合宿二日目。今日からの3日間は朝から晩まで各種装備の試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備があるとのこと。オレと一夏は
「――それでは各班ごとに装備試験を行うように。解散!」
「「「はい!」」」
織斑先生の号令で皆一斉に動き出す。各々集まって項目確認をしたりやコンテナからISや機材を降ろし始める。
この合宿中、専用機持ちは試験場所の関係で基本的にみんなと別行動である。学園内だと
専用機持ち用の試験場所に移動する直前、後ろに振り返り本音さんを探す。―パチッと目が合った。
目が合うなり本音さんは腕を元気よく振った。嬉し恥ずかしくなったがオレも軽く手を振って逃げるように一夏達の後を追う。
「仲いいね二人とも」
「そう?」
「それはもう。うらやましい限りで」
「たはは…」
追いつくなりシャルロットさんに茶化されたが褒め言葉として受け取っておこう。出ないとオレが恥ずかしくて倒れる。
少し長い階段を下ると四方を切り立った崖と海に囲まれた、アリーナより2周り小さい広場にでた。とはいえ全員がISと機材を展開しても十分な広さがある。
織斑先生が前に出たのでオレ達も横1列に並ぶと、箒さんが居心地悪そうに一歩下がったところで立っている。
「よし、専用機持ちは全員揃ったな」
「ちょっと待ってください。箒は専用機を持ってないでしょう?」
「そ、それは…」
鈴さんの指摘に箒さんはますます気まずそうな顔をする。
「私から説明しよう。実はだな――」
「やーーーーーーーほーーーーーーーー!!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドドド!!
何者かが叫びつつ土煙を上げながら斜面を走ってくる。箒さんと織斑先生は露骨に面倒くさそうな顔をしている。
ドンッ!!
「ちーちゃーーーーーーーーん!!!」
謎の人物は轟音をあげ斜面から空に打ち上がると、織斑先生へとまっすぐ飛びかかる。抱きつこうと手を伸ばすのが見えた瞬間、ノーモーションの回し蹴りが顔面に、そしてそのまま地面に叩き込まれた。あまりにも速すぎる…。
しかしあっさり抜けだし、今度は正面から抱きつこうと再び飛びかかる――が、織斑先生は片手で顔を掴み溜息をついた。
「やあやあ会いたかったよちーちゃん!いつもながら束さん以外受け止めきれない過激な愛情表現だね!そんなところも大好きだよちーちゃん!さあハグハグしよう!チュッチュラブラブと体を重ねて愛を確かめよう!!」
「うるさいぞ束、それにまだ朝だぞ」
「夜ならいいの!?」
「黙れ」
再び地面に叩きつけられるが寸のところで抜けだし、いつの間にか岩場の影に隠れていた箒さんに何事も無かったのように近づく。
そして顔を覗き込み一言。
「やあ!」
「……どうも」
「えっへへ~、久しぶりだね~!こうして会うのは何年ぶりかな?大きくなったね箒ちゃん!特におっぱいが!どうれ、1揉み!」
ガンッ!!
「殴りますよ」
「殴ってから言ったぁー!箒ちゃんひどーい!でも柔らかかったなー!」
ガンッ!!
「二度も殴った!親父にもぶたれたことないのに!ねえいっくん酷いと思わない!?」
「は、はあ…」
「おい束、自己紹介くらいしろ」
「えー、めんどくさいなあ~。私が天才の束さんだよ、はろー。終わりー」
くるりと回って手をひらひら。最後にスマイルをした後、再び織斑先生に飛びかかろうとする。今度は鳩尾の辺りに膝蹴りを喰らい、腹を抱えながら頭から倒れ込んだ。
「この人があの…」
「篠ノ之束博士…」
テレビで見た姿とも今まで会った時とも違う、これが篠ノ之束博士…。家族や友達にセクハラをし制裁を喰らう、この姿が…
「あーくんだいぶ失礼なこと考えてない?いいけどさ」
ゆっくりと立ち上がりスカートに付いた埃を払うと、今度はまっすぐ上を指さす。
「ふっふっふ、レディースエーンドジェントルメーン!さあ大空をご覧あれ!」
その言葉に従って一同、空を見上げる。変哲のない綺麗な青空に突如、キラリと反射した光が見える。目を凝らしてみると、何かが急速にここ目掛けて落下してきている。
「おいおいおいおい!?」
ズドーン!!
目の前に八面体の金属塊が地面に勢いよく激突する。次の瞬間、金属塊は消え、中から深紅のISが陽の光に晒される。
「じゃんじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『
「第四世代…!?」
驚きの声が思わず漏れる。各国は我先にと第三世代の開発に勤しむが現状どれも試験機としての側面を持つ。それはこの場に集まっている、世界の最先端に等しいIS達が証明している。そして目の前の赤い機体は、それを超えた存在ということ。
それすなわち―
「天才、すげー…」
「そうでしょうそうでしょー。さあ箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」
「…さ、篠ノ之」
織斑先生に促され、箒さんが紅椿の前に立つ。紅椿は膝を自動で落とし、操縦者を受け入れる姿勢を取る。
「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね。……フィッティング終了―。超早いね、さっすが私!あ、スーツの色はお姉ちゃんの趣味だよ。かわいいでしょ!」
「はあ、どうも」
空中に投影されたキーボードを叩くのにあわせて紅椿の各所が動き、箒さんの体に合わせ姿が変わっていく。予めデータが入っていたおかげか白式や黒夜のときのように派手な形態変化は起きていない。
そしてどうやったのかさっぱり検討が付かないが、フィッティングの最中に箒さんのISスーツが紺から白へと色を変えた。束博士が趣味って言い切ってるし何かしたんだろうけど、これではまるで無から作ってるも変わらないような気がする。これが天才か。
「そんじゃ試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」
「ええ、それでは試してみます」
つながれていたコードが音を立てて外れていく。それから箒さんがまぶたを閉じ意識を集中させると紅椿は静かに浮き上がり、次の瞬間にものすごい速度で飛翔、最高速で上空を飛び回った。
(すげぇ…)
「なにこれ、速い!」
「これが第四世代…!」
鈴さんとセシリアさんから驚きの声が漏れる。無理も無い、ハイパーセンサーが出した紅椿の飛行速度は、この中では最も速い白式の瞬時加速を上回る。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
「ええ、まあ…」
「じゃあ刀使ってみてよ。右が『
武器データを受け取ると2本同時に展開し減速、停止し構えをとる。
「ゆくぞ、雨月!」
雨月を振り、突きが放たれると同時に周囲の空間にいくつか赤い光球が現れ、順番に光の弾丸となって漂っていた雲に大きな穴を開けた。
「おお…!」
「いいねいいね!次はこれ撃ち落としてみてね、ほーいっと」
皆の驚きも付かぬ間、今度は束博士のそばに16連装ミサイルポッドが展開、一斉射撃を行った。
ミサイルは縦横無尽逃げる紅椿を追尾するが、一直線上に並んだ瞬間、空裂を振るう。雨月同様の赤い光が今度は斬撃となってミサイルを襲い、1撃で16発すべてを撃ち落とした。
「やるな」
「すげぇ」
今度はラウラさんと一夏から驚嘆の声。そんな反応がよかったのか、それとも紅椿の動きに満足したのか、或いはその両方か――束博士は満足そうな顔で笑っており、一方織斑先生は見たこと無いような鋭い視線を束博士に向けていた。
「やれる、この紅椿なら!」
「た、大変です!織斑先生っ!」
決意にも似た歓声を上げる箒さん、そこに山田先生が水を差すように現れる。
慌ててることが多い山田先生だが、今回は尋常じゃ無い慌て方をしている。
「どうした?」
「こ、これを!」
「匿名任務レベルA、現時刻より対策を始められたし…」
険しい表情をした織斑先生がこちらに向き直り指示を飛ばす。
「テスト稼働は中止だ。お前達にやって貰いたいことがある」
「はぁ、はぁ、それでは私は、他の先生達にも連絡をしてきますのでっ」
「了解した」
来た道を息を切らしながら引き返す山田先生の後に続くように、織斑先生の指示のもと旅館へ戻り始める。
虫の知らせとでも言うのだろうか、妙に嫌な予感がする。根拠など勿論ない、だが予感が外れることを一人願いながら旅館へと続く道を歩いた。
◆
旅館最奥に設けられた大座敷に専用機持ちと教師陣が集められた。照明を落とした薄暗い室内に空間投影ディスプレイが浮かんでいる。
「現状を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代の軍用IS、『シルバリオ・ゴスペル』――通称『
「無人…」
突然の情報、一同の表情が一斉に険しくなる。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により我々がこの事態に対応することとなった」
淡々と説明を続ける千冬。だがその次の言葉は彼らの予想を超えていた。
「この機体は現在も超音速飛行を続けており、アプローチは1回きりだ。そのため教員は学園の訓練機を使用して空域、及び海域の封鎖を行い、専用機持ちに本作戦の要を担当して貰う」
「は、はい?」「なっ!」
「つまり暴走したISを我々が止める、ということか」
驚く一夏と葵をよそにラウラが千冬の話を手短に纏めるが二人の動揺は明らか、しかし千冬は敢えて無視し続ける。
「これから詳細なスペックデータを開示する。だが、けして口外するな。漏洩した場合は然るべき処置が講じられる」
そして映されたデータは、葵がこの状況に納得するだけの数値が記載されていた。
(飛行性能は訓練機どころか白式しか太刀打ちできないじゃねーかこれ…しかもこんなのがずっと高速飛行してるって…)
スペック上防御力は特別高くない、ラファールと大差がない。その代わりに速度と火力が他の機体の追随を許さない程高く設定されている。
そんな相手に1度だけのアプローチ、葵は頼れる友の名を挙げることにした。
「本作戦にオレは、一夏を推薦します」
「お、俺か!?」
「僕も同意見だな」
「あたしも賛成。一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」
「シールドバリアを破るなら葵の銃もあるだろ?どうして俺なんだ?」
葵の意見に皆が賛同し狼狽える一夏、そんな彼の質問に葵は首を横に振って答える。
「確かに黒夜のドレッドノートでもできないことはない。けど白式のエネルギー全て使える零落白夜と比べると豆鉄砲同然の火力なんよ。それにもし初撃が避けられても、白式なら逃げられる前に追いつける」
「黒夜じゃ無理だけどな」と付け加えられ、一夏は引き下がることができなくなった。
「織斑、これは訓練ではない、実戦だ。無理強いはしない、自分で決めろ」
「――!…いえ、やります。やって見せます」
恐らく望んでいない一夏への千冬なりの優しさなのだろう。だが一夏は少し迷った後、前に進むことを決意した。
「よし、それではこの中で現在最高速度が出せる機体は――」
「ちょっと待ったー!」
千冬の声を遮るように上から束の声が室内に響く。皆が見上げると束の首が天井から逆さに生えてきた。
「…出て行け、ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「ちょっとだけだから聞いて聞いて!とうっ!」
目頭を押さえ明らかに迷惑そうな態度を取る千冬に束はお構いなし、天井から華麗に着地し千冬にすり寄り話し始める。
「ここはね、断・然!紅椿の出番なんだよ!」
「…ほう?」
「さっきの試運転の通り紅椿は十分速いけど、展開装甲をちょちょいと弄るとね、そこの青い金髪の持ってきたものなんかよりもっと速くなるんだよ!ホラ!これでバッチリ!ね?ちょっとだけでしょ?」
「ふむ…」
「…展開…装甲?」
聞き慣れない言葉に一夏が首をかしげていると、束は千冬から少し離れ、いつの間に制御を奪い取ったのか先程まで福音のデータを映していたディスプレイが紅椿のスペックデータを表示した。
「束さんの説明ターイム!展開装甲ってのはね、この束さんが開発した第四世代型ISの装備でー、あらゆる状況に合わせ換装を必要としない装備なんだよ。具体的には雪片弐型に使ってまーす。要するに紅椿は全身雪片弐型ってことー。いやぁ~我ながらいい物ができたな~。ぶいぶい」
突然の暴露に教師陣含め驚きの声が上がる。
あらゆる状況…まさに今回のような高速飛行からシームレスに戦闘を行う場合、既存のISでは装備に一定の制限が掛けられている。比較対象としてあげられたブルー・ティアーズの高速強襲用パッケージ『ストライク・ガンナー』も、全てのティアーズをスラスターとして使用するため武装は手持ちのスナイパーライフル一丁という仕様である。
これは装備を状況や環境に合わせたことによる一種の弊害のようなものであり常識でもあったが、この問題を目の前の天才はあっさりと解決してみせた。
そんな中、葵は一人好奇心が抑えられず、おずおずと手を挙げた。
「あの、束博士、質問なのですが…」
「おや、なんだいあーくん?今の私はとってもご機嫌だから何でも答えるよ!あ、スリーサイズは秘密だよ?」
「いや展開装甲の方ので。全身雪片弐型ってことは燃費は白式並に悪いと思うのですが、そこはどのような―」
「もっちろん解決済み!エネルギーが足りないなら増やして行こうぜべいべー♪…さてちーちゃん、どうする?」
うずうずと落ち着きの無い束に顔を覗き込まれると諦めたような顔をし深い溜息を1つ、それから指示を飛ばす。
「本作戦は織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。作戦開始は30分後、各員直ちに準備にかかれ!」
ぱん、と手を叩くと教師陣がバックアップの為に動き出し、手の空いているメンバーはその手伝いに走り出した。
そんな様子を、束は満足そうな笑顔で眺めていた。
葵がのほほんさんなしで生きていけるのは何時間だろうか