「千冬姉!『Valkyrie Trace System』ってなんだ!?」
『・・・一夏、その情報はどこからだ?』
シュヴァルツェア・レーゲンが姿を変えた黒い「それ」は、執拗に一夏を狙い続ける。急加速からの一閃、一夏はこれをひたすら避け続けるしかない。白式の残りSEと「それ」の速度を見たときに、受け止めようものなら明らかに力負けする。葵やシャルルの攻撃には、目を向けようとすらしない。そんな中で白式の出した敵の正体を姉に伝える。
だが、弟だからこそわかる、反応がどうもおかしい。何がどうおかしいかと言った理屈ではない、直感的にそう感じたのだ。
だから一夏は伝える。
「千冬姉、俺、ラウラを助けたい」
『・・・正気か一夏?ラウラが取り込まれる寸前に私を呼んだほどの相手だぞ?』
「分かってる。けど・・・」
チラッと見るのは、注意を向かせようとする2人。断片的だが重いものを背負った葵、現在進行形で背負っているシャルル。そんな2人を見て一夏は覚悟を決めた。
「それでもやりたいんだ。あの二人と比べりゃまだまだだけど・・・戦友の一人、助けられなきゃダメだろ!!」
『・・・ならやってみろ。ただし無理だと判断したら教員達を突入させる。それでいいな?』
「ありがとう、千冬姉!」
礼を言うやいなや、回避から一転、攻めに転じる。振り下ろす一閃、よく見ればただ速いだけ。本物を見たことのある一夏からすれば、そこに技術が、意思が入ってなどいない、決して避けられないものではない。
スレスレで避け、懐に入り、首を〈零落白夜〉で切り落とし、そのまま距離を取る。
シールドバリアーを切り裂き、本体を切り落とした感覚がある一夏は、ハイパーセンサーでどうなったかを確認した。だが、そこにあったのは・・・
「マジかよ・・・!」
無傷の「それ」だった。斬られた直後に回収、再生していた。下手な場所を斬ればラウラが危ない。だが、この状況ではラウラが何処にいるかの解析ができない。
「どうすればいいんだ・・・!!ん?エラー音!?」
焦る一夏に、更に追い討ちがかけられる。それは突然の白式からの警告音。
「エネルギー切れかよ!!」
エネルギー切れを伝える警告音、そして搭乗者を保護する為に自動で切り替えられたオートパイロット機能。一夏に出来ることはなくなってしまった。
次第に落ちてゆく速度と高度。チャンスと言わんばかりに一夏に近づく「それ」。縮まる地面と「それ」との距離に一夏は恐怖を感じた。
(チクショウ!!千冬姉に啖呵を切ったのにもう終わりかよ・・・!!)
まだ出来ることは無いのかと動かそうとするが、白式は一切反応しなかった。
ついに、着地する。同時に白式は解除、待機モードになる。
すると生身で放り出された一夏を、大きな影が覆った。下手に動けば「それ」はすぐさま殺しにくる。だが何もしなくても時間の問題だった。振りかぶる「それ」に一夏が出来ることはせいぜい、睨みつけるだけだった。
(ごめん、みんな・・・結局俺、何もできなかった・・・)
悔やむ一夏に、真っ直ぐ剣が振り下ろされる。その刃は一夏を
「まだ動くなよ一夏ァ!!!」 ガキン!!
・・・両断する前に葵がイグニッション・ブーストで間に割り込み、剣をクロスさせ防いだ。
「シャルル!!」
「捕まって一夏!!」
「葵、シャルル・・・!」
葵が「それ」の動きを止めている間にシャルルは一夏を回収し、離脱する。「それ」が離れていく一夏を追いかけようとするが、葵は近距離でミサイルポッドの全砲門を開けて注意を引く。
「何オレを無視して一夏のところに行こうとしてんだゴラァ・・・」
「それ」が黒夜の急激な熱量の増加に引きつけられると、葵は躊躇なくミサイルをぶっ放す。
「全弾命中っと!」 ガシャン
空になったミサイルポッドを切り離し、肩のスラスターを収納する。部分展開の逆バージョンだ。腕をぐるぐると回し、両手に剣を持ち、構える。
「これで肩が軽くなった。・・・今日の一夏君のパートナーはオレだ。だから一夏にばっかやらせるわけにはいかねーんだよ」
黒夜の両翼からシールドエネルギーが過剰に流れだし、彼の周りに陽炎が出来上がる。
「・・・それに、オレにとってその姿は憧憬なんだよ」
「それ」を睨みつける葵の前には
《Standby, ready》
の文字が映る。
「お前は織斑先生の名を汚した。一夏のお姉さんを汚した。オレの憧憬を汚した。そして、あー、今のご時世こんなのいうのはアレかもしれねーが・・・女の子を、ラウラを泣かせた。だからオレ達はお前をぶっ潰す」
両翼が周囲に溢れたSEを一気に取り込み、点火。爆発的速度で加速し、「それ」の右腕を切り落とすことに成功する。
「覚悟しろゴルァァア!!!」
◆□◆
葵が戦闘を始めてから10分が経過、状況は劣勢だった。
残りのティアーズで攻撃をしてもビームを切り捨られ、ついでにティアーズ本体も切り捨てられ、ドレッドノートは全て回避された。まともに戦うには近接戦しかないが、近接装備のデュエルは全てボッキボキに折られた。
さらに言えば、残りのシールドエネルギーから見ても長期戦ができる量ではない。
「使える武器が一つも残ってねぇ・・・」
(後は一夏頼みか・・・)
敵機接近のアラートがけたたましく鳴り響く。「それ」の刃が葵に届く距離まで接近された。
「こうなりゃ拳だぁぁぁああ!!」
葵を排除しようと振り下ろされた刃を、彼は左手で受け止めた。そして右手で刃の側面を殴り始めた。
バキバキと黒夜のマニピュレーターが砕ける音が響くが、もうアラートは鳴り響いていなかった。目の前の敵を潰す、彼らはそれしか考えていなかった。
「こんのぉぉ!!なんのぉぉ!!」
殴る。殴る。ひたすらに殴る。あんな事を言ったからには引き下がれない、とでも言わんばかりに殴り続ける。
マニピュレーターが完全に使い物にならなくなるには時間はかからなかった。それでも殴り続けた。
そして、遂に時が来た。シャルルからの通信が入ったのだ。
『お待たせ葵!ちょっと時間掛かっちゃった!さあ、お届け物だよ!!』
シャルルからのお届け物、それは黄金を纏った「白」だった。
ひたすらに加速し続ける「白」だった。
上空から迫り来る「白」だった。
「行くぜ、ヴァルキリートレースシステム・・・勝負だ!!!」
次回へと続く!