ナイトローグの再評価を目指す話   作:erif tellab

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京水がヒロインになっている作品は、恐らくここだけ。(20180520現在)


前門の無人機、後門のカイザーシステム。間にいるのはナイトローグ

 夜の八時過ぎ。コスプレナイトローグの事で色々と野暮用を済ましていた俺は、門限が迫る前にとっとと部屋へと戻る。

  勢い良く前屈みになり、地面に両手をしっかりついて側転。時々バック転。これを平地だけでなく階段の上でもひたすら繰り返し、学生寮の廊下を転がり抜ける。

  やがて自分の部屋が見えてきたところで、背負っていたカバンを外す。扉の前で着地すると同時に扉を開き、カバンを部屋の中に滑り投げて俺も飛び込む。

  ガチャン。前転して起き上がると、後ろの方から扉が独りでに閉まる音が聞こえる。

 

「ヒムロン、スタイリッシュお帰りなさ~い」

 

「スタイリッシュただいま、のほほんさん。ところでそこの人は?」

 

  のほほんさんに迎えられたのでそちらの方に視線をやると、ベッドの上で毛布にくるまっている第三者を発見する。顔は見えない。

 

「鈴々だよ」

 

「あぁ、ナイトローグをバカにした人か」

 

「どういう覚え方よ! あとその呼び方はやめてって言ってるでしょ、本音!」

 

「えー? 可愛いのに~」

 

  毛布の中にいたのは凰鈴音さんだった。咄嗟に顔だけ出しては本音に抗議する。この二人、もうこんなにも仲良くなっているのか。昼休みに篠ノ之さんとオルコットさんを相手にしていた時とは大違いだ。

  しかし、こうして部屋に転がり込んでいる理由が腑に落ちない。毛布を被ってじっとしていたのであればなおさらだ。俺はすかさず凰さんに質問する。

 

「で、凰さんは何の用件ですか? またナイトローグをバカにしにきたの? なら表に出ろ、キン肉ドライバー掛けてやる」

 

「名前呼びで良いわ。ナイトローグをバカにしたのは、その……悪かったわね。私、他の国の事はあんまり興味ないし」

 

「オーケー、鈴音さん。次バカにしたらシャイニングウィザードが来ると心得てください」

 

「……あんた、もしかして根に持つタイプ?」

 

「できればバネにしたいと思ってる」

 

「まぁまぁ二人とも~。落ち着いて、ね?」

 

  場の雰囲気が悪くなる予感を察知したのか、いきなり仲裁に入ってくるのほほんさん。一応、鈴音さんから謝罪の言葉をもらったので、俺は取り敢えず怒りを鎮める事にする。

  それから、鈴音さん本人の口からここまでの経緯を話してくれた。全ての始まりは篠ノ之さんと部屋を代わって一夏と同室になろうとしていた事が始まる。この時点で何やっているんだと突っ込んでしまったが、彼女曰く「幼なじみならオーケーなの」らしい。俺は細かい事を気にしない事にした。

  篠ノ之さんと案の定揉めた後、鈴音さんは一夏に昔交わした約束……と言うよりもまだるっこい告白の事を切り出した。しかし、唐変木であった一夏には意味を間違って覚えられており、玉砕して泣きながら怒り狂ってしまったと。

  その後に部屋から飛び出すと、のほほんさんと遭遇。彼女の涙を流す姿から並々ならぬ出来事があったのだと悟ったのほほんさんは、放っておけないとして部屋に招き入れたという。

  俺はのほほんさんと一緒に彼女の話を真剣に聞き、何度も相槌を打つ。のほほんさんに至っては二度目となるが、俺も事情は大体把握した。しかし――

 

「直球ストレートで言ってた方が間違いなく成功してたよね」

 

「うんうん。そうだよね~」

 

「バッ……!? 言える訳ないじゃない! ただでさえ恥ずかしいのに!」

 

  俺たちがそう言うと、鈴音さんはたちまち顔を真っ赤にして言葉を返す。

 

「大体、一夏も一夏よ! 私が勇気を出して告白したのに、毎日酢豚を奢ってくれるって勘違いしてさ! 同じ男の日室は一発でわかってるのに!」

 

「甘いわね、あなた」

 

  そして己の不手際を棚に上げて一夏に責任転嫁していた直後、部屋の入り口の方から一人の声が飛んでくる。

  突然の乱入にハッと驚いた俺たち三人がそちらに振り向くと、そこには扉を少しだけ開けた隙間から顔を覗かせる京水がいた。真顔を貫き通しているため、彼女に某女装家政夫のイメージを幻視してしまう。

  そそくさと部屋に入ってきた京水は、物怖じしない態度で鈴音さんの前に立つ。

 

「申し遅れました、泉京水です。凰鈴音さん。弦人ちゃん、これ忘れ物」

 

「あっ、どうも」

 

  自己紹介のついでのようにして、京水から筆箱を渡される。それは見紛う事なく俺の物であった。危ない危ない。まさか、忘れ物をするなんて。

 

「甘いってどういう事?」

 

  朝の件を引きずっているのか、京水をギロリと睨む鈴音さん。きっと、京水から恋愛心得を説かれたくない気分なのだろう。もしかしたら、単に胸の大きさで敵視しているだけなのかもしれないが。

 

「そのままの意味に決まってるじゃない。好きな人に大好きって伝えるのに、どうして曲がりくねった表現をする必要があるのかしら? ノンノン。告白ってのはね、こうするの。……大好きよ、弦人ちゃん!!」

 

  すると、京水は俺をいきなり抱き締めてきた。完全な不意打ちに一瞬我を忘れてしまい、夢や何かではないかと錯覚してしまう。

  突然の事で取り乱した俺は、全力で京水を剥がそうとする。しかし、相手も負けじと俺に力強くしがみ続ける。なんてごり押しなんだ。今もなお、彼女の豊満な胸が肩の辺りに押し当てられている。

 

「待て待て待て待て!?」

 

「きょうちゃん、大胆~!」

 

「できるかああぁぁぁ!!」

 

  これを受けてのほほんさんは上擦り声で俺たちを見守り、鈴音さんは耳まで真っ赤に染めて叫びだす。

 

「そう! その恥ずかしがる癖! ダメよ、ダメダメ! そんなんで一夏ちゃんに想いが届く訳ないじゃない! 見ればわかるけどあの子、どうしようもなく朴念人だわっ! 幼なじみならそれぐらいわかる事でしょう!?」

 

「うぐっ……」

 

  京水は俺を抱き締める片手間で鈴音さんに説教する。鈴音さんは痛いところを突かれてしまったようで、途中で言葉を失って見事に押し黙る。心当たりはあるみたいだ。

  それにしても、京水の観察眼は逆に惚れ惚れとする。一夏を朴念人判定するとは……いや、よく見れば誰にもわかる事だったか。アイツ、いつか自分の背中を刺してくるヤンデレも引き寄せそう。

  その一方で、京水は問答無用で話を続ける。ふざけているように見えて、実はふざけていないのが悠に伝わってくる。これが乙女の力だと俺は密かに悟る。乙女がクネクネしてていいかどうかは知らない。

 

「とにかく、本気で好きなら気持ちを直接伝えなきゃ。もちろん、ワタシは冗談抜きで弦人ちゃんが好きよ?」

 

「ごめん、京水。今でもなんでこんなに好かれてるのか自分でもわかってないんだ」

 

「いいの! ゆっくり時間を掛けて、お互いの好きなところを増やしていけばいいから!」

 

「あれ? もしかして勢いでごり押すつもり?」

 

  まるで周囲を気にしていない京水のスキンシップを前にして、俺はガンガン攻められる気分になってくる。割りと正論なので、すぐには反論できそうにもない。

  その時、鈴音さんから不穏なオーラが流れてきた。顔を俯かせ、「ハァァ……」と気合いの篭った息の吐き方をする。そして握り締めた手の指の骨をポキポキ鳴らし、少女とは似つかない声の調子で口を開く。

 

「……私の問題が解決してないのに、何いちゃついてんのよ?」

 

「わぁ~!? 鈴々落ち着いて~!」

 

「だから、その呼び方はやめなさいって言ってるでしょーがぁぁぁ!!」

 

  この後、俺と京水、のほほんさんの三人掛かりで鈴音さんの怒りを鎮める事になった。そして改めて、彼女の抱える問題について話し合う。

  結果的には何の解決策も出せなかったが、愚痴には付き合えたから良しとしよう。愚痴を存分に吐いた鈴音さんは比較的晴れやかな表情で、自分の部屋へと戻っていくのだった。

  ちなみに、俺たちが出した鈴音さんの告白の案とは次の通りになる。

 

 ・一夏の写真を持って、全校放送でひたすら愛の言葉を叫びまくる。

 

 ・クラス対抗戦の試合当日、アリーナに集まった大勢の観客に見守られながら「一夏、好きだ! お前が欲しいぃぃぃ!!」と叫ぶ。

 

 ・月面にデカデカと一夏との相合傘を描く。

 

  絶対、この三つの選択肢の内どれかを実行して方が百パーセントの効果を望めるだろう。これら全てを速攻で蹴るとは、鈴音さんも恥を捨てきれないものだ。

  え? もしも自分がやる事になったら? 恥ずかしいので全力でお断りする。

 

 ※

 

  とうとう学校生活も五月を迎え、クラス対抗戦の日が訪れる。クラス代表たちは第二アリーナで試合をおこなう事となり、多くの生徒が観客席に詰めかけている。満席であぶれてしまった人たちは、別室にあるリアルタイムモニターで試合を観戦する手筈だ。

  十分前行動を心掛けていた俺は、難なく席を獲得するに至る。他にも京水、のほほんさん、谷本さん、鏡さんもおんぶに抱っこの如く俺に付いてきていたので、彼女たちの席も確保された。

  そんな中、目を見張った様子の谷本さんが俺に話し掛けてくる。

 

「日室くん、今日は仮面してないんだね」

 

「ん? ああ、うん。観戦するだけで特にやる事ないし。あ、一夏の応援があったか。仮面取りにいかないと」

 

「いやいや。もう試合始まっちゃうよ?」

 

「まだ終わらん!」

 

  そう言って俺はトランスチームガンを取り出す。ナイトローグに変身しなくとも、コイツで霧ワープすれば大体バレない。事情がわかっていない近くの人々はかなり驚いているが、遭えて無視だ。

  目撃者? 監視カメラとかの映像に残されていなければ平気。多分。証言だけでなく物的証拠も手にする事が大事だからな。

 

「ヒムロン、あそこに防犯カメラがあるよ?」

 

「チクショウ」

 

  しかし、のほほんさんの俺の心を読み取ったかのような発言ですごすごと諦める事になる。彼女が指差しした方向には、確かに防犯カメラが存在していた。

  今から観客席出入口まで走って密かに霧ワープしようにも、その間に試合が始まってしまう。少なくとも、仮面を取るのは試合開始まで間に合わなくなるだろう。遅刻覚悟で移動するのは、試合を始まった瞬間から見届けたいという拘りがあるのでご免被りたい。

  すると、隣にちゃっかり座っている京水が俺と手を重ねてきた。やたらと慈愛の込もった瞳で、揚々と語り掛ける。

 

「気を落とさないで。素顔を晒しているあなたも素敵だから」

 

「そんな事だと思ったよ」

 

  ナイトローグである事そのものに意味がある。やる事なす事は大体、俺自身ではなくナイトローグとして名を刻みたい。そして、永遠にナイトローグの栄光を後世に語り継がせる。そう、アンパンマンやドラえもんに負けないくらいに。

  ……いや、アンパンマンたちに勝つのはあくまで目標である。ゴミ拾いとか応援団長をやろうとしているナイトローグが、そこまでの存在になれる訳がない。隕石を押し返そうとしたり、鉄人兵団と戦ったりして何度も世界を救っている実績のある彼らに、どうやって勝てというのだ。

  なるのではなく、目指す。それだけだ。

  ここで鏡さんが便乗し、京水が一度口を閉じればすかさず話に割って入ってくる。やや焦り気味だ。

 

「元気出してよ日室くん! ナイトローグがなくたって日室くんは最高だよ!」

 

「そうじゃないけどな。でもありがとう。元気出る」

 

  まさに隙あらば、という感じがする。励ましは純粋にありがたいが、できれば俺ではなくナイトローグを見てもらいたいのが本心だ。ナイトローグはカッコいいぞ。

  そうこうしている内に、クラス対抗戦第一試合が始まる。マッチングは一夏の白式と、鈴音さんの甲竜だ。最初から山場を持ってくるなんて大丈夫なのかと不安がよぎるが、楽しみであるのも事実。決着の瞬間まで刮目させてもらう。

  試合の経過は、鈴音さんがやや優勢。のほほんさんの解説もあって、先ほどから透明な攻撃をぶっ放している両肩の非固定浮遊ユニットは衝撃砲と言うらしい。つまり、ドラえもんの空気砲の完全上位互換である。

  だが、やられっぱなしでいられるほど一夏は大人しくなかった。タイミングを見極めた彼は瞬時加速を発動。一気に甲竜へ距離を詰めて、雪片弐型の切っ先をまっすぐ突きだそうとする。

 

  そんな時だった。刃が相手に届く直前に、ステージの真上からビームが降ってきたのは。ビームは遮断シールドを容易く貫通し、その際の衝撃をアリーナ中に響かせると同時にステージ中央へ着弾。ビームに追従するかのようにして、謎の機影がもくもくと土煙が上がった場所へすっ飛んでいくのも目にする。

  ざわざわ、ざわざわ。たちまち観客たちの間に動揺と困惑が走る。そして――

 

『緊急事態発生。生徒の皆さんは急いで避難してください。繰り返します――』

 

  間髪入れずに避難指示のアナウンスがやって来た。周囲からのざわめきは余計に煩さを増し、逃げ惑う人が大半を占めている。すぐ実行に移せていない。

  よし、やる事は一つだな。

 

「皆さん、出入口まで避難を! 急いで焦らず慎重に!」

 

「皆さ~ん! 閉店の時間よ! 死にたくない人は帰ってちょうだい! 帰ってちょうだい! 帰ってちょーだぁぁぁぁぁぁい!!」

 

「「京水/泉さん、もっと優しく!!」」

 

  俺以外にも京水が避難誘導の役を買って出てきてくれたが、どこからともなく手にした鞭を振り回して逆に怖がらせる始末。俺と谷本さんが突っ込み、のほほんさんと鏡さんはどうにか彼女を自重させる。

  バットフルボトルを片手に持った俺は、観客席の背もたれの上を足場にして軽々と移動。こうして少しでも目立つ事で、生徒の皆を上手く避難誘導させる。

  そんな中、左手首に巻いてある腕輪から通信が入ってきた。仕組みはビルドの本編のアレと恐らく同じ。右手で軽く触れて、通信に答える。

 

『こちら織斑。日室、応答しろ』

 

「はい、日室です! 今、生徒を避難誘導して――あ、なんか詰まってる!?」

 

  ふと前に視線を動かせば、大勢の人々が出入口の前で集っていた。こんな非常事態にも関わらず、扉は固く閉じられたままだ。

 

『何者かの手によって扉が固く電子ロックされている。現在、こちら側でクラックを試みているが、壊しても構わん。ナイトローグで――』

 

《Bat》

 

「蒸血」

 

《Mist match!》

 

《Bat. Ba,Bat. Fire!》

 

『……人の話は最後までと言いたいが、まぁいい。急げ』

 

「了解!」

 

  走りながら変身を済ませた俺は、あっという間に扉の前へ到着する。通常サイズのISでは、こんな人混みの中に入り込むなんて不可能だろう。ナイトローグが人間サイズそのままで本当に助かる。

  突如として隣をナイトローグに立たれた女子の表情が、驚きの色に染まる。

 

「ナイトローグ!?」

 

「すみません! 俺が抉じ開けます! 織斑先生から許可もらいました!」

 

  そうして周りの人を退かせた俺は、目の前の扉を思いっきり横に動かす。ナイトローグのパワーを以てすれば、例え電子ロックされていても物理で開放させるのは容易だった。

 

「……っ!?」

 

  しかし次の瞬間、廊下の奥側からとんでもないものを目にする。カチャカチャと足音を遠慮なしに立てているそいつの姿は黒く、鋼の鎧を纏っている。鎧といっても機械的なもので、胸部の露出している内蔵パーツが生々しい。

  人の姿をしており、頭部の双眼は常に赤く光る。その目で見据えているのは俺か、それとも後ろにいる非力な女子たちか。とにかく、解放された避難ルートが半ば使用不可となった事実に、俺は少しの間だけ身動きが取れなかった。

  その間にも、そいつは右手に持った紫の銃に見慣れた形状の小物を装填する。間違いない。その武器は……コイツは……

 

《Gear engine!》

 

  ネビュラスチームガンとカイザーシステムの戦士だ。

 

《ファンキードライブ!》

 

  まさかの展開に驚愕する俺の気持ちを知らずして、素体カイザー(ネビュラヘルブロス? ネビュラバイカイザー?)は開幕ファンキードライブを発射する。嘘だろ……。

 

 





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