キーンコーンカーンコーン
朝休みの終わりを告げるチャイムが高らかに鳴る。それと同時に職員会議が終わる。内容としては、これからの学校の在り方についてだ。最近は艦娘や提督がこの港市にも増えてきているため、その為の対策やら何やらで先生達同士で話し合っていた。
ここ、三宮学園でも既に一学年十人艦娘がいる為決して他人事ではない。だが、新人教師の僕の立場からすると、これは少しきつい。何故なら、ただでさえ新人という立場のないところで意見(まぁ、そんなの無いんだけど)を先輩達である先生方に言える訳がない。あと、この前中間テストの答え合わせをコーヒー三杯で頑張ってやったから今は意見を言えるような気力はない。
「先生、早く行かないと」
ウトウトまどろんでいる僕に先輩である先生が声をかけてくれた。おかげで、立つ気力が出てきた。
「はい、ありがとうございます。では」
そう言って、僕は職員室を出た。
僕は教室の前まで来た。ここで一度立ち止まり、少し心の準備をするのが日課だ。そうじゃないと、とてもじゃないが耐えられない。だって毎日が驚きの毎日なんだもん。
一方、教室の中にいる生徒はチャイムなんて気にも止めずに喋っている声がする。
僕は意を決し教室に入る。その途端に教室は静かになった。ただ一人を除けば。
「提督〜、疲れたから寝ていい?」
僕は思わずため息をついてしまった。こいつ、鎌倉千里は艦娘の『北上』というやつでいっつも教室に来ると、「帰りたい」、「寝たい」という言葉を言う。
しかも、その癖「暇〜」と言って、職員室に入ってくる。その時の僕はいけない事を僕のところの生徒がやっている事にやや冷や汗を流すが、先生方はそれをニコニコとした笑顔で見守っている。
あと僕はこいつの提督らしい。だからいつも、『提督提督』と僕の事を言うが、正直僕の先生という立場を考えると、どちらかといえば先生と呼んでほしいところだ。まぁ、この事はあいつに言っていないんだけど。
「駄目だ。我慢しろ」
「だったら提督が起こしてよ。じゃないと私起きないよ?」
北上のやつ、僕に脅しをかけてる。
「駄目だ。自分で起きろ」
「むぅ。つまらないなぁ提督は。あっ!だったら私と提督が同棲している事皆にバラすね」
「「「「!?」」」」
北上の衝撃発言によって生徒の目がグルッとこっちを見た。怖いよ、君達そんな目をしないでくれ。
「北上、嘘を言うな。現にお前、俺の家知らないだろ」
「あ、バレた?」
「バレるわ」
そんな会話をしていくうちにふと生徒の方を見ると、今度は微笑ましい目で見てくる。やめろ、その目もなんだか違う気がするから。なんで先生も君達もそんな目で見てくるの。何、新たな宗教でもできたって言うのか。
「先生!いつホームルームをいつ始めるんですか!」
そういったのはクラスの委員長だ。彼は何時もこうグダっていると助けてくれるメシアだ。彼にはよく救われている。先生として情けない限りだ。
ホームルームが終わり、僕は授業をやりに行く。僕の担当授業は数学だ。
黒板に数式を書き、それを生徒達に分かりやすく説明する。それが教師の仕事だ。
だけど僕が教える数学は英語と並んで、苦手教科一位を競っている。
そのためか、平均点はいつも低い。教師としてはこれを見るのが毎回苦痛だ。
だから出来るだけ噛み砕いて説明するのだが、中々上手くいかない。
どうしたら良いのだろうか?
「提督〜。一緒に食べよ〜う」
「その前にお前職員室に入ってくんなよ」
昼休みになって北上が職員室に来た。別にいつものことだが、もうちょっと気を遣ってもいいと思う。
「いや、でも先生達は『どうぞどうぞ』って入らせてくれるから」
何やってるんすか先生方。生徒だから通さなくていいですよ。
「いや〜、やっぱりここは痺れるね〜」
「いつも来てるだろうに」
僕と北上は今学園内の屋上にいる。こうして立っているだけでも太陽の光線はジリジリと当たってくる。ぶっちゃけ言うと暑い。まぁ、それは今日長袖のポロシャツで着たこともあるだろうが。
「毎日思うがお前、俺なんかじゃなくて他の艦娘達と一緒に食べればいいだろ?」
それを聞いた北上はやれやれとでも言いたそうに肩をすくめる。
「分かってないな〜」
「何がだよ」
「うんうん、何でもない。それより弁当を食べようよ。私腹減っててさ〜」
北上はさっきの事を適当に誤魔化して、いつも一緒に弁当を食べるベンチに座る。僕はこれは何を言っても駄目だな、と思って北上の隣に座る。
その後はただ黙々と弁当を食べるだけだ。こんな会話の無い食事のどこが楽しいのやら…
「ねぇ、提督」
だが今日に限って北上は珍しく口を開いた。その事に僕は内心ちょっと驚いた。
そんな僕の心なんかいざ知らず、言葉を紡いでいく。
「何か悩みでもあるの?」
これに僕はすごく驚いた。北上にはそのような素振りを見せた覚えが無いからだ。北上はそんな僕にからかうような笑みで笑って、
「提督は顔に出やすいからな〜」
「そうなのか?」
「うん、そう」
そうなのか…自分では出ない方だと思ってたんだが…。
「それでなにかある?よかったら私が相談にのるよ」
うーん。これは相談にのってもらうべきなのか?でも、このまま一人で抱えこむのも駄目だな。
そう思った僕は北上に相談にのってもらうことにした。
すると北上はアハハと笑った。
「なんで笑うんだよ!?こっちは真剣に悩んでいるのに!」
「いや提督はセンチメンタルなんだな、と思っちゃってね」
なんだよ、こいつ…
「まぁ、そんなの気にしなくて良いと思うよ。だって中学、高校の授業は段々難しくなっているから、取れないのはしょうがないよ」
「しかし…」
「それに取れていない人の大半はまともに勉強していない人達だからね。余計に気にしなくていいよ」
そうか…ん?待てよ。
「お前が寝てばっかじゃん。なのになんで学年トップに君臨している訳だ?」
「それは、もちろん私がスーパー北上様だからだよ!」
北上は自分の手を胸に当て、ドヤ顔を決めた。
僕は思わず、それにはぁとため息をついた。確かにこいつの最後の台詞はとにかく、一々気にしてはいられないかもしれない。そう考えると彼女の楽観さは凄いものだなと思った。
そんなことを思っていると、キーンコーンカーンコーンというチャイムの音がする。彼女はチャイムの音を聞くと、屋上への入り口に向かって歩く。僕は彼女の背を呆然と眺めていた。
そしたら…
「行くよ提督」
そこには微風に吹かれながらも穏やかな笑みをして、こっちを見つめているスーパー北上様がいた。
スーパー北上様のこういうところを書きたかったんです。