バカ正直な少年と空に憧れる少年   作:針金はやて

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4月に投稿した分で、氷鉋の字が「鉋」ではなく「飽」になっておりました。

誠に申し訳ございません。

現在は修正済みとなっております。


045 蒼穹の果てから(シュートダウン・ザ・ターゲット)

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 嫌な予感とは自らが振るう刀と違い命中するもので――

 

「なっ…!」

 

 渾身の一撃は僅か数ミリの距離で避けられてしまった。

 

 一撃必殺という作戦は失敗、だが白式のエネルギーはまだある。再度福音を追いかけるが、この刃はまたしても僅差で届かない。

 

「なんて回避速度なんだよ!」

「…速いっ!」

 

 背に背負う高出力マルチスラスターがなせる技なのか、福音は俺の攻撃をヒラヒラと躱したと思えば急加速してこの空を縦横無尽に飛び回る。

 

「箒、援護を頼む!」

「任せろ!」

 

 攻撃の瞬間まで零落白夜を消し、箒の背を降りてドッグファイトに移る。雨月と空裂による赤い光が福音の退路を次々と塞ぎ、動けなくなったところを箒が取り押さえた。

 

「今だ一夏!」

「おう!」

 

――いける!

 

 零落白夜を起動させ最大加速で斬りかかる間際、福音の持つ銀翼の一部が翼を広げるかのように開く。そしてそこから現れる幾重ものエネルギー反応――

 

 ()()だ。

 

「箒!離れろ!」

「何をっ!?―ああっ!」

 

 咄嗟に叫ぶが、回避も防御も間に合わなかった箒はその光弾を至近距離で受けてしまう。

 そして福音は俺達を完全に敵と判断したようで、少し距離を取ると逃げる様子も無くその砲門を向けて停止している。

 

 チラリと紅椿と白式のSE(シールドエネルギー)を確認する。紅椿は既に半分を下回りイエローゾーンに突入、白式はまだ余裕があるが零落白夜のことを考えるとそうも言ってられない。

 

 戦況も状態も悪化している今、これ以上時間は掛けられない。次で決める!

 

「挟み撃ちだ、左右から同時に攻めるぞ!左は頼む!」

「了解だ!ッ!来るぞ一夏!」

 

 左右に分かれた瞬間、その間を無数の光弾が通過。箒が左側、俺が右側から攻め込むが、それに合わせて福音も後退しながらその砲門を俺達に向け続ける。

 

 箒の猛攻に合わせ紅椿の展開装甲が自動でビームの刃による追撃をするが、福音はさながらダンスかバレエのステップを踏むかのように全て避け、連続射撃による反撃をする。

 

(なんだ、二機のこの機動力は!は、速え…!)

 

 紅と銀の織り成す苛烈な戦い、最大加速で追いかけているが全く近づけない。

 一人焦る俺をまるで嘲笑うかの如く福音は再び急加速、俺を引き剥がし太陽に隠れる。

 

 眩しさに目を細めると前方に紅椿の影と無数の光弾が降り注ぐ。

 

「くぅ!この……!」

「箒!大丈夫か!?」

 

 被弾し墜ちてきた箒を左手で受け止め、零落白夜で当たる光弾を出来る限り消しながら、後方へのイグニッション・ブーストで距離を取る。

 同時に、雪片弐型は光を失い展開装甲が閉じる。白式も紅椿もSEは残り僅か、最大にして唯一のチャンスを失った。

 

「織斑先生、撤退の許可を!」 

「なにをいうか一夏!」

『…承知した。織斑、篠ノ之による作戦を中止。両名、速やかに撤退しろ。以降はオルコッ――』

「逃げるのか一夏!」

「箒!これは実戦だ、アリーナでのバトルとは違うんだ!」

「逃げるなど弱者がする事だ!私1人でも戦ってみせる!」

「あっ、箒!」

 

 通信を遮るように怒気の含んだ声をあげた箒は追いかけてきた福音と再度1人で交戦を始める。

 

 箒を放っておくわけにもいかない、雪片弐型を握る手に力を込め二機の翼を追いかける。

 

 箒と福音、割り込む余地が無いほど熾烈な戦いを繰り広げる最中、福音と目が合った。

 無人機相手に目が合ったというのは可笑しな話だが、とにかく目があった感覚がした。そしてその奇妙な感覚はすぐに悪寒という名の確信へと変わる。

 

 突然福音は紅椿との交戦をやめ、ぐりんと此方へと真っ直ぐに飛んでくる。

 

「来るなら来い!」

 

 SE残量からして零落白夜が使えるのは一瞬。雪片弐型が開き、福音を睨む。

 

「速い…!」

 

 十分に雪片弐型の、零落白夜の間合いに引き込み、その刀を振るうが、福音はその速度に合わせ真横へとお得意の急加速。

 

 

ピー!

 

 

 SE残量1。最後の一撃を避けられた俺に白式から敗北とエネルギー切れを伝える通知音が鳴り響く。

 絶対防御分のエネルギーを確保するため白式はリミット・ダウンとなり、雪片弐型が手の中から消える。これで逃げる為の手段すら失った。

 

「一夏!――な、こっちもエネルギー切れだと!?」

「箒!?」

 

 福音を追いかけていた箒から追い打ちを掛けるように驚きの声が漏れる。見れば紅椿の各所から出ていた強力な光が無くなり、ゆっくりと墜ちていた。

 はっと弾かれたように福音を見る。その砲門は紅椿に照準を絞っている。

 いくら絶対防御があるとはいえリミット・ダウンしたISが福音の連射をまともに喰らえばただで済むはずがない。

 

 

「箒ぃいいいいい!!!」

 

 

 残るエネルギーを全て使って加速しながら瞬時加速。考えるより先に体が動き一直線に箒へと向かう。

 

 福音から撃ち出される弾丸が次第にスローモーションになり、射線上に出る直前には止まって見える。

 まるで白式が引き留めてくれてるような感覚が俺の全身を包み込む。

 

(そういえば白式もリミット・ダウンだったな)

 

 こんなことをしたら俺も白式もどうなるかは想像に難くない。

 

 けどだからといって、俺は箒を見捨てることなんて出来ない!!

 

(頼む白式、力を貸してくれ!守る為の力を!!頼むっ!!)

 

 ペダルを踏む足に力が入る。刹那、福音と紅椿の間に割って入った俺は箒を庇うように抱きしめると同時に、背中に光弾が一斉に降り注いだ。

 

「ぐあああああああああああっ!!」

 

 シールドバリアでは防ぎ切れず、絶対防御は最早機能してるのか分からない。あっさりと装甲は砕け、衝撃で体がメキメキと悲鳴をあげ、熱が肌を焼いていく。

 空と海が入れ替わり海面が徐々に近づく。永久に思える痛みと衝撃は止む気配を知らない。

 

 狭まる視界と薄れゆく意識の中、1度だけ箒を見た。泣きじゃくりながら何かを必死に叫んでいるが爆撃の轟音でさっぱり聞きとれない。

 

(良かった、無事で…。ああもう、そんな顔するなって……。せっかくの美人が台無しだぜ………)

 

 安心した俺は最後の力を振り絞り箒の頭を守るように抱きしめ直す。そして俺は、水面が目下に迫ったところで「パキンッ」と何かが割れる音を聞きながら意識を手放した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「一夏!!」「一夏さん!!」

 

 墜ちる白式へいつまでも追撃の手を緩めない福音に苛ついた葵は止まっている福音にヘッドショットを決める。

 シールドバリアを破るその一発は、福音のターゲットを切り替えるのに十分だった。

 

「やっとこっちを向いたか、福音!」

「ですがどうしますの!?長引かせると一夏さんが!」

「…今は一夏を信じる。どのみち福音をなんとかしないと戻ることすらできないしな」

「一理ありますわ。そうなると…」

 

「「短期決戦」、ですわね」

 

 黒夜の持つ8機全てのティアーズを射出し、さながら追い込み漁の如く福音の針路を狭めながら二人はその後を追いかけてゆく。

 被弾を嫌うのか、福音はティアーズの射撃による誘導に従って飛んでくれる。だがそれは同時に葵の射撃が当たらないことも意味していた。

 

「速えっての…!」

「落ち着いて、呼吸を整えてくださいな!」

「分かっては、いるけども!」

 

 悪態をつきながら2発、3発とドレッドノートの引き金を引くが、軽々と福音は避けていきそして、一切後ろを振り返ること無く銀翼から砲門が覗く。

 

「葵さん!!」

「そのまま飛んで!なんとかする!」

 

 悲鳴混じりの呼びかけに、葵は視線を変えずに返す。

 

 マドカとの戦いを葵は頭の片隅でずっと反芻していた。マドカは攻撃を防ぐ際、既に展開(コール)されている大剣を再展開(リコール)することで腕と剣を引き戻すこと無く剣の腹を盾にした。

 マドカが見せたこのテクニックにより、武装は現在位置を問わず操縦者の任意の場所に展開できることに気がついた葵は1つの仮説を立てた。

 

(いつも手に持たせるイメージだったけど理論上、ISの武装は空中に出せる。そして重力に引かれようが、PICを併用しつつ再展開し続ければ固定もできる。……はず)

 

 問題はまだ1度も検証をしてってことだけど、と葵は心の中で付け足した。

 

 葵は目の前にハイペリオンを展開しようとする。だが今までと違い目の前に浮かせるイメージ故か、光の粒子はなかなか像を結ばず宙を彷徨う。

 

「葵さんまだですの!?」

「………ハイペリオン!――ってあら…?」

 

 いよいよ砲門にエネルギーが溜まり焦る二人。焦れた葵は左手を突き出して盾を呼び出すと、突如福音は砲門に溜めたエネルギーを使いイグニッション・ブーストで戦域から急速に離れていった。

 みるみるうちに見えなくなり、やがてステルスモードになったのかレーダーからも反応が消失。突然の事態に二人は呆然と宙に浮いていた。

 

「…どういうつもりなんだ?」

「交戦する必要がないと判断されたのでしょうか…?」

『氷鉋、オルコット、聞こえるか。作戦は失敗だ。速やかに織斑と篠ノ之を回収し、帰投しろ』

「「は、はい!」」

 

 二人のもとに千冬から通信が入る。冷静さを繕っているものの、その声は怒りが滲み出ていた。

 

 

 ◇

 

 

(何処に落ちたんだあいつ……くそっ、反応が無え!)

 

 葵は落下地点付近に飛び込み、海中を目視とハイパーセンサーで探しはじめる。しかしそれらしき姿はなく、白式と紅椿は福音から逃れる際にステルスモードに入ったのか二人の位置を特定できない。

 

「セシリアさん!そっちは!?」

『ありませんわ!』

 

 一方セシリアは海上を探していた。あれだけの攻撃を受けたのだから破片の1つくらい浮き出るはず、そう推測した二人は二手に分かれて捜索をしていた。だが結果としてこちらも成果なし。

 

 捜索から早3分、焦る葵は海中を動きまわった。位置が特定できないなら動いて探すしかないと理性で考えての行動だったが、セシリアには見抜かれていた。

 

『葵さん落ち着いて!そう動いてはエネルギーを浪費しますし、見える物も見えなくなりますわ!』

「っ!…そうだね、ごめん、ありがとう」

 

 その場に止まり深呼吸、冷静さを取り戻しながら目を開けたとき、葵の目の前に白い光の粒子がぽつぽつと零れているのに気がついた。

 慌てて、けど冷静に、その光を目で辿る。

 

(居るのか、その先に…?)

 

 下に続く光、目の前の暗闇のどこかに居るのかと思うと葵の体は自ずと動いた。

 

 光を追い周囲が暗くなるまで潜った頃、黒夜の翼にいきなりガツンと何かがぶつかる。急いで振り返って見るものぶつかった物の正体は見えない。

 

「居るのか一夏!箒さん!」

 

 返事はない。だが声に応えるように右目が熱を帯びる。葵にはそれだけで十分だった。

 

(――近い!当たった感触からしてここらへんか。…………ビンゴ!)

 

 そっと触れると、箒を抱えた一夏がその姿を現した。見ると白式は既にガントレットになっており、二人の頭と一夏の背中は紅椿の絶対防御に包まれている。

 けれどもその傷口はやけどで爛れ、砕けた装甲の破片なのか白い金属片がところどころに刺さっている。

 

 二人を黒夜の絶対防御内に入れ、紅椿を強制的に待機形態にさせる。そして海上にいるセシリア目掛けて上昇した。

 

「セシリアさん!」

「葵さん!お二人は…ッ!」

 

 葵の腕に抱えられた二人をみて安心するも束の間、一夏の傷を見てセシリアは動揺を隠せずに居られなかった。

 

「一夏を連れて先に戻って、箒さんはオレが」

「分かりましたわ」

 

 それだけ交わすとセシリアは葵から一夏を受け取り、最大加速で旅館へと向かっていった。






 基本的に私は原作の展開に満足しているのですが、どうしても納得できないのが福音との初交戦でした。

 恐らく力を持ったことでできた箒の心の弱さとその克服を書きたかったのでしょうが、折角の『軍用機』という強敵、制限の付いている学生機とは違う、そんな格上の相手に密漁船庇って説教されて隙を見せ敗北というのが納得しかねてました。


 いざ書いてみると箒を弱らせた方が書きやすく、今回何度も書き直してました…
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