ということで私もデマを流しまーす!
次回の投稿は一週間後です!
時は10分前にまで遡る。
シャルルは一夏を回収したあと、アリーナの反対側に来てから一夏を下ろした。そしてラファールには標準で付いているIS用有線送受信・充電コードを引っ張り出す。
「一夏、よく聞いて。今から白式が一度だけ全力の零落白夜ができるだけのエネルギーを渡す。展開と零落白夜だけでエネルギーが尽きるから、チャンスは一度きり。ここまで大丈夫?」
「え、ああうん。けどどっから持ってくるんだ?ピットは閉鎖されてるし・・・」
「どこからって・・・こっからだよ。えい♪」
「シャルルの(IS)が白式に刺さった!?」
途端、白式にエネルギーが送られてくる。その感覚はまさしく「力が漲る!!」というものだ。これならば!と思っていると、一つのデータが転送され、目の前に表示された。それを確認したシャルルは真剣な表情で話はじめた。
「一夏、今送ったのはあいつの構造だよ」
「いつの間に・・・!」
「一夏があいつを惹きつけてくれたおかげ、葵と協力してニュートリノスキャンをしてきたんだ」
「ニュートリノスキャン・・・?あー、待って、確か授業でやってたよな、えーと・・・」
うーん、うーんと唸りながら一生懸命思い出そうとする一夏。シャルルがそろそろ助け船を出そうかとしたところで一夏が「思い出した!」と声をあげた。
「あれだろ?センサー系の一つで、受信側が必要だから二人以上じゃないと出来きないやつ!MRIスキャンみたいなの!」
「うん、正解。学期末のテスト範囲だから忘れちゃダメだよ?・・・ってこんなことやってる場合じゃ無いでしょ!?」
今の状況を思い出したシャルルは、ウガアアアア!と天を仰ぎながらも次第に理性を取り戻していく。これも悩む一夏が悪い、うんそうに違いないよし、・・・ということで片付けた。
本人が聞いていれば間違いなく怒るだろうが、心の中ならば問題ない。ないったら無いのだ!
よし!と気合いを入れ直した所で、ようやく一夏に作戦を伝える。
「いい一夏?時間がないから手短に伝えるよ」
「おう!」
「葵一人だと時間稼ぎが手一杯だと思う。だからこの作戦の要は一夏と白式の零落白夜なんだ。ここを見て」
「腹から下にかけて密度が高いな。ということはここにラウラが?」
「うん、多分ね。ただ問題は零落白夜だけだと切り裂いたところですぐ再生されちゃうでしよ?」
「確かにそうだな・・・」
一夏は先程の切った直後に再生されたまで速度をを思い出した。相手は一瞬で再生速度する。ただ突っ込むだけだと無駄死になると理解した上でシャルルの話す「作戦」に期待する。。
「作戦名は『ラウラ救出作戦』。やることは簡単、上空30,000フィートまで上昇してから、あいつめがけて加速していくだけ。そしてその加速であいつを切り飛ばしちゃうんだ!」
「けどそれだとエネルギーが保たないだろ?」
「いいところに気づいたね、そのためにボクがいるのさ!」
「お、おう・・・!」
謎のドヤ顔を胸を張りながら言われて、一夏はカワイイと想いつつも困惑した。言っていることが、理解できていないからだ。
そしてそれは見透かされていたようだ。
「んとね一夏、ボールを同じ力で投げたとして、上から下に投げたときと、壁に投げた時だと、どっちの方が衝撃が強い?」
「上から下だな。一方向に投げた時の力と重力が重なるからだろ?・・・ああ!そういうことか!」
「うん、そういうこと。どう?出来そう?」
言いたいことを理解してもらえたうえで、敢えて一夏に問いかける。この作戦は一夏に全て掛かってるからだ。シャルルが葵とこの作戦を練ったときも、「一夏が覚悟を決めなければやらなくていい、プランKKGに切り替える」と言われているくらいには、だ。
しかし一夏は迷わず答えた。
「やるって最初に決めたんだ。ここで逃げたら男じゃ無いだろ!」
「流石一夏!それじゃあ行くよ!」
「おう!」
立ち上がり、コードを抜いて、白式を呼び出す。『白』に包まれた一夏、その姿にシャルルは満足そうな顔で一夏の後ろに回り込み、ガッチリと一夏をホールドする。
始めは静かに、次第に速度をあげて上昇しながらシャルルは口を開く。
「いい?葵が一夏が来る頃にはちゃんと用意してくれるはずだから。切った後は再生される前に手でも突っ込めばラウラを助け出せるはず。間違っても下にしちゃダメだよ」
「うわ、拡大してみると鳩尾のちょっと下の辺りにラウラの頭があるのか・・・!!」
上過ぎても届かない、下過ぎてもラウラが危ない。ミスの許されぬ状況に、一夏の体には自然と力が入っていた。
機種によって異なるが、ジャンボ旅客機が約34,000フィートに到達するにはおよそ17分かかるという。しかしISは、ISを1機抱えていても5分で30,000フィートに到達する。
5分という長くて短い時間の中で一夏は最終調整をしていた。
(威力を少しでも上げる為に保護機能に回してるエネルギーを減らすか・・・スラスターの分は・・・これも減らしていっか。最後にイグニッション・ブーストするだけ残すとしてあとは・・・)
葵は大丈夫なのかという心配はある。だが、一夏は自分を信じてくれる友達を全く疑わない男なのだ。
暫くして上昇が終わる。ここからは急降下にだ。まだ地面は見えないが、視界に表示されている高度計の値はグングンと下がっていく。
雲を抜け、シールドバリアーを貫く冷たい風が心地よくなった辺りからアリーナが拡大して視認出来るほど近づいてきたことに気を引き締める。
(大丈夫、絶対大丈夫だ・・・)
一夏は無意識に緊張していた。その緊張にシャルルは気がつき、そっと声を掛けた。
「ねえ一夏・・・」
「なんだシャルル?」
「さっき『負けたら男じゃない!』って言ったよね?」
「お、おう!それがどうしたんだ?」
一夏の直感なのだろうか、とんでもないことを言われるのではと思い冷や汗が走る。
高さは既に拡大無しでアリーナが見える程だ。
「じゃあ負けたら明日から女子の制服を着てね♪」
「え゛!?」
「だってせっかく格好つけたんだからねえ?」
ニヤニヤとした顔で言われた一夏に、拒否権など無い。
アリーナで戦う葵が見える程まで近づきながら、ヤケクソ気味に叫ぶ。
「負けたら女子の制服でも何でも着てやるー!!?」
「うん、その心意気良し!お待たせ葵!ちょっと時間掛かっちゃった!さあ、お届け物だよ!!」
シャルルが白式の軌道を逸らさないようにそっと離れた。
ここからは一夏の二次加速。慣性に従いながらスラスターを噴かせる。
「行くぜ、ヴァルキリートレースシステム・・・勝負だ!!!」
零落白夜を正面に構え、アリーナを見る。
すると葵が「それ」を押し倒し、一夏を見ていた。そのことに気がついた一夏はイグニッション・ブーストで更に加速する。
「うおおおおおおおお!!!」
高速で叩きつけられた零落白夜は「それ」の装甲を膨大な熱と衝撃で溶かし、消し飛ばす。
一夏は「それ」の上半身を文字通り「消滅」して見せた。だが、「それ」は残ったパーツで再生を始めた。
「葵!」
「手ぇ突っ込めぇええ!!」
葵の指示に従い、雪片弐型を放り投げて「それ」の中に躊躇無く両手を突っ込んだ。
白式の腕がバキバキと鳴いた。
◆□◆
葵もラウラを取り出すために「それ」を押さえていた手を離すと違和感を感じた。
まさかと思い、マニピュレーターを動かそうとするが反応がない。
「ここにきて壊れたか!?ありがとう、お疲れ様!!」
5分近く刀を直に受け止めていた左手、そしてそれをひたすら殴り続けた右手。寧ろ一夏がくるまでよくもったものだと思い、黒夜を収納した。
ISスーツだけの姿なった葵は、再生を続ける「それ」の中に手を突っ込んだ。
「葵!大丈夫なのか!?」
「大丈夫な訳ないだろ!!早くラウラ取り出すぞ!」
「せーのでいいか?」
一夏がラウラの脇下を両側から掴んでいるのを確認し、葵はラウラの脇と思われるところを右手でつかみ、左手を背中に回す。
「「せーの!」」
二人の想定よりあっさり、ラウラはズルッと引き抜けた。
そこに毛布を持ってきたシャルルがやってきた。
「一夏!葵!ラウラは無事?」
「ああ、体は無傷だ。けど早く保健室に連れて行こう」
「そうだね、行こう!」
シャルルがラウラに毛布を掛け、急いでピットに向かおうとすると、二人のISのアラームが突如なりだした。
「今度は何!?」
「新手か!?」
三人してキョロキョロと敵を探している中、影が葵に迫る。その影にいち早く気がついたのは一夏だった。
「葵!後ろだ!」
「っ!!」
一夏の警告は一歩遅く、支えを無くしドロドロとなった「それ」に葵はパクリと呑み込まれてしまう。
(マズい、このままだとまた・・・!)
また新たに姿を取ろうとしているのか、ぐるぐると回され、膜を作り始めている。どうすれば良いのか、最善手を考えていると一つの光を見つけた。
(あれは・・・ISコアだ!あれを物理的に切り離せれば止まるか!?)
見失う前にと、流れに刃向かいながら左腕を伸ばす。潰れる肉の感覚を堪えながら伸ばした手はあと僅かに届かない。
(後少し・・・届け!届いてくれ!)
すると葵の願いが通じたのか、「それ」が葵から離れていく。抵抗が無なった瞬間に体を出してコアを掴み、「それ」から抜け出した。
「シャルル、これも持っていけ!コアを物理的に切り離せば流石に止まるはずだから・・・」
そう言いながらシャルルの手に赤紫色の結晶を乗せると、その場でパタリと突っ伏した。
「あ、アオイ?大丈夫・・・?」
その「大丈夫?」は葵が突っ伏した事だけではなく、葵が抜け出した時の事についても兼ねていた。
「・・・ねえ一夏、葵の右目さ、赤く光ってなかった?」
「光ってたな・・・!」
「やっぱり光っていたよね!?」
ある日突然変化した瞳、そしてその瞳が光るなぞ到底有り得ない。この事について不思議でしょうがない。だがそこは優等生シャルル、今やるべき事は履き違えないのだ。
「アオイ起きてる?運ぶよ?」
ペシペシと軽く頬を叩くが全く反応しない。
仕方がないので抱き起こそうとすると葵の異変へと気がついた。
「アオイの腕潰れてるじゃん!?これ無理やり運んじゃだめだ、ベッド持ってこないと!!」
「ベッド持ってくるものなの?」
反射的に突っ込む一夏!フランス人は怪我人を運ぶのにベッドを持ってくるのかと混乱していると一つの答えにたどり着いた!
「あ、もしかしてシャルルが言ってるのは担架か?布の両端に棒を付けて、その上に怪我人乗せるやつ」
「そうそう!あれ担架って言うのか!」
シャルルは一つ賢くなった!
などと言っている暇はない。葵を仰向けにし、急いでピットに戻り、記憶を頼りに担架を探す。
(確かここら辺にあったはず!無かったら更衣室に行けば!)
『デュノア、聞こえるか?』
どこだどこだと必死に探していると織斑先生から通信が入る。この非常事態を先生が見逃すわけないかと思いながら応答する。
「はい、聞こえています。要件は何でしょうか?」
『担架は扉の近くにある。早く持って行け。すぐに教員を向かわせる』
それだけ言われるとプツンと通信が切れた。
◆■◆
「山田先生、各ピットのセキュリティー解放状況は?」
「現在第一ピットはレベル4、第二、第四はレベル2、第三ピットはレベル3です」
「そうか・・・」
現在、IS学園はハッキングを受けていた。アリーナは外と分断され、出ることも入ることも出来なかったのだ。
勿論、ISのパワーをもってすれば物理的な破壊は容易だ。だが修繕費の関係でそれは最後の手段となっていた。
だがアリーナでは既に決着がついており、怪我人も出ている。大人しく扉が開くのを待っている余裕は誰も持っていなかった。
「森先生に通信を繋げてくれ」
「わかりました」
『・・・此方森です。織斑先生、どうかしましたか?』
「今どこのピットに居ますか?」
『第三ピットです』
「それでは第一ピットにきてください。アリーナで怪我人が出ました。これから強行突破をします」
『了解です!』
返事を確認し、通信を切る。
そして冷めたコーヒーをグイッと飲みきり、いざ部屋を出ようしたところで山田先生声をかけられる。
「第一ピットですか?」
「そうだ。ここの指揮と学園長の許可取りを任せていいか?私の名前を使って構わん」
「わかりました、お気をつけて!」
「ああ、行ってくる」
そう言いながら出て行こうとして・・・
ゴン!!
扉に激突した。
因みにKKGとはK(気合いと)K(根性で)G(頑張りました)の略である。え?どこのお姉ちゃんか、だって?気のせい気のせい(投げ槍)