なんであんなに気持ち悪いと思ったんだろう?
葵が暴れだしてから21時間が経った。一組の専用機持ちと山田先生と織斑先生の6人は交代交代で彼をISを使って押さえていた。
余談だがこの時ラウラはシャルルをずっと見ていたし見る目に熱を帯びていた。
そして突然彼は、まるで糸の切れた操り人形のように事切れた。ようやく止まった彼に誰もが「やっと終わった」という思いを抱いていたが、その異常事態に最初に気が付いたのはずっと傍にいた本音だった。
「っ!織斑先生!」
「なんだ布仏・・・また動き出しそうなのか?」
「ひがのんが!ひがのんが!」
「一体なんだ・・・」
織斑先生が疲れた体に鞭打って立ち上がり葵に近づいてみるが、特に変なところはない。
「おい布仏、一体どうしたんだ」
「ひがのんの呼吸が弱いです!脈も!」
「なんだと?・・・っ!」
口や鼻に手を持っていくが息が当たらない。まさかと思い葵の胸に耳をくっつけるが音が聞こえず、上下にも上がらない。念のため脈を測る・・・・が、何も反応が無い。
そしてすぐに決断した。
「布仏!心臓マッサージ!山田先生!すぐに森先生を呼び戻してください!」
彼女は指示だけするとすぐに部屋を出て行った。部屋に残されたものはある者は言われた通りに行動し、ある者はまだ何かあるのかと思った。
数分後、戻ってきた彼女の手にあるのはAED。すぐに使おうと準備しようとしたところ、彼女の携帯が鳴った。切ろうと思い出してみるとそこには[ たばねちゃん ]の文字が。この親友が向こうから電話を掛けてくる、こちらがトラブルを起こしている時ならば大体解決策を提案してくる。それを知っているからこそ、電話に出ることを決めた。
「山田先生、これを」
「え、ど、どうしたのですか?」
「電話に出る。それだけだ」
そういうなり持ってきたAEDを山田先生に押し付け部屋を出て、電話に出る。
「どうしたたば―」
『どうしたもこうしたもないよちーちゃん!!なんであーくん死にかけてるの!?』
「それは私も聞きたい!今から約20時間ほど前から暴れだしてついさっき止まったかと思いきやこれだ!一体何なんだあいつは!おかげで寝不足だ!」
『20時間前・・・?ねえちーちゃん、昨日あーくんに何かあった?』
「右目の色が変わったぞ。鮮やかな紅にな。・・・まるで昔のお前のようにな」
『・・・・・まさかあーくん、対価を一日にしたの!?』
「なんの話だ・・・?というかどういうことだ・・・?」
『あーくんは本来一週間に分けての分割払いをするべきものを一括払いしちゃったんだよ!!』
「そ、そうか・・・」
正直、束が何言っているかは5も理解していない。昔からこういうことについては細かい説明はしてくれないからだ。だがその緊迫した様子からは氷鉋がしてはいけないことをしたということがわかる。
「それで束、どうすればいい?」
『いっくんはいる?』
「いるが?」
『白式は?』
「さっきまで使っていたぞ」
『つまりあるんだね。あーくんは黒夜を付けてる?』
「ちょっと待て。・・・・付けているぞ」
『次は部屋のでっかい窓開けて』
「窓?」
ガラッ
「全開でいいのか?」
『うんうん、それでいいよー』
「次は?」
『いっくんに白式を黒夜と繋げて。待機形態でいいよ。方法は―』
「知っている。それだけか?」
『今のところはそれでいいよ。それじゃ、すぐに向かうから!』
そういうなり、切れた。言いたいこと言ったら切るのはいつものことだが今はそれどころではない。
「一夏、来い」
「ん?どうしたんだ千冬姉?」
「束がこの後来るそうだ。で、その束がお前の白式と氷鉋の黒夜を繋げろと指示した。さっさとするぞ」
「えっと、千冬姉、どゆこと?」
「詳しいことは私がやる。だからさっさと来い」
「お、おう」
言われた通りに近づくと・・・白式がある左腕を掴まれた!そして白式をカチャカチャ弄られると・・・
「うわ!?なんか白式に突起ができた!?」
「・・・よし、一夏、白式を黒夜のこの穴に刺せ」
「・・・・・え?」
「どうした、さっさとしろ」
「お、おう・・・?」
言われた通りに突き刺すと・・・黒夜のヘッドギアが葵の頭に展開された。こんな機能、聞いたこと見たことも読んだこともない。
「ど、どういうことだ千冬姉!?」
「なに、簡単な話だ。ISを物理的に接続させ、コアネットワークを介して相手のISを展開させる機能だ。まあ普通は知らなくて当然だし、何より展開させるには束クラスの能力が無ければできないさ」
(なんだよそれ、束さん以外使えない機能じゃん)
そう一夏が思うのも無理はない。一体この世のどこを探したらあの束さんと同じ脳みそ持っている人が見つかるというのだ。いやそれ以前にあの人のようなぶっ飛んだ思考をし続ける人がいるだろうか、いやいない。
「それで千冬姉、束さんは―」
「束さんをあーくんの部屋にシュート!
超!エキサイティン!!」
「「!?」」
変な掛け声とともにスライディングしながら入ってきたのは一人「ヘンゼルとグレーテル(?)」の格好をした篠ノ之束だった。
「ハロー、いっくんお久しぶりっ!」
「は、ハロー?」
「いやぁ~、いっくんおっきくなったね~。特に体が!」
「えっと、ありがとうございます?」
「うんうん、素直でよろしい♪」
お礼?を言ったら撫でられた。・・・何故だろう、隣の姉から物凄い圧を感じるのは。おっかしいな?
「で、ちーちゃん?あーくんは
「お前の後ろだ。・・・・なんで私には何もしてくれないんだっ」
束は隣にいた一夏でさえ聞き取れなかった千冬の小さな呟きをはっきりと聞いて、嬉しそうに目を細めた。・・・まあ、突発性難聴を患っている一夏の耳を基準に考えるのはどうかと思うが。してその一夏だが、白式から流れてくる情報によって頭痛に襲われた。
(何だこれ・・・・!人が、殺される?いや、殺している?「殴っていいのは殴られる覚悟のある奴だけ」っていうのは効いたことあるけど・・・!何もしなかったら理不尽に殺されるだけじゃないか!・・・・・もしかしてこれ、さっきまで葵が見ていたやつなのか!?)
しかし二人は・・・・というか誰も一夏の異変に気づいていなかった。そして千冬と束の二人は愛を語っていた。言葉自体は大したことなくても、二人が作る空間だけで、それはもうブラックコーヒーが本場ベトナムコーヒー並みの甘さになるほどだ。
「ちーちゃんと私は一心同体だからね~。そしてその愛のはISで大気圏を天元突破するほど高く!マントルどころかブラジルを超えその先の銀河の彼方のイスカンダルに届くほど深く!!全てを飲み込むと言われているブラックホールよりも包み込む!!!」
「な、なにを言っているんだお前は!!! ///」
「ほえ?束さんのちーちゃんへの愛だけど?」
「何か変なことでも?」とでも言いたそうな目で千冬を見る束。だが、その目はすぐに驚愕へと変わる。
「いっくん大丈夫!?」
「た、束さん・・・葵は・・・葵は一体何を見ていたんですか・・・!」
「もしかして黒夜と白式がいっくんに見せているの?だとしたら不味い・・・!」
束は沢山の空中投影型のディスプレイとキーボードを呼び出し、首に掛けているペンダントみたいなのと黒夜のヘッドギアをどこからか取り出したコードで接続、ディスプレイを見ながらキーボードを叩いていた。
それから10分くらい経ったころ、キーボードを叩く手を止めた。
「ふう・・・とりあえずこんなもんかな。これ以上私ができることはないよ。あとはあーくんの頑張り次第かな」
「そうか・・・それで一夏は―」
「黒夜のヘッドギアを展開させたのはあーくんの痛覚への負担を少し減らすのと、死なせないため。これさえあれば最悪<絶対防御>が発動するから私が着くまでならもつって算段だったのさ。で、いっくんに情報が流れてきたのは、黒夜が『俺だけじゃ無理!白式手伝って!』っていう感じだと思うよ」
「それじゃあ問題はないんだな」
「いっくんに関してならね」
「どういうことだ・・・?」
「言ったでしょ?これ以上私ができることはないよって。私は処理を手伝ったのとあーくんが死なないように守っただけ。保護しただけ。意識が戻るか、後遺症が残るかなんてぜーんぶあーくんの頑張り次第なんだよ」
(つまり束さんが言ってることは”出来ることはした、そこから先は葵次第”ってことか)
と納得した一夏。未だに超常現象がバンバン起きていたり、人を殺す、殺されるという映像が流れてきているが、ただ、それだけだ。しかし見ていて気分のいいものではないが。
(っていうかこれ何の映像なんだ・・・?)
俺の疑問に気づいたのか束さんは―
「いっくんはそれを見ているなら知りたいよね、誰の、何の
―教えてくれなかった。「どうして」と聞こうしたがそれもできない。というか先に口に飴玉を入れられた。
「理由はね、いっくんには資格も権利もないからだよ。これは生まれ持った才能の差だからしょうがないね。あ、別に聞いちゃダメってわけじゃないよ?ただね、いっくんの場合は支払う対価が私たちより重くなるんだ」
(いや重くなるって言われても・・・・)
「あ、どれくらい重くなるか知りたい?聞くだけならタダだよ?」
聞くだけタダ。タダなら聞くか。俺は首を縦に振った。
「うーん・・・そうだねー、今まであーくんが見ていたもの全部正しい手順で見たらねー・・・ちーちゃんの命だけじゃ済まないかなー?」
「え、ちょ、どういうことですか束さん!」
俺が葵と同じものを正しい手順で見たら千冬姉が死ぬ・・・?俺が見たのに?
「ちーちゃんの命だけじゃ釣り合いが取れないってことだよ。そしてなんでちーちゃんが出てくるか不思議そうな顔しているね?それは、いっくんが払えるのはそれしかないからだよ」
「じゃ、じゃあ今俺が見ていたアレは・・・!」
慌てて白式を腕から外そうとするけど外れない。なら黒夜から白式を剥がそうとするが・・・ダメだ、硬すぎる!こんなことで千冬姉を死なせたくない!
「いっくん落ち着いて!正しく見なければいいんだから!」
「で、でも!」
「落ち着け馬鹿者が!・・・束が言っていただろ、正しい手順で見たらと。今のお前は白式を通して見ているだけだ」
「そ、そうだった・・・」
「まあいっくんが見ちゃった対価はこの束さんが既に払っちゃったけどね!」
「な!?」「え!?」
束さんが既に払った・・・だと・・・?
「フフフ、われをあがめよ!」
「し、師匠!」
というか束さんMMOやるんだ・・・。絶対やらないかと思っていたのに・・・
「さあ、組手しようぜ!」
「師匠・・・!
「やるな馬鹿者共が!!」
バシンッ!!バシンッ!!
「ふにゅ!?」
「イデッ!?」
しゅ、出席簿アタック!?一体いつからあったんだ、あの出席簿!?
「分かる人にしか分からないネタやめろ!というかそれ何年前だと思っているんだ!」
「さあ?」
「う・・・頭・・・いた・・・」
「ひがのん!」
おっと、いつの間にか葵が目を覚ましていた。頭痛に襲われているのか右手で頭を触っている。・・・ってあ、白式と黒夜がいつの間にか離れている!
「ひがのん、大丈夫?また暴れださない?」
「・・・暴れだす・・・?」
「昨日の夜からひがのん叫びながら暴れていたんだよ?憶えていない?」
「・・・もしかして、発狂してた・・・?」
「うん、そうだよ~!そしてひがのん暫く寝ていたんだよ~!」
「・・・そっか、それで沢山人がいるんだ・・・すみません、迷惑かけて。そしてありがとうございます」
葵が今、精一杯の謝罪と感謝。ベットの上でだが頭を深く下げている。そしてみんなは最初から葵を責めるつもりはなさそうだ。
「いいって、気にするなって。それにお礼を言うなら束さんに・・・・ってあれ、束さん何処行ったんだ?」
「さっき帰ったぞ。そこのベランダから飛び降りてな」
「・・・それ、大丈夫なんですか?」
「あいつならこの程度どうってことないだろ。それより氷鉋、束からの伝言だ。『無茶をするな、使い方を知れ、そして使え』だそうだ」
「使え・・・?」
「あいつは、お前のことをかなり心配していたぞ」
「そう、ですか・・・。お礼を言っておいてくれませんか?」
「安心しろ、近いうちにまた会いに行くそうだ。その時直接言ってやれ」
「分かりました。ありがとうございました」
「よし、撤収するぞ。布仏、また何かあったらすぐに呼べ。いいな?」
「はい!」
◇ 葵視点
・・・・・ああ・・・・頭イテェ・・・・ていうか日付が寝てから2日過ぎているんですけど・・・
ていうか胸糞悪い・・・おまけに皆に迷惑かけちゃったし・・・あと死にかけてたみたいだし・・・
「なあ本音さん、なんでAEDが部屋に放置されているんの?」
「あ~、それはね~またひがのんの心臓が止まった時のためだよ~」
「やっぱオレ死んでいたのか!?・・・っあ・・・」
「無理しないで~!」
もうなんなのこの右目・・・何?オレもあんな風に死ぬと?嫌だなぁ・・・
「ねえひがのん?」
「ん?」
いつの間にか隣にいた本音さんに話しかけられた。・・・嘘だろ、全く分からなかったぞ・・・
「一体、何を見ていたの?」
「・・・・知りたくない話だよ、オレにとっては」
「・・・・それって、私にも言いたくないの?」
少し、悩んだ。別に言ってもいい、「人が死にまくった」というだけだ。けどオレは何故か、言ってはいけない気がした。彼女はこちらに来てはいけない気がしたからだ。
だから、オレはこう答える。
「うん、言いたくない。聞かないでほしい。知らないでほしい」
「・・・うん、わかったよ~。もう聞かないよ~」
・・・・気のせいかな?本音さんの瞳からハイライトが一瞬消えた気がしたのは・・・
とりあえず右目について終わらせようと頑張った結果五千字になった・・・。
途中で区切ろうとも考えたけどキリが悪くてそのままあげることにしました。
・・・・そういえばアンケートの回答期限を言っていなかったな。回答期限は、3章エピローグを書き始める前までだ。