最強(凶)最厄のロリババアを倒すために、ロリババアの宿敵兼弟子になった   作:トキノ アユム

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プロローグ

 正直に告白すると、俺はかなり負けず嫌いな方だ。

 どんな勝負事でも負けるのは嫌だし、勝つための努力もしてきた。

 だからだろう。最終的に俺が彼女に行き着いてしまったのは。

 

 

 

 戦争中よりも、それが終わった直後の景色の方がより深い地獄である。それはこの『終末大戦』でも変わらなかった。

 見渡すばかりの死体。これが全て魔術師であり、この光景を作り出したのが、たった一人の魔法使いによるものであるということを、誰が理解できようか。

 ――ここには死が溢れている。

 ――ここは地獄だ。

 ――ここでは正気を失ってしまう。

 それを頭で理解しているというのに俺は動かなかった。否、動けなかった。

 地を踏みぬく足も。

 地を這うための腕も。

 今の俺にはなかったからだ。

 呼吸も限界。心臓の鼓動もすでに止まりかけている。

 ああ……馬鹿な俺でも分かる。もうすぐ自分は死ぬのだと。ここで俺の人生は終わりを迎えるのだと。

 後悔はなかった。録でもない人生ではあったが、仲間に恵まれ、誇りに思える義理の姉も出来た。

 その姉への初恋が叶うことはなかったが、それもまた人生。代わりにささなかな夢が叶ったのだから、俺は満足だった。

 何より、あの『魔女』に一泡を吹かせる事が出来たのだ。これ以上望むことはない。

 だからもういい。もう十分。

 俺の物語はここで終わりだ。

 

 

 

「本当にそうかしら?」

 

 

 

 声が、聞こえた。

「ここで終わりでいいなんて、そんな事をあなたは本当に思っているのかしら?」

 この世で一番聞きたくない声だ。聞き間違えるはずがない。さっき殺したはずのクソッタレな魔女の声。

「殺した――ええ。確かにその通りね。あなたのせいで一回(・・)死んだわ。世界中の魔術使達を簡単に倒して、『神曲』も無事発動する予定だったのに、あなたのせいで全部パーよ」

 まったくもって腹立たしいわと、魔女は言う。だが言葉とは裏腹に、その顔に怒りはまったくない。

「そこで提案なのだけど――」

 それ所かどこか熱の籠った目で俺を見て――

 

 

「あなた、私の弟子にならない?」

 

 

 信じられない事を言ってきた。

 息を飲んだ。分刻みで薄れていく意識の中でも魔女の言っていることは理解できた。

「信じられないって顔ね。安心しなさいな。言っている私自信も戸惑っているわよ。どうしてあなたの事を弟子にしようとしているのか、自分でも理解出来ないわ」

 ふざけるな。馬鹿にしているのかと、血を吐きながら言ってやる。そのせいで、残り僅かしかない寿命が消えていくが構わない。

 こいつは俺の『家族』の仇だ。そんな奴の弟子になんて死んでもなってやるものかと。

「本当に? やり残したこともないと? あなたの身体をそんな風にした絶花に、そしてそうする原因を作った私に復讐したいとは思わないの?」

 ……無意味な問いかけである。例え、それがしたくても、俺はもう死ぬしかない。どうやっても生き残ることは不可能なのだ。

「なら、一度死になさい」

 にべもなく、魔女はそう言った。

「あなたの言う通り、その身体はもうもたない。でも私ならあなたに二度目の人生を与えられる」

 出来るはずがない――と言いたかった。

 だが出来なかった。

 俺は知っている。そんな不可能を俺の目の前の魔女は可能にしてしまうことを。

「選びなさい 黒咲 ユウ。このまま朽ち果て、仮初めの勝利に満足するか」

 「それとも」と――

 

 

「無様に生き延びて、本当の勝利を追い求めるか」

 

 

 

 ………… 

 

 

 

 自分の歩んだ道に後悔はない。

 新たな人生に興味もない。

 だが、魔女の言葉にただ一つ心惹かれたとすれば――

 

 

「勝ちたい」

 

 

 世界中の魔術使と戦っても平然と生きているこの魔女に。

 

 

 

「――ああ」

 

 

 

 まるで初恋が叶った乙女のように、魔女がはにかむと、

 俺に向かって手を伸ばす。

 

 

「ベアトリーチェ・アーリーよ。初めまして、私の愛しい宿敵兼恋しいお弟子さん。どうか無様に生き延び、無駄な研鑽をつみ、無意味に私に敗北しなさい」

 

 

 残念ながらそれは叶わない。

 なぜなら――

 

 

 

「勝つのは俺だ」

 

 

 

 

 こうして世界から魔女は消えた。

 たった一人の少年だったものと共に。

 

 

 

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