『名探偵』ーー誰もが聞いた事があるだろう。普通の探偵と違い、自分の頭脳をフルに使って事件の謎を解く、一種のスペシャリストだ。
代表する者たちと言えば、ホームズやポアロ、明智小五郎に金田一といった具合だろう。しかし、彼らの存在は所詮小説の中にいる人物で実在していない。だから、多くの人達はこう言うだろう。『名探偵は実在しないものだ』と。
しかし、この港市にはそんな存在がいる。多くの事件の謎を解いた名探偵が。
ギラギラと光る太陽に照らされ、ここ港市は今日も賑わっています。ですが、そんな天気も午後から雨が降るらしいのが不思議なくらいであります。申し遅れました、自分は山笠波江と申します。ただ、自分の場合はこの名はあくまで普通の一般市民として生きるための仮の名に近く、どちらかと言えば艦娘としての名前である『あきつ丸』が本当の名前です。
そんな自分は今人を搜しているのです。事務所の仕事をいつも怠ける奴です。今日もまた忙しい仕事が舞い込んだというのに、『めんどくさい』の一言を言った後、書類を整理する、とか言って逃げたのです。全く困った人であります。
そう思い、辺りを見回すと、ある喫茶店に目をつけました。捜していた人が居たのです。
喫茶店の中に入ると、おしゃれなジャズの音が心地よく耳に響き、思わず聞き入ってしまいそうになってしまいます。しかし、自分には大事な事がありますので、それを我慢し件の人を捜します。しかし、それには一分もかからず見つかりました。子供達と席を囲んで楽しげにしています。
自分は捜していた人、彼の席に行き、チョップを頭に向けてしました。そうすると、彼は頭を抑えて、こっちを見ました。
「痛〜い!何すんのさ!」
彼、提督が来ました。彼の名前は山笠義久。港市でも珍しい茶髪で、身長は百六十二センチと男性にしてはちっちゃい体で頭にはペレー帽が斜めに被っているという、印象としては少年と思わせるような見た目です。
そう、彼こそが自分の仕事仲間でもあり、この港市、いや内地を含めた世界中で一番と言われる探偵であり、また自分の提督でもあります。
「なにをしているでありますか?」
「この子達とゲームで遊んでた」
そう言って、見せてきたのは最近話題のゲームクリエーター、神連によって作られた『風雲クエスト』をしています。ちょうどボスのところまでやったらしくて、BGMはかなり緊迫が迫ったものになりました。…ちょっとやりたくなりましたね。
「やりたい?」
「はい…ってそうじゃありません!さぁ、行くでありますよ!」
ニヤニヤしている提督を引きずって、自分は提督の分のお会計を済ませました。子供達の方を見ると、彼らは手を振って見送っていました。そこは読んでくれて感謝であります。
「はぁ〜、ひどいな〜。あきつ丸は。楽しく遊んでいたところを邪魔するなんて」
「だったら、仕事を済ませてからにするであります」
自分は彼を車に乗せて、指定の場所に行きます。今日は前述した通り仕事が自分達のところに舞い込んできたのです。
「着きました」
「はぁ、着いちゃったか〜」
提督はため息をついて、道中に買った漫画を持って外へ出ました。
自分と提督が来たのは、大富豪朝倉の別荘。立派な大理石で作られた門がドカンとそびえ立ち、その内側にある博物館のような純白に輝やく別荘が太陽の光を反射しながら建っています。
その別荘の門前にパトカーが沢山停められていました。その中から自分と提督の姿を認め、こっちへ来る人がおります。
「ん…なんだ宮浜か。こんなところで何してんの?」
「『何してんの?』じゃないですよ先輩!見れば分かるでしょう!事件が起きたから来ているんですよ!!」
彼は宮浜健という、提督とは高校の先輩後輩の関係にある刑事であります。彼がここに来ているという事は既に自分は把握済みです。何故って、彼が依頼者だからでありますから。自分達のところに難事件を持ってきているのは九割彼なのです。そのため、提督はそれに呆れながらも後輩のために依頼を引き受けるのです。ふふっ、なんだかんだで後輩思いなんです。提督は。
中に入ってみると、沢山の石像があって、まるで博物館らしさがますます増すばかりてありました。
「まるで博物館のようですよね」
宮浜刑事が自分と同じ事を言っていますな。まぁ、無理もありませんが。
「あぁ、暇だ〜」
漫画を読み終わった提督が暇そうにしております。正直黙っていてほしいであります。
「宮浜〜まだ〜?」
「もう少しですから我慢してください」
こうして見ると、二人が親子のように見えてきますね。まぁ、宮浜刑事に至っては流石というか、苦労しているなというか、そんな気がするであります。
すると間もなく宮浜刑事はある部屋の前で立ち止まりました。
「さぁ着きましたよ。ここです」
宮浜刑事はその件の部屋の中へと招待しました。
中は綺麗に整理整頓をできていて、椅子や机も豪華でリッチ感がただよっているのがかなり分かる。そんな椅子の下に白い人型の枠線が引かれています。そこで被害者は殺されたというのです。
提督はペレー帽を脱ぐと、静かに黙祷をします。本人曰く『被害者の霊に挨拶を済まさなきゃいけないから』だといいます。ただ、その気遣いを何故自分達に何割か分けてほしいであります。
提督は黙祷を済ませて、ペレー帽をかぶり直し、またいつもの不敵な笑みを浮かべました。
「宮浜、被害者は?」
「被害者は大富豪の朝倉光太郎、六十八歳で、死因は青酸カリによる毒殺です。死亡推定時刻は午後六時だそうです」
「ふぅ〜ん、何処から出てきた?」
「被害者が飲んでいたコーヒーからです」
「そうか」
さすが提督であります。事件となると、やっぱり真剣にやるのですね!
「宮浜、頼みがある」
「何でしょうか?」
「何処でもいいから近くのコンビニでパッキー買ってきて」
……前言撤回、やっぱり真剣じゃありませんでした。
宮浜刑事が部下にパッキーを買わせて提督にあげてから、すぐ事情聴取が行われる事になりました。
する場所は、お食事どころと呼ばれているところで、中に入ってみると、シャンデリアがキラキラと光を撒き散らし、周囲にある絵画や彫刻を自分達にみせてくれます。
集まったのは、ここの次期当主、召使い等、館内にいる人、全員を呼びました。しかし、殺人事件があった事もあり、ほとんどの人は不安そうにしています。提督を除いたら。
「えー、では皆さんが集まられたので、本題のここで起きた殺人事件についての事を聞きます」
宮浜刑事の声がよく部屋に響く。だが、そんな声も虚しく辺りには静寂以外に何もなかった。
「はぁぁぁ、宮浜。君は馬鹿じゃないのか?そんなんじゃ犯人は愚か、猫すら話さないよ」
ため息をつきながら彼は宮浜刑事を批難する提督。それがパッキーを食いながらじゃなかったら、どれだけマシだったか…本当に残念な人です。
「よし!じゃあ僕がお手本を見せてあげよう!ねぇ、そこの君!」
と一人の男性に指を指しました。身なりはちゃんとしている二十代半ばぐらいの男性で、指をさされた瞬間ビクッと体が動きました。
「な、何でしょうか?」
「君は今日館の外に出たか?」
「…いえ、出ていませんが」
「うん、分かった。もういいよ」
えっ、それだけでありますか?普通、もうちょっと詳しく聞くでしょうに。
「よし、じゃあ皆良いよ!解散!」
提督のこの一言によって、事情聴取が終わリました。結果としては…酷かったです。まぁ提督が主導でやるとなったら、こういう事は予想してはいましたが。
自分は改めて、事情聴取の内容を記したノートを見ました。提督は次のような質問をしていました。
「昨日から外に出た人はいるのか?また、それは何のために?」
「コーヒーを入れた事が被害者、もしくはこの中にあるか?」
この二つだけの質問で本当に分かるのでしょうか?ついでに最初の質問だと、若いメイドが砂糖を買いに行った事と朝倉氏の跡取りの隆さんが妻である聖子さんとショッピングに行っていたそうです。ただ、どちらも午前ですからアリバイは立証されません。ただ、侍従長さんは午後に知り合いに会いに行ったので、アリバイは立証されています。そして次の質問はメイドさんと侍従長、定晶さんとその妻以外は被害者を含めて無いそうです。
ふーむ、よく分かりませんね。どうして提督はこんな謎だらけの質問をしたのでしょう?自分にはよく分かりません。
長くなりそうなので分けました。