真姫ちゃん、Happy Birthday!!
「ふう…」
口から零れたのは、溜息か。
電車内で倒れる女性を見かけ、家まで連れてきて介抱することになるなんて、今朝の私は考えもしていなかった。
春休み休暇をお手伝い人たちに与え、家には私一人。
運転士を一人残していてよかった。
いや、今日外に出かけていてよかった、というべきかも。
おかげで、特に問題なく女性をしっかりと介抱できた。
一人暮らしを始めて、もうすぐ二年になる。
まだまだ、親の力を借りてるところもあるけど、段々と色んな事が自分の力だけで出来るようになってきた。
「さて…勉強、しないとね」
そうして私は、机に向かう。
ふと、さっきまでこの家にいた女性の顔が浮かぶ。
渡辺曜、って言ったっけ。
ん?
今思ったけど、もしかしてあの子って…。
思い付きを確かめるため、私はある画像を探す。
「確か、保存してた…わよね。
…あ、あった。…ってやっぱり、そうだったのね」
そうか。
最初に見たときから何となく感じていた既視感。
それは――。
* * * *
「はい、もしもし」
「もしもし、花陽?私、真姫だけど」
「真姫ちゃん?どうしたの?」
「実はね―――」
「嘘!そんなことってあるんだね!」
「そうなのよ。私も驚いちゃって」
「それで?」
「え?あー、用はそれだけよ。…ゴメン、何か邪魔した?」
「いや、邪魔ってことじゃないんだけど…。
私、明日には新潟に戻るの。だから今はその準備をしてて…」
「あら、そうなの?もっとこっちにいればいいのに」
「ははは、それ、凛ちゃんにも言われたんだけどね。
実は、向こうがちょっと豪雨に見舞われたみたいだから、気になっちゃって」
「研究、頑張ってるのね」
「もちろんだよ!大好きなお米のことだもん!」
「ふふ、花陽ってば、やっぱり変わってないわね」
「真姫ちゃんはどうなの?順調に進んでる?」
「えっ?…まあ、そうね。ぼちぼち、ってところかしら。
じゃあ、いきなり電話してゴメンね、花陽」
「大丈夫だよ、また話聞かせてね!」
「ええ」
「…じゃあ、バイバイ」
「バイバイ、またね」
電話を切る。
花陽、新潟帰っちゃうのね…。
せっかく、久しぶりに会ったばかりなのに。
『もちろんだよ!大好きなお米のことだもん!』
電話口での彼女の言葉が、頭の中をよぎる。
でも、私は…。
「って、ダメダメ!こんなこと考えてる暇はないのよ。
今は、目の前のことに集中しなきゃ」
自分に言い聞かせるように、言葉を呟く。
そして、机に教材を広げ、私は勉強を始めた。
ピピピピ ピピピピ
「ん…」
少し遠くで何か音が鳴り続けている。
目覚まし時計の音だ。
時間を見てみると、7:16。
気づかないうちに眠っていたらしく、私の元には勉強の教材が広がっている。
「あぁ…最悪。またやっちゃった」
寝落ち、今月でもう何回目…。
「…ん?」
ふと、自分の声に違和感を抱く。
「あー、あー、って私、のd、ゴホッゴホッ」
咳が出た。これは、やばいかも。
今、私はベッドで横たわっている。
まさか、体調を崩すなんて。
しかも、昨日、曜ちゃんにあんなこと言っておいて、だ。
「何が、医者は自分の体調を――よ。バカみたい、ゴホッゴホッ」
本当にこれはまずい。
病院に行くべきなのは分かってるけど、動く気力がない。
それに、何故か私のケータイが見当たらない。
誰にも連絡の取りようがなく、ベッドで寝ることしかできない。
その時だった。
ゴーン、と、家のベルが鳴った。
「誰、かしら…」
立とうとするけど、立てない。
「はぁ…」
溜息をついたとき、声がした。
つい最近聞いたような声だ。
この声は。
「曜、ちゃん…?」
ふらふらとしながらも、何とか立ち上がる。
重い足取りを、とにかく頑張って進める。
玄関へ行き、鍵を開けr――。
「に、西木野先輩!」
曜ちゃんの声が近くで聞こえる。
何故か懐かしい気持ちを抱きながら、私は自分の意識が遠のいていくのを感じた。
「ん…?」
何やら、鼻に香りが入り込んできた。
「…何?」
「あ、起きましたね、先輩」
「よ、曜ちゃん?どうしてウチに?」
「どうして、って…先輩が開けてくれたじゃないですか。覚えてないんですか?」
「うーん…?」
言われてみれば、そんな気がするような?
「先輩、玄関を開けてくれたと思ったらその瞬間に倒れちゃったんですよ?
本当に、覚えてないんですか?」
なんだか記憶が混在してる。
分からないから、とりあえず首を傾げる。
「まあ、いいんです。先輩、朝から何も食べてないんじゃないですか?
ありあわせの材料にはなりますけど、一応お粥作ったので…食べます?」
見ると、曜ちゃんの近くには小さい鍋が。
なるほど、さっきからしてるこのいい匂いの正体は、この――。
「ちょっと、待ってください!」
「ん?」
「あの、私が食べさせるので、先輩はそのままで…」
「ふぇ?」
「ね、ねぇ?ホントに大丈夫なんだけど」
「ダメです!
先輩、昨日言ってましたよね?体調を見極めて、無理だけはするな、って」
確かに言ったけど…。
今、私は4、5歳年下の曜ちゃんにお粥を食べさせてもらっている。
曜ちゃんは料理がうまいらしく、お粥はすごく美味しい。
でも。
正直、それどころじゃないっていうか…。
「は、はい。あーん、してください!」
理由は至って単純。
曜ちゃんが、可愛すぎるのだ。
料理を完食とはいかないまでも食べて、私はまたベッドに寝転がる。
曜ちゃんは、冷却水の交換とか色々やってくれている。
結構、人に尽くすタイプなのかな。
そんなこんなで、夕方にもなると、私も少しは身体が楽になっていた。
だけど。
「スゥーzzz」
私が起きたとき、曜ちゃんはベッドに寄り掛かるように眠っていた。
私、どうしたらいいんだろ…。
「んん…ふぁぁ」
しかし、私が頭を悩ませているうちに、曜ちゃんは目覚めた。
「って、はっ!」
眠っていた事に気付いて焦る曜ちゃん。カワイイ。
そして、目が合った。
「えと…先輩、調子は…?」
「ん、えぇ、まあ、マシになったのかしら」
「それなら、よかったです…」
「ええ、ありがとね」
「いいえ、私は…」
どうしてだろう、会話が続かない。
何か、聞かなきゃいけないことは…そうだ。
「ねえ、曜ちゃん?」
「は、はいっ!何でしょう?」
「なんで、私の家に来てたの?」
「えっと、それは…」
なんだか言いにくそうにしている。
私は、とにかく話してくれるのを待つ。
「朝、8時頃に先輩に電話をかけたんですけど、つながらなくて…。
それで、家の方を見てみたら電気が点いてなくて…。
出かけた音はしてなかったのでおかしいなと思って、そこから2時間くらい経っても全く電気が点く様子がなかったものですから、心配になって…」
「それで、わざわざ?」
「はい。ちょっとなんとなく、嫌な予感がしたので。
まさか、玄関が開いた瞬間に先輩が倒れこんでくるとは思ってなかったんですけど」
その件については、本当に私は忘れてしまっているらしく、いくら考えても思い出せない。
「まあ、おかげで助かったわ。ホントにありがとね」
「いえいえ…」
再び沈黙が流れる。
「…あ、あの!」
今度は曜ちゃんの方から話しかけてきた。
「西木野先輩って、μ'sの西木野真姫さん、なんですよね?」
「…そういうあなたは、Aqoursの渡辺曜ちゃん、よね?」
「ご存知なんですか?!」
「まあね、私の友達に一人、スクールアイドルが大好きな子がいるもんだから、有名な子たちは、私も知ってるわよ」
「ゆ、有名だなんて、そんなことは…」
「優勝したんだもの。有名って言っても、問題はないでしょ?」
「いや、μ'sの方々には到底及ばないと思ってるので…」
やっぱり、こうなってしまった。
いつもこうだ。
μ's。
私たちは、どこかやけに神格化されてしまっていて、話しているとよくこんな感じになる。
それが、なんか、すごく、いやだ。
私だって、ただの一人の人間に違いないはずなんだけど。
ほんっっとうに、申し訳ありません。
無理でした…。
でも、諦めきれないので、二部構成にして(無理矢理)後日改めて続きを投稿することにします。
中途半端に祝う形になってしまい、ホントに申し訳ない限りなんですが、どうか許していただきたいです。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
本当に申し訳ないです。どうか御赦しをお願い致します。