最強(凶)最厄のロリババアを倒すために、ロリババアの宿敵兼弟子になった   作:トキノ アユム

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魔術学園都市

 貫いた。確かに。

 心臓――いや、命を。

 慣れ親しんでしまったこの手ごたえは間違いない。

「さよならだ神父」

 俺はまた(・・)人を殺した。

 その事実に、何の感情も湧かない。

 ……湧かないようにしている。

「……見事だ!」

 歓喜が入り混じった声を上げたのは金髪の男であった。

「流石は魔女の弟子! そうこなくてはな! そうでなくてはな!!」

「……」

 心臓を貫いた神父から腕を引き抜く。

 少年はただそれだけを告げると、神父から腕を引き抜いた。

 命がなくなった身体はそれだけで倒れ、列車の天井に、傷から流れた鮮血の彩りを与える。

「本気で言ってるのか?」

 こんな行為(殺人)が。素晴らしいと。

「当然だ! まさか神父の個有魔術ごと貫いてしまうとは思わなかった! 素晴らしい個有魔術! 素晴らしい能力だ!!」

「ああ……」

 成程。まったく話がかみ合っていない。

 つまりはそういう事なのだろう。

 あの金髪の男にとって俺達は人間ではなく、個有魔術をもった魔術使という個という単位にすぎないのだ。

 俺に勝るとも劣らない外道っぷりに、何とも言えない顔になってしまう。

「つらいわねダン」

 そしてそんな俺を慰めようとするのが、外道の極みに至っている魔女とは。

「うるさい」

 皮肉もここまでくると泣けてくる。

 ああ。だがそれはまだ後だ。今は『仕上げ』をしなくては。

「さて、それで? これからはどうする?」

「目的は果たしたからね。お暇させてもらうよ」

 ……まあ、そう来るよな。

「ならさっさと失せろ」

 逃げるのなら追うつもりはない。

 まずは列車の安全が最優先だ。

 下手に藪をつついて、蛇を出すわけにはいかないからな。

「あんたのようなクズを見ていると、自分を見ているようで殺したくなる」

「焦らなくてもいい。丁度再出発(・・・)時間だ」

 金髪の男がそう言ったと同時に停止していた列車が再び動き始めた。

「づ!」

 後方に吹き飛ばされそうになるのを必死に堪える。

「ふはははは!! また会おう魔女とその弟子よ!!」

 高笑いを残し、金髪の男は死体となった二人の魔女信仰者と共にその姿を歪ませ、消えた。

(空間操作の系統魔術か)

 しかも中でも高位に属する『空間転移』だ。

 何らかの手段で逃走経路を確保していると思い、いくつかの候補を想定はしていたが、その中でも一番厄介な方法だ。

 まあ、元から見逃す気だった俺は次に会う時は警戒すればいい程度の認識でいいが――

(大変だな姉上様(・・・)の方は)

 今も恐らくこちらの様子を『監視』しているでだろうかつての姉の苦労が目に浮かぶようだったので少し、苦笑してしまう。

 だがまあ、俺の役目はこれで終わりだ。

 まだなんらかの仕掛けが残っている可能性はあるが、もうここからはこの一帯の責任者である絶花の仕事だ。

 今の俺には何の関係もない。

「おいアト――」 

 言われた通り、『課題』はきっちりこなしたぞと後ろを振り返った俺は――

「!?」

 身体に力が入らなくなった。

(ああ、そうか――)

 倒れる原因は間違いなく先程使用した個有魔術のせいだろう。

 使い勝手も悪ければ、燃費も悪い俺の個有魔術は使用すれば、しばらく動けなくなる。

 それは片手でも変わらない。つまりはそういうことなのだろう。

 これが普通に地面の上ならばよかった。

 このまま倒れても、精々頭をぶつけて痛いですんだから。

 だがここは移動を再開した列車の上。

(これはまずいな)

 当然踏ん張れなくなれば、そのまま後ろに吹き飛ばされる。

 列車から落ちることも覚悟するが――

「ご苦労様ダン」

 ふわりと、後方に飛ばされていた俺の身体が抱き止められる。

 その瞬間、列車の上にいれば感じるはずの風も感じなくなった。

 本来ならあり得ない現象だが、俺を抱き止めた魔女ならば造作もないことだ。

「よく頑張ったわね」

 抱き止めたアトはそのまま俺の身体を列車の上に寝かせると、俺の頭を自らの膝に乗せた。

「離せバカ」

 頭に感じる柔らかい感触にばつが悪くなり、俺は何とか逃れようとする。

「頑張ったあなたへのご褒美なんだから、ありがたく受けとりなさいな」

 だが、今の俺の抵抗など魔女にとっては些細なもの。簡単に押さえつけられてしまった。

「相変わらず強引だな」

「魔女ですから」

 俺の皮肉を軽く流し、子供をあやすように頭を撫でて来る。

「くふふ。可愛いわダン」

 こういう時何故かアトはひどく上機嫌になる。

「やめろ」

「嫌よ。母性本能をくすぐってくるダンが悪いわ」

「いつくすぐられるんだよ」

 俺としては普通にいるだけなのだが……

「そうやって子供扱いされて拗ねる所よ。くふふ、本当に可愛い」

「……」

 いっそわざと列車から飛び降りてやろうか?

 俺の身体ならかなり痛い程度で済むだろうし。この背中がむず痒い状況を打破できるなら、その方がいい気がしてきた。

「まあ、ダンを可愛がるのは夜のお楽しみにとっておくとして……」

「やらせねえよ」

 今は身体が上手く動かないからされるがままになっているが、身体の調子が戻ったら全力で抵抗してやる。

「はいはい。そんなことより、見なさいなダン」

「?」

 何がだ?

 

 

見えた(・・・)わよ」

 

 

 上体が起こされ、俺の目にもその光景が見える。

 

 

 多種多様な建物の数々。

 ここからでも感じる上質で巨大な魔力(マナ)

 そして、象徴であるセントラルタワー。

(ああ……)

 間違いない。あれは――

 

 

「魔術学園都市アーカム」

 

 

 世界でも魔術の最先端都市であり、 

 

 

「……帰って来たんだな」

 

 

 懐かしき俺のかつての故郷だ。

 

 


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