◇ 一夏&葵サイド
あれからあっという間に時が過ぎ、トーナメントの日になった。アリーナの観客には人がぎっしり。視察という名目で各国の首脳なども来ている。ピットにはギリギリまで調整をしようと忙しく走り回っている人もいる。そしてその騒がしさは客席の下にあるロッカー室にも聞こえていた。
「一夏、準備は?」
「大丈夫だ・・・事前に打ち合わせした通りにすればいいだろ?」
「
「できたぜ、ちゃんと!」
「頼りにしてるよ」
そんな中一夏は静かに目を閉じて集中し、葵は黒夜の最終点検をしている。織斑先生の計らいで、葵が寝ている間に起こった一夏とラウラの「決闘」は、第一試合で行うようにされた。この一週間、葵は一夏に「ラウラの『AIC』対策だけ考えていろ」と言ってある。
「絶対に勝つぞ、一夏!」
「ああ、もちろんだ葵!」
『一回戦を始めます。選手はアリーナにて待機してください』
「時間だ、行くぞ!」
「おう!」
二人の戦いが、今、始まる!
◇ ラウラ&シャルルサイド
「ラウラ、準備は?」
「問題ない、いつでも行ける。それよりもシャルルの方は大丈夫なのか?」
「第二世代とはいえ、<歩く武器庫>の異名は伊達じゃないよ。大丈夫、弾はたっぷりあるよ♪」
「そうか、ならいい」
ここ数日、ラウラはシャルルを追いかけまわしていた。もちろん比喩抜きだ。シャルルがどこに行っても「シャルル、どこに行く」と声をかけては「そうか、私もついていこう」と言っては勝手についていったりとか・・・
『ヤバいヤバい、漏れそうなのにトイレが遠い!』
『シャルル、どこに行くのだ』
『ピグッ!?ラ、ラウラ!?』
『どこに行くのだ』
『トイレだよ!!』
『そうか、私もついていこう』
『お願いだから来ないで!?』
・・・ということもあったとかなんとか。
(この一週間、ラウラに付きまとわれたけど、おかげでどういう人なのかは分かった。ラウラ、君は・・・)
『一回戦を始めます。選手はアリーナにて待機してください』
「ッ!!」
「時間だな。行くぞシャルル」
「あ、うん・・・」
シャルルにはそれしか言えなかった。これから真剣勝負が始まるというのに、その前に何かを言って心を乱すのは良くない。だから彼女は心の中で呟いた。
君は、寂しいんだね、と。
◇ アリーナ中央
アリーナの中央にはISを纏った4人がいた。片方は代表候補生、もう片方はIS歴2か月半のビギナー。始まる前から結果がが目に見えていると言わんばかりの雰囲気が観客席には漂っていた。
だが、一夏も葵もそんな雰囲気が流れることは最初から分かっていた。
二人は目を閉じて、深呼吸をする。
(そもそも経験も技術も、積んできた数の差は圧倒的に違うんだ。普通に戦ったら負ける・・・!だが・・・)
(だからこその作戦であり、戦略を用意した・・・!)
((あとは・・・))
(すべて出し切るだけだ!)
(ニーケーの加護がありますように!)
通じ合っているようで微妙に通じ合っていないような
二人が静かに目を開けると、ラウラは真面目な声で「お祈りは済んだか?」と尋ねた。
「ああ、ちゃんと済ませたさ」
「なんだ、神頼みか。つまらない奴だな」
「いやお前が聞いたじゃん」
「鎌をかけただけだ。・・・一ついいことを教えてやろう。最後まで信じられるのは己自身だ」
そういってラウラは肩を落とすが、逆に一夏は肩をすくめた。
「あいにく、俺たちは自分を過信するよりも仲間と相棒を信じているんでね。」
「ハッ、それが命取りになるかもしれんぞ?」
「言ってろ。俺は・・・俺たちは、俺たちのやり方でお前に勝つ!」
勝つという意思を見せた一夏に合わせたかのように、試合開始までのカウントダウンを知らせるためのランプが点灯する。
《05》ブー!
試合開始5秒前のブザーが鳴る
《04》ブー!
一夏が雪片弐型を展開する
《03》ブー!
葵はドレッドノートを、シャルルはIM4カービンを展開する
《02》ブー!
ラウラを除く全員が武器を構える
《01》ブー!
白式が雪片弐型を開く
《00》ビー!!
開始のブザーが会場に鳴り響く!それと同時に一夏はラウラのところへと一直線に突き進む。そしてそのあとを構えたまま追いかける葵。ドレッドノートのモードをフルオートにして、ラウラを狙っている。
一方ラウラとシャルルは一夏が来るのを待って動かずにいる。一夏が、一夏の間合いになると雪片弐型を振り上げ、同時に零落白夜を起動させ、振り下げる。ラウラは「それを待っていた」と言わんばかりに口の端を吊り上げ、左手をスッとあげる。すると一夏の動きがピタリと止まった。
「『AIC』・・・!」
「まさか、無対策で突っ込んでくるとは・・・」
「悪いけど、終わらせるよ!」
「させねえよ!」
シャルルが動けない一夏の側面に素早く移動して銃を構える。だが、引き金を引く前に
「ハアアア!!」
「クッ!」
ラウラの意識が一夏から上空に移ったことで一瞬『AIC』が解除される。その隙を逃さずシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーを縦に切り裂き、さらに横一文字で追い打ちをかけ、左足で蹴り飛ばして離脱する。蹴り飛ばされた先には葵がフルバスターモードで待機していた。
「さあ止めてみろよ自慢の『AIC』とやらで!!止められるもん何らなあ!!!」
「注文通りやってやる!!」
5本の太い光がラウラに迫り・・・4本だけ止まった。突き破った1本はじわじわと両者のSEを削りとる、ドレットノートのビームだ。だがこれで終わりではない、簪から借りているミサイルポッド、黒夜備え付けのティアーズでラウラの側面と後方を襲う。
「なかなかやるな!」
「ラウラ!?」
「問題ない!!」
「まだまだ行くぜ、ラウラ!」
「よそ見なんてさせねえぜシャルル!」
「しつこいよ、一夏!」
咄嗟に『AIC』を解除したことでダメージを軽減させたが、ラウラはすでに2割を削られている。そこに近接戦で追い打ちをかける葵。シャルルもシャルルで一夏に妨害を喰らっていてラウラのフォローに行けない。
「なんでさっきから武器ばっか狙ってくるの!?」
「遠いんだからっ!!仕方がないだろっ!!」
「また壊された!!」
刀一つしか持たない一夏の妨害方法、それは正面からひたすらに追いかけまわし、シャルルが銃口を向けた瞬間に、<零落白夜>で刃を伸ばして武器を破壊する。もしシャルルが銃から剣などの近接武器に切り替えても、同じように壊す。ひたすらに壊す。我武者羅に壊す。シャルルがあれを使ってくれるまで、ひたすらに壊し続けるのだ。あたかも、ギリギリを装いながら・・・
葵とラウラのところは<デュエル>と<プラズマ手刀>による両者互角の二刀流対決が行われている。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
わざわざプラズマ手刀を使うためにシュヴァルツェア・レーゲンの外装的特徴のレールガンを後方に向けて、全面を広くして応じている。
(くっ、4割を削られたが、恐らくこいつも似たようなはずだ。ここで『AIC』で無理矢理動きを止めてレールガンによる近距離砲撃をすれば確実にダメージを与えられるが・・・)
「どうした!!もうへばったか!!」
「それは貴様のほうだろうが!!」
(こいつはこの手でぶっ潰す!!)
相手と同じ土俵に立ち、その上で相手を倒す・・・それがラウラのやり方だが、余裕がなくなってきたのも事実。それでもレールガンを使わないのは、ラウラのプライドの問題だった。
突如一夏から葵にプライベートチャンネルで通信が来る。
『葵!準備完了だ!』
『了解!』
葵はそれを聞くと通信を切り、右手のデュエルを放り捨て、ハイペリオンに持ち替える。
「ハッ、盾を使うとは!!その盾ごと切裂いてくれるわ!!」
ハイペリオンは人用のハンドガンで壊せるほど物理攻撃には弱い・・・が、ビームやプラズマといったエネルギー兵器に対しては絶対を誇る防御能力を持つ。
よって、プラズマ手刀は無力化される
「何!?」
ラウラは左手を振り下ろすが、ハイペリオンに触れた途端にシュヴァルツェア・レーゲンのプラズマ手刀は消失した。しかし、振り下ろしによる位置エネルギーは消されずに残るため・・・
「なっ・・・」
シュヴァルツェア・レーゲンの左手で盾が砕けた。自分の攻撃が無力化されただけならまだしも、手が当たっただけで勝手に盾が砕けたということに理解が追いつかないラウラ、そのわずかな隙を葵は見逃さず、シュヴァルツェア・レーゲンの左手を掴む。さらに、膝のキャノン砲を前方に向けて、手を展開し、シュヴァルツェア・レーゲンの足をそれぞれ掴む。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
「喰らうかよ!!」
やけくそになったラウラは右手を振り下ろすが、葵は黒夜の左肩についているスラスターを吹かせて
「どうだ、これで動けまい!!」
「まだだ!!こちらにはレールガンが!!」
「こっちにもあるぜ?お前と違って二門もな」
「くっ・・・だが、こうしていればお前も動けないだろうが!」
「ああ、俺はお前を動かさないためにいるんだからな」
「なんだと?」
すると、ラウラの後ろから二機のISが急接近してきた。一夏とシャルルだ。
「そこの一夏!いい加減止まりなさい!!」
「嫌だ!シャルル、それは冗談抜きで痛い奴だろ!!ちょ、葵!助けて!?」
シャルルはラファール・リヴァイヴの
「ラウラ!一夏を捕まえて!!」
シャルルも、葵を捕まえているラウラを見て一夏を捕まえるように指示し、自身は一夏と直線になったところで
「シャルルも使えんの!?」
「今初めて使ったけどね!!」
「器用だな!?」
想定外の出来事で一夏は驚いたが、逆に好都合だった。使ったことがあるからわかる、イグニッション・ブーストの最中はまともに舵を切ることができない、そんなことをするのは葵くらいなのもんだ・・・だから一夏は慌てずに雪片弐型を左手に持ち替え、ラウラのそばまで来てから地面に雪片弐型を突き刺し、シャルルが近づいてきてから半回転することでコースから外れ、その回転の勢いで距離をとる。
シャルルがそこを通る時にはラウラとの距離は短く、ラウラも葵に動かないように固定されているため身動きが取れない。
「ラウラ!!」
「無理に決まっているだろ!?」
シャルルができることはラウラに叫ぶことだが、ラウラも同じく叫ぶことしかできなかった。
動けないラウラ、止まらないシャルルは当然、慣性の法則に従いぶつかる。
ドンッ!
「ギッ!?」
ガシャン!ドンッ!
「ンッ!!」
ガシャン!ドンッ!
「グハッ!?」
そしてラウラの背に待機状態のグレー・スケールの杭がぐっと押され、起動する。グレー・スケールは杭の先端が押されることで起動するタイプのパイルバンカー。弾倉にはリボルバー式を採用しており、冷却と火力の関係で最大3発まで連射できる。だがこの3発で、第二世代機であるラファール・リヴァイヴが第三世代機と瞬間火力並ぶだけあり、訓練機のラファールならば
葵はラウラのSEが1~2割ほどだと判断した。グレー・スケールの威力をもともと知っていたからだ。葵自身もシュヴァルツェア・レーゲン越しに感じられる程とは思ってもみなかったが、まだラウラが動けるということは
彼らは事前にシュヴァルツェア・レーゲンについて調べてあった。そこではシュヴァルツェア・レーゲンの開発コンセプトは特殊防御型となっていた(ドイツ軍、シュヴァルツェ・ハーゼのホームページより)。防御型のISは
蹴り飛ばされたラウラは、ふらふらとしながらも立ち上がり、残りSEを確認した。その数値は勝利が絶望的な
(まだ、動く・・・!私は戦える!)
ビー!ビー!ビー!
ー 敵機高速接近 -
「この速度、織斑一夏か!?」
遠距離からの加速し続けて到達した白式の純粋な
「行くぜ、ラウラ!勝負だ!!」
「上等だ!返り討ちにしてくれる!!」
そういうとラウラはワイヤーブレードを起動させ、レールガンの照準を定める。一夏は迫りくるワイヤーブレードを僅かにできる隙間を潜り抜け、抜けられない時は両手の剣を使って弾いたり捌いたりすることで生まれる隙間に速度を落とさず突っ込んでいく。飛んできた砲弾は反射的に逸らし、次弾準備中の砲身に右手に持つデュエルを投げ入れて潰す。
「なかなかやるな!だが間もなく『AIC』の射程内になるぞ!」
「なら俺はそれを突破する!!」
そういって一夏は雪片弐型を左手から右手へと持ち替えて、<零落白夜>待機状態にし、右手を引き、左手をそっと刀身に添えて、腰を落とす。その独特の構えを見たラウラは、直感的に危険と判断し、左手を突き出して『AIC』を使う。だが一手遅かった。ラウラが左手を出す前に一夏は<零落白夜>を発動し、
ラウラの何かが通り抜ける。
それは刹那の閃光だった。白い一閃だった。掴めるものではなかった。
ラウラが後ろを向こうとしたとき、シュヴァルツェア・レーゲンは機能を停止した。慌てて確認すると残りSEは0だった。腰部についているパーツは深く切裂かれていた。
「俺の勝ちだ、ラウラ」
静かに一夏は、ラウラに勝利宣言をする。ラウラは悔しさと、驚きを混ぜた声で一夏に聞いた。
「貴様、何をした?」
「突いた。それしかAICを破る方法が思いつかなかったからな」
その質問に一夏はなんてことないように答えた。「突く」という点の攻撃、一夏が箒から教わった突きのやり方を白式で使えるようにし、アレンジを加えた、一夏の必殺技。零落白夜という最強の
ラウラは彼らの作戦、そして一夏の必殺の一撃、それら全て理解した途端、完敗だと思った。自分を倒すために最高の一撃を用意し、それを使うために敵味方関係なしに使えるものを全てを使い、最高の環境を用意した。今思えば防ぐチャンスはあった。なのにこれを許したのは完全に
「完敗だ、私の負けだ」
「・・・そうか」
「もっと喜べ、織斑一夏。ISに乗って日が浅いのに貴様らは代表候補生の私に勝ったのだ。勝利者は勝利者らしくしろ」
「・・・ああ」
「とはいえ、悔しくないな・・・。完敗というのは、こういうことなのか。悔しいが、清々しくもある。敗北とは全然違うな」
「どうした織斑一夏、さっきから無言で」
「・・・勝ったという事実から、達成感と夢なのではないかという感じが混ざって、なんて表現すればいいかわからないんだ」
そんな一夏を見たラウラは、記憶の中からある言葉を引っ張り出す。それはラウラが最も尊敬する人の言葉だった。
「『まずは誇れ、目標を超えた己自身を。そして次を決めろ、何でもいい、小さくてもいい。ただいつまでも誇ったままでいるな。誇りは糧にしろ。それが次を超える方法だ』・・・教官はかつてこう言ったぞ」
「千冬姉が?」
かつて姉が言った言葉。
「ああ、そうだ。・・・私はなぜこれを忘れていたんだろうか・・・うぐっ!?何だこれは!?」
「どうしたラウラ!?」
突如変な挙動を起こしたラウラに、何事かと一夏が近づく。だがそもそもシュヴァルツェア・レーゲンのSEは0なので、動くはずがない。
「来るな一夏!!レーゲンがおかしい!!近づくな!!教官を呼べ!!」
「お、おう!!」
言われるがまま一夏は千冬に連絡を取る。
『千冬姉!ラウラの様子がおかしい!』
『ああ、こちらからも確認した。0だった
『分かった!』
『氷鉋、デュノア、聞こえているか?試合は一時中断だ』
『『了解』』
千冬からの指示で一夏が距離を取っていると、シュヴァルツェア・レーゲンは突如としてドロッと溶け、ラウラを包み込む。
「う、うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「ラウラ!?」
「ああああ・・・」
溶けたシュヴァルツェア・レーゲンにラウラは完全に取り込まれ、取り込んだ方はというとぐにゃぐにゃと形を変え、とある形を作り出す。その姿を見て、シャルル、葵、一夏は呟く。
「これって・・・」
「ああ、間違いない。何度も見たさ、この姿・・・」
「千冬姉・・・?しかもモンド・グロッソの時の!?」
シュヴァルツェア・レーゲンの、いや、「何か」がとった姿は葵にとっては憧憬の姿、一夏にとっては救世主の姿だった。
そして白式は、この姿を見たときに「何か」の正体を導き、
ー 『Valkyrie Trace System』 -
書き直した理由は、クラスを4組、合計参加者を80人として計算してらとても終わるペースじゃなかったんです。
それに原作でラウラと一夏をISのブレードで止めた千冬さんの「決着は学年別トーナメントでしろ」って言ったので、途中で負けてはいけません。それを考慮すると、第一試合に持ってくるのは自然な考えだと思い至りこの度書き直しました。