そして、今回の話は特別編でクリスマスをテーマとしています。また、久々に書いたので、この娘は「こんなんじゃない」っていうことがあるかもしれませんが、そこはお許しください。
十二月月二十三日早朝ーー
何事も無く始まる朝、俺はいつも通りゆっくりと目を開ける。
部屋の中にも特に何の変化もなく、いつも通り景色が広がっている。
布団の右側はには通学用のバッグに教科書が固まって置かれ、昨日までやっていた宿題は真正面にある机に乗っている。さて、起きるか。
眠い眼に活を入れ、寒がっている体に鞭打って布団から出た。
そして流れるように台所へと行く。するとキッチンの引きだしからカップラーメンを発見した。俺はそれを手にとって作り、音を立ててラーメンを食べた。
「うまい」
一人呟くと、俺は具材を素早く食べ終わり、スープも何回かに振り分けて飲み干す。温かいスープが口に広がり、体へと浸透する。
「さて、と……」
空になった容器を置いてから素早く私服に着替える。それから、通学用の鞄を持って玄関へと向かう。
「行ってきます」
ぼそっとそんな一言を言って俺は外へと出た。
…
……
歩いて二十分、バスで十分の位置に俺の通っている港第一学院がある。通っている生徒は一般の人に提督に艦娘、と幅広く、マンモス学院であることはここだけでなく隣接している都市でも有名。中には艦夢守市からも人が来るほど。俺もクラスの中で何名かそんな生徒の事を知っている。
それにしてもーーん、誰だ?俺の肩をたたいているのは。
たたかれた方向を振り向いてみると、ほっぺたに誰かの指の先が当たった。
「フフ〜ン、引っかかったクマ〜♪」
指の主は嬉しそうな声をあげている。この声は……
「なんだよ熊川、お前かよ」
「なんだよって酷いクマ!あと、名前呼びは止めてって言ったクマよね!」
そう言って熊川はむっとした表情をする。彼女の名は
俺は何にもしていないのに。
「まぁ、良いクマよ。提督が球磨と呼んでくれる事は期待して待つとして」
ため息混じりの声から一転、熊川は目をきらきらさせて、こちらから離れてくるくるとご機嫌そうに一回転すると、ぱっとこちらを見る。これは彼女がご機嫌が良い証だ。
「ねぇ、今日何処かに遊びに行こうクマ!学校は明日からないわけだし!」
「あぁ、すまん今日は駄目なんだ。バイトが入っていて」
「え、バイトクマ?提督、バイトしてたっけクマ?」
「あぁ、今日から。今日と明日の二日間バイトでな」
「え〜!提督と二日間も遊べないクマ〜!?」
大声をあげる熊川。こうなったら、彼女は駄々っ子のようにひたすら大声をあげて暴れまくり、中々おさまってくれない。正直、そんなことされたら周りからの視線はかなりこちらに来るので止めてほしいのだが。
「おいおい、またかよ」「あいつ、また熊川を」「遊んであげたら良いのに」
聞こえて来る、聞こえて来るよ周りの声が。もう全員熊川の味方だよ!あっという間に四面楚歌だよ!
「ちょっと、熊川。そんな大声あげないで」
「遊んでほしいクマ〜!」
ちょっと本当にやめて。ほら、周りの視線が俺に痛く刺さるからーー!!
…
……
十二月の港市は他の都市と同様に寒い。厚着を着ずにタンクトップ一枚とか半袖一枚とかでいる奴は猛者に違いない。もちろん、俺は前者の方である。
「うわ〜、サンタさんだ!」「本当だ、サンタさんだ〜!」「プレゼント、プレゼント」
さて、俺は今バイト中だ。外で最高気温十二度の極寒の中をある会社の宣伝の為にサンタのコスチュームを着て、子供達に会社のマークが付いた風船配り。全く、寒い。目の前にいる子供達は寒さが全然大丈夫そうで、さっきからすごい走り回っていたり、とびきり良い笑顔をこちらに向けたりしている。
本当に今、思うのだが子供達のあの元気っぷりは何処から出てくるのだろう。俺なんて小学三年生で冬の寒さに嫌になって、冬休みは家に引きこもっていたのに。
そんな思考を巡らしていると、子供達はもういいと思ったのか、別の所へ行ってしまおうとしていた。俺は彼等に手を振ると「じゃあね、サンタさん!」と言って手を振り返して走っていってしまった。
「順調そうだね」
そう言ってくれたのは、隣にいる(バイトの上では)先輩の佐竹さん。眼鏡に整った綺麗なオールバック、真面目そうな顔つきをしている彼もサンタさんの衣装を着れば、たちまち笑顔がよく似合うお爺さんへとなっている。
佐竹さんは笑顔で俺にシフト交替を告げる。俺はそれを聞いて時刻を見てみると、午後七時。午後一時から始めたバイトの時間はもう終わっても良い頃合いだった。実際に会社の専用の控え室の方に行ってみると、もう代わりが衣装を着ていた。俺は彼に軽く一言二言喋ってから、着替えて外へと出た。
外に出るとイルミーネションの光が俺を包み込んでくれた。
…
……
………
十二月二十四日午後八時ーー
「ただいま」
外に出るときと同様に、そう呟いてから家へと入る。今日もバイトでかなり遅く帰ることとなってしまった。
俺はふらふらと例の勉強道具が載っている机にスペースを作って、そこにコンビニで買ってきた弁当を置いて食べた。何処にでもある日の丸弁当だったが、バイトを頑張ったおかげか、その辺の弁当よりも格段とおいしい。
あれ、そういえば今日って……
「クリスマスイブか」
十二月二十四日はクリスマスイブ。そもそもクリスマスイブやクリスマスは人類が滅びかける前に祝われていたものであるらしく、古くはキリストと呼ばれる聖人の降誕祭が行われる所から端を発しているらしく、それがいつの間にかサンタというお爺さんが出てきたという。そして、深海凄艦との戦いの時でも提督達がクリスマスや正月といった行事を祝ったため、それが艦娘達から子孫へと語り継がれて現在にも残ったらしい。
そういえば、明日はクリスマス。
「……」
確か今日でバイトは終わりで、バイト代は……着替えが入っている鞄か。中を少し見ると、着替えのバッグの中で弁当の上に載っている。俺はバイト代が入った茶色い封筒を開け、中を確認する。それと同時に財布の中身も見る。
一応、今月の親からの仕送りとへそくりにバイト代を足しても……うん、これなら生活に困らない。
俺は確認を取ると、早速携帯電話を使ってメールを送る。すると、すぐに返信が来た。
…
……
………
十二月二十五日午後七時ーー
俺は極寒の港市の街中で一人携帯電話をいじりながら、待ち合わせ場所で待っていた。寒いせいか手袋をつけていても体の震いが止まらない。三十分も居ないのに、もう一時間も待っているような、そんな感覚になってしまう。
そろそろのはずなんだが……お、来た来た。
「お待たせクマ〜♪」
そう言って俺の待ち合わせ相手、熊川は手を振ってこちらに走ってきた。黒いコートに赤い毛糸で作られたマフラーにデニムのパンツという中々冬服としてぴったりかつお洒落な格好。熊川だし手抜きだから良いか、と適当に自分に黒いジャンパーに最近安値で売っていた長ズボンを履いてきた自分が恥ずかしい。
「どうしたクマ?早く行くクマ!」
熊川の手が俺の手を掴む。彼女の手の温度が直に感じ取れる。
「ねぇ、まずはどこ行くクマ?球磨はあそこにあるスイーツを食べたいクマ!」
「あ……あぁ、そうだな行こうか」
「じゃあ、決まり!早速しゅっぱ〜つクマ!」
球磨が俺を引っ張って行く。全く彼女の元気っぷりは冬将軍が来ている今すらも打ち勝てる分はあるらしい。
やれやれ、だけど。
ちらりと持ってきたショルダーバッグがある方向を見る。バッグは下の方に下りているせいか肩に掛けるための紐しか見えなかった。
…
……
「は〜楽しかった〜♪」
「それは良かった良かった」
「……全然良かったっていう感じがしないんだけどクマ」
当たり前だ。冬の夜空のもとでハイテンションで臨んで、それを継続できる体力をこちらは持っていないんだ。当然、毎日外で走り回っている小犬と同じようなお前のようにはいかないんだよ。
「まぁ、取りあえず楽しかったクマよ、提督!そろそろ時間だしもう帰ろうクマ!」
さりげに繰り出された一言。俺ははっとする。待ってくれ、熊川……俺はまだ……。
「それじゃあバイ「ちょっと待て!」提督?」
気づいたら、大声で怒鳴る声とはまた違った声を出して熊川を引き留めていた。彼女は俺の急な変化にただ驚いていた。
今しかない、今しか……。
「実は今日お前を呼んだのは他でもない。今日は何の日か知っているか?」
「え?クリスマスクマよね?それが……」
「これ!」
鞄から強引に取り出してそれを両手で彼女に手渡す。熊川は黙って受け取る。
彼女の表情は下を向いているために見れない。さらに声もあげないからどんな様子かも分からない。
「中は何が入っているの?」
「お前が前に欲しがっていた物あっただろ。それを……」
「そうなんだ……提督」
俺は呼ばれて彼女の顔を見る。その顔は嬉しさに満ちあふれていた。
「素敵なクリスマスプレゼントをありがとうクマ!」
明るい声で言うと、彼女は時間になったから、と言って家へと向かう。俺も時間であるため、家への帰途へと着こう。
「ねぇ、提督」
振り向いてみると、そこには少し離れた所からこちらを見ている熊川がいた。
「ねぇ、私のわがままを一つだけ聞いてもらって良い?」
俺は何にも考えずに首を縦に振る。
彼女は普段なら出さない寂しげな声を出して言った。
「私の事をこれから、熊川じゃなくて球磨って呼んでほしいクマ……。熊川だと……ほら他人っぽいし」
俺は彼女の本音を初めて聞いたような気がする。確かにクラスの皆も熊川の事を大抵球磨と呼んでいる。俺はそれが若干他の人と被るのが嫌で熊川と呼んできたのだが、それを彼女は心の中では嫌がっていたのだ。でも、よくよく考えたら、そうだ。彼女は熊川ではあるものの、球磨というもう一つの名前があり、彼女にとっては後者こそが彼女を表している名前だったのだ。それを俺はつまらない事で彼女の事を何も知らずにそう呼んできたのだ。人は些細な事でも傷ついたりするというが俺はまさしくそれをやってしまっていたのだ。
俺は自らそのことに気づくと、少しだけ練習をした。そして本番へと移ることにした。
「分かったよ、球磨。俺はこれからお前の事をそう呼ぶようにするよ」
分かればよろしいクマ、というと少々顔を赤くして彼女は俺に背を向けた。俺は今度こそ彼女が帰るつもりなのだと思い、最後に一つだけ彼女に伝えようと呼び止めた。
俺はなるべく普段のテンションに戻そうと取り繕い、万全になってから口を開いた。
「じゃあな、球磨。また今度」
彼女は手だけ振って何も言わずに背を向けて行った。
俺は一人彼女とは逆方向にある家を目指して歩いて行った。すると、
「雪だ」
クリスマスが終わろうとした十一時五十八分にぱらぱらと雪が降ってきた。粉雪だ。街中に居る子供達はそんなに居ないが、周囲の人達が粉雪が降っていることに気づくと、嬉しそうな声をあげてクリスマスを改めて祝う。どうやらサンタクロースは今年だけ随分と奮発する事にしたそうだ。
俺は少しだけ、そんな事を思って家へと帰って行った。
…
クリスマスが終わった午前零時。一人の少女が遅めのプレゼントを開封していた。少女はラッピングを解くと、その中の物が何かを見る。彼女はそれを見て、目をきらきらとさせた。
それは彼女があるとき、あるクラスメイトに向かって欲しい、と言った全身茶色の熊の抱き枕だった。
少女はプレゼントを早速ベッドの中へと入れ、自分も入ると抱き枕を大切そうに、愛おしく抱いて眠った。少女は良い夢を見ることができているのか、それは分からない。
ただ、一つ分かることといえば、彼女は嬉しそうな顔を浮かべているという事だけだろう。
僕は家に一日中居ました。従って甘く彩られたクリスマスを味わっていません。(『要約』僕はクリボッチで一日中家にいるだけでした)