あれは、今後のカップリングだ。
「あれって何だったの・・・・」
「さあ・・・」
「なんとも・・・」
「言えませんわ・・・」
シャルルさんの疑問・・・というよりは哀愁漂う独り言に答えられる者はその場には誰一人としていなかった。
「オレ、第七アリーナ行ってくるわ・・・」
「お伴しますわ、葵さん」
「え、ちょ」
「フォロー頑張れよ、一夏君」
「恋人のメンタルケアは相方の務めですわ」
「いや待って!?」
「「さよなら一夏君(さん)!」」
IS収納して奪取で第二アリーナを逃げるように出る。というか逃げる。あんな気まずい場所に入れるかっつーの!
「ちょ、ちょっと待ってくださいましー!」
あ・・・セシリアさんがあんなに遠い・・・ISスーツ着ているの、忘れてた・・・
◇ IS学園 第七アリーナ
IS学園の後ろ側にある第七アリーナ・・・・毎日開放されていて、少数対少数をメインとする小さなアリーナなのだが、ここには無駄にデカい校舎や寮、第一から第六アリーナのせいで目立たず、更にとある理由によってよっぽどの理由がない限り使う人がいない。
そのとある理由だが・・・・
「やっぱ誰もいないな」
「今のところここを使っているのは私たちだけですわ」
「こんなにいい場所なのに・・・・」
「どこがですの?」
「狭い空間に柱が林立しているところ」
そう、この第七アリーナは他のアリーナと比べて狭いうえに柱が林立している。林立している柱はISの機動力を奪い、瞬間の判断力を求められる。さらにこのアリーナだけ天井が低い。そして柱と天井の距離は短い。つまり、上から狙えばいいじゃんという発想はここで潰される。だから技術が求められるここは人気が無いのだ。
じゃあそんなところにこいつら何しに来たんだよ、と思うかもしれない。が、彼らにとってここはとても都合がいい。
「それじゃあいつも通りよろしく」
「分かりましたわ」
セシリアと葵はそれぞれブルー・ティアーズと黒夜を展開後、ティアーズを射出。セシリアは<スターライトMk-Ⅲ>を、葵は<ハイペリオン>を取り出しそれぞれ所定の位置につく。彼らがこれからやろうとしているのは――
13対1の鬼ごっこだ。
◇ 葵視点
「今日は何分にしますの?」
セシリアさんの問いかけ。いつもは3分だが・・・
「5分にしよう」
「あら、今日は長いですわね」
「嫌?」
「いいえ、お付き合い致しますわ!そして今日こそ
「それ毎日言っているじゃん・・・」
「何か言いまして?」
「いえ何も?」
本来、黒夜にティアーズの制御を預ければこの鬼ごっこにセシリアさんはいらない。じゃあなんで参加しているかというと、BT兵器は理論上、曲げることができるらしい。が、それを成功させた人は未だいないらしい。ちなみに、最初にできたとヨーロッパIS委員会に認められた場合は多額の褒賞金が出るとか・・・
・・・・まあそんなわけでオレたちはここ2週間はこの第七アリーナで鬼ごっこをしている。
あとこの鬼ごっこ、マジで辛い。
「準備はよろしいですか、葵さん?」
「いつでもどうぞ、ミスオルコット?」
「フフ・・・それではスリーカウント、行きますわよ」
そう言ってセシリアさんがアリーナの入口付近の装置を弄るとアリーナのスピーカーから合成音声がなった。
いつでもイグニッションブーストが使えるように後部スラスターに燃料をくべる。
『3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・GO』
開始と共に取り込み、点火!ハイパーセンサーで先ほど居た場所を見ると3機のティアーズによって地面が焦げている。だがそんなの気にしている余裕なんてない!すぐに右肩と右足のスラスターを吹かす。案の定先ほどの場所にはレーザが・・・
左右前後上空斜め移動先回避先多方向射撃・・・・これらすべてを目視と直感で避ける。
黒夜がティアーズを操作しているからといって、黒夜からの警告が無いわけではない。が、この攻撃量ではそんなものあってないようなものだ。全部直線だからまだなんとかなるのだが、自由自在に曲がるようになったらどうしょうもない。あと柱が林立しているしていることで移動が制限されているのも痛い。こんな中で自由自在に動けるだなんて、剣士君、やっぱ君は凄いよ・・・
突如、ティアーズより二回り太いレーザーが目の前を通る。これは、<スラーライトMk-Ⅲ>のレーザーだ。
「葵さん、30秒経ちましたので私も参加いたしますわ」
この鬼ごっこの何が辛いかって、大量のレーザーを避けるのもそうだが、体感2分は現実の30秒未満ってところなんだよ・・・
ひいいい!顔の真横!今真横掠った!ひいいい!ミサイルやめて!死んじゃう!(死なないから)
◇ 開始から5分経過
『ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!』
アリーナのスピーカーから5分経ったことを伝えるタイマーの音が鳴った。・・・やっぱ何回聞いてもキッチンタイマーの音にしか聞こえない・・・
「今日も葵さんの勝ちですわね・・・」
「そう簡単に負けたくはないんでね・・・!」
「キッチンタイマー止めてきますわ」
「なんの脈略もなしにキッチンタイマーが出てきたうえに初めてキッチンタイマーって明言しただと!?」
今日も逃げきったぜ。・・・まあSEが残り48%しかないけど。最初の頃は一分も持たなかったことを思い出せばちゃんと成長してるってことだ。
あ、やっべ
体中の筋肉がプルプルし始めた。足や腕が産まれたての小鹿みたいにプルップル震えてる。今日はもう・・・無理か。黒夜を収納してアリーナに寝っ転がる。
「大丈夫ですの?」
「大丈夫、暫く休んでから帰るから。先帰ってて」
「・・・そんなところに居ますと風邪ひきますわよ。さあ、立ってくださいまし」
そう言って手を差しだすセシリアさん。・・・いや足がプルップル震えて立つのが辛いんだよ。プルップルだぞ、プルップル。プルプルプルプルプル、ガチャ。なんつって。
「今葵さん、絶対くだらないことを考えていますよね?」
「気にするな、オレは気にしない」
震える手と足を頑張って抑えて立ち上がる。そして一歩、また一歩と歩いて第七アリーナの出入り口を目指す。
「もう既に痛くはないのでは?」
「ありゃ、バレた?」
「葵さんの異常な回復能力の高さはわたくしがよくわかっていますわ!」
「なんでそんなドヤ顔なの?ねえなんで?なんでそんなドヤ顔なの?ねえ?」
実際もう震えは止まったけどさあ・・・なんでドヤ顔なの?( ・´ー・`)ドヤァ
◇ 更衣室へ向かう通路付近
疲れた体に鞭打って更衣室へ向かう。次の角を曲がって~と・・・あれ、なんで一夏君と山田先生が手を握りあっているんだ?そしてなんでオレの反対側にいるシャルルさんの目からハイライトが消えているの?わけがわからないよ。
おっと、シャルルさんが動いたぞ?
「一夏、山田先生の手を握ってどうしたの?」
「あ、シャルル!聞いて喜べ!今月末から男子も大浴場が使えるらしいぞ!」
「何!?」
あ・・・やっべ、出てきちゃった・・・いやまあ隠れていたわけではないけどさ?
「で、一夏はなんで山田先生の手を握っているのかな?」
「あ、山田先生、スミマセンでした!」
おおー、ジャパニーズ・OJIGI!腰を直角に折って頭を下げる!
「い、いえ、織斑君気にしないでください!」
「で、山田先生、大浴場が使えるようになるって本当ですか?」
「は、はい、そうですよ。氷鉋君。ただし一週間に一回とかになってしまいますが」
「おおおお!ということはこれで噂を確認できる!」
「葵、噂ってなんだ?」
「なんでも、物凄く広い大浴槽があったりとか、滝行ができる専用の場所があるとか、サウナ室の中には白樺の枝が置かれているとか、サウナ室を出たら目の前に深い水風呂があるとか、奥にはカレー風呂やラーメン風呂、トマト風呂にチョコレート風呂、砂風呂やホンモノの牛乳を使った牛乳風呂あるとか、五右衛門風呂やかまど風呂、ドラム缶風呂があるとか、よくわからない謎の風呂があるとか・・・」
「す、ストップ葵!風呂に物凄く興味があることはわかったから」
「あと電気風呂もあるらしいぞ。しかも個人風呂だから自分で調整できるってさ」
「なんだって!?」
「「やっぱスゲーよIS学園!」」
片やIS学園の制服を着たISが動かせる男1号『バカ正直』な織斑一夏、片やフルスキンタイプのISスーツを着たISが動かせる男2号『空に憧れる』氷鉋葵が風呂の話題で盛り上がってぴょんぴょんクルクル回っている。
そしてそれをシャルルさんが冷めた目で、山田先生が苦笑しながら見ている。
((そんな風呂で盛り上がらなくたっていいじゃないか))
と内心思いながら。しかし彼らがこんなにはしゃぐのは無理もない。彼らは約90日間も同居人に気を使いながら部屋に備え付けてある小さい浴室を使っていたのだ。大きな風呂に入れないのが不満なのではない。異性を気にしながら入らなければならないというのが不満なのだ。一夏はまだいい。最初の頃は幼馴染だったり一人の頃があったのだから。しかし、葵はずっと
とにかく、彼らにとって”異性を気にしなくていい時間”が滅多になかったのだ。だからこそ、その時間が増えるというのは嬉しいのだ。
だからこそ、彼らは忘れていた。
現在、
それを思い出すのは、その時が来てからだった・・・・
第七アリーナの設定は「異世界の聖機師物語」に出てくる闘技場をイメージしました。
8話の闘技場での剣士君の戦闘は興奮しましたよ。それこそかなり前に見たのに未だに憶えているほどに。あのビュンビュンと柱の間を抜けていくのが好きです(´▽`*)
そういえば「異世界の聖機師物語」と「インフィニットストラトス」って設定がちょっと似ているんですよね。
・操縦できる人が限られている
・そのほとんどが女性
・でも男でも操縦できる人はいる
・戦闘ができる場所が限られている
・主人公機は無敵の剣を持っている
多分もっと考えれば色々出るのでしょうが、残念!この作品は「異世界の聖機師物語」とはクロスオーバーしてないのだ!
『ハハッ』
な、なんだお前は!その手に持っているのは・・・まさか、著作剣!?まて、何故それを私に向けて振りかざそうとしている!や、やめ―(ピチューン