでもよかった。ただ、家から出たかっただけだ。

 家にいればふとした時に思い出すことがある。そしてそれは少なくとも今のオレには辛いだけだ。

 

 

 学校なら嫌なことを思い出すことはないし、何かを考える必要もない。ただ周りに合わせて動いていれば良い。

 それに自慢ではないがオレには友達が多い。学校なら常に人に囲まれていて気分を紛らわすこともできる。

 

 

 

 

 

 ある時一人の男と出会った。

 この学校では有名な男だ。数多くの選手を育成し、そして最強のチームを作り上げてきた男。影山零治。

 

 影山はオレに言った。

 再び立ち上がるつもりはないかと。

 そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするつもりだ鬼道。こんな見え透いた勝負になんの意味がある。憂さ晴らしでもするつもりか?」

 

「いや、今回の目的はお前もよく知っているはずだぞ。」

 

 

 広く整備されたグラウンド。その両端にはそれぞれ11人の少年が立っている。

 片方は雷門中学校サッカー部、キャプテンの円堂守を筆頭に11人しかいない弱小チーム。

 もう片方は帝国学園サッカー部、キャプテンの鬼道有人を筆頭に数多くの猛者を擁する最強の学園。そして前回の全日本大会の優勝校でもある。

 

 

「オレが知っている? なんのことだ?」

 

 円堂たちがミーティングをしている間、帝国の各面はそれぞれ思うように体をほぐしていたが、その端の方で二人の少年が話をしている。

 

「豪炎寺修也だ。前回の決勝では何故か出てこなかったが、総帥がその腕を見たいとのことだ。」

 

「豪炎寺だと? この学校に転校でもしたのか?」

 

「まぁ、そんなところだろう。そして今回やつをこの場に引きずり出すのがオレたちの仕事だ。」

 

 鬼道の言葉に納得がいったように頷く少年。

 煌めくような金髪をしているその少年は気怠げにグラウンドの外で不敵な笑みを浮かべている男を見つめる。

 

「馬鹿め」

 

 そして、まるで侮蔑しているかのような目をしながらぼそりと、誰にも、横にいる鬼道にすら気づかれないような小さな声で呟いた。

 

 

「行くぞ玲。少し遊んでやろうか。」

 

 悪役然として笑い声をあげながら鬼道はグラウンドへ向かっていく。その顔には緊張や警戒などという要素はまるで感じられず、余裕しか見えてこない。

 

 そして、そんな鬼道について行く帝国学園の面々も当然まったく気後れしていない。むしろこれからどうやって叩き潰そうかと考えているメンバーもいる。

 

 それとは反対に雷門中の面々は円堂を除いて表情が硬い。

 当然といえば当然だ。帝国は悪どい噂も多い上に、そもそも実績が違いすぎる。多くのメンバーの顔色は悪く、陰りが見える。

 

 

「正々堂々よろしくお願いします!」

 

 そういいながら頭を下げる円堂を尻目に鬼道はグラウンドの外の木--正確にはその木で隠れて見えない少年を見る。

 

「(さて…)」

 

 どうするべきか、と鬼道は自分たちを見下ろす総帥の視線を受けながら少し思案する。豪炎寺修也、中学サッカーに携わる者なら誰もが知るエースストライカーだろう。

 

 そして鬼道の友である前原玲とも因縁がある。帝国学園初等部のサッカー部に所属していた鬼道と玲は練習試合ではあるが豪炎寺と戦ったことがあるのだ。

 

 そしてその結果は完敗。2-1での敗北だ。帝国学園初等部のサッカー部は中等部ほど力を入れられておらず、殆ど趣味のチームだったこともあるが、それでもその当時最強を自負していた鬼道と玲にとってそれは忘れられない試合だ。

 

 最強の司令塔と最強のフィールドメーカーの二人の戦術は圧倒的なシュートの前で敗れ去ったのだ。

 

 

「(ファイアトルネードか)」

 

 同年代であそこまでのキック力を持つ選手は歴代最強と謳われている今の帝国にもいない。仲間になるのなら帝国はもはや世界最強とも言えるチームになるだろう。

 鬼道が指揮をとり、玲が場を作り、豪炎寺が得点を取る。

 

 しかし敵になるのなら厄介だ。前回は何故か出場しなかったが、炎のシュートの威力は鬼道たちもよく知っている。

 鬼道たちもあれに匹敵する技を持っていないわけではない。ただ、あのシュートを単身で放てる選手は脅威でしかない。

 そしてあれから時が経った今、さらなるパワーアップを遂げているのは間違いない。

 

 見極めなければならない。そして雷門中にはそのための踏み台になってもらわねばならない。

 

 

「両キャプテン、コイントスを」

 

 審判の声で鬼道は考えを一時中断し、しかしそれを無視して歩き出す。

 戸惑いの声を上げる審判と円堂たちに鬼道は先行を譲ると伝えてフィールドの位置に着く。

 

 まるで歯牙にも掛けないような態度をとる帝国学園に恐怖しつつも怒りを隠せない雷門。

 試合は染岡のキックオフで始まった。

 戸惑って動かないメガネをよそに、雷門は半田、宍戸、少林の3人が前線に上がり、それをサポートする形で風丸も追従した。

 

 

 帝国はボールを止めようとするも、それらを悉く躱していく雷門。そして弱小とは思えない連携パスで帝国の守備陣を突破し、染岡にボールが渡る。

 

 

「へ! これで決まりだぁ!!!!」

 

 鋭いパスからのダイレクトシュート、染岡のキック力で凄まじい速さのシュートが完全にキーパーの死角へと放たれた。

 決まった。雷門陣の誰もがそう思った。

 

「はっ!!」

 

 しかし、帝国のキーパー源田幸治郎はそれを難なく掴み取り、そして…

 

「鬼道! 俺の仕事はここまでだ。」

 

「あぁ。始めようか、帝国のサッカーを。行け!!」

 

 ボールは鬼道に回り、帝国のストライカー寺門へ渡る。

 寺門は一瞬力を溜め、そしてその場で雷門ゴールへとロングシュートを放つ。

 

 圧倒的な回転をしながら雷門のフィールド駆け抜けていく。誰も反応はできない。ボールはそのまま一直線に雷門のゴールへと向かう。

 

「…クッ! 止めてみせる!!」

 

 ギュルギュルとボールの回転で円堂のグローブが音を鳴らす。

 しかしシュートの威力は全く衰えず円堂ごと雷門のゴールへと突き刺さった。

 

 そして、甲高いホイッスルの音がグラウンドへと響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこれがすべての運命が動き始めた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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