ここは港市。平和な港市。だが……。
「ヒャッホホホーー!!」
「ヒャッハー!!」
夜の港市はヤンキー共の巣窟になっていた。
彼らは昼はなんの変哲もないただの一般人だ。だが、夜になると彼らはバイクに乗って各地を徘徊する奴らにがらっと変わる。
彼らの名前は『竜頭蛇尾』。名前の由来はここの元総長がつけたからだ。(ついでに選んだ理由は何となくかっこいいから。)
そんな彼らの大半は某アニメの世紀末たちのような見た目のやつ等で構成されている。しかし、今彼らがする事はほとんどこうやって、バイクであちこちを走ったり、酒飲んだり、ゲーセン行ったりと、このへんだと平和にやっている。うるさいけど。
強いて悪い事と言うと、遊び感覚で隣町とかのワルを殴り込みをして陣地を増やすことぐらいだ。
しかし、そんな『竜頭蛇尾』がここまでのし上がったのは、ひとえに五代目番長のおかげだった。五代目の名は岸江紫。性格は冷静で頭が良いと同時に、ヤンキーとしてのプライドが高い、そんな男である。しかも、見た目は美青年で、かなりモテているとか。
そんな彼は今……
「おら、どうした。こんなもんか?」
「ひぃぃっ!お助けを!」
隣の市での有力ヤンキー集団「弁天星炎」を一人でフルボッコにしていた。鮮やかな黒髪が月下の光に照らされて美しく見える。が、やられている側からすると、とてもそんな事に目を奪われている余裕はない。
遠くからそれを見ている一人を除いたら。
「あたしの提督……ついに見つけたわ!!」
翌日
「ふわぁ〜」
眠い。昨日一人で調子に乗って隣の市の奴らをフルボッコにしたので、疲れて超眠い。もう今日はこのまま寝ていようかな。
ピンポーン
ドアの前のインターホンが鳴る。まったく誰だよ、こんな時間に!俺は眠いんだ!やや不機嫌になりつつ、ドアを開く。
そこにいたのは中学生ぐらいの歳をしていると思われる女の子だった。セーラー服を着ている姿は可愛らしく、もし俺がロリコンだったら、思わず拉致りたくなるかもしれない。しかし、あいにく俺はそういう性癖ではない。寧ろ何でこんな朝っぱらから目の前にいる奴のせいで起こされたのが気に食わず、腹がたっているところだ。
「私は暁がバタンってちょっと!?」
お前は知らないのか?知らない人にはついて行ったりしちゃいけないということを。だから俺はお前と話さないし、中に入れるつもりはない。
「ちょっと司令官、開けて!開けて!」
フハハハハ!せいぜいそこでもがくがいい、おちびちゃん。俺は朝ご飯でも食べるからな。
あの後、ドアの前に行ってみると、あの少女は居なくなっていた。恐らく諦めたのだろう。まったく、朝っぱらからこれか。運がねぇな。
「おっと、もうこんな時間か。仕事に行かなくちゃな」
「おはようございます」
「おう、おはよう」
ここは俺が勤めている会社『大本営社』。昔、戦争が終わった提督が艦娘達のために創業した会社だという。まぁ、そんな事どうでもいいが。
とにかく今から俺はここで働かなくてはならない。仕事をするのは嫌だが生きるうえでは必要なことなので仕方がない。
「よし、やったりますか!」
そう言って、仕事をし始めると部長が俺を呼んでくる。何だろう?
「何ですか部長?」
「岸君、君を呼んでいる人がいるんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「あぁ、取り敢えず会ってくれれば本人は良いというから。じゃあな」
そう言って部長は仕事へと戻って行った。俺を一人にして。
「ったく誰だよ。俺を呼んだのは」
面会室に入ってから、俺は愚痴をこぼした。家の両親は必ず俺のところに連絡をしてから行くが、それがなかったので違う。それに子分達もこんな真っ昼間には会いに来ないため、余計に誰が来たのか分からないのだ。
ガチャ
来たか…。ドアがゆっくり開く。さぁ、だ…れ…。
そこに立っていたのは短い茶色い髪をしている中学生ぐらいの女の子だった。間違いない、今朝来た奴だ。
俺は思わずため息をつきたくなった。まさか、仲間ですら知らない俺の仕事先をこんなひよっこに当てられるなんて…。そう思ったら、なんだか悲しくなってくる。
そんな俺の思いなんて露知らず、女の子はすごい嬉しそうにこっちを見ている。
「えっと…俺になんのようだ?特に無いなら俺は仕事に戻るけど」
「その心配は必要ないわ、司令官!」
わぁーすごい張り切っていらっしゃるー(棒読み)。と言うか、さっきから俺のこと司令官って読んでる気がするのは気のせいだよね。
「今日ここに来たのは、司令官に自己紹介しに来ただけだから」
いや、何さらっと自己紹介しようとしているの、君?別に俺は君の名前を聞くよりかは仕事に戻ったほうがいいんだよ。あと、なんで俺のこと司令官って呼ぶの?俺いつから軍人になったんだよ。
「私は暁型三番艦、雷よ!よろしくね、司令官!」
…ちょっと待って。もしかして…
「お前って艦娘?」
「えぇ、そうだけど」
やっぱりか。だから司令官って呼んでいたのか。
俺が学生だった時、先生がこの世には提督と艦娘がどうちゃあこうちゃあ言っていた。その時は他人事のように聞いていたが、まさか自分がそれだったとは…。
「ところで、司令官はなんでここで働いているの?」
「ん?そりゃあ生活費を稼がなきゃいけないからな。逆にそれ以外、何があるんだよ」
「いや、私はてっきり司令官は昨日みたいに喧嘩して、負けた方から金を奪っているんじゃないかって心配しただけよ」
んなわけねーだろ。大体何で俺がそんな………ん?ちょっと待て。
「なんで昨日のこと知ってんの?」
「それは昨日、提督が喧嘩をしているのを遠目で見ていたからよ」
マジかー、見られていたのか。しかも、こいつみたいな艦娘に。
「言っとくけど、昨日のことは他言無用だからな。じゃあ」
そう言って、別れを告げて仕事に戻ろうとすると雷が服の袖を掴んできた。振り払おうとしても、中々手を離さない。
「いや、俺仕事に戻るんだけど」
「私も行くわ!」
「なんで来るの!?とにかく俺は行くから!」
「あ!ちょっと」
すまんな雷。俺も仕事があるから。
「おい岸」
「はい、なんですか先輩」
「なんかさっきから、お前の方を見ている奴がいるんだけど」
…言わないで先輩。俺だって気づいているから。ドアの隙間からじっと見ている雷については気づいているから。
「…なにがあったかは知らないけど行ってあげなよ。あの子お前に会いたそうにしているから」
先輩、優しい。俺もこんな優しい人のようなフリができたらいいな。
「分かりました、会ってきます」
「あぁ、あっ!仕事は後から俺とやろうな」
先輩、優しすぎです。
「おい、雷」
「なに司令官?」
うおっ、すげぇキラキラした目でこっちを見やがるな。
「お前、これ以上ここでする事がないだろ?だったら帰っていったらどうだ」
「する事はまだあるわ」
「ほう、何だ?」
まぁ、どうせろくでもない事だろうけど。
「司令官の仕事のお手伝いをする事よ!」
「はぁ!?できるわけねぇじゃん。何言ってんの、お前」
いくら艦娘だろうが、こんな初めての作業には慣れておらず、失敗するに決まっている。そしたら、俺の負担が激増だ。勘弁してくれよ〜……
「それにお前じゃ無理だ。休憩室に居ていいから、それで終わりにしとけ」
「心配無用よ、司令官!私に頼っても良いのよ?」
人の話聞いてんのか、こいつ……待てよ。もし、ここでこいつが俺の手伝いを失敗したらどうなるだろう。あれだけ大口をたたいといて、自分が出来なかったらどうだろう?俺だったら、心の中がズタボロになって謝って帰る。そうだ、きっとこいつも出来なかったら俺に詫の一言言って、帰るかもしれん。そして、運が良ければ雷は付きまとって来なくなるかもしれない。まさに一石二鳥だ。
「よし、分かった。お前に頼ろう。よろしくな、雷」
「えぇ、任せておいて!」
フフ、せいぜい足掻くんだな。
〜三十分後〜
やぁ、皆さん元気かい?俺?俺はね…ちょっとブルーな気分だわ。
あれから、あいつにやり方を教えてやらせてみたら俺より上手かった。しかも、それが長年この会社に務めていた先輩と同じくらいの実力だったので、先輩を始め、課長や部長、遂には社長自ら来るぐらい、雷は注目された。
「すごいね、君!艦娘とは言え、ここまで上手いなんて……誰に教わったの?」
「司令官に教わったの!」
雷が笑顔でこっちに指を指す。やめて、雷。今、あまり人に注目されたくない時だから、ほっといてくれ。
「ハハハ!雷さん、よかったらウチで働かない?」
と社長直々にスカウトをかける。普通に考えたら、名誉ある事だ。羨ましい。一方、雷は少し考えてから、
「うーん、そうね。私、ここで働くわ!」
と言った。おおーっと社内の人が歓声をあげる。そんな歓声には目もくれず、雷は俺の所に行って、
「よろしくね、司令官!」
と言った。
「って言う事があったんだよ」
「へぇ、それは大変でしたね兄貴!」
ここは『竜頭蛇尾』のアジトだ。あの後、雷から逃げるようにして俺は家へと帰っていった。もちろん、先輩から帰っていいよ、という許可をもらってからだ。
「ところで兄貴、聞きましたよ!隣町の奴らをフルボッコにして、俺らの傘下に降らせたって」
「おうよ、まぁそのせいで今日、ずっと睡眠不足だけどな」
「ハハハ、流石兄貴!マジ尊敬するっす」
「だろ?」
そう言って、俺は胸ポケットからタバコを取り出し、火をつける。この至高の一服は俺の仕事の疲れを癒やしてくれる。
「兄貴」
子分の一人が俺を呼んできた。
「なんだ、何かあったか?」
子分は少し躊躇ったあと、気まずそうに口を開く。
「実は…兄貴を呼んでいる奴がいまして…」
誰だろうか?まさか……。いやいや、そんな訳がない。あいつがここを、アジトを知っている筈がない。
「分かった、そいつを連れて来い」
「へい」
子分は足早に外へ出た。俺はあいつじゃないことを祈った。
「連れてきました、兄貴」
「入れ」
子分は中に入る。と、同時に俺を呼んだ奴が来た。
そして、俺は絶句した。
「また来たわよ、司令官!」
あいつこと、雷が来たのだ。ナンデ!?
「なんで、この場所が分かったんだ!?」
「それは…その…天のお告げよ!!」
お前、あれだけ考えてそれかよ!!もうちょっとマシなのが理由がなかったのかよ!?
「それより、司令官」
「何だよ、っておい!!」
俺が吸っていたタバコを取り上げ、さらにポケットに入っていたタバコの予備とライターを素早く取り上げた。なにすんだ!
「司令官、タバコは健康に悪いでしょ?だから、これは没収。いい?」
くそ正論を吐いているだけに何も言えない。
「アニキ〜」
そんな目で見るんじゃない子分たちよ。俺自身、もうみっともなさが出てくるから。
「それに今何時だと思っているの?もう寝る時間よ」
「はぁ!?寝るって…まだ三時だぞ」
「何言ってんの!ほら、皆の顔を見てみなよ。皆、顔にクマが出来ているわよ!」
雷にそう言われて、子分の顔を見渡してみる。…なるほど、確かに皆大なり小なりクマが出来ている。ついでに鏡で俺の顔を見てみると、俺もやはりできている。気づいていないって怖い。
「ほら、とりあえず今日のところは皆帰りましょ。ほら、司令官も」
そう言うと、雷は俺を外に出そうとする。懸命に俺は抵抗したが、なす術なく追い出された。入り口のところから子分達がこっちを憐れみの目で見てくる。…そんな目で俺を見ないでくれ。
あの後、俺は大人しく帰った。何だか情けなくなってきたのを堪え、家に帰り、する事がなかったので寝た。ちゃんと戸締まりもし、万全をきした。きしたのに何故……雷が俺の布団で気持ち良さげに眠っているの?あれ、ここ俺んちだよね?うん、俺んちだ。
「ぬをわぁぁぁぁ!!」
この二十一年間の人生で一番情けないリアクションをした。
「なんで、俺んちにいんだよ!?」
「司令官が寂しがってると思ったからよ!」
いや、おかしいだろ!百歩譲って俺が寂しがってるとして、なんでお前がここに居る理由になんだよ!!
「って言うか、どうやって入ってきたんだよ!?」
「それは、もちろん大家さんに…って、あっ」
大家さ〜〜ん!!何やってんすか!?
「とにかく、お前出ていけよ!!」
「嫌よ!!私には大事な任務があるの!」
「任務って何だよ?」
「司令官のお世話をする事よ!」
ロクでもねぇ任務だな、おい!!
「まぁ、そういう事だから今日からここに住ませてもらうわ」
ふざけんな、テメェ!!
あの後、無理矢理俺んちに住んでいる雷の徹底的な管理下において、俺の生活は一変した。
まず、睡眠時間が七時間以上になるように『竜頭蛇尾』の組織全体に徹底させた。これに俺をはじめとする反対派は抗議の声をあげたが、無駄だった。…えっ?なんで暴力で解決しないかって?いや、一回びびらそうと思って殴りかかったら、思いっきし雷に背負い投げをされた。見事な一本だった。子分達は全員で「アニキーー!!」と言いつつも拍手していた。「おい、てめぇ等はどっちの味方だよ」と俺が言うと、「姐さんとアニキの味方っすよ」とあいつ等は言った。おい、いつから俺は雷を妻として迎え入れたんだよ。
次に、喫煙が禁止にされた。これに対しても、俺は納得がいかず、こっそりタバコを買ってくるが、俺がちょっとでも目を離すと、雷が中身をココ●シガレットにしてくるから諦めた。いや、確かに似ているとはいえ、ちょっと……。ついでに子分達はこれに対して、大人しく従った。
最後に野外で大きな音を出さないことが出された。雷曰く、近所迷惑になるからだそうだ。ここらへんから、俺は何も抵抗しなくなった。何も変わらないためだ。
そういう決まり事もあってか、俺ら『竜頭蛇尾』は他所から健全なヤンキーとして崇められ、地元の人達からも愛されるようになった。
ヤンキーとは何だろうか。
そう思いながら、雷や子分達と一緒に河川敷のゴミ掃除をしながら思った。だが、子分達は以前にも増して、元気になり、喧嘩にも強くなった。さらに、組織的にも子分達は日に日に増えている。そう考えると、これは間違っていないんじゃないのかなーと思いつつ、俺は空き缶をゴミ袋に入れた。
「これが終わったら、ジュース奢るわ!皆、かんばってね!」
「ウィ〜す」
雷の声を聞きながら。
一種のドラマみたいになってしまいましたね…。あ、あと次回は自分の趣味全開の物を出します。読者の皆さん、ご理解ください。