西暦勇者娘 作:ムネ・タイラー
普通→平凡→平ら→胸が平ら→ムネ・タイラー
これは暗喩か。
華村由璃(はなむらゆり)
それが私の名前。
その名前は両親が考え私が産まれた時に付けてくれた。
けれど、私に名前を与えれてくれた両親はもうこの世には居ない。
だってーー私の目の前で白い何かに喰べられ跡形もなく消失したから。
私のせいだ。
何で玩具を取りに家に帰りたいと言ってしまったのか、何故家に帰るために両親を連れて来てしまったのか。
後悔した。
どうして、私は……あの時、あの場所から1人逃げ出してしまったのか。
両親が居ない、辛くて苦しい絶望の未来しか待っていないはずなのに。
……そして、私は助かってしまった。知らない誰かによって。その後、記憶は少し無くなってしまっていて、覚えていない。
気づいたときには私は神社に居た。
私が目にしたのは、私と同じ生き残ってしまった人達の姿。
みんな、顔色が暗く絶望している。あの白い何かに怯えている。喰われてしまうのではないかと、恐怖している。
私にはそう感じ取れた。
不思議だ。何でそんな風に思えてしまったのか私は分からない。
しばらくして、助けてくれた人が誰かと会話をしていた。けれど、何故か助けてくれた人の表情が次第に暗くなっていった。
私たちと同類になると思いつつも、駄目だ!と、私は思ってしまった。この人を絶望させてはいけない。
「あ、あの……!」
無意識に私は声を掛けていた。
***
……困った。
讃州に居たつもりがいつの間にか、時翔して西暦時代の知らない場所に居た。焦った。
ふと、何となく確認してしまったスマホに表示された時刻が、この世界の時計と同じ時刻になっていた。
本当は西暦時代にボクは生まれていたのか?
神世紀での出来事は、アイツらとの思い出は全部夢だったって言うのか?
絶望して心が挫けそうになる。
「あ、あの……!」
「?」
「その……だいじょうぶですか?」
この子はボクを心配してくれたのか?周りにはボク以外居ないし。
こんな子に心配されるとは……情けない。
そうだ、すっかり頭から抜け落ちていた。
ここには沢山の人がいる。そして、今はバーテックスが現れて非常事態だ。
私情に囚われて足を止めている場合じゃない。……ボクが何とかしないと。
「ごめんね。予想外の人に出会ったから動揺しちゃったんだ」
「そう、ですか……」
「もう、大丈夫だから。不安にさせちゃってゴメン!ほら、元気元気!」
軽く腕を回して、ニカっと笑顔を作る。これぞ、友奈スマイル。無理や無茶をしているときに相手を安心させる(誤魔化す)ための常套手段だ。これに何度騙されたことか。
「……気持ち、悪いです」
「酷い!」
少女の反応はイマイチだった。けど。
「ぷっ」
『アハハハハハ!』
よかった、表情が少しだけ明るくなってくれて。
***
後からスマホ内部に保存されていた写真や動画の保存された日付は神世紀のままだったのを確認したので少しだけ安心出来た。
はぁ。
ボクが自分でも気付かないような妄想豊かな精神異常者ではなくてよかった。
……まあ、あんな辛い体験を否定出来るほどボクの精神はヤワじゃないけどね(遠目)。
と、感傷に浸っている場合じゃないな。
とりあえずは現状の把握だ。
まず、ボクが今いるのは多分だけど島根県のどっかの神社と推測している。安直かも知れないけど、これは若葉さんが生太刀を手にし勇者として覚醒したのが島根県というのが主な理由だ。さっき、会った若葉さんとひなたさんは幼かったのでほぼ確定と見るべきだろう。
なので当面の目標はなるべく早く四国へとたどり着きたい。保身の意味もあるが何よりもこの時代で戦うための準備をしなければいけない。
だから、本当は一刻も早く四国に向かいたかったけど、残念なことにボクは若葉さんとひなたさんに会話をしてしまった。早く判っていたら会うつもりはなかったのにな。
西暦の最期まで生き残った彼女たちなら大丈夫だと信じたい……が、今の彼女たちはボクが花結い世界で会った時よりも幼いし何より彼女たちは星屑に関して戦闘経験皆無だ。
それにボクという異端な存在がこの世界にどれだけの影響を及ぼしているのか解らない。
前に園子からバタフライ効果という単語を聴いたことがある。
これは経験談だけど、正史というかボクが存在していない世界では、神世紀298年七月十日に銀は単身で三体のバーテックスを追い返すために命という名の花びらを散らして、東郷と園子の前で死んだらしい。
ボクの世界では本来よりも三ヶ月くらい繰り上げて勇者システムがアップデートされ正史よりも銀たちは強くなった。
が、正史で銀が落命する日に現れたバーテックスは四体。しかも、銀たちは遠足の帰りに事故に見舞われたため全員が集合するのに遅れ対処が出来なかった。最終的に銀はまた一人になる、正史と同じように。けれど、ここからは違う。この世界では勇者システムがアップデートされていたから勇者には精霊ともう一つ強力な切り札があった。
『満開』
溜め込んだ力を解放して、一定時間強大な力を有して神に近付く行為。だが、その反面供物として使用者は解放した分だけ自身を捧げなければならない。
勇者はそのことを知らされていない。大赦の大人事情が垣間見えるとこだ。
銀は満開を使ってバーテックスを追い返すものの、生まれ持っての不幸な体質のせいか満開の代償で"魂"を供物として捧げられ結局、銀はボクの世界でも死んだ。けど、神樹の計らいで魂が少しだけ残っていてそれを再構成することによって時間は掛かったけど銀は復活した。
この二つの世界の明確な違いを端的にいうならボクの有無、勇者システムのアップデートの時期だ。早くなった代わりに敵は増え問題が増えたものの最終的には死ぬはずの人間が生き残る結果を残した。
けれど、それはあくまで最終的には上手くいっただけの話。
必ずしも毎回、良い方向へと行くとは限らないということだ。
だから、ボクはこの世界では正史で起こったことを考慮して行動しなければならない。
それで、今回の問題はボクと会話をしてしまったせいで、若葉さんたちが死んでしまう可能性があるかもしれないということ。切っ掛けは些細なことかも知れないけど、会話をしてしまったせいで本来休憩する時間が割かれ、それが原因で疲労を残し、移動する際に神託を間違えて星屑に襲われる可能性が増えたり、集中力が乱れてそのまま殺されたりするかもしれない。……ボクが原因で。
銀の時で辛酸を嘗めさせられたからな。あんな想いは余りしたくない。
今度は慎重に行かないと。
「さて、と……」
休憩は終わりだ。
「あの、さ」
「?」
「少し力を貸してくれるかい?」
大分、危険な賭けだけど生き残れる可能性を増やすために努力しますか!
後、2話やって別のオリ勇者の視点に変わる予定。
次もこの時間に投稿できたら良いな。