ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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こういう意味の再評価じゃないと思った貴方は正常です。自信を持ってください。


ナイトローグの再評価を目指す話

 世間のナイトローグの評価は、次のような感じである。

 

  弱い。くそ雑魚ナメクジ以下。性能で負けて経験で負ける。過去の栄光。ブラッドスタークに接待させられていた。リストラ。ブラッドスタークは現役なのに情けない奴。内海の手に渡っても地上波には出ていないから、実質のクビ。トランスチームガンの霧を出すやつしか実用性がない。ホテルおじさん。

 

  こうして見ると、ナイトローグの再評価を目指していくのは結構辛いのではないのだろうか? 大体が氷室幻徳のせいでマイナスイメージが厚塗りされているため、ちょっとやそっとでは限りなく不可能に近い。

  まぁ、再評価してやる義理はこちらにないのだけども。しかし生まれてこの方、ナイトローグに変身する事やサバイバル術以外に取り柄を覚えた事がない。他にも生き方は知っているが、ナイトローグの再評価活動をするのが何かと楽だった。

  そんな訳で、取り敢えず川に溺れたお婆ちゃんを助けようと思う。

 

「ありがとね~。おかげで助かったよ~」

 

「いえいえ、当たり前の事をしただけです。それじゃ」

 

  やや呑気なお婆ちゃんを川から上がらせ、遠くから見守っていた野次馬たちに後を投げる。タオルとかは持ち合わせていないので、誰かが用意してください。

  ナイトローグの格好はやたらと悪目立ちするので、急いでその場から飛んで逃げる。背中に生やしたコウモリの翼は短距離しか飛翔できないにしても、慣れれば一キロ以上は余裕で稼げる。

 

「最近の若い子は飛べるのね~。あら? 違うかしら?」

 

  後ろの方からヘルメット越しに、お婆ちゃんのそんな声を拾う。呑気と言うよりは天然だったようだ。

 

  ナイトローグとは、トランスチームシステムによって装着・変身できるパワードスーツだ。カテゴリーは一応、軍事兵器。多分、宇宙には行けると思う。

  そんな兵器が社会に平和的な貢献をするなんて、どれだけ最高な皮肉だろうか。ゴミ拾いをしたり、泥にタイヤが捕まって抜け出せない車を助けたり、街に迷い込んだイノシシや鹿を森に帰したり。モノは使いようとは良く言ったものだ。

 

「おーよしよし。今降ろすからねー」

 

「にゃー」

 

  木の上に登って降りられなくなった猫を助け、飼い主であろう少年の元へ返す。

 

「わー! ありがとう、お兄ちゃん! ……お兄ちゃん?」

 

「私の名前はナイトローグだ。覚えなくてもいい。それじゃあね」

 

  俺はそれだけ言い残し、上半身に設けられた複数の筒――セントラルチムニーから黒い霧を噴出させ、その中に紛れて姿を眩ます。これは移動手段にもなり、空間転移の真似事ができる。原理は知らない。

  これを使って日本各地で無差別に活動する事により、世間に対するナイトローグの匿名性を倍増させる。どんな組織が相手でも、こうでもされれば俺個人の特定は極めて難しくなるだろう。ただし、一定回数の使用後はインターバルが必須となる。どんな銃も銃身が焼ければ使えなくなるのと似たようなものだ。

 

  トランスチームシステムとは、大型拳銃型の専用機器“トランスチームガン”にフルボトルと呼ばれる手のひらサイズの小物を挿し、色々な効果を発揮させるものである。一に変身、二に単体武器としての使用ぐらいしか幅はないが。

  ナイトローグの変身に必要なフルボトルはコウモリの名を冠する“バットフルボトル”。全体的に色は紫だ。また、フルボトル単体でもシャカシャカと振れば、ボトルに込められた成分による特殊技を扱えるようになる。

  今回のはコウモリだから、理屈上は生身でコウモリごっこができる訳だ。日常で使うものではないな。それなら変身した方が楽だし強い。

 

「万引きよぉー!! 誰かー!」

 

「引ったくりよー!!」

 

  例えば、こんな時。一ヶ所で泥棒が二人同時で現れたとする。万引き犯は走りだが、引ったくり犯はバイクで逃走している。この二人を捕まえるつもりなら、まず生身では無理だ。

 

「はーい、お縄につきましょうねー」

 

「「はあっ!?」」

 

  変身している状態なら、走りでいとも容易くバイクに追い縋れる。こうして二人組の犯人を捕らえ、簀巻きにした上で交番に届け出るのだった。

  その際、警察官からものの見事に職務質問されたのはここだけの話だ。

 

「君、仕事は一体――」

 

「年は十五! 仕事はボランティア! これは趣味のコスプレです! それでは!」

 

「あっ、待ちなさい!!」

 

  しかし、百メートル四秒くらいの走力で警察官を振り切ったのは失敗だったと後悔している。そんなパワードスーツ擬きのコスプレセットなんてどこにあるんだ。

  また、非力な学生を集団リンチしているふたちの仲裁に入った後の帰り道。とあるビルの壁面のアレで流れるニュースで、俺の事が取り上げられていた。

 

『――ここ数週間の出来事です。日本各地で、まるで特撮に出てくるようなコスプレをした不審者が、人助けをおこなう事件が発生しました。不審者は“ナイトローグ”と自称しているようです。多くの目撃証言や防犯カメラの映像が寄せられていますが、足取りは掴めておらず――』

 

  この時、俺は人混みの中でのんびりとニュースを見ていた。溶け込みはできずとも、警察官以外に余計なちょっかいを掛けてくる人なんてそうそういないと思っていたからだ。しかも、コスプレイヤーと一見しそうな格好だ。通報も簡単にはされないだろう。

  周囲の視線は気にする事なく、遂に俺の再評価活動が表立ったのだと感慨深くなる。仮面の下で、頬がものすごく緩みそうだ。モチベーション維持にも繋がる。

  だが、その考えは非常に甘かったと思い知らされた。

 

『なお、出現位置に度々ISの反応があるとして、政府よりナイトローグの指名手配がされました。日本製のISとは異なった特徴により、アメリカや中国、ロシアなどに関与が疑われていますが、各国は今のところ否定しています』

 

  一体誰が、ナイトローグがIS扱いされるなどと予想できたのだろうか。女性にしか使えないはずのパワードスーツだと。

  インフィニット・ストラトス――略してIS。元々は宇宙空間で活動するものを、世界がこぞって軍事兵器とか競技用とかに改造したものだ。総生産台数は四桁も越えていないが、空戦だとべらぼうに強い。水中戦とかも地味に強い。誘導兵器の対策をしていれば、ラプターなどの最新鋭戦闘機に舐めプで勝てるポテンシャルを秘めている、実に宇宙的な存在である。これでミノフスキー粒子とかもあった日には、世界中の軍隊が赤ん坊のようにヤメテと泣き出す事だろう。

  すなわち、俺がこうして歩道のど真ん中で突っ立っているだけで、結構ヤバめな国際問題や混乱をもたらす事になる。何の罪もないナイトローグに更なる風評被害をもたらすとか、なんという事だろうか。IS絶対に許さねぇ。

  一先ず、俺は急いでその場から立ち去った。常に変身していては位置が特定されるらしいので、大人しく変身解除しようにも奇襲とか怖いから明け暮れる。近くの海辺で夕日を眺めながらじっと体育座りしていたら、ヘリや戦闘機が俺に向かって飛んで来たのは貴重な経験だった。

  そうして追っ手が来る度に、霧を噴き出すあの空間転移で振り切る。一時は再評価活動を中止しようかと思ったが、もはや生き甲斐になっている以上は手放すのが惜しくなる。中途半端で終わらせるのも、何だか癪で嫌だった。どうせなら、バカにする人がいなくなるぐらいにまで活動したい。

  それに、ISを勝手に所持しているという罪を背負ってしまったのだから、後戻りはできない。自然と俺に残された道は、たった一本しかなくなった。

 

「すみません。沖縄に住み着いたマングースとかお魚とかの外来種の駆除をしたいんですけど、これって無断でやったらダメですよね? 許可とかはどうすれば下りるのでしょうか?」

 

「は、はぁ……」

 

『ナイトローグに告ぐ。君は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて大人しく出てきなさい。お国の母さんが泣いているぞ。こんなナイトローグにするために育ててきたんじゃないって』

 

  これは沖縄県の市役所での出来事だ。窓口の女性事務員に話を伺っている最中に、いきなり外から拡声器で通告されたのだった。きっと、役所内にいる誰かが通報をしたのだろう。

  むやみやたらと迷惑を掛けるつもりはないので、俺は素直に外へ出る事にした。敵意がない事を示すため、丸腰の状態で両手を上げる。トランスチームガンなどは気付けば消えていたが、まぁよくある事だ。

 

「はい! 大人しく出てきました!」

 

「確保ぉぉぉぉ!!」

 

「すみません!! 逃げさせてもらいます!!」

 

  セントラルチムニーから霧を噴き出し、その場を後にする。ナイトローグになった事への贖罪ならば、刑務所や研究所にぶち込まれるのではなくボランティアや人助けで償いたい。

  公務執行妨害や逃亡罪も背負う事になる? 上等だ。その倍の量の再評価活動をするのみ。俺はもう止まらない。止まれない。止まってはいけないんだ。

 

「スクープです! 見てください、ナイトローグがホームレスへの炊き出しを手伝って……あぁ!? 警察が駆け付けてきました! ナイトローグを捕まえに来たのでしょうか? ヘリや特殊部隊、ISである打鉄も確認できます。あ、ナイトローグが背中にコウモリの翼を出して空を飛びました! 打鉄が必死に追い掛けていきます!」

 

  とある炊き出しの手伝いにて。テレビカメラがやって来たり、野次馬が集まってきたりと、周りは騒動になっていた。それでも、料理を盛った紙皿を受け取るホームレスたちの綻んだ表情は、俺にとってはかけがえのない思い出になるのだった。

  できる事なら、NPO団体と協力してこの人たちの社会復帰を手伝っていきたい。だが、この国の政府がそれを許さなかった。セントラルチムニーの酷使で空間転移は一時的に使えなくなったので、代わりに大空へと羽ばたく。

  その直後に、バカデカイ専用アサルトライフルを構えた打鉄が俺にピッタリと追従してきた。ヘリは完全に置いてきぼりになり、二人だけの逃走劇が始まる。

 

「そこのナイトローグ!! こちらには発砲許可が下りている! 停止命令を聞かないのであれば、撃ちます!」

 

「私にはナイトローグ再評価という使命がある! 日本が俺を排するのであれば、世界中を駆けずり回って貧困者を助ける募金を呼び掛ける作戦に移らせてもらうぞ! 他にやる事ないから!」

 

「やめなさい!?」

 

  そんなやり取りをしながら、どうにか目の前の打鉄を振り切る。背後に街を取るようにして逃げたのが功を奏した。迂闊に流れ弾を出せない相手の心理を突く随分と卑怯な逃げ方だったが、甘い事は言っていられなかった。

  ただ、この手が通用するのは一度までだった。俺を呆気なく絶望させる者が襲来してきたのは、学校の屋上から飛び降り自殺を図ろうとした男子学生をちょうど助けた時だった。

 

「待たせたな」

 

「ブリュンヒルデ来た! これで勝てる!」

 

「……へ?」

 

  助けた男子学生にケガは一切ない。それどころか、助けた本人から感謝の念と憧憬の眼差しを受ける始末。なのにこの仕打ちだ。

  普通のパイロットが操る打鉄一機だけなら、セントラルチムニーのインターバル中でも逃げれる自信があった。今もインターバルの真っ最中だし、男子学生が二度も自殺を試みるかもしれないから放っておけない。相手も相手で、応援が来るまでは一人だけだったから、睨み合いになるだけで手を出してこなかった。まさか……まさか織斑千冬がやって来るなんて。

  織斑千冬とは、端的に言うとISバトルの世界大会で優勝した強い人だ。二十代前半と若く、相対するのがテレビを介してなら、ちょっと関心を持つに留まっただろう。この人から真っ向に出会って、無事に逃げ切れる自信がない。

  そして案の定、男子学生の保護は先に来た人に任され、織斑千冬が俺の追撃に出た。霧ワープが依然として使用不可だからとても辛く、焦って背を向ければブレード片手に一瞬で肉薄してくる。

  俺と彼女の技量差と戦意の差は一目瞭然だった。こちらは必死にスチームブレードを振り回すが、得物の扱い方なら彼女がダントツで上。そもそも、俺は相手をしっしと追い払う気でいたから、重たい斬撃を受け止めたスチームブレードがあっという間に手元から弾かれる。

  ダメ元でトランスチームガンを使おうと思い至るが、スチームブレードを放したばかりの利き手が痺れている。本格的な戦闘なんて初めてだった。素人でもわかる。彼女は、織斑千冬は俺を殺す勢いで攻めかかっている。

  そうこう戸惑っている内に腕を取られ、肩の関節が極められる。ついでに地面へ強く押し付けられ、万事休すとなった。セントラルチムニーはまだ休息している。

 

「はぁ……はぁ……。わかった、大人しく捕まる。だがその前に、ユニセフ――」

 

「ダメだ。貴様を連行する」

 

「う、うわああぁぁぁぁ!?」

 

  せめてもの望みを告げるも空しく、そのまま変身解除されるまでボコボコにされる。かくして俺、日室弦人は捕まってしまうのだった。

 

 





Q.このナイトローグは他にどんな事をしているの?

A.基本的に餅は餅屋に任せるスタイル。タバコの吸殻を拾ったり、掃除をしたり、災害や事故現場に向かって怪我人の応急手当てを手伝ったり、迷子になった子供の親を懸命に探したり、ぎっくり腰の年寄りを運んであげたり、カツアゲ現場を差し押さえたり、まぁ色々ですね。


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