旅館の奥にある一室。時刻は夕食前。
布団で力なく横たわる一夏はもう4時間以上も目覚めていない。
ISの防御機能を貫通して届いた熱と衝撃で一夏の体は随所が火傷と骨折、治療の為包帯をきつく巻かれナノマシンが投薬されている。
そんな一夏の傍らには、拳を強く握りしめながらずっとうなだれている箒と、画面を睨みながらキーボードを叩く葵の姿があった。
(私のせいだ………)
一夏の忠告と作戦指示を無視し自分勝手な判断で独り戦った結果、大切な人を傷つけた。
その揺るがない事実に箒は自らを戒めるかのようにぎゅうっとスカートを強く握りしめていた。
(私は……どうして………)
他者を凌駕する力を手にしたことで得た全能感、それに溺れた己を呪うかの如く今度は唇を強くかみしめた。
(私はもう、ISには………)
1つの決心を付けようとしたとき、そっと扉が開けられる。
「ここに居たんですね、篠ノ之さん」
「……………」
入り口から真耶は心配そうに話しかけた。名前を呼ばれ一瞬驚いた箒だったが、視線を向ける気力はない。
葵は真耶を一瞥し、壁掛け時計を確認した後再び視線をディスプレイに戻した。
「少し休んでください、根を詰めて貴女まで倒れてしまっては…」
「……ここに居たいです」
「いけません、休みなさい。休むこともミッションの一部です。いいですね」
「………わかりました」
諭すような口調だが有無を言わせぬ圧力に折れた箒はよろよろと立ち上がり、一夏の眠る部屋から静かに出て行った。
次に真耶の矛先は葵へと向かった。
「氷鉋君、貴方もですよ」
「え、オレもですか?」
「はい、氷鉋君もです」
呼ばれるとは微塵も思っていなかった葵は目を点にしながら真耶の顔を見た。
「あ、あと10分!」
「ダメです」
「5分だけ!」
「いけません」
「3分だけお時間を!」
「休みなさい」
「せめてキリのいいところまで!」
「はぁ……もう、仕方ないですね…。そこまで必死に何をやっているのですか?」
「ああ、これは――」
先に折れたのは真耶だった。それは一生懸命取り組む生徒を妨げることに心痛めた、教師としての情でもあった。
◆
朦朧とする意識の中、一夏は下へ下へと墜ちていた。
周囲は星のない夜よりも暗い闇。だが一夏が落ちていく先には1つだけ、明るい光があった。
(何で…俺はこんなところに………確か…あー、そうだった…福音と戦って……)
負けた。
その事実が、その悔しさが、曖昧だった一夏の意識を一気に覚醒させる。そして再起のため、その右腕を前に突き出し
だが、その腕に白式はいない。
(白式がない…?)
専用機持ちの手元に専用機がないという、普段ならあり得ない状況なのだが、今の一夏には何故かすんなりと受け入れられた。
(箒は無事だといいが……。こういうときあいつ、かなり落ち込むよなぁ………)
重力に身を任せてゆっくりと落ちながら一夏は幼馴染みに思いを馳せる。
(そういえばあんな顔、初めて見たな。でもあいつ、あんな無茶する奴だったっけ?)
それが幼い頃の一夏の影響なのは、当人達含め誰も知らないことであった。
◇
「……………」
箒は浜辺で膝を抱え何をするでもなく、もうすぐ完全に闇に染まる夕焼けを眺めていた。手には待機形態の紅椿が強く握られていた。
そんな箒の傍にシャルロットは静かに近寄る。
「そろそろ日が暮れるよ、箒」
「………」
心配そうなシャルロットの声に箒は沈黙で返事をする。
「それでどうするつもりなのかな。もしかして、このまま終わるつもり?」
「わ、私はもう…ISは……使わない……」
パシンッ!
項垂れたままの箒をシャルロットは胸ぐらを掴み無理矢理立たせその頬を叩く。なすがまま倒れようとする箒をシャルロットは引っ張り再び立たせるとその瞳を鋭く直視しながら怒りが滲んだ声で叱責する。
「いい加減にしてよ!一夏がこうなったのは箒のせいでしょ!ISは使わないって言うなら、その手にあるモノは何!?逃げてばっかの臆病者!!」
「――ッ!」
シャルロットのその言葉が小さな火花となり、箒の奥底に眠る闘志に火を付けた。その火は怒りを纏い大きな炎へと変わる。
「じゃあどうしろと言うのだ!敵の場所はわからない!戦えるなら私だって戦う!」
自分の意思で立ち上がった箒を見て、シャルロットは手を離しふうっと溜息をついた。
「やっとやる気になったね。大丈夫、場所はラウラが今調べてるし、もう一度戦う準備も葵が進めている。他の皆もそれぞれ用意をしているよ」
「な、なに?」
先程までの様子と打って変わりいつものような落ち着いた口調に戸惑う箒。シャルロットは更に続ける。
「みんな気持ち一緒ってこと。やるよ、箒」
ぎゅうっと拳を力強く握りしめる箒。それは先程までの後悔では無く、戦う意思を宿した決意の表れ。
「ああ…私は戦う。…戦って、勝つ!今度こそ負けはしない!」
その瞳にもう後悔は映ってはいなかった。
◆
「葵、ここでいいのよね?」
「ああ、お願い」
「オッケー」
鈴さんの返事と共に銀色の箱が目の前に現れる。この箱には臨海学校前に簪さんと整備科の先輩達から預かった試験機材が詰まってる。
早速箱を四方に展開させると、アンバランスな状態で詰め込まれた機材は支えを無くし崩れ始めた。
「やっば…!」
「ちょちょちょ大きい音はマズいって!」
ここは更衣室がある別館との間にある中庭(勿論女将さんから許可は取ってある)。作戦室からは遠いが、今からの作業はできるだけ隠密に行いたい。
慌てたオレ達はISを緊急展開し抑えようとするが、この物量差は2機のISではどうにもならない。
もう無理なのか、そう諦めたそのとき、落下する機材は空中で静止した。
「これはAIC!」
「ラウラ!」
「こっそりやるのでは無かったのか、葵」
「いやそのつもりだったんですけどね、タハハ…」
呆れた顔をしたラウラさんにオレは苦笑いをしながら止めて貰っている機材を地面に降ろす。
残った山も崩しざっと地面に並べたが、40を超える備品数に圧倒される。
「それにしても多いわね……全て使うの?」
「流石にそれはハードポイントもエネルギーも足りないな。使いたいのあるなら使っていいよ」
「あいにく、甲龍には今回機能増幅パッケージが来てるのよ。ラウラは?」
「私のところにも砲戦パッケージが届いている。それと見る限り、シュヴァルツェア・レーゲンとの噛み合いがない」
「それを言うなら『噛み合いが悪い』じゃないの」
「そ、そうともいうな、うん」
鈴さんの指摘にラウラさんは恥ずかしそうな表情で顔を背けた。
だがラウラさんの言うことは一理ある。この近・中距離武装が多いなら砲戦仕様の武装と合わせる必要もないだろう
「それよりラウラ、アイツの居場所見つかった?」
「今我が部隊、シュヴァルツェ・ハーゼが全力を挙げて調査中だ。あと三十分ほどで―――誰だっ!」
「ああ、この気配は本音さんだ」
「お、ひがのんだ~!」
渡り廊下の先からオレを見つけるや本音さんは手を振りながら間延びした声でオレの名前を呼び、ぱたぱたとゆっくり走ってきた。
廊下は走ると危ないからしょうがない。
「姿が見えてない時からなんで分かったのよ…」
「いつも一緒にいればそりゃあ、ね?」
「そういうモンなのかな…」
「そういうもだぞ鈴。中国にも気功とかがあるだろう?」
「ラウラもなんでそういうのは詳しいのよ…」
「異文化理解は大事だからな」
「お、らうり~、りんりんり~ん~、やっほ~」
「りんを増やすな!」
この前2つで怒られたから3つにしたのだろうが不服だったらしい。これでは
「それでひがのん、お手伝い、いる?」
「できりゃあお願いしたいけど、事情は一切説明できないよ。それでもいいの?」
「いいよ~」
「まさかの即答」
思わず声に出てしまった。悩む素振りすら無かったけど、そういうのって多少なりとも気になるものじゃないの?
「ひがのん、夕食の時怖い顔していたんだもん~。すぐ気がつくって~」
「顔に出した覚えは無いんだけどなあ」
「へへへ~いつも見てるからね~」
にやりとした顔をしながらオレの胸をスパナで突いてくるけど一体いつ取り出したのそのスパナ。
「ところでどれを使うの~?」
「そこから決める。まだ全然決まってないんよ」
「んじゃあ全部のせよ~。そうとなりゃ詳しい人呼ぶねー」
言いながら本音さんはメールを打ち、チームを集めに掛かる。
あと全部のせるって言った?聞き間違い?
「けど見返りがないのに来てくれる人なんているの?」
「みんなね~、おりむーがいない時点でなにかあったんだろーなーっての、気がついているんだよ」
その言葉は無力だったオレの拳に力を入れた。
本音さんは更に言葉を続ける。
「
「――ッ!」
「だからね~、もっとみんなを信じて。みんなを頼って」
そう言うと本音さんはオレの握りこぶしを優しく包みほぐす。その優しさが今は格別眩しく見える。
「おい鈴、目を隠すな。見えないだろうが」
「アンタには毒よ」
「「っ!!!」」
二人して恥ずかしくなりぱっと離れ、ちらりと2人を見る。
鈴さんの視線はとても鋭く、冷たかった。
◆
(ゴメンナサイ、貴女トノ約束、果タセナクテ…)
今にも零れ落ちそうな満天の星の下、彼女は空を見ながら空中で蹲っていた。
静寂に支配された海の上で彼女の心は涙を流す。
(朝ガ来タラマタ追イカケナイト…。ケド今ハ……)
彼女はもう戻ることはできない。それでも
各視点での差が激しいってばよ
前回の投稿以降、普通車の運転免許取ってました
持ち前の物覚えの悪さで3ヶ月ほど掛かりました…
2段階に入る頃には同期は皆卒業してました
はえーよホセ
車乗ってる人ってなんなんですか、神ですか?
あんなの人が乗る物じゃないでしょ
物流を支えてくれている皆様ほんとありがとうございます
自分はもう公道を走りたくないです
めっちゃこわい