バカ正直な少年と空に憧れる少年   作:針金はやて

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葵君、普段は「さん」とか「くん」を付けるけど戦闘中は付けないタイプ


039 乙女のお誘い(インヴィテーション・フォル・ア・デート!)

 時刻は18時、場所はもう夕方だというのにクソが付くほどクソ暑いアリーナ。

オレとセシリアさんはかれこれ3時間、それぞれのISのティアーズ計12機のティアーズをぐるぐるさせながら各々ボーリングのボールほどの金属球を持っている。

そしてそれをパラソルの下で見守るのは簪さんと本音さん、それと昼食を持ってきてくださった虚さん。整備科の先輩方3名は相当疲れていたのか、お昼食べたら整備室で眠ってしまった。

 

さてこれ、何やってるのかって言われると本当に何やってんだろう…。「このボールにBT粒子を入れて、圧縮して」と言われたからやってるけれどどういう理屈なのかは分からない。

なんでも最新の研究でBT粒子を物質に過剰注入することでその物質を圧縮させることができることが判明したとのこと。そしてセシリアさんに関しては本国からその実験を行って欲しいと要請が来ていたとのこと。

今のところIS学園内でBT粒子を操作できるのは黒夜とブルー・ティアーズの2機だけだから簪さんがオレとセシリアさんを呼ぶのはおかしくはない。

 

 ただ問題は3時間経っても全く圧縮される気配がないこと。その研究結果とやらも現象の確認が取れただけで安定して行えるとは書いていないらしいが一体いつまで掛かるんだ。

外野の三人に至ってはしりとりをしている始末。尚オレ達は集中しろとのことなので混ざれない。つら。

 

 

 ◆

 

 

BT粒子―その発見は第一世代の頃まで遡る。この粒子はISやISが武装等を展開するとき、ISが駆動するときなどに確認されていた。

この青白い粒子はそのこぼれ落ちる様子から蒼雫(ブルー・ティアーズ)と命名され、更に研究が進むとISコアの稼働時に副産物として生成・放出されていることが判明する。

しかし以降数年間、どこの国もこれ以上の発見・研究は進まずにいた。この粒子は外部に放出されるとすぐに自己崩壊を起こし、ただの光子となるからだ。

 

あるときイギリスが「超高速型IS」の開発に勤しんでいるとき、偶然にもBT粒子と共鳴する素材を発見する。(余談だがこの時開発していた試験1号機、2号機は現行機を遥かに凌駕する飛行性能があるが絶対防御で保護してもなぜかすぐに爆発し墜落している。)

さらにこの素材を中心にイギリスは研究を重ね、BT粒子を圧縮・貯蔵する技術を確立させた。

これをISの形に落とし込む途中、同時期に開発が進められていた「思考で操作する技術」と組み合わせることで生まれたのが「ブルー・ティアーズ」というISである。

もっともこの技術と組み合わせたせいでブルー・ティアーズは試験機であるにも関わらず並大抵の人間には扱えず、適正等の結果セシリア以外ロクにデータも取れないという、とんでも機体となってしまった。

 

流石、イギリスである。

 

 

 

 ◆

 

 

 時刻は21時を回っている。日も沈みアリーナはライトに照らされている。

稼働率をあげたり、放出量を増やしても全くもって変化がない。そしてそれはオレだけではなくセシリアさんも同じ。というか特化機(ブルー・ティアーズ)ができないなら無理なんじゃないのかこれ。

 

「なぁ簪さん、ここ何時までだっけ」

「んと…22時…あと、36分…」

「ありがとう、もうそれしかないのか」

「ひがのんもせっしーもがんばれ~」

 

 応援されても何を頑張れば…

そんなことを考えながら気分転換に立ち上がった時、変化は突然起きた。

 

 音も光も一切発せずいきなり手に持っていた金属球が1円玉サイズにまで小さくなったのだ。

 

「んあ?」

 

あまりにも突然すぎて情けない声が漏れた。皆が一斉に振り向くが、オレには説明のしようがない。本当に何が起こったのかわからないのだ。

 

「あ、葵さん?一体―」

「待ってくれ、オレにもわからないんだ。姿勢変えるために立ち上がったらこうなって…」

 

 セシリアさんもスッと立ち上がるが、変化なし。再び座り、今度はゆっくり立ち上がるがこれまた変化なし。本当に条件が不明である。

とりあえず研究結果とやらは本当のことで、物質の圧縮は確認できた。あとは条件を探ってみるしかない。

 早速次の球を持ちBT粒子を調整しながら振り回したり上下に上げ下げしたりしてみる。

 

 だがこの日は再び圧縮することはできず、アリーナの閉鎖時刻になった為また明日ということで解散となった。

 

 

 ◆

 

 

 朝5時、早朝特有の静寂が支配するアリーナに葵は黒夜を展開し一人佇む。

 葵は昨晩から様々な条件を挙げては考察を繰り返していて殆ど寝ていなかった。

アリーナ解放時刻が近づくと寝るよりも試したい気持ちの方が勝り、ぐっすり眠る本音を起こさぬようそっと部屋を抜け出した。

 そして葵は今、最も可能性が高い条件から試していた。

 

(昨日の時点では気が付かなかったが、あの時の条件はおそらく”密度”。問題はどの程度なのかだが…)

 

 早速ドバドバと球の周辺に出すが、すぐにキラキラと崩れ去り、密度云々の問題ではなかった。

 

(やっべ、完全に忘れてた…まずこれをなんとかしないと)

 

 あれこれ調べたり試行錯誤すること1時間、絶対防御の保護下なら崩壊速度を遅くなることに気が付き、再度実験を始める。

 今度は絶対防御を手に出し、その中に注ぐようにBT粒子を入れる。そしてある程度溜まってきたところでボールを入れる。

 

 結果は、変化なし。

 

「なんだ、何が原因で昨日は…」

 

 再び葵は昨日の状況を振り返る。

 

(あれは確か…ボールを持ちながら、立ち上がった。あの時手を体に引き寄せたから絶対防御という条件は今と同じ。粒子量だけなら今の方が多い…となるとまさか!)

 

 ボールを持つ手をそっと上に掲げる。これまた変化はしなかった。

 

「まーじでなんなんだろ」

 

 ぼやきなが葵がスッ手を下げるとボールは野球ボールぐらいまで小さくなった。

 葵はこれで確信できた、()()()()()()()()()()()()()()()

 今度はそのまま下に下げるが変化は起きていない。

 

「あー、なるほど、そういうことか」

 

 圧縮の規則性がわかったのならもう一つ調べなければならないことがある。解凍の方法である。

 圧縮したボールに、今度は圧縮と逆の手順を行うが変化は起きない。

 

「これ、焼き肉を生に戻す方法がないのと同じ理屈で戻せなけりゃあの箱どーすんだよ…」

 

 なにすりゃいいんだーと項垂れると腹の虫が聞こえた。ふと時計をみると時刻は8時半を過ぎていた。

 

「朝飯…食べにいくか…」

 

 葵は小さくなった金属球を放り投げ、アリーナをあとにしたのであった。

 

 

 ◆

 

 

 ISスーツの上から制服を着て寮の食堂へ向かう。半袖のシャツから手先までをぴっちりと覆うアームカバーモドキを覗かせるのはあまり格好よくは無いが、オレのは一夏のと違い上下分割されてないから脱ぐのが面倒くさい。

まあそのお陰で左腕は散らばらなかったんだけど…

 着るとき脱ぐときはそんなに面倒くさくはない。着るときはまず首の所から体を入れる。するとだぼだぼするが、二の腕にスイッチがありこれを押すと空気がシュッと抜けあっという間にぴっちりスーツのできあがりだ。

脱ぐときはこの逆で、空気を入れる。けど今脱いでもご飯食べたらまたすぐ着ることになる。ならまあしょうが無いよね?

 

「しょうがなくはないかな~」

「おはよう本音さん」

「おは~。ねむねむ…」

 

 わぁ、消えそうな声。本当に眠そうだぁ。

 

「んんぅ…」

「ほら食堂ついたよ、起きて起きて」

「ん~!」

 

 軽く左右にゆさゆさ揺らしてもなんのその、柳のようにゆらゆらと受け流す。いや受け流さないで、起きて。

 IS学園の朝ご飯は基本的にビュッフェスタイル。様々な国から集まるだけあってこの方が色々トラブルが起きないんだろう。

食べたい奴をホイホイと取っていく最中、ふと本音さんを見ると空の皿を載せたトレーを運んでいた。

 

「何も取らなくていいの?いつもちゃんと食べてるのに」

「たべ…る…すぅ…」

 

 食べる意思はあるがあまりにも眠いのか、そのまま倒れ駆ける本音さん。慌てて左手で支えつつ近くにあったフルーツをポイポイと本音さんの空の皿に入れる。ついでにヨーグルトもトレーに載せとこう。

さて、こっからどうやって机まで…だんだん後ろも詰まってきた…しょうが無い!

 

「本音さん、ちょいと失礼」

 

 空いている左手を本音さんの右腕に引っかけ、連れて行く。トレーを落とさないか心配したけどしっかりギュッと握っている。よし、なにももんだいはないな。

…ものすごく、ものすごーく視線を集めてる気がする。いつもの5割増しぐらいかな。

視線の集中砲火をかいくぐり、空いてた丸い席にトレーを置き、対面に本音さんを座らせる。どうしようこの娘、完全に寝てる。

 

「先食べるよ、本音さん」

「すぅ…」

「いただきます」

「すぅ…」

 

 食べてる最中もちょくちょく見るが全然起きない。最初の元気(?)はどこに行ったんだ。

 

 食べ始めから5分くらいか、トンと突如机にご飯、鮭の切り身、味噌汁に納豆など和食の塊のようなトレーが置かれた。誰かと思い見ると簪さん。意外と食べるのですね。

 

「本音、寝てるふりしないで…詰めて…」

「んへ~い」

 

 簪さんに言われるまま、のっそりとした動きで自分のトレーを持って横につめてくる。というか―

 

「ずっと起きていたんかい」

「んやあ~眠いのはほんとだけど流石に寝ないってば~」

「じゃあなんで寝てるふりなんか」

「えへへ、ただのいじわる」

「おい」

 

 へへへと笑いながら本音さんはヨーグルトの蓋を開ける。ヨーグルトの蓋に付いてるのはスプーンでちゃんと集めて食べてた。えらい。部屋だと舐めるからな本音さん。

 

「ところで…今日はできそう?」

 

 そんな様子の本音さんをよそに、簪さんは真剣な表情で尋ねてくる。

 

「とりあえず圧縮はのやり方は分かった。けど問題は解凍、これをなんとかしないとあの箱持って行っても使えないからさ」

「あ…そのこと忘れてた…」

 

 おうおう、食べながら落ち込むとか器用だな簪さん。

まあ解凍方法に関して目処が立っていないから、ダメならあのまま運ぶしか…運ぶ…場合によってはブルー・ティアーズの拡張領域(バススロット)に入れて貰うとしよう…入るかあの量?

 なんてことを考えながら食べている最中、セシリアさんから泣きそうな声で通信が入る。

 

「もしもしこちら氷鉋、どうしたのセシリアさん」

『葵さん、もしかして分かったのですか!』

「な、なんのさ?」

『圧縮のやり方ですわ!アリーナに来てみれば小さくなったのが増えていましてよ?』

「ああ、うん、方法はわかった。けど元に戻す方法についてはさっぱり検討が…」

『』

「ちょっと待って、5分ほど待って、すぐ食べて向かうから」

『あら、お食事中でしたの?それは失礼しましたわ。ゆっくり食べてくださいな』

「…そんな涙ぐんだ声で言われてもなぁ」

 

 そんなに先越されたのが嫌だったのかなぁ

 

「…ちょっと待ってて、すぐ行くから」

『はい…申し訳ありませんわ…』

 

 通信を切り、簪さんを見るとキリッとした顔でこっちを見ていた。そしてコクリと頷くや残りを素早く食べ始める。

ごめんまだ何も言ってないんだわ。というかすげぇ、姿勢や箸使いは一切崩れずに早くなってる!まかさの上品さは据え置きだと!?

 

「ゴフッ!?ゴホッ、ゴホッ!」

 

 あ、むせた

 

「あ~かんちゃん、慣れないことはするもんじゃないよ~」

「あ、ありがゴホッ!?」

 

 本音さんが簪さんの背中をさすりながらそっとお茶を飲ませてるが、そのお茶で再びむせている。

 

 

 ごめんセシリアさん、すぐには無理そうだわ。

 

 

 

 ◆

 

 

 朝飯を食べ終わりアリーナに戻ったのは、通信があってから20分後だった。

 制服を脱げばすぐにISスーツということもあり、更衣室にはよらずすぐにグラウンドに出てセシリアさんを探す。

 …居た。なんで四つん這いでうろうろしてるんだろ…

 

「おーいセシリアさーん」

「あ、葵さん!簪さんに本音さんまで!」

 

 呼ばれて気がついたのか、慌てて立ち上がって砂を払い、優雅にこちらに向かってくる。けどその声は依然震えている。

 あーえっと、こんな時の女性の落ち着かせ方を一夏から教えて貰ってたな。確か―

 

「どうしたのさ、折角の美人が台無しだぜ?」

(ガスッ ガスッ ガスッ ガスッ ガスッ)

「…氷鉋さん?」

「……」

 

 わぁ、どうしてだろう、急に三人の視線がものすごーく冷たい。あと本音さんいきなり無言で蹴り続けないで、こわい。

 と、とりあえずセシリアさんが落ち着いたみたいだから良し!

 

「それで圧縮のやり方なんだけれども」

 

 巻き込むと大変危険なのでそっと二人から離れ黒夜を展開。続いてセシリアさんもブルー・ティアーズを展開する。

 地面に落ちてる金属球を2つ取り、1つをセシリアさんに渡し早速実演する。

 

「まず手にも絶対防御を展開、この中にBT粒子を集める。…そしたらPICを使いこのBT粒子に物体方向の向きを与えて、対象にぶつける」

 

 目の前でギュンと500円玉サイズにまで小さくなるボール。うん、黒夜だと問題無くできた。

これがどれだけ小さくなるかに関しては初めに集める粒子量によるのかもしれないがそれは後々調べてみよう。

 さてセシリアさんは…おお、一回り小さくなった!

 

「おお!やったじゃん!」

「や、やりましたわ!」

 

 よーし、あとは―

 

「セシリア達じゃん、何やってんのよこんなところで。というかこの箱どうしたのよ」

「おっとこの声は」

「あら、鈴さんじゃありませんの」

「りんりんやっほ~!」

「りんりん言うな!」

 

 ―というタイミングで鈴さんが甲龍を身に纏い側までやってきた。以前は遠目から見ただけだったけど、こうして目の前でみるとフライトユニットはかなり大型だなぁ。

 とりあえず、箱をなんとかして臨海学校に持って行きたいことを伝える。

 

「―ってわけで」

「あー、そりゃあ確かに。それじゃあ私が持って行ってあげるわ」

「ほんとに!そりゃ助かる!」

「けどその代わり!」

 

 ビシッと甲龍の指がオレを指す。え、オレ?

 

「葵、一戦私と戦いなさい!あんたとは前々からやってみたかったのよね!」

 

 なるほど、そう言われちゃあ逃げるわけには行かない。

自然とオレの口角は上がっていた。

 

「ああ、オレも戦ってみたかったんだ。是非とも頼むぜ」

「そう来なくっちゃ!」

 

 そう言うなりオレと鈴さんの間に1発何かが着弾する。とっさに後ろに下がり2本のブレードを取り出し、構える。

 鈴さんに視線を合わせるとあちらも2本の青竜刀を構え、にやりと笑っていた。

 なるほど、今のが戦いの火蓋ってことか!

 

「来ないならこちらから行くわよ!」

「来い!」

 

 鈴さんは…鈴は、でりゃああああああ!と叫びながら真っ直ぐ突撃してくる。ならば!と考え、オレは真っ正面からぶつかることを選んだ。

 




蒼雫と書いてブルー・ティアーズと読ますとこ以外のBT粒子の説明はオリジナル
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