ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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ある日の夜。千冬はIS学園の全校生徒がナイトローグの仮面を被るという夢を見て、かなりうなされていたりする。

そして内海。エボルにパンドラボックスを閉じるように詰め寄る際にナイトローグに変身しなかった件について、君とじっくりお話をしたい。


乙女に生まれ変わった泉京水

「織斑くんクラス代表決定おめでとう!」

 

「「おめでと~!」」

 

  夕食後の自由時間。寮の食堂にて、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』が開かれていた。クラスメートが乱射したクラッカーは、主役である一夏の頭の上にのっかかる。

  しかし、祝わってもらっているにしては彼はあまり嬉しそうではなかった。むしろ溜め息をつき、気後れしている。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」

 

「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」

 

「ほんとほんと」

 

  その原因はよくわからないが、きっとクラス代表めんどくさいと心の中で思っているのだろう。できれば文句は俺ではなくオルコットさんにお願いします。

  俺たちにできるのはせいぜい、食べ物で釣って彼に元気を出させる事だろう。何故か一組だけでなく二組の面子がこの場に揃っている事は気にせず、京水と一緒にクッキーを乗せた皿を差し出す。

 

「クッキーです。焼いてみました」

 

「「わーい!」」

 

「ナイス! 日室くん!」

 

  すると大勢の女子たちに押し寄せられた。テーブルの上に置いておくと、凄まじいスピードで数を減らしていく。一応、自分たちの分は取ってあるので心配事はない。

  焼いたクッキーに卵やバターは使わず、カロリーは控えめに抑えている。味はあっさりとしていて、コクやまろやかさはなくなってこそいるが美味しい事に変わりはない。

  もちろん菓子作りは初めてな上に、京水や谷本さんたちを手伝った形だ。俺一人でできる自信はなかった。

  やがて、のほほんさんもクッキーを一枚手にする。しかし、それは他のと比べて紙のように薄かった。

 

「ヒムロン、これかなり薄いね?」

 

「あー、それ薄く切りすぎたんだ。スティック状に冷凍してたんだけどさ」

 

「もー聞いてよ本音ー。弦人ちゃん、ギリギリまで薄く切っちゃうものだから大変だったのよ? 手伝ってくれたのはいいんだけどクッキー作るの初めてなのに、そのまま『Ready go! Voltaic finish!』って叫んでオーブンに無理やり入れてちゃってー」

 

  横から京水による補足が入り、俺はぐうの音も出なくなる。その時の俺は間違いなく、英雄症候群やトリガーハッピーみたいなものに襲われていた。

  だが、その失敗は是非とも次の挑戦への糧にしよう。まずは事実を受け止めて、相槌を打つ。

 

「うん。テンパってとち狂った」

 

「わぁ、素直だね~」

 

「普段から妙に狂ってるって突っ込んじゃダメかな?」

 

  そうして気楽に反応するのほほんさんと、やや辛辣な言葉を吐く谷本さん。狂っているのは否定できないが、これでも理性はしっかり残してあるつもりだ。

  次に俺は別に用意してあるクッキーを持って、一夏の元へ持っていく。見てみれば、彼の隣に篠ノ之さんが座っていた。二人とも飲み物だけを手にしていて、篠ノ之さんに至ってはジュースではなくお茶だった。

  ただし、当の彼女は何故か不機嫌で、嫌味の込もった調子で一夏に話し掛ける。

 

「人気者だな、一夏」

 

「……本当にそう見えるか?」

 

「ふん」

 

  おっとこれはいけない。せっかくのパーティーなのだ。二人にも楽しんでもらわないと大損となる。

 

「どうも、お二方。ナイトローグです」

 

「よっ、弦人。てかまたお面かよ」

 

「おう。ナイトローグそのものでクッキー作りは少し無理だからな」

 

  一夏と挨拶を交わし、冗談混じりに答える。この頃になると、俺のお面に突っ込む人はクラスメートの中でほとんどいなくなっていた。きっと慣れたのだろう。

  だが、冗談抜きにしてもナイトローグに変身した状態では調理に色々と不都合が起きるのは確かだ。まず味見ができない。これはかなり致命的である。

  それはさておき、俺はヘコヘコとしながら一夏たちにクッキーを差し出す。

 

「どうぞどうぞ。クッキー焼きました。パーティーの主役が暗くしてちゃ何も始まらない」

 

「いや、周りを見ればどっちかと言うと、騒ぎたいキッカケが欲しかっただけなような……まぁ、いいや。サンキュー」

 

  皿ごと快く受け取ってくれた一夏は、そのまま一枚を口の中に放り込む。ある程度咀嚼したところで何度も頷き、まだ飲み込んでいないにも関わらず味の感想を述べる。

 

「ん、美味いなコレ。箒も食べるか?」

 

「いや、私はいい」

 

「遠慮するなよ。お前、さっきからお茶しか飲んでないだろ? これ多分、カロリー低いクッキーだぜ。味がなんか淡いし」

 

「口の中飲み込んでから喋れ。行儀が悪いぞ」

 

  そんな風に一夏が接するが、篠ノ之さんはツーンと受け答えるばかり。機嫌の悪さを直すのはなかなか難しそうな雰囲気だ。ここは一夏に任せておこう。

 

「それじゃあ、俺やる事あるから二人でごゆっくり……」

 

  それだけ言い残して、おれば二人の元から尻尾を撒くようにして立ち去った。

  ああは言ったが、やる事など何もない。強いて言うなら、自分の分のクッキーを完食する使命だろうか。ほとんどが薄く切りすぎて焦げかけたものばかりだ。少し悲しくなるが、まだ食べられる代物ではあったので甘んじよう。

  ついでに飲み物も何にしようか。麦茶を飲みたい気分だが、はてさてあったものかどうか。

  そうしていると、いきなり正面に京水が飛び込んできた。ニコニコとしながら、そっと俺の頭からお面を外そうとする。俺は咄嗟に京水の手を掴んで逃れようとするが、意外と抵抗が強かった。

 

「弦人ちゃん。今日のお詫び、まだ済んでないわよ♪」

 

「え? もう済んでなかったっけ? ほら、人力絶叫マシーン」

 

「あれはノーカン。嬉しさのあまりについやっちゃったの。この瞬間までどんなお願いを聞いてもらおうか考えてて、ワタシずっと期待してたんだから」

 

「……もしかして無理やりお面取ろうとしている理由ってそれ?」

 

「ええ! 時は来たわ!」

 

  はっきりと肯定する京水。その目はキラキラと輝いていて、俺のお詫びをまだかまだかと待ち望んでいる。チクショウ、元々の容貌のあどけなさも相まって小動物のように可愛く見える。

  これは少々、嫌な予感がしてならない。彼女は異性が相手でも特に抵抗はなく、スキンシップがかなり積極的なのだ。その上、今もなおクネクネとした動きをしている。これが格闘技の動きも混ざっているというのだから、たちが悪い。

  京水は改めて俺を見据えると、おもむろに口を開く。さぁ、来るなら来い。即刻、提案を蹴るだけの覚悟は出来ている。その勢いでお詫びの件を人力絶叫マシーンの奴で完結してみせよう。

 

「ワタシを抱き締めてちょうだい! ぎゅっと! はぐっと! 力強く!」

 

「さて、この話は終わりだな。人力絶叫マシーンで勘弁してくれ」

 

「酷い! ワタシとは遊びだったのね! あんなにも熱い抱擁を交わしあったのにぃ!」

 

「おい待て! その言い方はズルすぎるぞぉ!?」

 

  刹那.周囲からの視線がいきなり俺に突き刺さる。京水が急に叫び出すものだから、そうなるのは当然だ。

  図らずとも事情を把握している鏡さんは苦笑いを、谷本さんは驚き呆れては見てみぬフリをしていた。彼女たちの助けは期待できそうにない。わかったよ、一人でどうにか解決してやるよ。

 

「ちっ、上等だ!」

 

  複数の視線に堪えるのがそろそろ苦しくなってきたので、俺は早期決着を狙う。無造作に外したお面は近くのテーブルの上に起き、京水と再び対峙する。

  それと同時に俺たち二人を見守る人々が固唾の飲んで静かにしていた。騒ぐものばかりだと思っていたが、そうではない。まるでガンマンの決闘を真剣に眺めるような空気が辺りに漂ってきた。なんだこれ。

  一方の京水はキラキラと顔を輝かせながら、いつでも抱き着かれていいように両腕を大きく横に開き、身体の正面を無防備に晒し出す。どうしてこの子はこんなにもノリノリなのだろうか。

 

「さぁ、こっちよ、こっちよ! こっちこっち!」

 

「一瞬で終わらす……!」

 

「あぁ♪ その怖い凄みも大好きだわ!」

 

  しかし、京水ほど楽しく騒ぐほどの余裕は俺になかった。あるのは危機感と緊張感、申し訳程度の羞恥心だ。温度差が激しい。

  この場でずっと躊躇していれば、逆に居たたまれない思いを長引かせるだけだ。根本的な解決にはならない。一度深呼吸した俺は、思い切って京水に近寄っていく。

  ここで目指すのは無我の境地。G3-XのサポートAIに従うが如く、彼女を抱き締める。手を背中に回し、数秒間だけ離さない。

 

「「キャー!!」」

 

「ズルい! 泉さんズルい!」

 

「日室くん、やっぱりお面取った方がイケテるよ!」

 

  そして、たちまち大勢の女子から歓声が沸き起こった。つんざくような黄色い悲鳴に、思わず耳を押さえたくなる。中にはコレを羨ましく思う発言も飛んできた。

  三……二……一。目を瞑って黙々と数字を数えた俺は、京水の様子を確認する。恐る恐る目を開けてみれば――

 

「……キュン」

 

  俺の腕の中で、幸せそうな顔で気を失っている京水の姿があった。目覚める気配は感じられない。

 

 ※

 

  ワタシの名前は泉京水。花も恥じらう年頃の女子高校生。今日もIS学園で青春を謳歌しているわ!

  それとここだけの話。実は、前世は乙女じゃなくてヤクザだったの。仁義を忘れた奴らにお腹をグッサリ刺されて死んじゃったけど、その時にワタシを変えるキッカケになる彼がやって来たの。そう、ワタシの初恋の相手!

 

「あっ……誰、このイケメン?」

 

「こんな連中、忘れちまえ。お前は俺のもんだ」

 

「素敵。できれば、貴方に刺されたかった……ス……テ……キ……」

 

  彼の名前は大道克己。ワタシは克己ちゃんと呼んでいるわ。あの告白を聞いて本当の気持ちに気づいたワタシは、死の超越者……ネクロオーバーとして蘇って彼に着いていく事にしたの。まぁ、あんなにスゴいイケメンに間近で告白されたら、落ちない人なんていないわよね。

  でも、何故かしら。正真正銘の乙女に生まれ変わってからは全然覚えていなかったのに、途中からふと思い出すなんて。不思議よね。あれは十歳の頃だったわ。

 

  あの日のワタシは夢を見ていた。いつものように夢で終わって、朝日が昇れば起きるものだと思っていたの。

  だけど、その時の夢はいつもと違っていたわ。もやもやと曇っている、知らないはずなのに知っている記憶がまるで掘り起こされるみたいで。

  気がつけばワタシは澄み渡った青空の下、月の紋様が描かれている黄色のパジャマ姿のままで草原の上に立っていた。最初から裸足だったので歩いてみれば、足元の草が柔らかくて楽しかったのを覚えている。

  しばらく歩いた先には小さな丘があった。そこには一本の木が生えていて、日陰では木に寄り掛かって腰を下ろしている人影を見つけたわ。無性に気になって仕方なかったワタシは、その人――彼の元へそのまま近づいてみたの。

  じっと瞼を固く閉じて、上げた片膝の上に片腕を乗せている。纏っている赤いラインが入った黒の戦闘ジャケットは、胸元が大きく開かれていた。キチンと締めるのは息苦しいからイヤだっていうのが、ひしひし伝わる。

  次に顔を確かめてみる。青いエクステンションをしたイケメンだった。そして彼の顔を目にした瞬間、もやかかっていた記憶が突如として呼び覚まされたわ!

 

「あ……あ……」

 

  ワタシは彼を知っている。顔も、名前も、人柄も、とにかく全て!

  途端に涙が出てきて止まらなくなったワタシは、大急ぎで駆け寄りながら彼の名前を叫んだ。

 

「克己ちゃん!!」

 

  ワタシの声にピクリと反応する克己ちゃん。彼はそっと顔を上げて目を開くと、ちゃっかり隣に座り込んだワタシをチラリと見て呟く。

 

「京水……な訳ねぇか」

 

「どうして……どうして忘れてたのかしら、克己ちゃんの事! あんなにも好きだったのに!」

 

「……おい」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい克己ちゃん! うおおぁぁぁぁん!!」

 

  ダメね、ワタシ。思いっきり泣いてしまうなんて。だけど、そのまま泣きついてしまったワタシを克己ちゃんは決して突き放さずに、優しく受け止めてくれたわ。頭や背中をポンボンとされて、むしろ嬉しくなっちゃった。

  もちろん、そんな克己ちゃんの行動に驚いたのも事実。以前の彼なら、こんな事は絶対にしてくれなかった。目の前にいる克己ちゃんは偽物なんじゃないかとついつい疑ったけれども、それも杞憂で終わった。彼の瞳を見ればわかる、確かに風都を恐怖のどん底に陥れた大道克己その人だと。

  それからは克己ちゃんといっぱいお話したわ! ほとんどワタシが話題を振るばかりだったけど、克己ちゃんが相槌を打って真摯に聞いてくれたのが堪らなく最高だった! もうここが天国だって錯覚するぐらいに!

  だけど、そんな幸せは長く続かなかった。そして、夢の中で克己ちゃんと出会うのはこれっきりになるのだった。

 

「え? 何? 空がいきなり赤く……」

 

「……!」

 

  突如、血に染まるかのようにして赤くなる大空。ワタシは一人で困惑していると克己ちゃんはばっと立ち上がり、怖い顔つきで草原の向こう側を睨み付ける。

 

 ――我ら来たれり――

 

  すると、そんな声がどこからともなく響き渡り、おぞましい雰囲気を漂わせる。不死身の傭兵時代を過ごしていたワタシでも、こんなに恐怖心が煽られるのは初めてだった。

  いつの間にか草原の景色は消えてなくなり、代わりに仄暗い空間が広がっている。僅かに残っているのは、ワタシと克己ちゃんがいる緑の丘だけだった。

  次の瞬間には雷鳴が轟き、ワタシたちの前に稲光が落ちる。光は一瞬の出来事で、ワタシは眩しさのあまりに腕で光を遮った。そうして徐々に腕を下ろすと、信じられない光景が飛び込んできた。

 

「「ライダー大車輪とかいう間抜けなのか真面目なのかわからない技にやられた自分たちが許せない!! この恨み、お前らで晴らす!!」」

 

「何故だ! 何故ことごとく大ショッカーとか作っても組織崩壊するのだ!? おのれディケイドぉぉぉ!」

 

「十面鬼の出番が……ない……? ……お前もアマゾンにしてやるぅぅぅ!!」

 

「コマサンダーは強いのだ! スーパー1より強いのだ!」

 

「こんな事になるなら、立花なんかにコーチングしてもらうんじゃなかった!」

 

「おのれRX! 自爆してやるぅぅぅ!」

 

「もっと強くなって僕を笑顔にしてよ」

 

「人は人のままであればいい……」

 

「戦え……戦え……」

 

「アークの名を冠しているのに、最近だと戦闘員扱いしかされていません」

 

「いいほのぼのだ。感動的だな。だが無意味だ」

 

「俺はもう! 鬼の力を制御できないっ!」

 

「おかげで最強のネイティブになれた……」

 

「……」

 

「ウェーイクアップ! Go to hell!」

 

「「おのれディケイドおおぉぉぉ!!」」

 

「では、良き終末を」

 

「フォーゼの初期フォームなんかに負けて悔しい」

 

「ウィザードじゃなくてエターナル? エターナル? ……インフィニティを思い出すからムシャクシャするなぁ!」

 

「そうだ! 全て私のせいだ! それで気が済むのなら初めからそうしておけ! フハハハハハ!!」

 

「何がイッテイーヨだぁぁぁぁ!!」

 

「どうして私があんなにもあっさり敗れて……」

 

「俺が裏ボスの前座? 幻夢コーポレーションの三大ヤバい社長たち絶対許さねぇ!!」

 

  ヤバいのはむしろコイツらね。ドーパントみたいなヤツもいれば、明らかに仮面ライダーっぽいのも混ざっている。とにかく、ワタシの想像を絶するような出来事が起こっているのは間違いなかった。他にもコックローチドーパントの親戚みたいな怪人がうようよと湧いていた。

  一方で、いつもと変わらぬ調子の克己ちゃんは堂々と奴らの前に出る。ついでに懐から取り出したのは、ロストドライバーとエターナルメモリ。

  いけない! ワタシも戦わなくっちゃ! ビンッビンに立たなくっちゃ! あ、ルナメモリがないけどどうしましょう! 鞭もないわ! あと不死身じゃないわ!

  しかし、克己ちゃんはこちらに背を向けたまま、一緒に戦おうとするワタシを言葉だけで力強く制する。

 

「京水。今すぐこっから逃げろ」

 

「え!? そんな、克己ちゃんを一人にはしておけないわ!」

 

「そんなガキの身体で何ができる。邪魔だ」

 

「でも! やっと克己ちゃんと会えたのよ!? 簡単に別れられる訳ないじゃない! 次があるかわからないのに!」

 

  今のワタシでは完全に足手まといになるのはわかってる。だけど、克己ちゃんは仲間を平気で切り捨てられるぐらいの冷酷さと残忍性を持っている。例え戦えなくても、肉盾ぐらいにはなれるから何も問題ないはずだ。ワタシの全てを彼に捧げるって、昔から決めていたの。

  ワタシはすぐさま彼の隣に並び立とうとする。だが、途中で不可視の壁に遮られて克己ちゃんの元に行くのは無理だった。叩けど叩けど、壁は壊れない。この瞬間だけ、非力な女の子でいるのが憎らしかった。

 

「このっ! このっ! どうして? どうしてこうなるのよ!? どうして……!」

 

  何もできないと悟るや否や、その場でがくりと崩れ落ちる。不可視の壁にすがるようにして、再び涙を流す。

 

「新しい人生を歩んだお前と縁はとっくに切れてるんだ。俺なんか忘れろ」

 

「無理よ……! だって、ワタシは……!」

 

「NEVERの面子で地獄に残ってるのはもう俺だけだ。お前が来る場所じゃない」

 

「……っ!」

 

「それに、俺はこの地獄を楽しんでる。分かち合うつもりはさらさらねぇ」

 

  瞬時に理解する。乙女になったワタシと違って、依然として克己ちゃんは地獄に堕ちた死者だという事に。いくら鮮明な夢であっても、彼の言葉一つ一つが非常に現実味があり、説得力を持っていた。

  ワタシと克己ちゃんは、生きる次元が初めから異なっている。ワタシはこの世で、克己ちゃんは地獄だ。一緒にはいられない。どうしようもない真実を前にして己の無力感に際悩まされる。こんなにも乗り越えるのが不可能な障害、ガイアメモリ無しで一体どうすればいいのよ……?

  その時、ふと全身が抱き締められる感覚に襲われる。はっと我に返ってみれば、克己ちゃんが不可視の壁を抜けてワタシを抱き締めていた。

 

「元気でな、京水。強く生きろよ」

 

  そして、ドンと後ろに押し出される。尻餅を着いてしまったワタシは頭の回転が追い付かず、ただぼおっと克己ちゃんの振り返る姿を見つめるだけだった。

 

「克己ちゃん!!」

 

  数秒遅れてワタシが叫んだ頃には、身体がフワリと浮き上がる。どんなに抵抗しても、この謎の浮力には歯が立たなかった。どんどん後ろの方へ引き寄せられる。

 

《エターナル》

 

「変身」

 

  この間にも克己ちゃんは、仮面ライダーエターナルへと変身する。黒いローブがたなびく後ろ姿が、とても懐かしかった。

  次第に意識が遠退いていく。夢のはずなのに、なんだか眠たい気分。

 

《ゾーン!》

 

《アクセル! バード! サイクロン! ダミー! エターナル! ファング! ジーン! ヒート! アイスエイジ! ジョーカー! キー! ルナ! メタル! ナスカ! オーシャン! パペティアー! クイーン! ロケット! スカル! トリガー! ユニコーン! ヴァイオレンス! ウェザー! エクストリーム! イエスタデイ! ゾーン!》

 

「さぁ、地獄を楽しみな!」

 

  最後に耳にしたのは、どこか上擦った克己ちゃんの声だった。

 

 

  克己ちゃんとの夢での再会はこれで終わり。ベッドから起きた私は静かに涙を流していて、克己ちゃんとの別れに未練がましくなっていた。だけど、元気にやらないと克己ちゃんに怒られちゃうし、きっとどこかにいるレイカにも笑われちゃう。

 

「さよなら、ワタシの初恋……」

 

  涙を拭い、過去への想いを完全に断ち切る。あんな風に別れ話を出されたら、逆に清々しく感じたわ。初恋は叶わないと誰かが言ってたような気がするけど、少し悲しかった。

  元気なのがワタシのモットー。失恋から立ち直るのも早く、心機一転して乙女の人生を謳歌する事を決めた。必死に勉強したり、関節技を極めたりとかして。

  そんな時だった。ナイトローグ……弦人ちゃんに出会ったのは。

 

「どうしました? 小銭落としちゃったんですか? 拾うの手伝いますよ」

 

  エターナルとは真逆の色をした黒のコウモリ男。その瞬間、ワタシの身体にビリリと電流が走ったわ。彼は克己ちゃんとほぼ同じタイプ。優しくとも一歩道を踏み外せば、たちまち悪魔の仮面ライダーになれるって。

  運命とは皮肉なものね。またもや仮面ライダー(で良いのかしら?)に惚れちゃうなんて。しかも一目惚れ。本能が疾走してしまった。

 

  あれはワタシが自動販売機の下に小銭を落とした時の出来事よ。いつもなら同年代よりも成長している自慢のおっぱいが邪魔して、上手に地に伏せて手を伸ばす事ができなかったの。

  そうしたら、いきなりやって来た彼が自動販売機をちょっと持ち上げてくれて、なんとか小銭を取り戻す事ができたわ。

  その後、弦人ちゃんはあっという間に立ち去っていった。自己紹介する暇もなかったけと、後にIS学園で再会するとは夢にも思わなかった。ただし、ワタシがあの日助けた子だとは気づいていないみたい。

  でも無理はないわ。あの時のワタシ、ロングヘアーで全然印象が違っていたから! がっかりしたけど、全然悔しくないから!

 

 ※

 

  ふと目が覚めると、食堂の天井が見えた。どうやら、ソファーの上に寝かされていたようだ。一気に覚醒したワタシは跳ね上がり、狼狽する。

 

「ああっ! ヤバい! また人生振り返っちゃってる! ハッ、これ走馬灯だわ、走馬灯! 死んでしまう! あっ、でもワタシ死んでた。死んでたのに生きてるってどういう事!? デスとデス!! 死んでしまうんデス!!」

 

「うるさいっ!」

 

「むぎゅっ!」

 

  間髪入れず、誰かに片手で両側の頬を挟まれる。そちらに視線を向ければ、もう片方の手で自分の耳を押さえている弦人ちゃんがいた。あからさまに嫌そうな顔をしている原因は、きっとワタシのさっきの発狂のせいに違いない。ごめんなさいね?

  弦人ちゃんはワタシのほっぺをおもむろに解放すると、手短に用件を告げる。

 

「てか復活早いな。さっき新聞部の人が来て集合写真取るってさ。どうする?」

 

「はい! 行きます、行きます!」

 

  それを聞いたワタシの行動は早かった。咄嗟に弦人ちゃんの腕を掴み、カメラの前で人が集っている場所へと走る。

  クラスの思い出だけでなく、弦人ちゃんとの思い出もたくさん作らないと。あと、アプローチも欠かさずに!

 

 

 




Q.おい後半。

A.地獄の浄火に長年当てられていたせいで、克己は徐々に元々あった優しい心を取り戻しています。ただし、ネクロオーバーになった後の人格は消えていないので、悪しからず。


Q.ダグバどうすんの?

A.ダグバは隣にいたドラス相手に喧嘩吹っ掛けました。そして乱戦状態に。

変身アイテムはイエスタデイとエターナル、エクストリームの三本使って、《壊れていない昨日の状態》を保つというごり押しで保険を掛けてたりして。まず、みんな死んでるから殺せないですけど。

地獄にいる連中が早く成仏しないからメガリバース装置が使われるんだ。


Q.もしもヒムロンが悪魔の魂に目覚めたら。

A.具体例を挙げると次のようになります。

・害虫退治や人助けのためだけに不法入国を何十回も繰り返す。

・バスジャック犯を勝手に捕まえて人質を無事助けるが、警官たちの公務執行妨害の現行犯に。

・放置された地雷源をすみずみまで練り歩き、片っ端から爆発させる迷惑行為。

・どこぞのミタゾノさんみたいに誰かさんの不祥事や悪事を白日の元に曝すが、プライバシーの侵害。

・一々確認取るのがかったるいので、まさに瀕死の状態の野生動物を保護・治療する。後は専門の機関などに丸投げするが、れっきとした鳥獣保護法違反。

・違法薬物や武器の密輸現場をおじゃんにし、取引用の資金は没収しては持ち主に返さず、全てユニセフとかの募金に溶かす。立派な強盗罪。

・戦争介入し、両側陣営の偉い人を片っ端から取っ捕まえて無理やり終戦させる。ただのテロリスト。

・トランスチームガンとスチームブレード両手に、真正面からいじめられっ子を護衛する。あと、いじめっ子たちとネチネチと着いていってイジメが悪い事を必死に説く。あと、イジメ現場の証拠も手に入れて警察とかにつき出す。

ナイトローグ「悪い子はデビルスチームかけちゃおうね」



なんて大罪人なのでしょう。
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