バカ正直な少年と空に憧れる少年   作:針金はやて

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おかしい、前回の約5倍の量になっちゃった……
補足すると葵君は5月は戦闘中に体の痛み、6月は戦闘後左腕潰れてます。



051 動き出す運(インターツウィンドフェイツ)命の歯車(・リヴィールドシークレッツ)

 福音を撃破しクタクタの状態で帰還したオレ達専用機持ちは今日一日、自由行動日にしてもらった。ほかのみんなは予定通り装備試験を行い、徹夜で事態収拾にあたっていた先生たちは後退で休憩するそうだ。お疲れ様です先生。

 

「あー……生き返るぅ~……」

 

 そしてオレは今、旅館の温泉で一人で温まっている。朝の時間はどちらも女湯なのだが、女将さんの計らいで男女別に分けてもらっている。おかげで広い温泉を独り占め、なんとも贅沢な瞬間である。

 それと風呂好きの一夏が来てないのは病み上がりのため再検査をしてからとのこと。とは言え見てる分には問題なさそうだけども。

 

カラカラカラ……

 

 噂をすればなんとやら、扉が開き、ペタペタと歩く音が聞こえる。

……いや、この歩き方は一夏じゃないぞ。旅館はIS学園の貸し切りだから他の客はいないし……。

誰だ?と思いながら顔だけ扉に向ける。

 

「え、えへへ~、来ちゃった……」

「!?!?!?」

 

 持てる力の全てを尽くし胸を使って顔を水面にフルスイング。現れたのは一夏ではなく、一糸纏わぬ姿の本音さんだった。

 当然前を隠すようにタオルを当てていたが、ボディラインがしっかりはっきりくっきり見えてしまった。

 

「お邪魔しま~す」

「な、なっ、なぁっ、なあ!?」

「なぁに、ひがのん?」

「こ、ここ男湯だよ!?」

 

 しれっと湯に入り隣に座る本音さんに動揺し声が裏返る。この3か月ちょっと、同室だったけど一度も一緒にお風呂に入らなかった(当然のことだが)のに、なんでいつほかの人が来るかわからない旅館で混浴になってるんだ!?訳が分からなくなってきたぞ!?

 

「知ってるよぉ~」

「なんで!?」

「……あんまり見られると、恥ずかしいなぁ~」

「ご、ごめん!」

 

 知ってて入ってきたことに驚き振り向いたら目の前に照れくさそうな顔をした本音さんが現れた。珍しい表情に見惚れていたら今度は態度で恥ずかしがられた。咄嗟に謝り回れ右、冷静に考えるとなぜ謝ったのかわからないのだが、冷静になれる状況じゃない!

 

「ねぇ、ひがのん……」

「な、なに!?」

「わたしと一緒に入るの、いや?」

「い、いやじゃない……けども……」

「けど?」

「その……困るというか……」

「ひがのんは困るの?わたしと一緒だと……?」

「いやその……オレとて健全な男子高校生でして……これまで同じ部屋で寝るまでは耐えられたけれど……その……」

 

 二人きりの温泉にバクバクとオレの心臓の音が響く。本音さんを視界に入れると話に集中できなくなるため、目をつむり、意識しないようにしているが、なぜだか背中越しに聞こえる息遣いが思考を乱してくる。

 

(だめだ、クラクラしてきた……ど、どうすればいいんだこの状況…………)

「ひがのん……」

「ひゃい!!?」

 

 ぴとっ……と滑らかな手がオレの背中に触れると、手は後ろから包むようにオレを抱きしめてくる。のぼせた意識は一瞬にして吹き飛ばされ、背中に当たる柔らかい確かな感触が密着。オレの心臓はバクバクを越え、口から飛び出しそうなくらい跳ね上がった。

 

「おかえり、ひがのん……今度は無事に帰ってきて、うれしかったよ」

「え……なんでそんな――」

 

 予想外の言葉に振り返り問いただそうとするが、背後から聞こえるすすり声にオレは何も言えなくなった。心配をかけていたのならこの瞬間だけでも背中を貸すのが筋だろう。

 暫くすると本音さんの泣き声が止み、落ち着きを取り戻したのか手と柔らかいモノが離れる。オレの心臓は依然として落ち着きを取り戻せていない。

 

「それじゃあわたし、あがるね~」

「お、おう!」

 

 ちゃぷりと湯舟をあがる音の後、再度ペたぺたと歩く音が再び一人となった温泉に響く。あの感触はちょっと名残惜しいと思いつつも湯を頭にバシャバシャと掛けて深く考えないようにする。普段は硬派なイメージで通しているのだ、可能な限り忘れよう、うん。

 

「ねえ、ひがのん」

「な、なんでしょうか!?というかまだ出てなかったの!?」

「今夜23時、この先の岬にある一本の木の下で待ってるね」

「あ、ああ、わかった……」

 

 そういうと本音さん扉を閉めて出て行った。咄嗟に返事してしまったが本当に良かったのか?

 回らない思考であーだこーだ考えていると、扉が再びカラカラと開く。また入ってきたのか!?恐る恐る後ろを見ると、そこにいたのは一夏だった。

 

「なんだ……一夏か」

「なんだってなんだよ、俺も入っていいだろ」

「そりゃ勿論。……脱衣所に誰かいなかった?」

「いなかったけど……誰か来ていたのか?」

「いや、いないならいいんだ」

「?変なこと聞くなぁ……」

 

 ぼやきながら体を洗い終えた一夏が湯舟に入ってくる。確かこいつ、骨折に大火傷だったよな……ナノマシンが投与されたとは聞いたがこんなすぐ傷一つない体に戻るのか?

 

「そういえば葵と風呂に入るの初めてだよな」

「ああ……言われてみれば確かに」

「葵のこと、最初の頃は全然取り付く島もなくてなんだこいつと思ってたけど、今はだいぶ丸くなったよな」

「お望みなら前と同じように対応しますが?」

「勘弁してくれよ、それなんか怖いんだよ」

「冗談だよ、それより傷はどうしたんだ?もう痛まないのか?」

「あー、なんか治ってた」

「は?」

「えーと、目が覚めてIS起動して……気が付いたら治ってた。さっきまで検査してたけど問題ないらしい。ただ帰ったら精密検査しろって言われた」

 

 何言ってんだこいつ。そんな軽いノリで言っていいレベルの怪我じゃなかったらだろお前。それもISを起動しただけで治ったってどういうことだよ。

 

「まあ俺はこの通り元気だし、みんなも無事。万事オッケーってやつだ」

「なんちゅう前向きな……いや、言うまい」

「ああそうだ葵、昨日作戦前に小っちゃい石くれただろ?あれいつの間にか消えててな……悪い、葵」

 

 圧縮の実験でできたあの石のことか。あれならいつでも作れるしそんな気にしなくてもいいのに…

 申し訳なさそうな顔をしている一夏にオレは手をひらひらとしながら答えることにした。

 

「いいよ気にしなくて。箒さん庇ったときにでも落ちたんじゃない?」

「そうかもなぁ……。そういえばさっきそこの角で束さんに会ったんだけど、一瞬だけ白式がめっちゃ速くなる奴を解説してくれたんだよ」

「そういや度々消えたりしてたな」

「そうそれ。白式の鎖骨あたりに新しく埋め込まれた石の素材がどうやらISコアと同じみたいで、飛んでるときに慣性力をため込むんだってよ。そしてそれを開放すると、瞬間的に光速を超えて時間が止まるみたいなんだ」

「へぇ……そうなんだ。……え、時間が止まる!?」

「そう!」

 

 え、じゃあなに、こいつは止まった時間の中を動いてたということ!?ど、どういうこっちゃ……質量をもった物体が光速を超えるって、相対性理論が崩れるじゃんかこれ!?

 

「一夏……お前それ言いふらすなよ、絶対」

「お、おう。そんな凄まなくてもわかってるって」

「ほんとかぁ?」

「ところで時間止めるときにつける技名と言ったらさ――」

「お前本当にわかってる?あと世界は一発でバレるからやめとけよ」

「ぐ、じゃあ第二候補の≪オーバードライブ≫とかどうだ?≪超越駆動≫と書いて≪オーバードライブ≫とか」

 

 意気揚々と自信満々に中二心あふれるネーミングセンスを伝えてくるが聞いただけでバレる名前じゃないから否定するのも忍びない。何より使い手(一夏)のテンションが上がるなら止める理由がない。けどどうしても一つだけ言いたい。

 

「…………悪くないけど、発想が≪零落白夜≫と同じだな」

「だろ!?自信作だぜ!」

 

 

  ◆

 

 

 それは7年前のある冬の日の出来事だった。その日は学校が休みの日だったが父にとても大事なお客さんが来るということで、オレと妹は外で遊んで来なさいと寒空の下に家を追い出された。

 

 しんしんと雪が降る中いつまでも突っ立っているわけにもいかず、オレは倉庫から枝打ち用の鉈を取ると妹の手を引き、家の近くの山へと遊びに行った。……刑務所から脱走した外国人の殺人鬼がこの町で目撃されたという話を知らないままで。

 

 山の中腹の一部に木が生えていない拓けた場所がある。子供にとって十分広いその場所は、オレ達兄妹だけでなく近所の友達ともかくれんぼやおにごっこなどをして遊ぶ場所だった。オレ達はそこを目指して、枯れ枝を鉈で払いながら山を登っていた。

 

 パキリ、パキリと音を奏でながら、道中は妹といろんな話をしていた。「着いたら雪だるま作ろう」「かまくらも作りたい!」、「お父さんのお客さんってどんな人だろうね」「きっと凄い人だよ!」、「そういえば昨日学校でね!」「うん」……大きな声で他愛ない話をしながら。

 

「わあ!足跡付いてない!一番乗りだ!」

「危ないから走るなよー!」

「うん!」

「言ったそばから聞いちゃいない」

 

 妹がはしゃいで走り出したのを尻目に、オレは来た道が判るように近くの木に大きく傷を付けているとぼすっと転んだような音がした。

 振り向くとこけたのか妹は雪原の真ん中でに頭から突っ込んでいた。

 

「ほら、言わんこっちゃ無い」

「えへへ……ありがとうお兄ちゃ…ッ!!」

 

 こけた妹の手を取り立たせようとすると、突然妹の顔が強張った。どうしたんだとオレも視線の先を見ると、そこにはナイフを持った大きな男がこちらを見ていた。

 よく見れば男の足下には女の子が1人倒れており、その子の周りの雪が赤くなっていた。

 

「早く帰ってお父さん呼んで!!」

 

 オレが妹を無理やり立たせ背中を押して逃がすと同時に、男はオレ達に向かって走り出した。だが男は真っ直ぐオレに向かうのではなく、逃げてる妹へ針路を変えた。

 

 怖かった。けれども「妹を殺させない」、その一心でオレは竦んだ足を無理やり動かし、全力で男を止めようとした。しかし9歳の子供が大の大人に敵うはずなく、近づく前に雪をかけられ視界を封じられると強い衝撃の後、体が宙を舞った。

 

 雪がクッションになったが衝撃で全身に激痛が走る。だが痛みを我慢しながら無理矢理体を起こすと、男がオレに向かってゆっくりと歩いていた。妹が逃げた方向を見ると、斜面と雪で滑りやすくなってるからかまた転けた。

 

(まだ死ねない!もっと時間稼ぎしないと!)

 

 顔が大きな影に包まれ上を見ると、男が眼前にいた。手にもつナイフを頭上に掲げると、逆手にし一気に振り下ろしてきた。

 

 その時だった。オレの中の何かがオレの思考を支配した。振り下ろされた手がスローモーションになると、頭の中が真っ黒に、目に映るものは血のように赤黒く。胸の奥から突き動かしてくる衝動に身を奪われるとオレは鉈を振るった。

 

 気がついた時にはオレは血の海に立っていた。目の前にはあの男だった肉片が散らばっていた。振り上げている右手には、血塗れた鉈が握られている。そしてその右手と体は警官に止められていた。

 

 手に残る肉を断つ感触が気持ち悪い。顔や手に滴る生暖かいものが気持ち悪い。

 警官に促され鉈を手放すと、後ろから震えた声で名前を呼ばれた。振り返ると妹が恐怖に怯えた表情でオレを見ていた。

 

 オレはそんな顔をさせないつもりだったのに……

 

 

 ◆

 

 

「……君!……の君!…がの君!」

「っ!!ここは……」

「氷鉋君!大丈夫ですか?」

「山田先生……?一体何が…?」

「物凄くうなされていたようですが、どこか体調が悪いのですか?」

 

 ……そうだった、朝風呂から上がった後部屋に戻ってすぐ寝たんだった。そしてあんな昔の夢を見ていたんだ……。IS学園に来てから全然見てなかったのになんで今になって見るんだ。

 

「ああ、ええと……変な夢見ただけです、大丈夫です、心配かけてすみません」

「そうですか?それならいいのですが、何かあったら遠慮なく先生たちに相談してくださいね。私はこれから寝ますけど」

「えっと…お疲れ様です、おやすみなさい」

 

 オレの肩から手を放し眼鏡を外すと、自分の布団に包まれ数秒後には山田先生から規則正しい寝息が聞こえた。よっぽどお疲れだったのだろう。起こさないようにオレはそっと部屋を出ることにした。

 時刻を見たら20時半過ぎ、夕食の時刻はとっくにすぎ、外を見れば陽が落ちて真っ暗だ。

 

「13時間くらい寝てたのか……。腹減ったし残ってないかだけ確認しに行こう」

 

 崩れた浴衣を正しとぼとぼと歩いているとバタバタと走る女子と何人かすれ違う。声を掛けてくれる人にはその都度返していくが、中には昨日のことについて聞いてくる人もいた。教えられないんだよー、と軽くあしらいながら広間に行くとまだ何人かが談笑しながら食べていた。

 空のお膳を下げている仲居さんに申し訳なさそうにまだ食べてないことを伝えるとすぐに用意された。ありがたい。

 

「いただきます!」

「お、あおい君やっほー!これから食べるの?」

「うん、さっきまで寝ててね」

「もしかしてロングスリーパー?」

「んや、疲れてただけ」

「へぇー」

 

 ………なんだろう、何かがおかしい。学園にいるときと何か違う。ぬぐい切れない違和感とともにご飯を食べ進めていると別の女子がつぶやいた。

 

「葵君とこんなに喋ったの初めてかも。クラス違うし、いつも本音がいるし」

(そうか……いつもは本音さんが人払いをしていたんだ)

「たしかに~。同室だもんね、仲いいの?」

「まあ悪くないと思ってるよ」

「本音とはどこまで行ってるのかしら?」

「猫から恋人にランクアップした?」

「流石に一線はまだ超えてないよね?」

 

 ん?流れ変わったな?結構ぐいぐいと来るぞ?何言っても不味い気がするが、何も言わないと取り返しのつかない事態になる気がするぞ。

 

「超えてないし、本音さんとはまだそういう関係じゃないよ」

「ふぅ~ん、それじゃあ……」

「今はフリーなのね……!」

 

 あれ、もしや地雷踏んだか?いつの間にか囲まれてるし……。猛烈に嫌な予感がしたので、顔を伝う冷や汗ごと味噌汁を一気に飲み干し米粒一つ残さず完食し一言、「ごちそうさまでした!」とだけ言い包囲網を抜け出し、逃げるように小走りで広間を離れることにした。

 

 

  ◆

 

 

「はぁ……」

 

 旅館の廊下を髪を下した姿の箒はため息をつきながらとぼとぼと歩いていた。その手にはいつも身に着けている緑のリボンが丁寧に畳まれているが、福音との交戦中に焼き焦げた跡が随所にみられる。

 

(裁縫に詳しい人に見せたが直せないと言われてしまった。仕方ないが、やはり落ち着かない……。このリボン、気に入っていたのだがなぁ……)

 

 毛先をくしくしと触りつつ、箒は昔を思い出していた。小学生の頃に試しにと一度だけつけたリボン、その時はすぐに外したが一部始終を見ていた一夏は『似合っていたのに』と言ってくれた。それ以降度々リボンをつけるようにしたが、次第に学校でからかわれることが増えていき嫌気がさしていた。しかしその度に一夏は箒を庇い、『似合っているからまたしろよ』と声を掛けていた。転校してからIS学園で再会するまでリボンをつけ続けたのは、箒にとって剣道と並ぶくらい大切な一夏との絆だったのだ。

 

(この姿を一夏に見られるのは恥ずかしいし、今日はもう寝てしまおう……)

「あだっ!」

「うお!大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ。よそ見をしていた、済まない」

 

 気分が落ち込み下を見ながら歩いていると、突如曲がり角で黒いシャツを着た葵とぶつかる。謝りながら差し伸べられた手を取り立ち上がり顔を上げると、いつもより葵の顔の位置が高い気がしてならなかった。一方葵も普段見ない髪型のせいなのか、はたまた別の理由なのか、ぶつかった相手がだれなのか戸惑っていた。

 

「葵、そんなに背が高かったか?」

「成長期だからね。それよりも……箒ちゃんだよね?」

「そうだが……やはり声も低くないか?」

「成長期だからね」

(男子とはそういうものなのだろうか……?)

「そのリボン焦げてるがどうしたの?」

「これはその…福音との戦いの最中に――」

 

 次第に箒は一夏との思い出がこぼれだし、気が付くと悔しさで涙がぽろぽろと零れだした。時折浴衣の袖で涙をぬぐう箒に、を葵は何をするでもなく、壁にもたれながら落ち着くまでただずっと静かに聞いていた。

 

「すまない葵、こんな情けない姿を見せてしまい……。一夏には黙っていてくれないか」

「他言するつもりは毛頭ないよ」

「恩に着る。……もうこのような思いをしないためにも、私は強くなってみせる」

「そっか……。ところで箒ちゃん、この夏、そんな君に持ってこいのバイトがあるんだが興味ない?」

「?」

 

 突然の勧誘に箒は呆気にとられるが、葵は落ち着いた声で話をつづける。

 

「実は今度教導隊がアクション映画の撮影をするけど役者が足りてなくてね、有望な人を誘ってきてくれって言われているんだ」

「わ、私が映画に!?む、無茶を言うな!それに見世物になるなど私の主義に反する!」

「まあ聞いてくれ。変身込みで必要な技能は最初の一週間で練習を積んでから撮影するから大丈夫。撮影期間も数は減るが教練は行うって張り切ってたし、混ぜてもらうといい」

「う、うぐ…し、しかしだな……」

「勿論バイトだからお金は出るし、箒ちゃんの撮影期間は夏休みの間だけだ。それに強くなりたいんだろう?現役教導官による、その力の使い方の指導はなかなか受けられないぜ」

 

 そういいながら葵は箒の手首に巻き付けられた紐を指さした。強くなりたいのは事実だが予想外の事態になんと答えればいいのか困っていた箒に、葵は軽く微笑み、話をつづけた。

 

「まあそんなすぐには決められないよな。そうだな……1週間後、寝る前に箒ちゃんの部屋の机に水を入れたコップを1つ置いてくれ。それで引き受けたことにする。もしやりたくないなら空のコップを逆さにしておいてくれ。それでいい?」

「う、うむ……」

「いい返事を期待しているよ。あとこの話は他言無用ね、オレから話すまでオレに言うのもダメ。守れる?」

「……無論だ。武士に二言はない」

 

 予想外の真面目な反応に葵は堪えきれずに笑うとと箒にムッと軽く睨まれたため、「失礼した」と軽く謝ると壁にもたれるのをやめた。

 

「それじゃあオレはそろそろ行かないと。ああそうだ、1ついいことを教えよう。これから用事がないなら水着を着て海に行くといいよ。遅くなったけど誕生日おめでとう」

「ど、ど、どういうことだ葵!?」

 

 そういうと黒いシャツを着た葵は先程の角を曲がりどこかへ行ってしまう。何があるのか慌てて問いただそうとそのあとを追い角を曲がるが、葵の姿どころか人ひとりとしていなかった。

 

「この一瞬で一体どこへ行ったのだ……」

「……ここまでくりゃ撒けたよな……あれ、箒さん、廊下に立って何やってるの?」

「え、葵!?」

 

 箒がきょろきょろと廊下を見ていると、後ろから浴衣を着た葵が声を掛けてくる。理解が追い付かず驚くが、先ほどまでの違和感に本音が漏れる。

 

「葵……身長縮んだか?」

「うるせえ!小さくないやい!」

 

 

  ◇

 

 

 部屋に帰るまでにひと悶着あったが、ぐっすり眠る山田先生を起こさないようにさっとシャワーを浴びて動きやすいように制服に着替え、気配を消しながら旅館を抜け出す。約束の時間まであと1時間弱はあるが、旅館内はオレの名を呼びながら彷徨う亡霊で溢れている。

 

「一夏!!今日という今日は許さないよ!!」「ひ、ひぃ!ひぃいい!!」「私の嫁を誑かすな一夏ァ!!!」「死ぬ!!死ぬって!!死んじゃう!!」「「逃げるなぁ!!」」「ぬわぁああああ!!!」

 

「何やってんだあいつら……」

 

 旅館の目の前の砂浜を見ると、水着姿の一夏が同じく水着姿の箒さんを抱えながらシャルロットさんとラウラさんにドカドカと爆炎を上げながらISで追いかけられている。ただ、箒さんの髪型はさっき旅館で見た下した姿ではなくいつものポニーテールに戻ってる。楽しそうで何よりだ。

 

「あら、葵さん!」

「ずっと寝てたみたいだけど体の調子はどう?」

「セシリアさんに鈴さん」

 

 岬に向かおうすると砂浜と道路を繋ぐ階段に座る水着姿の二人がオレを呼び止めた。セシリアさんのブルーのビキニと鈴さんのオレンジのスポーティーな水着は二人のイメージにとても合うが、満月に照らされるとより扇情的に見えてしまい、気恥ずかしさから砂浜へと目を反らす。

 

「……たっぷり寝たからね、調子いいよ」

「葵さん……」

 

 嫌な夢は見たが、身体の調子はすこぶるいい。セシリアさんが心配そうな声を出すが、オレは嘘をついていない。

 だが鈴さんは納得いかないのか、胸元を引っ張りオレを無理やり座らせようとしてくる。仕方なくその場にしゃがむとオレの顔を自分に向けさせ凄んでくる。

 

「ねえ、あたしたちにまだ何か隠しているでしょ」

「そんなことないって」

「前々から思っていたけど、あんたかなりの嘘つきだよね」

「……!」

「り、鈴さん、そんなに詰め寄っては……」

 

 隠し事や咄嗟に偽名を使ったことはあるけど嘘つき呼ばわりされるとは思ってなかった。しょうがないかと己を納得させつつ、オレはそっと微笑み、話を続けることにした。

 

「なんでそう思う?」

「いっつもそんな悲しそうな、苦しそうな顔しながら笑っているからよ」

「そんなことはないだろ、なぁ、セシリアさん」

「…………」

 

 セシリアさんに顔を向けるがさっと目を下へ反らされる。てっきりセシリアさんは賛成してくれると思ったが、予想外の反応で困る。どうしたものか……

 

「昼間、葵がうなされてたことに最初に気が付いたのはセシリアよ。あたしもセシリアに呼ばれて何度も起こしたけど、結局夜まで起きなかったみたいね、この間みたいに」

「……ああ、それで部屋の近くに人がいっぱいいたのか。二人とも心配かけてすまない」

 

 これ以上話すと言いたくないことまで言ってしまいそうになる。顔を抑える鈴さんの手を解き、足早にその場を離れることにした。

 

「ちょっと!話はまだ終わってないわよ!」

「葵さん……」

「なんでそういう表情(かお)は一夏にそっくりなのよ、あんたは……」

 

 二人の声を背に受けながら無言で逃げる。ISを使われると逃げられないが、幸い二人は追いかけてくる気配はない。明日以降何言われるか分かったもんじゃないが、これ以上関係を進めたくも壊したくないオレにできる最善の選択肢がわからなかった。

 

 岬が見えてくると先客がいたのか柵に腰掛け足をぶらぶらと揺らしている人がいる。ぱっと見高さは30メートル近くあるので落ちたら大惨事だ。止めようと思いさらに岬に近づくと話し声が聞こえる。目を凝らすと、待ち合わせ場所の木の影に人がいる。近くの岩陰に姿を隠し息をひそめそっと様子を観察してみると、どちらもよく聞き覚えのある声だった。

 

「……白式(びゃくしき)を『しろしき』と呼べばそれが答えなのだろう?」

「ぴんぽーん!ちーちゃん大正解!白騎士を乗りこなしただけのことはあるね」

(白騎士のパイロットが織斑先生…!?)

 

 初めての情報に驚きつつ、話をさらに注意深く話を聞いてみる。

 

「さて今回の一件、お前はどこまで関わっている?」

「一切関わってないよ」

「それでは言い方を変えよう、お前はどこまで把握している?」

「ん~、全部。次はヨーロッパだね」

「そこまでわかっていてお前は何もしないつもりか?」

「今はまだその時じゃないからね。天才というのは準備を入念に行うものだよ」

(今度は何の話をしているのかさっぱりわからん……)

「では次の話と行きたいところだが……そこの男子、盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ」

「あーくんの意外な一面だねぇ」

「ち、違いますって!」

 

 どうやら最初からバレていたらしい。隠れる意味が無くなったから大人しく出るが、性癖扱いされるのは癪だし束博士のねっとりした言い方も怖い!

 

「次の話って何かな、ちーちゃん」

「前々から問い質そうと思っていたんだ、お前たちの『目』について。先月の答え合わせだ、そろそろいいだろう」

「そうだねぇ、あーくんもそろそろ知らないといけないかなぁ」

 

 束博士が「よっ」と言いながらくるりと後転し着地、柵にもたれながらオレを見てくる。直後、束博士の左目が碧く光り出す。つられるようにオレの右目も熱を帯び紅く光り出した。

 

「これはね、資格あるものが試練を超え、対価を払うことで得られる、この世界の”外”の力」

「”外”の力……?」

「そこはこの世界とは異なる物理法則があるんだ。例えば光速を超えることができる物体だったり、物体を量子化させたり」

「もしかして、ISって……」

「コアナンバーXP-000……黒夜のコアも昔、別の世界からこの世界に流れてきた漂流物なんだよ。それがいつからか土地神として祀られ、篠ノ之神社の御神石になったんだよね。そして御神石(オリジナル)を真似して作り、ほかのコアの原型(アーキタイプ)となったのがコアナンバー001……白騎士のコアだね」

「…………っ!!」

「さて、他に何が知りたいかな?今の束さんはとても機嫌がいいから何でも答えちゃうよ」

 

 情報量の多い答えにオレは息をのむことしかできなかった。その様子を楽しそうに笑いながら束博士は見てくる。だがここで聞かなければならないこともある。喉の筋肉を無理矢理動かし、何とか言葉を捻りだす。

 

「……資格って、試練って、対価って、この『目』の力って、何ですか………」

「全部聞いてくるね」

「すみません……」

「先生勉強意欲がある生徒は大好きです。それじゃあ逆順で解説していくね。結論から言うとその紅い目は全てを拒む力だよ。見えないものが隠れていても、身に迫る理不尽でも、本来ならばあり得ない現象も、望まない出来事も、あーくんが望めばぜーんぶ好きなだけ拒み、跳ね除けて叶える力だよ。無意識かもしれないけど心当たりはあるよね。対価はこれまでの使用者の過去と残ったバックファイアを受け入れること。この間のは久々に痛かったよ~。それで試練ってのは実力を示し封印を解くことなんだけど、記録がないからあーくんがIS学園に来る前の出来事じゃないかな。そうなるとなんでタイムラグが発生したのかが謎なんだけどね。そして資格というのは君の魂と、それに耐えられる器の両方のことだよ。これで理解できたかな?天は二物を与えずというのは嘘つきの言葉だね、まったく」

「え、いや、えっと……」

 

 脳が理解を拒む量の情報量だが、咀嚼するように少しずつ内容を受け入れていく。今の束博士の言葉は恐らく全てが事実なのだろう。だとしたらオレにできることは――

 

「そう、今のあーくんにできるのは受け入れるだけ。その力をどう使うかは君次第だからね。うーん、久しぶりにいっぱいお喋りしたから喉乾いちゃった。そろそろ帰るね」

 

 そう言いながら束博士は澱みない動きで柵に乗り、軽くバランスを取る。さらにその場でクルリと周ると今度は織斑先生に話しかけた。

 

「ねえ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

「そこそこな」

「そうなんだ」

 

 その返事を聞くと束博士は笑いながら、海のあるほうへと倒れた。慌てて駆け寄ろうとすると織斑先生に「無駄だ」と止められる。

 

「あいつはもういない」

「そう、ですか……」

「ところでお前は何故こんなところにいる」

「本音さんにここへ呼ばれてまして」

「そうか、なら私は戻るとしよう。……念押しするが、不純異性交遊はだめだからな」

「し、しませんって!」

「つまらんやつめ」

 

 がんばれよ、と謎の応援をすると織斑先生は旅館の方へと歩いて行った。オレとしては鈴さんに詰められた後でこの情報量の暴力で情緒がぐちゃぐちゃだが、木を背もたれにして座り、満月を見ながら少しでも精神を整える。本音さんの前でカッコ悪いところは見せられないからな。

 暫くすると音もなく狐水着姿の本音さんが目の前に現れた。時間を見ると22時50分、約束の時間よりも早い。本音さんが授業以外で時間前行動をするなんて珍しい。

 

「ごめんねひがのん、待った~?」

「大丈夫、待ってないよ」

 

 個人的にはもう少し遅く来てほしかった。まだ動揺が隠せないのか心臓の音がうるさい。だが本音さんにはバレていないのか、微笑みながらオレの隣に座り肩を寄せてくる。ヤバい、さっきまでとは別の意味で心臓がうるさくなってきた。

 

「まだ7月なのに夜でも暑いね~」

「え、ちょ、ちょっ!?」

「ふぅ、すずし~」

 

 背中にある着ぐるみ水着のチャックをいきなり下し胸元を広げた瞬間、普段は隠れている谷間が姿を現す。咄嗟に目を反らすと隣からくすくすと笑う声がした。

 

「ひがのんなら見てもいいよ」

「…………女の子がそういうことするのははしたないよ」

「大丈夫、ちゃんと中に着ているよ」

「ホントォ?」

「ほんとだよ~、私がこれまで嘘ついたことある?」

 

 言われてみれば嘘を本音さんにつかれたことがない。ならば大丈夫か、そう判断し振り返るが、直後にまた目を反らすことになる。何せ中に着ていたのはこの間水着を買いに行った際誰が買うんだろと思った、あの布が細いセクシーな白ビキニだったからだ。

 

「ね、着ていたでしょ」

「着ていたけどさぁ……似合ってるけどさぁ……」

 

 吸い込まれそうな白い肌が月明かりに照らされた本音さんの姿は美しかった。だがそれ以上にセクシーだ。それ以上の言葉は海にでも溶けたのか出てこない。肌を撫でる温い風は上昇するオレの体温を下げてくれない。

 

「ありがとう、ひがのん」

「あ、ああ…………」

「ねえひがのん、ひがのんは……いつもべたべたとくっつくわたしのこと、嫌い?」

「そんなことはない!……そりゃあくっつきすぎて困ることはあったけど、嫌だと思ったことは一度もない!この3か月、オレはいつもそんな君に助けられていた」

 

 本音さんが突然悲しそうな顔で言い出すが、オレは本心で否定する。本当に嫌ならオレは拒否をする、そういう人間なんだ、オレは。

 

「わたし、ひがのんの助けになれたんだ~……よかった」

「えと…その、一昨日山田先生から聞いたけど、なんでオレと同室を希望したんだ?」

「それはね~ずばり、ひがのんを守るためだよ」

「オレを?」

 

 本音さんがこくりと頷くとにっこりと笑う。

 

「わたしのことを『本音さん』と呼ぶのをやめたら続きを教えるよー」

「う……でも女子を呼び捨てにするのはオレのポリシーに反するし……」

「呼び捨てじゃなくてもいいよー。ひがのんから、私だけの特別が欲しいの」

「じゃあ……本音…ちゃん」

「もう一回呼んで~」

「本音ちゃん……これでいいかな?」

「えへへ♪」

 

 呼び方を変えただけなのになんかものすごく恥ずかしい。でも本人がうれしそうだしいいか……。

 

「……ひがのんはね、おりむーと違って物凄く立場が弱いんだ。おりむーは織斑先生という強力なバックがあるけど、ひがのんにはそういうバックがないからすぐに解剖しろ~って声も多かったんだ。でも日本政府はIS学園で保護することを選んだの。さらにIS学園内でひがのんが狙われないように護衛しろ、と更識家に命令があってね。本来ひがのんの護衛は生徒会長で、わたしはかんちゃんの護衛とお手伝いが仕事だったけど、生徒会長は専用機の調整で度々日本を離れることが決まっていたから、わたしがお願いしてひがのんを護衛することになったんだ~」

「どうしてそこまでしてくれるの……?」

 

 純粋な疑問だった。守ってくれていたのはとても嬉しいが、なんで会ったこともない人間にそこまでしてくれたのか。そこが一番不思議だった。

 

「ひがのんはわたしと初めて会った日のこと、覚えてる?」

「そりゃあ覚えているよ。初日の昼休み、木の上で一緒にご飯を食べたよね」

「んーん、違うよ。もっと前」

「もっと……前?」

 

 IS学園に来る前に会っている?いつ……どこでだ……?

 

「もっと前にわたしたちは会っているよ。具体的には……7年前」

「!!」

 

 7年前、その言葉にあの悪夢が、あの日の出来事が、オレの脳裏を鮮明によぎる。冷や汗がぶわっと溢れ気持ち悪い。でも、まだ確定じゃない、その年に偶然出会っているだけかもしれない。そんな望みの薄い希望に心の中でそっと祈りを捧げる。

 

「ひがのんはね、わたしの命の恩人なんだよー。あの日ひがのんが居たから、わたしは今生きているんだよ。そしてその恩返しのために、わたしは今、IS学園にいるんだよ」

「まさか……そんなことって……」

 

 当たってほしくない予感が当たりかけている。やっと、やっとあの日のことを知る人がいない環境にこれたのに……求めていた日常が音を立てて崩れようしている。

 

「ひがのんは7年前の雪の日、暴漢に襲われているところを助けてくれた――」

「本音ちゃん、やめて、やめてくれ……それ以上は…………」

 

 最後の抵抗として首を振り、嘘だと願う。そうでもしなければ肉を断つ感覚と人殺しと呼ばれた日々がフラッシュバックするのだ。

 

「――私の王子様、だよ♪」

 

 だが抵抗虚しく、オレの日常は音を立てて崩れ落ちた

 

 

  ◆

 

 

 時刻はもうじき日付が変わる頃、東京・某所にある高級ホテルに一人のボロボロの黒衣に身を包んだ少女が門をくぐる。その姿はホテルの煌びやかさと比べると似つかわしくないが、少女はフロントの目を一切気にせずエレベーターへ乗り込み、部屋へ入っていく。

 

「……戻ったぞ、スコール」

「遅かったわね、エム。私の予想だと昼過ぎに帰ってくると思っていたのに」

 

 スコールと呼ばれた金髪の女性は、少女の姿を姿を見ずにソファーに座ったまま問答を続ける。

 

「仕方ないだろ、終わったのは今朝なんだぞ」

「あら、結構かかったわねあの子たち。もっと早く終わらせると思ったのに。それで、グレート・ファラオを壊した罰として渡したビデオカメラは?」

「ふん……」

「……うん、ちゃんと撮れてそうね。まだオータムが帰ってきてないけど早速観ちゃいましょうか」

 

 パチンと指を鳴らすと部屋のライトが消えプロジェクターが起動、ビデオカメラにケーブルを差し操作すると、福音とIS学園の生徒との交戦記録が真っ白な壁に映し出される。

 

「この昼間の記録から再生しましょうか」

「その映像は2機で挑んだ挙句ファントムを使う前に負けて海に落ちた奴しかいない。次のほうが見応えあるぞ」

「もう、なんでネタバレをするの。でもそういうならば夜の部を見るとしましょうか」

 

 そうして再生された映像に映るは、圧倒的火力と速度を持つ福音を相手にあの手この手を尽くし戦う6人の姿だった。まるでアクション映画でも観ているかのような楽し気な表情で映像を眺めるスコールに対し、エムは部屋の隅に積まれていた水とカロリーメイトの箱を一つ取るとを雑に開け、窓際に向かい反射した自分自身の顔を見ながらむしゃむしゃと食べ始める。

 場面は福音がセカンドシフトしたシーンへ、その時扉がバンと開きロングヘアの女が入ってくる。

 

「戻ったぜ、スコール。……あ?これ、シルバリオ・ゴスペルか?」

「お帰りなさい、オータム。ちょうどセカンドシフトするところよ。一緒に観る?」

「そうだな、そうさせてもらうぜ。報告はあとでがいいか?」

「いえ……このまま聞かせて頂戴」

「ああ、わかった」

 

 オータムは軽く返事をすると、スコールの隣の背もたれに肘をつき、穏やかな表情で今回の報告を始める。

 

「予定通りアメリカの基地から『アラクネ』を強奪してきた。もちろん、オーダー通り誰も殺してないぜ」

「すごいわ、オータム」

「へへ……」

 

 嬉々として報告するオータムの頬をスコールはやさしく撫でる。その冷たい手の心地よさに報告が止まるオータムにスコールは手を休めず「それで?」と促した。

 

「ああ……それからスコールから送られてきた『T.O.T.O.System(トトシステム)』を支援機のテスト予定だったシルバリオ・ゴスペルに仕込んできた。ちゃんと乗り込んでからコア・ネットワークから切り離されたのも確認したぜ」

「流石ね、私の恋人」

 

 そう言いながらスコールはオータムの顔を引き寄せ、恋人同士の口づけをする。その様子をエムは冷めた目で眺めていた。

 やがて場面は終盤、全員で福音を海に落とすシーンへ。オータムは複雑で面倒なやり方を選んだIS学園側の対応について尋ねた。

 

「なあスコール、なんでこいつらこんなまどろっこしいことをしているんだ?こいつらには無人機ってことにされてるはずだろ、白式ならば難しくないはずだろ?」

「そうね、パイロットを無視すれば貴女のいう通りだわ。でもこの子たちは自力で中に人がいることに気が付いて、どうやったら助けられるかを考えたみたいよ。……ほらね、海から引き揚げたわ」

 

 海から黒夜がパイロットを抱えながら出てくるところで映像は終わる。見たかったものが見れたのかスコールは満足そうな顔で立ち上がると、二人に次の指示を出す。

 

「エム、次の任務はイギリスのブルーティアーズ2号機の強奪よ。作戦開始時期は追って知らせるから、それまでは休んでいなさい」

「わかった」

「オータムは私と一緒にフランスに向かうわ。T.O.T.O.(トト)の有用性も示せたことだし……次の舞台は”デュノア社”よ」

 




4章、これにて完結です。次回からは5章になります。

4章のサブタイトルの中には日本語の上に敢えて内容が違うルビを振っているのですが、遊びで使ってるChatGPTにカタカナ英語を訳させるとしっかり翻訳されたのでびっくりしました。

さてこれまで断片的にしか葵君の過去の情報は出てなかったのですが、今回その過去を明かすことになりました。引っ張りすぎたという後悔はあるものの、やるなら福音戦後の夜というのは初期から変わっていません。満月の夜の海が一番ロマンチックですからね。

ちなみに一夏と箒の白リボンプレゼントイベはシャルロットに追い掛ける前に果たしています。いちゃつく内容は概ね本編通りです。


ISという作品に心奪われてから早10年以上、ずっと完結を楽しみにしていたのですが弓弦先生が完結させないと発表したときは心が引き裂かれるような思いでした。こうなったら二次創作で狂うしかないです。永久に輝けインフィニット・ストラトス!

あと本音ちゃんヒロインの作品もっと増えて(願望)
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